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はじめに 第1部 米国の固定資産税(PROPERTY TAX)制度 第1章 序説 第2章 現行固定資産税制度の概要 第2部 「プロポジション13」にかかる連邦最高裁判所憲法審理 第1章 「プロポジション13」の概要 第2章 「プロポジション13」にかかる連邦最高裁判所憲法審理 おわりに |
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はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第1部 米国の固定資産税(PROPERTY TAX)制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第1章 序説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2章 現行固定資産税制度の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2部 「プロポジション13」にかかる連邦最高裁判所憲法審理・・・・・・・・・・・ 第1章 「プロポジション13」の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2章 「プロポジション13」にかかる連邦最高裁判所憲法審理・・・・・・・・・・ おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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はじめに 「納税者の反乱(Tax Revolt)」という言葉をご存知だろうか。これは、今から約15年前の1978年6月に米国西部のカリフォルニア州で、州内の固定資産税制度に革命的改変をもたらすイニシアチブ「プロポジション13」が圧倒的多数で可決された時、この現象を象徴する言葉として多くのマスコミで使われた言葉である。「プロポジション13」は当時米国において主流であった「大きな政府」志向に納税者自身が終止符を打ち、拡大を続ける税負担に自ら歯止めをかけたという点でまさにエポックメーキングな出来事として、日本でも大々的に紹介されたものである。 その後「プロポジション13」の影響は米国の他の州にも波及し、多くの州で固定資産税制度の見直しが行われる先駆となった。また、その革新的内容は、制度施行後15年を経て、カリフォルニア州の固定資産税制度のみに止まらず、州政府や州内地方政府の財政状況、または政府間関係にまで影響を及ぼしている。 その「プロポジション13」に対して、内容が米国連邦憲法に違反し無効ではないかという訴訟が提起された。もし「プロポジション13」が違憲ということになれば、カリフォルニア州の行財政制度は再び大変動を余儀なくされるばかりではなく、その影響はカリフォルニア州にとどまらず、米国全土に波及した事であろう。 結果的に、1992年6月18日に出された判決では「プロポジション13」のいくつかの不備な点を認めつつも、合憲ということで落着したが、この際、カリフォルニア州住民の採択した「プロポジション13」がもたらした影響を長期的視点から考察する意味から今回「CKAIR REPORT」として報告することにした。 また「プロポジション13」の違憲訴訟を述べる前段階として、米国の固定資産税制度を概観し、取りまとめた。いうまでもなく、固定資産税は米国においても地方政府の主要な財源でありその内容は各州で決定することができ、また各地方政府にも広範な裁量権が認められている。そのため、その内容は州によって、また地方政府によって文字通り千差万別であるが、そのような複雑多岐にわたる税制度を、こと細かに論じることは木をみて森をみずということにもなりかねない。したがって、この稿では、あえて枝葉末節にはこだわらず各州内において採られている制度を最大公約数的にとらえ取りまとめたものであることに御留意願いたい。 第1部 米国の固定資産税(PROPERTY TAX)制度 第1章 序説 1 PROPERTY TAXの邦訳 PROPERTY TAXとは、動産や不動産などの資産(PROPERTY)の価値(Value)を課税客体とする従価税(Ad Valorem Tax)であり、州憲法または州法の規定をうけ通常市町村またはカウンティ政府などによって特定の時点における所有者に対して課される税である(「BLACK's Law Dictionary」による)。日本でPROPERTY TAXに類似する税目には固定資産税があるが、日本の固定資産税が、専ら不動産、事業用償却資産をその税制度の中心にしているのに対し、PROPERTY TAXは、その対象とする資産の範囲がより広い。米国のPROPERTYという概念には、流動資産などの有体動産や、証券、債券などの無体財産も含まれる。そのため、通常PROPERTY TAXを訳す場合、固定資産税ではなく財産税と訳されることが多いが、両者を比較した場合、不動産がその中心となっていること、固定資産税もPROPERTY TAXも住民に最も身近な行政サービスを供給する自治体の主要な財源であること等は両国とも共通であるので、本稿においては固定資産税をPROPERTY TAXの訳とする。 2 米国固定資産税制度の歴史 北アメリカ地域では、イギリスの植民地であった頃からヨーロッパの影響を受け、資産に対する課税制度が確立されていた。最初の固定資産税は、建国前の1692年、既に当時のマサチューセッツ・ベイ・コロニーにおいて課税されたのが始まりであるとされている。ただ、その当時は、ごく限定的に定められた資産に対して、一定額を納税するという形式をとっており、現在のように、資産の価値に対して課税されるというものではなかった。