自治体国際化フォーラム

地域の国際化活動に有益な情報を、地方公共団体をはじめ関係者に広く紹介する“自治体のための国際化情報誌”「自治体国際化フォーラム」を毎月発行し、都道府県、政令指定都市、特別区、全国の市町村、地域国際化協会等に無料で配布しており、発行部数は6,000部に上っています。 特集等のテーマについてのご要望、地域の情報、ご意見等を担当課までお寄せください。



海外事務所特集
特集3:スペインの地方自治制度
    ─カタルーニャ州の事例─


パリ事務所長 山崎 栄一





 スペインの地方自治制度


スペインの概要

 ヨーロッパ大陸の南西部、イベリア半島の5分の4を占める。人口約4000万人。ピレネー、カンタブリア、シェラネバダ、シェラモレナの4山脈に囲まれ、大部分は高原地帯となっている。

 1931年に王制が廃止され共和国となり、その後1936年からの内乱を経て、1939年以降はフランコ将軍による専制政治が続いた。将軍の死去に伴い1975年王政復古、民主化が進み、1978年12月の国民投票により新憲法が承認された。この憲法の下、連邦制にも似た地方分権民主主義国家が築かれたのである。

地方行政

1 概要

 スペインの地方自治制度は憲法によって自治州、県、市町村の3層制と定められている。県(provincias)と市町村(municipios)は固有の法人格を有する地方自治体、一方、自治州(comunidades autonomas)は地方行政単位ではなく、政治的自治権を有し、各々が定め国の承認を得た自治憲章に基づき自己領域内を統治する。

   

表1 国、自治州、県、市町村の権限

国(排他的権限) 自治州 市町村
憲法149条1項に規定される32項目 憲法148条1項に規定される22項目 地方自治基本法第36条 地方自治基本法第26条
  • 人権の行使、憲法条項の義務の履行において全スペイン人の平等を保障する
    基本的条件に関する法規定
  • 国籍・移民・外国人・亡命
  • 国際関係
  • 防衛・軍
  • 司法行政
  • 商法、刑法、民事・刑事訴訟法
  • 労働立法
  • 民事立法(各自治州の固有の法を侵害しない範囲で)
  • 知的所有権に関する立法
  • 税関・海外取引
  • 貨幣制度
  • 度量衡の単位、公的なオフィス・タイム
  • 経済活動の全般的な促進と調整
  • 国庫・国債
  • 科学技術の促進と調整
  • 検疫、全般的な保健機構、薬剤に関する立法
  • 州による義務を損なわない範囲での社会保障に関する立法
  • 行政の法的基盤、公務員の取り扱い
  • 領海での漁業
  • 海運、船籍、港湾、空港
  • 複数の州にわたる鉄道、陸上全般的なコミュニケーション、郵便・電信
  • 複数の州にわたる河川の利用や発電施設
  • 環境保護の基本立法
  • 全般的な公共事業
  • 鉱山・エネルギー
  • 武器・火薬類の製造、販売、所持
  • 新聞・ラジオ・テレビなどのコミュニケーションに関する基本立法
  • 国の文化遺産の流出・略奪の保護、国の文化施設の管理
  • 学位などの取得に関する法規定
  • 国の目的に資する統計
  • 住民投票実施の承認
  • 州政府の機構
  • 州内市町村の境界の変更、国の法律の定める範囲内での州内地方機関に関する国行政の役割
  • 州の領域、都市、住宅整備
  • 州内の公共事業
  • 州内の鉄道、道路これらによる輸送
  • 商業活動を伴わない避難港、スポーツ利用の港湾、空港施設等
  • 経済の全般的枠組の中での農・畜産業
  • 山林の利用
  • 環境保全
  • 州内の用水、運河、灌漑に関する計画・建設・運営、鉱泉
  • 河川・湖沼での漁、養殖、猟
  • 州内での見本市
  • 国の経済政策に沿った州内での経済発展の促進
  • 手工業
  • 州内の博物館、美術館、音楽院等
  • 州の文化遺産
  • 文化・研究の奨励、州の公用語の教育
  • 州内の観光振興
  • スポーツや娯楽の適切な利用の促進
  • 社会扶助
  • 保健衛生
  • 建物・施設の警備や保護、組織法が定める範囲内での地方警察に関する調整その他の権限
  • 市町村間のサービスの調整
  • 市町村を司法・経済・技術面で援助、協力する(特に財政的・行政機能的能力の乏しい市町村に対して)
  • 複数の市町村または複数のコマルカにわたる広域行政サービスの提供
  • 県固有の利益の振興と運営
すべての市町村
  • 街灯
  • 墓地
  • 家庭廃棄物の収集
  • 公道の維持
  • 上下水道
  • 道路整備、舗装
  • 飲食品の管理 など

