自治体国際化フォーラム

地域の国際化活動に有益な情報を、地方公共団体をはじめ関係者に広く紹介する“自治体のための国際化情報誌”「自治体国際化フォーラム」を毎月発行し、都道府県、政令指定都市、特別区、全国の市町村、地域国際化協会等に無料で配布しており、発行部数は6,000部に上っています。 特集等のテーマについてのご要望、地域の情報、ご意見等を担当課までお寄せください。


海外の地方自治体
(財)自治体国際化協会シンガポール事務所


かつてマレーシア発展の基礎を築いたスズ生産。その中でもペラ州は、キンタ渓谷など有数の鉱山を持ち、スズ産業を支える中心地であった。そのペラ州の州都であるイポー特別市は今、スズ産業からの脱却を図り新時代に向けた都市づくりを模索している。



概要

 西マレーシアの北部に位置するペラ州1)の州都イポー特別市は、首都のクアラルンプール、ペナン島のジョージタウンに次ぐ第三の都市で、人口およそ五〇万人、面積は三八七平方km、東南アジア屈指のスズ産出地として有名である。

 かつてイポーのキンタ渓谷からクアラルンプールのクラン渓谷にかけての一帯は「Malayan Tin Belt(マラヤン・ティン・ベルト)」と呼ばれ、世界最大のスズ生産地として名をはせたが、その中でも最大の産地はキンタ渓谷であった。

 一九世紀に入ると、クリミア戦争(一八六一〜六五年)やアメリカ南北戦争(一八六一〜六五年)など大きな戦争が相次いで勃発し、同世紀後半には、それまでヨーロッパにおけるスズ需要の多くをまかなってきたイギリス・コーンウォール地方のスズ埋蔵量がしだいに枯渇しはじめた。これらを背景に世界のスズ需要は急速に逼迫していったが、この需要に応えたのが一八五〇年代に開発の始まったマラヤン・ティン・ベルトを中心とするマレー半島だった。このスズ産業の発展は、鉱石の輸送目的で鉄道や道路網の開発を促し、また、静かなカンポン(集落)に過ぎなかったイポーの地は、数万人規模で入植が相次ぐ中国人労働者で賑わい、一躍マレーシアにおけるスズ産業の中心地として知られるようになったのである。

 しかし、一九八〇年代、マレーシアはNIESの一員として家電生産を中心とする工業化に成功し、国内の産業構造は劇的な変化を遂げた。これに伴って一時産品であるスズの生産は急激に落ち込み、一九八〇年に六万一四〇〇t都世界一を誇っていた生産料が、一九九七年にはわずか五一〇〇t(世界第八位)と一〇分の一以下にまで激減した。

 こうした潮流は、スズの最大産地であり、スズ産業一辺倒であったイポーの産業構造に大きな変化を与えつつある。新しい時代での生き残りをかけ、そしてスズ産業からの脱却をめざして、イポーは新しい街づくりに取り組み始めている。


マレーシアの地方行政制度


イポー特別市の行政組織



新世紀に向けたプロジェクト


おわりに



マレーシアの地方行政制度

 マレーシアの基本的統治構造は、連邦、州、そして地方の三層構造になっている。この中で地方自治体は、保健衛生、ごみ収集、道路管理、公園の建設、そして市場の規制などを主な業務としている。さらに、地方自治体は、人口・財政規模、都市化などの差により区分され、「市(City Council)」、「市(Municipal Council)」、「町(District Council)」の三種類が定められている。イポーは、このもっとも大きな自治体である特別市に該当する。

 地方自治体の基本的な性格は「議会( Council)」がその役割を担っており、議会は首長である議長とその他の議員によって構成されている。また、実務を統括する首席行政官として事務局長が置かれ、その下に各種業務を遂行する部局が組織されている。

 首長、議員、事務局長は州政府の任命により決定され、地方自治レベルでの選挙制度がない。また、地方自治体に付与された権能も、予算歳出や服務をはじめ、運営全般にわたって州政府の指揮・監督を受ける構造となっており、日本に比較すると驚くほど自治体の主体性は認められておらず、中央集権的な色彩が強いのが特徴である。




イポー特別市の行政組織

 同市の組織構造は、首長である市長を筆頭に、実務のトップである事務局長、そして組織・人事部、審査部、財務部、保健部などから構成される事務局がある。(表1参照)。また、市長と共に市を形成する議会には二四名の議員がいる。議会の下には議員や専門家などで構成される委員会が置かれており、総務土木、保健、都市計画などの各種委員会が基本政策の立案機能を担っている。

 同市の職員は、二三〇〇人余りで職員一人当りの人口は二一七.四人。日本の同規模自治体に比べその数は約二倍で、職員数はかなり少ないと言える2)(これは中央集権の性格を裏づけるものと考えられる)。