その後、統治制度が整えられていくにしたがって、固定資産税も現在のような資産価値に課税する従価税となっていったのであるが、それは専ら以下に述べるような二つの理由によるものである。一つは、保有資産の価値の多寡は、所有者の担税力と密接に関連していることによる。すなわち高価値の資産を多く所有している者はそれだけ経済的に余裕があり、それゆえ多くの税負担にも耐え得るという考えである。この点では、固定資産税は、所有者の資産保有力によりその税の徴収が担保されている税といえる。もう一つは、資産の価値に対する税は、行政サービスとの応益原則に合致していることによる。一般に、ある地域に存する資産は、行政サービスによってその価値が増進される。それゆえ、多くの資産価値を保有するものほど、行政サービスによって利益を受けるのであり、資産価値に対して課税する固定資産税が行政サービスの対価として相当であるという考えによるものである。 19世紀から20世紀にかけて、このような従価税としての固定資産税はその重要性を増していき、20世紀初頭においては固定資産税は州政府及び地方政府(注1)の主要な収入源としての地位を確立していた。1902会計年度の州政府・地方政府それぞれの収入総額のうち、固定資産税の占める割合はそれぞれ43%、74%であった。 ところが、住民の行政需要が多様なレベルで増加していくにつれ、それに対応するため州・地方両政府はともにその財政規模を拡大していく必要に迫られていった。しかし、異なるレベルの政府が同じ固定資産税に依存している状況下では、そのような住民の行政需要に応じながら財政規模を拡大することは不可能であった。このため、主要財源の重複を避けるべく、州政府はその税収の中心をこれまでの固定資産税から売上げ税・所得税等の税へシフトしていき、その結果、固定資産税は主に地方政府の財源となっていったのである(注2)。 3 レベル別地方政府における固定資産税依存度の比較 1988会計年度における州政府予算に占める固定資産税の割合は1.1%であるのに対し、地方政府予算に占める割合は29.3%であり、その収入内訳でみると州からの補助金(33.5%)についで高い比率を占める。地域的に見れば、ニューイングランド地域及び五大湖周辺ではその比率が一般的に高く、南部や西海岸諸州では比較的低くなっているのが特徴である。(表1) 次に、それぞれの地方政府の種類別に収入に占める固定資産税の比率をみてみると、タウンシップが最も高く、54.5%となっている。ついで学校区、カウンティ、市町村などの自治体(Municipality)、がそれぞれ36.6%、28.O%、22.0%となっている。学校区以外の特別区はその収入源を専ら手数料や使用料その他の収入に頼っていることもあり、その比率は12.2%に止まっている。(表2)
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第2章 現行固定資産税制度の概要 1 課税のしくみ (1) 課税客体 固定資産税の課税客体である資産は、不動産、動産、無体財産等に分類される。このうち、不動産はすべての州(ワシントンD.C.を含む、以下同じ)において課税されているが、動産、無体財産については州によりその課税状況が異なる。40の州では動産も固定資産税の対象となっている。39の州においては、機械や装置など(Machinery & Equipment)も課税の対象になる。線路や電塔(Railroad & Utilities)などの公益事業資産も46の州においては課税の対象となっている。その他に自動車輌、航空機、船舶、業務用在庫等を課税客体としている州もある。また無体財産については、21の州でなんらかの資産が課税対象となっている。 フロリダ、ジョージア、イリノイを除くほとんどの州では、その形態により、資産をいくつかのクラスに分類しているが、その数及び分類方法は各州により異なっている。 (2) 第一次的資産評価及び州政府の役割 固定資産税は主にカウンティ以下の団体の税であるが、デラウェアとハワイの両州を除くすべての州では、州政府に州内の固定資産税を担当するセクションを設置している。それらのセクションでは、評価官の教育、州内での評価額の調整、徴収した税の配分、固定資産税賦課に関する異議申立への対応、固定資産税に関する各種制限の制定等をはじめとする固定資産税制度全般にわたる指導、監督を、州内の各団体に対し行っている。 評価の一連の手続きをすべて行っているメリーランド州を除き、すべての固定資産の評価を第一次的に行うのはカウンティや市町村であり、このうち第一次的な評価をカウンティで行っているのは20州、市町村などで行っているのが9州、特殊な資産の評価については州がその他の資産はカウンティや市町村が行っている州が17ある。カウンティと市町村などが評価の役割を分けあっているのは4州である。 (3) 評価官(Assessor) 第一次的評価事務を行う地方政府には、その区域の固定資産の評価事務を専門的に行いその評価額を決定する評価官(Assessor)がいる。納税額の基礎を決定づけるともいえる評価官には、正確、公平性が強く要請されているため、ほとんどの州において評価官は一定の任期を持ち(注1)、しかも公選または指名により選ばれることが多い。22の州で、評価官は地方政府の選挙によって全員が選ばれ、14州において公選と指名が併用されている。14州においては評価官全員が当該地方政府により指名されている。また、評価官には高度に専門的知識を要求されるため、29の州において評価官になるためには、一定の研修を修了することが法で義務づけられている。 (4) 評価の方法―3つのアプローチ 一般的に不動産を評価する場合、以下の3つの方法が取られている。多くの州ではこれらのなかから複数の方法を併用している。
