自治体国際化フォーラム

地域の国際化活動に有益な情報を、地方公共団体をはじめ関係者に広く紹介する“自治体のための国際化情報誌”「自治体国際化フォーラム」を毎月発行し、都道府県、政令指定都市、特別区、全国の市町村、地域国際化協会等に無料で配布しており、発行部数は6,000部に上っています。 特集等のテーマについてのご要望、地域の情報、ご意見等を担当課までお寄せください。

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シンガポールの水事情


ボタン はじめに

ボタン 水の消費量とその供給先
ボタン 二国間協定について

ボタン 新たな取組み
ボタン おわりに





ボタンはじめに

 海外旅行や海外出張・赴任の前に、誰もが気になることといえば、訪問先の国で安全に水道水を飲むことができるかどうかということではなかろうか。シンガポールのホテルや家庭の蛇口から供給される水道水は、WHOの基準を満たしており、水質的にはまったく問題はない。しかし、ひとたびシンガポールの水を水源の側面からみると、一般家庭や各工場などに供給されるシンガポールの水は、その供給源のおよそ半分を隣国マレーシアに依存しており、その背景にはシンガポールならではの特異な事情が存在している。本稿では、シンガポールの水事情とその課題、それらに対するシンガポール政府の取組みなどについてレポートする。




ボタン水の消費量とその供給先

 まずはじめに、シンガポールでは1日当たり、どのぐらいの水が消費されているのであろうか。シンガポール国内の水の供給や施設整備などを一手に引き受けているのが、シンガポール公益事業庁(Public Utilities Board:PUB)である。同庁の統計によれば、シンガポールでは家庭用・工業用水合わせて1日3億ガロン(約13億リットル。1ガロン=約4.5リットルで換算。以下同様)が消費されている。その水源別内訳は、約半分以上がマレーシアからの購入、残りがシンガポール国内にある19カ所の貯水池(Reservoir)からの供給である。




ボタン二国間協定について−マレーシアからの水の購入−

 もともとシンガポールは山間部が少なく、水を国内だけで完全自給できるだけの十分な貯水池を持たなかったため、必然的に水源を隣国に依存する方法しかなかった。このことからシンガポールは、マレーシアとの間に1961年および1962年の両年にわたり「The Johor River Water Agreement of 1961-1962」を締結。さらに1988年に「Memorandum of Understanding」が締結され、マレーシア・ジョホール州から一日当たり、最大で2億5000万ガロン(約11億リットル)の原水を購入することができることになった。マレーシア・ジョホール州からの水は、同州とシンガポールをつなぐ水道管でシンガポール島内の浄水場まで輸送されていく。

 水購入価格は、1000ガロン(約4500リットル)当たり0.03リンギ(日本円で約96銭。リンギはマレーシアの通貨単位で1リンギ約32円。以下同様)で、協定締結当時に設定した金額と現在でも変わりがない。二つの水供給契約の期限切れとなる2011年と2061年まで水購入価格の改定はないと主張するシンガポールと、水道料金改定(引き上げ)を主張するマレーシアの両国間交渉がこれまで何度か行われてきたものの、いずれも不調に終っていた。(ちなみにシンガポールはマレーシアから購入した原水の12%の浄水を1000ガロン当たり0.5リンギ(約16円)で売り返さなければならない。)

 2001年の9月、リー上級相がマレーシアを訪問した際、水購入価格を値上げすることでマハティール首相との間で基本合意がなされた。具体的な水購入価格について、シンガポール側からは、水購入価格を2011年まで現行価格の15倍に当たる1000ガロン当たり0.45リンギ(約14円)、2061年の間までは1000ガロン当たり0.60リンギ(約19円)とすることが提案されたものの、マレーシア側との間に合意が得られなかったため、今後事務レベル協議で埋めていくことになった。

 これまで水料金問題は、事あるごとに政治的駆け引きの道具としても使われていたものであるが、値上げすることで一応の決着をみることになった。

 このように、水の供給源の半分以上をマレーシアに依存していることから、できるだけ安定的に水資源を自国で確保することは、シンガポールにとって喫緊の課題となっている。

 さらに2010年までに、シンガポール国内での水需要は約30%以上の増加が見込まれる。このため、シンガポールでは、現在、新たな水源確保に向けた取組みが始まっている。

 その具体的な取組み内容は、以下のとおりとなっている。




ボタン新たな取組み

(1)貯水池の拡充
 貯水池は、クランジ、アッパーピアスなど島内に19カ所存在し、ジョホール州からの輸入とともにシンガポールの水源のもうひとつの柱となっている。これらの貯水池を維持管理しながら新たな貯水池を造成する計画として、マリーナ・ベイを堰で仕切り、淡水湖に変える計画が進んでいる。さらに既存のローワー・セレター貯水池の下流に新たな貯水池が造成されるとともに、集水量を最大限に利用できるように2009年までには、島内すべての貯水池がネットワークで結ばれる計画となっている。

(2)淡水化プラント
 海水から真水に変える国内初の民営淡水化プラントが計画中であり、本格稼動が予定される2005年以降には1日当たり3000万ガロン(約1億3600万リットル)の水の供給が可能となる。これは、現在のシンガポールの水消費の約1割に相当する。淡水化プラントプロジェクトの総工費は4億シンガポールドル(約280億円)と見積もられており、事前審査で勝ち残った11社からこの4月に入札応募があり、2002年中には落札業者が決定される予定である。このプロジェクトでは、工事の施行、施設の所有、運営を落札業者が行うBOO方式(Building Own Operating)がとられ、落札業者は蒸留法や逆浸透法、電気透析法など脱塩処理方法を自由に選ぶことができる。稼働開始から20年間、PUBは1日当たり約3000万ガロン(約1億3000万リットル)の水を買い取る契約を行うことになっている。

(3)ニューウォータープラント(雑用水処理施設)
 さらに2003年1月までに、雑用水処理システムの運用を開始する。この雑用水処理施設の建設により、ベドックとクランジの施設で雑用水を超純水に再生し、半導体工場向けに供給する。この計画が予定どおりに実現すれば、1日当たり1500万ガロン(約6800万リットル)の供給可能となり、2012年までには処理量を5500万ガロン(約5億5000万リットル)にまで引き上げ、化学、電子、エンジニアリング関連企業にも供給できるようになる。




ボタンおわりに

 以上見てきたように、シンガポールでは多種多様な手段の組み合わせにより、水源を求めて様々な実験が重ねられている。これらの実験の究極の目標としては、他国に頼らずに水源の完全自給を果たすことであり、国家生き残りのために、今後とも水源確保のための取組みが行われるだろう。とりわけ「淡水化プラント」と「雑用水の再利用」がシンガポールの水資源確保に大きな影響を与えるプロジェクトだけに、今後とも注目していきたい。

シンガポール事務所 所長補佐
菊川 和宏

 参考:ウェブ・サイト

シンガポール政府
 http://www.gov.sg
シンガポール政府・環境省
 http://www.env.gov.sg
シンガポール政府・環境省国家環境局
 http://app.nea.gov.sg(2002年7月1日設立)
シンガポール政府・公益事業庁(Public Utilities Board)
 http://www.pub.gov.sg