自治体国際化フォーラム

地域の国際化活動に有益な情報を、地方公共団体をはじめ関係者に広く紹介する“自治体のための国際化情報誌”「自治体国際化フォーラム」を毎月発行し、都道府県、政令指定都市、特別区、全国の市町村、地域国際化協会等に無料で配布しており、発行部数は6,000部に上っています。 特集等のテーマについてのご要望、地域の情報、ご意見等を担当課までお寄せください。


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ミャンマーの地方行政

 ミャンマー連邦(Union of Myanmar)がイギリスから独立を果たしたのは、1948年のことである。(当時の国名はビルマ連邦」)。以来、今日に至るこの国の歴史は、まさに国家統合への模索であったといえる。実に135もの民族から構成される上に、イギリス統治下の、いわゆる「分割統治」(Divide and Rule)の影響により、国境周辺に居住する少数民族と、主要民族であるビルマ族との確執が、国家統合の軋轢となっているのである。

ボタン 名目的な連邦制度

ボタン 地方の構造
ボタン 内務省による地方行政
ボタン 地方行政の実例
ボタン 将来の地方行政



ボタン名目的な連邦制度

 国名からも明らかな通り、ミャンマーは連邦制を採用している。独立時に、国境周辺部を領土に取り込むため、少数民族に一定の自治権を与え、「州(State)」を設けた。州への自治権賦与により、前述の民族間の対立を緩衝する狙いがあったわけであるが、実際には、第二次世界大戦後の独立国がそうであるように、ミャンマーにおいても、中央政府に強力な権限が集中され、州の自治権は徐々に削減されていった。背景には、分離独立を求める少数民族と、中央政府の武力抗争の歴史がある。その結果、現行の州は、単なる行政区画以上の意味を有しないものになっている。




ボタン地方の構造

 現在、ミャンマーには7つの州が存在し、また、州以外の地域は7つの「管区(Division)」に分けられる。これらの14の州および管区が、一時的な行政区画である。その下に、64の「郡(District)」が、さらに各郡のもとに324の「町(Township)」が置かれている。この町が、さらに「村(Village Tract)」や「区(Ward)」といった単位に細分されるため、ミャンマーの地方構造は、おおむね4層をなすといえる。

 しかし、これらの区域には、地方自治体は存在せず、地方行政は中央政府により行われている(具体的には、各省庁が設置した地方事務所を通じて行われる)。



ボタン内務省による地方行政

 ミャンマーには、実に34もの省庁が存在し、このうち、内務省(Ministry of Home Affairs)は、警察・特捜部門ならびに監獄管理を所掌し、極めて強大な権限を有する。内務省を統括する総務局(General Affairs Department:以下「GAD」という)は、ミャンマーの省庁で唯一、すべての州・管区、郡、町、村および区に、出先事務所を設置している。このネットワークを通して、中央政府の施策が末端レベルまで周知徹底されるわけである。

 ミャンマーは、現在、軍事政権下にあるが、それ以前は、26年に及ぶ社会主義政権時代であった。その間、経済情勢は悪化し、とりわけ地方は発展から取り残され、荒廃が進んだ。現政権は、国家統合のために、確固たる「中央→地方」の指揮・命令系統の確立、一つの国としての求心力維持ならびに地方の発展に努め、GADの地方事務所は、それを実践するための手段、すなわち、中央集権体制強化のための地方管理組織といえる。

 各州・管区、郡および町のGAD事務所の重要なポストには、GAD本部の幹部職員が充てられ、その数は558人である。GAD本部に勤務する幹部職員は85人であるから、GAD幹部職員の実に9割弱が、地方事務所に配属されていることになる。



ボタン地方行政の実例

 筆者は、内務省の協力を得て、実際にGAD本部ならびに地方事務所を訪れることができた。GADの主な業務は、土地行政、徴税(一部税目に限る)、農村部開発事業および軍事政権からの委任事務などである。GAD地方事務局の担当業務は、これらに加え、人口動態や、土地利用状況の把握、他省庁の地方事務所との連絡調整などがあり、早い話が、地方行政全般にわたる管理・執行を担っている。

 GADの業務の中で、「地方→中央」という系統で行われる事業がある。「農村部開発事業」という公共事業がそれで、具体的には小規模な基盤整備など単年度で実施するものである。どの箇所の、どのような事業を実施するかについては、末端レベル、すなわち、区や村のGAD事務所が、住民の要望を汲み上げて、上位の町へ報告する。町から郡、郡から州(管区)、そして最終的には本部へと、要望が進達される。本部で決定された事業に関しては、補助金が交付されるのと同時に、一定の住民参加が要求される。採択された事業に対する労働力の提供が原則であるが、それが不可能な場合には、資金や資材の提供で代えられる。これが住民の地域に対する帰属意識、ひいては「自治」精神の高揚につながることが期待されている。



ボタン将来の地方行政

 ミャンマーの現行憲法は、社会主義時代に制定されたもので、現在、実質的に停止状態にある。内容も社会主義色が濃く、市場経済への移行等、開放政策を採る現政権の施策に合わない点が多い。新たな憲法の策定は、現政権にとって喫緊の課題の一つであり、草案策定作業も大詰めを迎えているようである。新憲法の詳細については公表されていないが、内務省幹部の話によると、新たに「自治区(Self Administrative Areas)」なる特別な区域が設けられるようである。主に少数民族に一定の自治権を与える意図であろうが、原則として現行の「中央主権的連邦制」は維持されていくものと思われる。ミャンマーのように、少数民族問題を抱える国にとって、中央政権体制以外の選択肢は、当面採ることができないであろう。ただ、人口4600万人、面積は日本の1.8倍とい国土全域の行政を、いつまでも中央政府が担うことは不経済かつ非現実的ではないであろうか。筆者のこの問いかけに対して、内務省幹部は次のように答えている。「将来的には、現在の州および管区レベル『地方政府』なるものを設け、中央政府の権限をある程度委譲していく(Devolution)必要があると考えているが、そのためには、まず、しっかりとした地方政府の土台づくり(担い手である職員の養成、能力向上および住民の意識向上の両面)が肝要である」。果たしてミャンマーにも、分権論議が俎上に載る日が来るのであろうか。

(なお、本文中、意見・感想にわたる部分については、筆者の個人的見解であることをお断りしておきます。)

シンガポール事務所所長補佐
河本哲治