(5) 評価サイクル ほとんどの州では、再評価を行う期間が定められており、州法で定めている場合と、取扱い上定めている場合とに分けられる。いくつかの州では評価は毎年行うことになっているが、毎年州の何割かの部分の評価を行い何年後かに州全域をカバーするという州と、毎年の評価は専ら微調整で何年かに一度おおがかりな再評価を行う州に分けられる。なお、コネチカット州は10年という長期の評価サイクルを持っている。また、制度上再評価が義務づけられているが、実質上再評価が行われていない州もあり、その実態には注意する必要がある。 (6) 固定資産税賦課にかかる制限 固定資産税は地方政府の税であり、課税客体の評価や税率等においてその主体的決定権は当該地方政府が担っていることが多い。そこで大多数の州政府では、全州的見地から固定資産税に関して各種の制限を設けている。 ・評価額の上昇に関する制限 前述したように、米国の多くの州では不動産評価の基本をその市場価格においているため、年数がたつにつれ、その不動産の評価額が上昇するという事態がしばしば生じる。特に都市部や最近になって都市化した区域などでは、急激な地価上昇が同時に急激な評価額上昇を引き起こす。このように評価額が急激な上昇を続けた場合、所有者は当該不動産を購入した当時の財政力では、固定資産税の納税を賄いきれなくなってしまう。そのような事態を避けるため、いくつかの州では、不動産の評価額の上昇に一定の制限を設けている。その代表的例が、第2部に述べるカリフォルニア州の「プロポジション13」により改正された州憲法である。 前述したカリフォルニア州も含めて、現在評価額の上昇に制限を設けている州は9つにのぼる。具体的には、すべての不動産に一律に評価額の上限を設ける(カリフォルニア州、アリゾナ州、アイオワ州)方法と、農地や居住用住宅など特定の不動産に限り制限を加える(イリノイ州、メリーランド州、ニューヨーク州の一部(注2))などの方法がある。 ・評価額の均衡化(Equalization) 35の州では州レベルで評価額の均衡化を行う機関が設置されている。均衡化とは、各地域ごとに行われる評価の不適当な部分(注3)等を是正し、州内における統一性をもたせるための一連の手続きをいう。州によってはカウンティやタウンのレベルでいったん均衡化を行い、その後州レベルで行うという2〜3段階の方式を採っているところや、カウンティレベルのみの均衡化を行っているところもある。また均衡化によって定められた各地域の評価額は、固定資産税収や州の補助金等の各団体への配分を行う際の基礎資料や、各団体が行う起債の上限額の算出基礎としても用いられている。 ・税率に関する各地方政府の裁量権 一般的に固定資産税の税率は、各団体の必要とする固定資産税歳入額を当該地区の評価額で除した数値である。それは本来各地方政府で任意に定められるべきものであるが、幾つかの州では、賦課税率に関する地方政府の裁量権に一定の制限を加えている。固定資産税の総額は市場価格の1%を越えてはならないというカリフォルニア州の「プロポジション13」はその典型的な例であるが、その他にもカウンティが各団体の税率を定めたり、住民投票などの制限を課している州がある。 また、多くの州では、固定資産税の税率は資産の形態に関係なく一律であるが、ケンタッキー、マサチューセッツ、ニューヨーク州の一部のように、資産によって異なった税率を認める州もある。 ・その他の制限 その他に州政府が行っている制限としては、 (7) 固定資産税の非課税 どのような資産が固定資産税として非課税とされるかは、各州が独自に州憲法や州法で定めている。またいくつかの州では一定の条件のもとで、各地方政府にそのような権限を認めている。以下に各州で認められている非課税の代表例をあげる。 すべての州で、政府所有の資産は固定資産税を非課税とされる。また宗教や教育的用途に供される資産、慈善事業のための資産も多くの州で課税の対象外となっている。ただし、これらの目的の定義及び範囲については、各州によりその内容が大きく異なっている。病院・墓地・史跡・森林なども多くの州で非課税とされている。また、10の州では非商業用動産が非課税である。 特殊な非課税物件としては、アメリカインディアン信託財産(アリゾナ州)、電力組合所有の資産(アラスカ州)、農地に対する電力供給用電線(ミネソタ州)、公害浄化及びリサイクル施設(ノースカロライナ州)などがある。 (8) 税負担軽減措置 固定資産税の税負担軽減措置としては、居住用住宅に対するものが一般的で、その対象となる人としては、居住者一般、高齢者、低所得者、障害者、退役軍人、配偶者に先立たれた者等があげられる。ほとんどの州で、これらのうちの幾つかあるいは全てを対象として、それら対象者が所有または賃貸する居住用不動産に対して、何らかの税負担軽減措置を設けている。それらの措置のうち代表的なものは2種類である。一つは、ホームステッド・プログラムと呼ばれるもので、要件に該当する者が所有する住宅の固定資産税額は実際の課税標準額から一定額を控除した額に税率をかけ算出するという軽減措置である。現在42の州で採用されている。また、特に低所得者を対象とした固定資産税の税負担軽減措置としては、サーキット・ブレイカー・プログラムがある。これは一定の所得以下の住民の有する住居の固定資産税が一定額を越えた場合、その納付後、その越えた部分を州政府が州所得税の還付という形などで地方政府にかわって納税者に還元するというものであり、現在34州で採用されている(サーキット・ブレイカーとは、一定量をこえた電流を自動的に遮断する安全装置のことで、一定額をこえると自動的に税負担が軽減されることからこう呼ばれている)(注4)。 また、業務用不動産に対する税負担軽減措置としては、企業誘致施策のための税優遇措置(エンタープライズゾーン)による固定資産税の減税が13の州で採用されている(注5)。 (9) 評価にかかる不服申し立て 主として、不服申し立ては5つの段階に分けて行われる。