
概要
1 農産物輸出を取り巻く諸情況
中国は、1949年の建国以来、農業を国の基盤として、その発展に力を入れてきた。これは、限られた耕地の中で、世界の約22%にあたる国民の食糧を生産しなければならないからである。特に、改革開放後は、農民に土地の使用権を与え、農民が一定の農産物を自由に販売できるようにしたほか、農業、農村の構造改革を継続的に行った。この結果、農業生産量は、改革開放前と比較して、飛躍的に向上した。
中国農業の特色は、米、とうもろこし等の穀物を主体としていることである。栽培技術の改善に伴って、穀物はむしろ供給過剰となり、作付面積は横ばい状態である。一方、野菜や果物などは、この10年、作付面積を大きく伸ばし、農民の所得向上にも大きく貢献している。
しかし、問題点も多い。まず、中国の農業就労人口は3億3千万人と、労働力が非常に多い反面、耕地が狭いことや農地を農民に平等に分け与えることを原則とした土地制度の制約を受け、農民は経営規模の零細な「小農」にならざるを得ない。こうしたことは、機械化などによる農作業の効率化を阻む要因ともなっている。また、都市部に比べて、農村部の発展速度は鈍く、特に、物流の悪い内陸部では、農村が発展から取り残されて、教育や生活の水準が向上せず、貧困に苦しむ地域も少なくない。このような沿岸部と内陸部の格差は、現在も拡大傾向にあり、中国国内でも大きな問題となっている。
さらに、供給過剰となっている穀物は、国際的に見ると、品質面などで劣る上に、政府が市場価格よりも高い保護価格で買い入れているために、国家財政を圧迫するものとなっている。WTO加盟後は、安い外国産穀物が多量に輸入される可能性もあることから、現在、中国政府は、新たに農業及び農村の構造調整に取組んでいる。
構造調整の主な内容は、優良品種の導入に加えて、減反と適地適作を実施して、穀物の国際競争力の強化を図るとともに、特色のある農業、すなわち、無公害食品や畜産、輸出用農産物の振興を図るほか、加工にも力を入れ、付加価値の高い農産物の生産と販売を進めるというものである。一方、このような構造調整を助長するために、農民を農地に縛り付けていた戸籍制度の改正、土地の流動化による篤農家への農地の集積、地方小都市の建設による内需の拡大、教育制度などの改革による農民の資質向上を積極的に進めていくこととしている。
2 中国の農産物輸出の実態
2001年から始まった第10次5ヵ年計画の中で、農産物輸出は中国農業の発展を促進する一方策として明確に記されている。すなわち、農産物輸出は、穀物を海外に放出することによる在庫の緩和、及び外貨獲得による高収益な農業を実現することにより、農家所得の向上を図るものであり、さらに、国内農業の先進的モデルとしても位置付けられている。
最近の農産物輸出(畜産、水産物を含む)の動向を見ると、水産物が最も多く輸出されており、続いて野菜、穀物の順となっている。このうち、穀物は、国際競争力が弱いため、価格面では厳しい情況であるが、野菜などは、生産コストが低いことから販売価格が低く抑えられている上、従来に比べて、品質も向上していることから、海外からも次第に評価を受けるようになった。こうしたことを受け、山東省などでは、輸出用農産物生産基地が次々に建設されている。
農産物の対日輸出は、全体の4分の1を占め、日本は中国にとって、最大のマーケットである。近年の特徴として、野菜の輸出が急速に増加しており、たまねぎ、しろねぎ、にんにく、ごぼう、しいたけ、さといもなどは1990年半ば以降、急速に対日輸出量を伸ばしている。これは、日本の量販店や外食産業が展開している激しい低価格競争を背景として、安くて一定の品質を持った中国産農産物の需要が高まっているからであり、このことにより、逆に国内産農産物の価格が低迷するなどの影響が現れている。
3 将来における農産物輸出の展開方向
WTOの加盟は、中国の農業にも大きな影響を及ぼすと考えられる。特に、国際競争力の弱い穀物に対する影響が最も大きく、深刻である。安い海外産穀物に対抗するため、中国国内においても、機械化によるコスト低減や保護政策の撤廃が迫られ、その結果として、960万人の労働力が余剰になるとの分析もなされている。これに対して、労働集約型の野菜や果物、畜産及びそれらの加工業などは、労働力が豊富に存在することから、国際的にも比較的有利に展開すると思われる。
今後注目される品目としては、黒龍江省など東北地方の米及び山東省、浙江省、福建省などにおける野菜や果物である。これら沿岸地域では、その立地条件の良さを活用し、新品種及び新技術を導入して、輸出用、特に日本向けの農産物の生産に乗り出しているため、日本の農業へも少なからぬ影響があると思われる。これとは対照的に、内陸部では、たとえ農業が発展を遂げたとしても、物流は沿岸部が圧倒的に有利であり、輸出用農作物の生産及び輸出は容易ではないと予想される。
4 中国の農産物輸出と日本との関係
中国産農産物は、生産コストが非常に低いことが特徴である。これは、農民の労働費が非常に安いことに起因している。このようなことから、日本の多くの企業が、中国で生産、加工、包装された農産物を輸入し、人件費などの削減を図っている。最近、中国産野菜から残留農薬が検出されたりするなど、その安全性については、まだ解決すべき問題が多く残されているが、将来、品質面が保証されれば、価格面での有利性が十分に発揮されることはほぼ間違いない。したがって、中国産農産物により日本農業が大きな打撃を被ることは避けられないと考えざるを得ない。
このようなことから、日本の地方自治体などが、農業振興方策を検討する際、中国農業の動向は十分調査、研究することが必要であり、また、技術協力等による「ブーメラン効果」も考慮に入れるべきである。しかし、内陸部については、今後も、対日貿易が可能となる可能性は極めて低いと認められることから、内陸部における貧困農村に対する農業技術協力等は、日本側としても許容できるものではないかと思われる。
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