 また、財政状況について見てみると、一九九九年の歳入は七九九四万五二〇〇リンギ(約二四億円)3)で、その六割を固定資産税が占めており、手数料収入や補助金・交付金がこれに続くが、補助金の割合は九%に過ぎない点が注目される(表2参照)。この固定資産税の賦課は、一年間の賃借料に基づき算定され、基本的な年率は二一%とされている。例えば、月々一〇〇リンギ(約三〇〇〇円の)賃借価値があれば、年間一二〇〇リンギの二一%で二五二リンギ(約七五六〇円が固定資産税として)賦課される。

 一方、歳出は同額で、内訳は一般歳出に八三・八%、開発事業歳出に一六・二%が充てられている。一般歳出のおよそ半分は給与・手当てなどの人件費で占められ、残りの四割強がごみ処理・清掃業務などの行政サービス経費である4)。開発事業歳出では、そのおよそ五割を治水対策、三割を道路整備に充てている。市内には、中心部を東西に隔てるキンタ川が流れているが、この川が古くからたびたび氾濫を起こしてきた。そのため、治水対策費としてこれほどの予算が必要になるものと思われる。

 なお、同市は一九八九年三月に福岡市と姉妹都市提携を結んで以来、市長同士の交流をはじめ日本庭園の設置や吹奏楽演奏などの文化面、ラグビーやバドミントンなどのスポーツ面など様々な分野で相互交流を続けている。

表1 イポー特別市の組織図

イポ−特別市の組織図

表2-1 歳入

歳入

表2-2 一般歳出

一般歳出

表2-3 開発事業歳出

開発事業歳出



新世紀に向けたプロジェクト

 今年、同市には「Ipoh Virtual City(イポー・バーチャル・シティ)」なるものが登場した。これは、いわゆる「電子行政サービス・コンセプト」で、次の三段階が計画されている。

1.E-Commerce(電子商取引):2000-2001
固定資産税や罰金、レンタル料などの租税公課をオンラインで支払うことができるインターネット・サービスで、マレーシアの地元銀行と開発した。すでに市庁舎や市内ショッピングセンターに設置されたキオスクやインターネットから利用が可能である。(http://www.mbi.gov.my

2.E-management(電子マネジメント):2001-2002
市が行う各種証明の発行や情報提供などの管理運営にIT(情報通信技術)を利用していく電子政府構想。

3.Smart-Community(スマート社会):2002-2003
ITを活用した地域社会の開発(電子図書館、GISシステム、土地情報の電子化など)。

 これらは、州政府も注目する市と地元銀行が独自に開発したプロジェクトで、行政サービスの効率化を図るとともに、できるだけ早く市民をITに適応させるねらいもある。すでに稼動しているE-Commerceなどは州政府が旗振り役になって各地にも導入を促す予定で、もし他の自治体の導入が決まれば、イポー特別市は、開発費としてライセンス収入が見込めると言うことである。

 実際に利用してみると、プライバシー保護の問題など完全ではない思われる部分もあるが、現実味を帯びてきたIT時代に対応した新しい行政サービスは着々と進んでいることがうかがえる。

 このほか、キンタ川のウォーターフロント開発計画が進行中である。これは、キンタ川沿いに商業施設やレクリエーション施設を建設する州政府の再開発計画だが、市のアイディアをもとに州政府との協議の結果実現した事業で、トップダウンが当たり前のマレーシアでは珍しいケースといえる。また、「民間活力の導入」も検討されており建設コストは州政府の負担だが、所有権を留保したままその後の運用を民間に委ねるリース方式が有力という。




おわりに

 イポーの経済はスズ産業の衰退と歩調をあわせるように停滞していった。それを裏づけるるように、イポーを含むベラ州の一人当りのGDPは四八〇リンギ(約一四万円、一九九五年)で半島マレーシア一二州のうち八番目の水準である。当局も工業団地の整備やIT企業の誘致などで産業活性化の道を模索しているものの、現在もスズに代わる有力な産業は見当たらないのが実情である。また、前述の通り、マレーシアにおける地方自治は、議員の指名制や自治体権限の制限により、各地方の個性や特色を行政に反映することは難しく、関係者の不満には根強いものがあるのも事実である。

 しかし、これまで一方通行だったマレーシアの地方自治に新たな双方向性が現れたのは大きな前進である。イポーの新たな取組はまだ緒についたばかりであるが、これが試金石となり中央集権的なこの国の体制にわずかでも風穴を開けられればおのずと活路は見出せるに違いない。

1)「ペラ」とはマレー語で銀を意味し、スズの銀色にちなんで名付けられたという。

2)例えば、人口で同規模の鹿児島市(五五万人)は、職員五〇九一名、議員一人当り人口は一〇八・八人である。

3)一リンギは約三〇円。

4)現在、マレーシアではごみ処理業務などの民営化による自治体職員の人員削減が進みつつあるが、イポーではまだ十分な合意がなされていない。