まず、評価官が行った評価に対して不服申し立てを行う場合、第1次的にはその評価を行った評価官か、その評価官の属する地方政府に対して行う。その後、その評価官の属する地方政府内の審査委員会・カウンティ、州、そして最終的に裁判所という手順で申し立てを行うことが多い。 2 納税のしくみ (1) 徴収団体 固定資産税の徴収団体としては、カウンティが一般的であり、現在カウンティが単独あるいは市町村や州と共に納税事務を行うこととしている州は44あり、そのうちカウンティのみが行っているのは28にのぼる。 (2) 納税のしくみ 固定資産税は毎年課税される。税の納付回数は、年に1度ないし2度に分けて納める方式をとっているものが一般的であるが、アーカンソー、ニュージャージー、ロードアイランド、ネバダの各州は年に4回に分けている。また、納付回数を各地方政府ごとに決めさせている州もある。 滞納に対しては、延滞金が加算され、滞納処分もある。また納付期限後3年を過ぎても納税されない場合には競売にかけられることもある。 州平均の年度最終徴収率は、ほとんどの州で90%〜95%になっている。
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第2部 「プロポジション13」にかかる連邦最高裁判所憲法審理 第1章 「プロポジション13」の概要 1 カリフォルニア州における住民投票制度 「プロポジション13」は正式名称を「税の制限―住民発案による憲法修正」といい、またその主唱者の名をとって「ジャービス―ギャン発案」ともいわれている。すなわち「プロポジション13」とは、1978年にジャービス、ギャン両氏が中心となって行った、税に関するカリフォルニア州憲法改正要求である。また、同日に行われた他の12件の住民投票案件の次に記載されていたため「プロポジション13」と呼ばれる。ここでは、この「プロポジション13」を生み出した従来のカリフォルニア州固定資産税制度及び住民発案の制度とはどういったものなのか述べてみたい。 カリフォルニア州憲法は連邦憲法の7倍のボリュームを持ち、その内容も地方自治や地方税などについての規定まで網羅している。固定資産税については、憲法の規定を受け州の税法が細かく定められている。課税主体は、カウンティ、市町村、学校区やその他の特別区などの地方政府で、各地方政府は当該年度に必要とされる固定資産税収入総額を当該区域内の固定資産評価総額で除した額を税率として独自に決定できるようになっていた。 また、イニシアティブ(住民発案)とは、現在の間接民主主義制度を補完する直接民主主義的要素をもった制度の一つであり、憲法や法律の改廃に対し、住民が直接条文を作成しその可否を住民投票で問うというものであるが、同じような直接民主主義的制度としては、議会が可決した条文に対し住民が可否の判断を下すために行う住民投票(レファレンダム)がある。カリフォルニア州ではイニシアティブやレファレンダムのような住民投票は、知事選(予備選を含む)、連邦議員選等の州規模で行われる選挙の際にあわせて行われる(注1)。カリフォルニア州ではイニシアティブによる州憲法の改正も認めており、「プロポジション13」は州憲法の固定資産税にかかる部分の改正要求であった。 カリフォルニア州では、イニシァティブが住民投票にかけられるためには前回の知事選の有効投票数の一定比率(法律の改廃の場合は5%、憲法改正の場合は8%)の住民の署名が必要であるが、「プロポジション13」の時は法規定数の3倍もの署名が集められ、関心の高さがうかがわれた。 2 「プロポジション13」の内容 「プロポジション13」は大きく以下の4つの内容からなる。 法律作成の専門家によって作成される通常の法律と異なり、イニシアティブによって制定された条文には不明確な部分が多く、それらについては裁判所の判決など司法の手でより明確な解釈がなされていくものがある。「プロポジション13」の場合も、いくつかの語句について、裁判所がその定義づけを行った(注2)。 3 「プロポジション13」成立の背景 「プロポジション13」が住民投票に付された時、それが大幅な減収をもたらすだけでなく、財政制度に大きな制限を加えられることから州政府及び地方政府はいっせいに反対を表明した。州政府はその可決を阻止すべく代替案を提出し、「プロポジション13」には投票しないようよう呼び掛けた。それにもかかわらず、「プロポジション13」は得票率64.8%、得票総数400万票以上という予想を上回る圧倒的多数で可決された。ところが、同様の動きはその後各州でみられたが、カリフォルニア州ほど大規模な制度改正にはならなかった。ここでは、このように大規模な改革である「プロポジション13」が、なぜカリフォルニア州において成立したのかを述べてみたい。 「プロポジション13」が成立したそもそもの原因は、増加し続ける固定資産税負担が納税者の許容限度を越えたことにある。1977年当時カリフォルニア州の平均実効固定資産税率は2.21%で、全米でも8番目に高率であった。しかし、カリフォルニア州の住民を「納税者の反乱」にかりたてたものは、この高税率という直接的要因だけでなく、もっぱら固定資産税の課税のしくみや当時の行政府の財政事情に対する不信感が限界を越えてしまったことではないかと思われる。 カリフォルニア州では、1970年代、時の順調な景気と連動して、毎年のように不動産価格が大幅に上昇していった。固定資産税の評価はその市場価格を基準として毎年行われるため、カリフォルニア州の固定資産の評価額もまた大幅に増加していた。実際カリフォルニアの州の多くの住宅の価格は70年代後半の5年間に3〜4倍になるほどの急激な上昇を示していたし、その評価額も同様に上昇を続けていた。皮肉なことに、カリフォルニア州では、全米でも1、2を争うほど正確な固定資産評価制度が確立されていたので、そのこともまたカリフォルニア州の評価額の急激な上昇をもたらしたともいえる。また急激な上昇に対する緩和措置が不備なため、上昇した分の評価額が直接固定資産税の納税額に反映されていったのである。そのためカリフォルニア州の住宅所有者の間には、将来にわたって住宅を所有し続けていけるかという不安が横たわっていたのである。 一方、70年代は、主として貧困層への福祉・教育関係支出が経常的に増大していった時期でもあった。固定資産税をその財政の基礎とする地方政府や学校区は、膨脹する身近な行政需要に対応するため、軒並み固定資産税収を上げていかざるをえない状況にあった。これらにより、元来所得弾力性が低いにもかかわらず固定資産税額は住民の所得以上に伸び、その負担率は短期間で急激に上昇していった。実際1970年代のカリフォルニア州では、固定資産税はインフレ率を大幅に上回る勢いで年々増加していき、1人あたりの固定資産税納付額は年に10%近い割合で上昇していったのである。 同時に、その固定資産税の増収分が有効に使われているのかという素朴な疑問に対して、各政府が有効な回答をなしえなかったことも要因としてあげられる。前述のように固定資産税の増収分は福祉や教育など専ら「貧しき者」への行政サービスとして支出されたため、納税者、特に税負担の増した中所得者層は、自分たちの増加した税負担に対して相応な行政サービスを受けていない、すなわち受益と負担のバランスが極度に崩れているという不満を抱くようになった。そして行政府の事務の非効率、ムダによって自分たちの税金が無為に使われているのではないかという不信感が増幅していったのである(注3)。 また、カリフォルニア州住民の気質も「プロポジション13」成立の大きな要因としてあげられる。もともと政治への住民参加の意識の高い州であり、イニシアティブによる憲法改正も過去何度か行われている。そのうえ「プロポジション13」以前にも固定資産税改正のイニシアティブが幾度か試みられていたのである(注4)。 結局、当時のカリフォルニア州は、その固定資産税額の上昇率が納税者の所得の上昇率を上回って増加していくという状態にありながら、それらに対する有効な解決策を提示できないばかりでなく、一方でその増加に見合うだけの十分な住民サービスを納税者に還元できずにいた。それらの事情により、固定資産税の納税者である住宅所有者を中心として、カリフォルニア州に固定資産税制度の変革を求める声が大きく叫ばれていくようになったと思われる。 4 「プロポジション13」がもたらした影響 (1) 地方政府への影響 「プロポジション13」の影響を最も直接かつ甚大に被ったのはいうまでもなく、固定資産税を主たる財源としていた各地方政府であった。「プロポジション13」が導入された初年度、その減収は約60億ドルといわれ、全地方政府の歳入総額の4分の1がカットされるといわれた。そのような大幅な減収に対し、各地方政府は、行政サービスのカット、人員削減、州からの補助金、使用料等諸料金の値上げにより対処した。特に当時州政府に多額の剰余金が存在し(注5)、それを地方政府の減収に補填できたことは、図書館や学校の一部閉鎖のような大幅な行政サービスのカットや45万人ともいわれた大規模な職員解雇等予想されていた深刻な事態を回避するのに役立った。1978年当時州政府には、約50億ドルの剰余金が存在しており、それらのほとんどを「プロポジション13」の影響による減収にあてたことにより、減収規模は「プロポジション13」導入前の10%程度に緩和された。さらに、使用料等諸料金の値上げや、職員給与の据置き等地方政府の自助努力、引き続いた好況によるその他の税収の自然増などにより、一部サービスカットや人員削減があったものの(注6)、全地方政府の行政サービスの水準はそれほど落ち込みをみせなかった。 |

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なお、「プロポジション13」により固定資産税はカウンティが各自治体へ配分することになったが、その方法は、1975年当時の固定資産税収に応じて行われるよう定められた。ところが当時から17年を経過した現在、その配分割合と各自治体の行っている事務の実態にずれがあり、自治体間に不満が生じる一因となっている。 「プロポジション13」によりそれまで各地方政府が任意に定め徴収していた固定資産税は州一律の税率に改められ、各地方政府が各々の歳入規模にあわせて任意に税率を定めることはできなくなり、地方政府の課税に関する裁量の余地は実質なくなってしまった。一方、州が「プロポジション13」に対処する抜本的税改正を行わなかった結果、自主財源である固定資産税の上昇に厳しく制限を加えられた地方政府は、財源を州や連邦からの補助に頼らざるを得なくなった。その結果、地方政府の歳入のうち州からの補助金がその最大を占めていくようになり、州政府の地方政府に対する財政的統制が強くなっていった(注7)。 この州政府の域内地方政府に対する財政的統制の拡大という70年代後半以降の傾向は全米的にみられ、カリフォルニア州に限ったこととはいえないが、「プロポジション13」がその傾向に拍車をかけたことは間違いないであろう。 |


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「プロポジション13」により、新税の導入に厳しい制限を加えられることとなった地方政府は、歳入増を図るための努力を行わざるを得なくなった。最も一般的だったのは、税以外の施設使用料や諸免許発行手数料などの料金収入を増加させたことである。1978年から81年の間に、カリフォルニア州内の市は諸料金収入を48%、カウンティでは50%も上昇させた。 また、ビザリア・カウンティのように、それまでの硬直化した財政制度を見直し、各部局ごとに黒字会計分の翌年度繰越を認め、経費削減を奨励するような政府も出現した。 「プロポジション13」によって、固定資産評価の方法が大きく変わった結果、各地域で行う地域開発の手法も微妙に変わってきた。すなわち、都市部は再開発を行っても所有者が変更しない限り大きく税収入が増す可能性が少ないため、地方政府は地域開発による不動産価値の上昇が固定資産税評価額及び税収に直接反映される郊外での開発をより重視するようになっていったのである。 (2) 州財政・納税者・州経済への影響 「プロポジション13」による地方政府の減収分をたまたま存在していた州の剰余金によって補填するという措置は、本来緊急避難的ものでなければならなかったが、その後も地方政府は、もっぱら州の援助によって歳入落ち込みに対処せざるをえなかった。これらの背景には、「プロポジション13」によって地方政府の増税へ厳しい制限が加えられたこと、行政組織と行政需要の縮小には限界があることなどがあったが、いずれにしても「プロポジション13」成立後、州の地方政府に対する援助は大幅に拡大した(地方政府補助金の州歳出総額に占める割合は、1970年度65.6%、80年度は75.0%であった)。さらに地方政府が実施してきた事務や事業を州政府が肩代わりをして実施しなければならなくなったため、州政府直轄事業が拡大するという傾向も生じた。現在カリフォルニア州は全米でも最も厳しい財政状況にあるといわれているが(注8)、ここ至った過程の一因には、「プロポジション13」によって州の財政負担が大幅に増加したことも間違いなくあげられるであろう。 各納税者(特に中所得者層)にとって、「プロポジション13」はどのように作用したのであろうか。第1次的には、「プロポジション13」は、大幅な減税により住宅所有者に経済的恩恵を与え、自分の所有する住宅に対する将来の不安を取り除いた。ところが、納税者にとっては固定資産税の減税の効果は思ったほどではなかった。なぜなら、それまで連邦や州により課税される所得税額算出の際、控除対象であった固定資産税の控除分が少なくなったことから、逆に所得税納税額が増えることになったからである。この結果、地方税収入から連邦や州の税収入への転換が生じた。カリフォルニア州議会の歳入税制委員会が行った調査によると、「プロポジション13」による初年度減税額70億ドルのうち、実際に居住用住宅所有者にもたらされた割合はわずか24%にすぎず、その他賃貸住宅居住者を含めても、36%程度にしかならなかった。また長期的視点からみた場合、企業と個人ではその資産の移転の度合いが個人のほうが頻繁であること、事業用不動産のほうが市場価格の上昇が大きいこと等から、「プロポジション13」の評価額上昇制限により利益を受けたのは、居住用住宅よりも、事業用不動産であった。その意味で「プロポジション13」はその成立の原動力となった住宅所有者よりも、商業用不動産保持者などに予想を超えた経済的恩恵をもたらしたといえるのではないだろうか。 州の経済は、 「プロポジション13」成立後も、引き続き70年代の好況に支えられていた。「プロポジション13」の減税効果は消費を刺激し、州経済の活性化にも寄与した。また低レベルの固定資産税はコストの低下をもたらし、カリフォルニア州の企業には大きなメリットをもたらした。 ところが、80年代に入り、景気が徐々に悪化してくると「プロポジション13」による州及び地方財政の停滞、都市における社会資本の未整備、行政経済の低下とも相俟って、州経済は徐々に落ち込んでいくのであった。 (3) 他州への影響 カリフォルニア州の「プロポジション13」は、納税者の反乱(Tax Revolt)としてアメリカのみならず全世界的に大きく報じられた。米国各州ではこれをきっかけに続々と固定資産税の軽減を求める住民運動がおこり、納税者の反乱は各州に飛び火するのではないかといわれた。ところが「プロポジション13」成立後、1980年までにアリゾナ、ネバダ、ミシガン、マサチューセッツ、オレゴン、サウスダコタ及びユタの各州で固定資産税減税に関する住民投票が行われたが、マサチューセッツ州を除く6つの州ではいずれも否決されるという結果に終わった。マサチューセッツ州では、1980年にプロポジッション212が可決された。この内容は、州内の固定資産税の実効税率が2.5%以上の地方政府は毎年15%ずつ実効税率を引き下げ2.5%以下にすること、年率2.5%以上の固定資産税の増収は認めないこと、増税を行う際は住民投票で2/3以上の承認を必要とすること、というものであった。マサチューセッツ州住民は当時米国平均を70%も上回るほどの重い固定資産税に悩まされていた。 結果だけをみれば「プロポジション13」の影響は他の州においてはそれほど大きいものとはいえないが、否決された州の中には、住民投票の前にいち早く固定資産税制度の改正を行ったところもあり、また多くの州でその後固定資産税に何らかの制限を設けるようになったことでも分かるとおり、「プロポジション13」は他州において固定資産税制度を見直すきっかけとなったことは疑いない。
第2章 「プロポジション13」にかかる連邦最高裁判所憲法審理 1 訴えの内容及び争点 この訴訟は、ロスアンジェルス・カウンティ内に住むステファニー・ノードリンガーが同カウンティの評価官に対して起こした訴えである。ノードリンガーは1988年にロスアンジェルス・カウンティ内に住宅を170,000ドルで購入した。それにより1989年始めに、ロスアンジェルス・カウンティの評価官よりその住宅の評価額が通知されたが、その評価額は1988年の取得価格をもとに評価され、170,100ドルであり、固定資産税額は1,701ドルであった。 ところが同じ地区に1975年以前から住んでいる住人は、「プロポジション13」により、1975年の評価額に年率2%の上昇率を加えた額がその不動産の評価額となることから、ノードリンガーと同等の不動産でもその評価額は5分の1の35,820ドルであり、実際の税額も5分の1であった。このことから、同氏は、「プロポジション13」による取得時の時価による再評価システムは、その用途、実際の価値、所有者の担税力が全く同種の不動産につき、全く異なった税負担を納税者にもたらすものであり(注1)、連邦憲法修正第14条において規定されている「平等保護条項」に違反するものである(注2)として評価を行ったロスアンジェルス・カウンティの評価官に対し訴えをおこしたものである。 これに対し、被告側は、「プロポジション13」によってもたらされる1975年以前の不動産所有者(以後、便宜的に既住民と呼ぶ)とそれ以後の不動産所有者(同様に新住民と呼ぶ)との固定資産税の評価についての差異は、カリフォルニア州住民の利益の保護のために必要なもので、平等保護条項が禁止している不当な差別的取扱いではないと反論した。 2 過去の判例 カリフォルニア州裁判所では、1978年のAmador Valley Joint Union High School District vs State Board of Equalization のケースにおいて、この税負担の違いは、 ところが、1989年の連邦最高裁判所は、Alleghency Pittsburgh Coal Co. vs Webster County(WV)の判決において、ウェストバージニア州で行っていた取得時の時価による再評価のシステムによって所有権の移動がなかった物件とあった物件とに8倍から35倍もの格差が生じたケースについて、平等保護条項が求める「おおまかな平等」に違反するとした。ところで、この当時ウエストバージニア州では、州憲法に「評価に際しては適正な時価を採用する」という規定が存在していた。つまり、税負担の格差は制度が生み出したというよりも、行政側の怠慢が生じさせたという意味合いが強い。この点が取得時の時価による再評価システムを正面から一しかも住民の意志に基づいて一憲法で規定しているカリフォルニア州とは異なっており(注3)、連邦最高裁判所がどのような判断を下すのか注目された。 3 判決(多数意見)の要旨 判決は、9名の判事のうち8名の多数意見によって、「プロポジション13」は平等保護条項に反しない、とした。以下は、争点についての多数意見の要旨である。 平等保護条項に関し、合理的施策に基づく区分的取扱いは平等保護条項に反しないということは、すでに判例によって示されているところであるが、税法においてはこれはさらに特殊に解釈される。すなわち、州内の税制を合理的なものとするため、州には区分的取扱いやその線引きについての広範な裁量権がある。問題は、時価による基準に基づく新住民と既住民との間の異なる取扱いが、州における適正な法益を保護するうえで合理的なものであるかどうかである。 新住民と既住民との取扱いに関して、税率と年の上昇率についての差異はない。新住民も住宅を取得した時点から、既住民と同様の扱いを受けられるからである。異なるのは、その評価額のみである。ところで州は、その地域社会の保護、維持のための適正な法益を持つ。それゆえ州は地域社会の急激な変動を避けうるような税制をつくっても、それが合理的範囲内なら平等保護条項には反しないのである。「プロポジション13」の目的もまさに、この「州の持つ法益」に合致している。 また、不動産の所有がおびやかされる危険性に対し、新住民には既住民と同様の保護をなされるべき必要はない。なぜなら、新住民が取得の時点でその不動産の購入の有無について選択の余地があるのに対し、既住民は一度購入してしまった不動産が、予想を超えて上昇した場合、手放す他に方法がないからである。それゆえ、既住民には保護を受けるべき法益が存するが新住民に同等の保護をする必要はない。 このケースとウエストバージニア州とのケースを比較した場合、ウエストバージニア州では取得によってその評価方法に異なる取扱いを認めるような法令は存さず、州憲法によって、不動産の評価は「市場価格に基づいて統一的に評価されなければならない」となっている。このようにウエストバージニア州のケースは区分的取扱いを行う合理性に関しての根拠がまったくみられなかった特殊なケースで、これと今回のケースを同一に論じることはできない(注4)。 これらの理由により、「プロポジション13」による区分的取扱いは、州の持つ法益を保護する上で合理的範囲のものであり、原告の主張するようにたとえ幾分かの不適切な部分があるにしても、それがただちに平等保護条項に違反するものではない。 4 補足意見及び反対意見 これら多数意見に対し、トーマス判事はウエストバージニア州との関連で補足意見を、またスティーブン判事は「プロポジション13」は平等保護条項違反である旨の反対意見を表した。 トーマス判事は、多数意見を支持しつつも、「ウエストバージニア州での違憲判決については今回の場合と区別する必然性はなく、先の最高裁判決が州の法益を誤って侵したおそれがある、としている。同判事によれば、カリフォルニアの場合と同様、取得時の時価による再評価を行ったウエストバージニア州カウンティの評価は州の憲法や法規からは離れているものではあるが、合理的範囲内で行われているのものであり、法に規定する要件や手続きを欠いたも行為であってもそれがただちに平等保護条項に違反しているとはいえない」とした。 また、スティーブン判事は、固定資産税にかかる取扱いの差異は、その取り扱いが州の法益を保護する場合に限り平等保護条項に反しないとして、さらに州の保持する法益を二種類にわけた。その上で、それぞれについて「プロポジション13」はその法益を保護しておらず、平等保護条項に違反し違憲であるとしている。同判事のいう第一の法益とは地域の維持、保存、安定であり、これについて、「プロポジション13」はあまりに格差のある取扱いを広範にわたって行っているため、このような法益を保護しているとはいえない、としている。特に「プロポジション13」の対象に含まれている商業や工業用の不動産の所有者はここにいう法益の対象ではなく、ごく少数の経済的に税負担に耐えられない層を保護するために州全体の制度を変えるということは、法益の保護にはあたらない、としている。また第二の法益とは、信頼性の法益(Reliance Interest)というもので、一種の既得権保護にあたる。これは、この場合住宅を取得したものが不測の経済的負担によりその所有を放棄することのないように保護するというものであるが、同判事によれば、「プロポジション13」成立以前に不動産を取得した者は、「プロポジション13」によって地価の上昇に制限ができることを見越して取得したわけではないので、これは信頼性の保護には当たらないとしている。結局地方政府から同じレベルでサービスを受ける者が、その税の支払いに関して、5倍もの格差があるのは合理的に州の法益を保護するとはいえず、平等保護条項に反しているとしている(注5)。 5 判決の背景及び今後のカリフォルニア州の動向 連邦最高裁判所が「プロポジション13」による再取得時評価システムを、種々の不適切な点を認めながらも合憲と判断した背景にはいくつかの理由が考えられる。「プロポジション13」が住民投票という最も直接的にその意思を反映させる方法により成立したということ、州政府の裁量権を尊重したこと、税制度における不平等性は法律執行等におけるそれよりもゆるやかに解釈されることなどが考えられるが、最大の理由は、実際に違憲無効にすることによって生じる社会的混乱を回避するためだったのではないだろうか。仮に「プロポジション13」が違憲無効となった場合、州内の資産の再評価の問題や、税負担の急激な上昇に対し社会的弱者をどうやって保護していくかなどをはじめとして数多くのの問題が発生し、州の状況は混乱を極めたであろう。 ただ判決を通していえることは、連邦最高裁が「プロポジション13」を決して肯定的に評価しているわけではなく、その成立過程及び社会的重要性に鑑みて、それらとの比較衡量の結果、合憲の判断を下したというニュアンスが強いということである。それゆえ最高裁も、そのシステムを完璧なものと考えているわけではなく、あえて厳しい違憲の判断基準をとることによって「プロポジション13」に対する是非の判断を避けたともいえる。 ただし、この判決は財政的窮乏に喘ぐ各地方政府には大きな失望をもたらすことになった。現在多くの地方政府は慢性的財政難からくる教育水準の低下や社会資本の未整備などの問題に頭を悩ませているが、この判決により、地方政府は今後も「プロポジション13」の厳しい制限下で、このような問題に対処していかなければならなくなったからである。そればかりでなく、例えば前述したような固定資産税収入の各地方政府間の配分が1975年当時の各団体の固定資産税状況に基づいていたり、地方政府が独自で固定資産税を課税しえず独自のプログラムを行えないというような、「プロポジション13」がもたらす弊害も数多く指摘されるようになった。 行政だけでなく、カリフォルニア州住民にとっても「プロポジション13」は弊害をもたらしている。今後もカリフォルニア州に住もうとする者は、近隣住民との異なる固定資産税額に悩まされるだろうし、同じ住民サービスを受ける者同士の格差は益々拡がっていくことになる。1988年3月に行われた世論調査によれば、カリフォルニア州住民の70%が、かつて自らが採択した「プロポジション13」による現行の固定資産税の評価システムに対し、肯定的な評価をしていないのである。 このように、「プロポジション13」に様々な弊害がみられる現状では、たとえ、その内容に違法性がみられなくとも一司法による制度否定の可能性がなくなってしまった現在においてはより一層一行政や立法による制度の改革が求められてくる。具体的にその方法としては、住民投票によるもの、州の立法府によるもの、の二つの方法が考えられる。前述したとおり、カリフォルニア州住民の大部分が現行の固定資産税の評価システムに満足していない現状では、今後ともイニシアティブによる固定資産税制度の修正が随時行われていくと思われる(注6)。また、立法府の動きの一例として、カリフォルニア州上院の固定資産税委員会は以下のような「プロポジション13」改革案を提案している。
おわりに 固定資産税が、日本でいえば市町村、米国では市町村や学校区などの最も身近な住民サービスを提供する地方政府の主要な財源であることは、両国とも変わりはないが、課税から徴収に至る一連のしくみは日米両国において大きく異なっている。無論米国内においてもその内容は千差万別であるが、その中で共通していえるのは、よきにつけあしきにつけ地方政府の権限が日本に比して大きく、その中で住民の意見を反映して政策が決定されているということである。「プロポジション13」を生み出した背景には、このような住民重視の姿勢が大きく作用していたと思われる。 米国の地方自治を語る時、いかに草の根自治が根付いているかということの一例としてよく引用されていたように、「プロポジション13」は米国の地方自治制度の中で象徴的意味合いをもっていた。「プロポジション13」は単に一つの州の減税政策の一環にとどまらず、政府に行き過ぎがあったり、あるいは懈怠している場合いつでも住民はそれを直接修正し得るという住民自治の本来の姿をかいまみせてくれ、アメリカの民主主義がいかに進歩的かを我々に示してきたのである。ただ成立から十数年を経過した今、その「プロポジション13」に現在の社会情勢にそぐわない部分があり、変革を求める声が大きくなっているのも事実である。住民の政治意識が高いといわれるカリフォルニア州で、この住民自治の象徴ともいうべき「プロポジション13」はどう変遷していくのか、今後とも注意深く見守っていく必要があると思う。 それにしても、このレポートを作成しながら痛感したことは、日本と米国との地方行財政制度の仕組み、住民の税なりサービスに対する基本的認識の相違がいかに大きいかということであった。 |