人口5000人以上
  • 公園
  • 図書館
  • 市場
  • ゴミ処理 など

人口2万人以上
  • 広域災害防止
  • 福祉サービスの提供
  • 火災予防と消火
  • スポーツ施設の設置
  • と畜場 など

人口5万人以上
  • 公共都市交流
  • 環境保全 など

2 市町村

 8000を超える市町村のうち、5000近くの市町村が人口1000人未満である。

 市町村は最も基礎的な地方行政単位であり、法人格および行政上の自治権を有する。直接選挙で選出される議員による議会と、議員の互選で選出する長および長が任命する執行委員会が運営に当たる。市町村の権限は数多く、人口規模に応じて異なる(表1参照)。 財源は、約半分が市町村税(固定資産税、経済活動収益税、自動車税など)、残り半分が国または自治州からの交付金、公債、事業収入等である。歳出については、4分の1以上が人件費、半分以上が経常支出である。

 小規模市町村が多く、過疎や財政状況の悪化等の問題はあるが、合併に関しては、文化的・歴史的背景から「単に経済的な理由から推し進めるものではない」というのが政府、自治州、地方自治体の統一見解のようである。

3 県

 県は複数市町村より構成され、固有の法人格および行政上の自治権を有する。38の県は一般制度に属し、バスク州の3県とバレアレス諸島およびカナリア諸島の島評議会は、それぞれ特別制度に属する。

 一般制度に属する県は、県議会により指名される議長と副議長および執行委員会により運営される。県議会議員は県下市町村の長および議員の互選で選出される。県の一般的な役割は、経済社会政策の一環で市町村間の連携・均衡を保証することである(表1参照)。県議会は毎年、市町村事業への県協力計画を策定し、自治州がこれを調整する。自治州は県に自己の権限を委任することができ、また国も自治州の合意に基づき一部の事務を県に委任することができる。

 県は固有税をもたず、財源は国および自治州からの交付金に頼っている。

  4 その他の行政単位

 1985年4月2日地方制度基本法(LRBRL)では県、市町村以外の地方行政単位として、マンコミュニダデス(mancomunidades)、コマルカ(comarcas)、大都市圏(entidades metropolitanas)の設置を認めている。

(1)マンコミュニダデス

 市町村の権限に属する公共サービスや事業を複数市町村が共同で実施するための組織で、すべての自治州に存在し、その数は増えつつある。主にゴミ処理、清掃、上下水道、交通整備等を担う。人口5000人未満の農村部に多くみられる。

(2)コマルカ

 地理的、経済的または商業的な基準により、複数市町村により構成される政治・行政単位である。自治権および固有の法人格を有し、コマルカ議会(議員は所属市町村の長および議員の互選)が運営に当たる。地域整備、都市開発、保健、福祉、文化、スポーツ、教育、公衆衛生、環境等の権限をもつ。後述のカタルーニャ州では1987年、全945市町村が構成する41のコマルカを創設した。

(3)大都市圏

 大都市周辺の市町村が経済的・社会的に連携し、共通の事務や事業を計画・調整するための組織である。緑地保護、公共都市空間の整備、住宅整備、交通や上下水道等の基本的公共サービスの共同運営等を行う。

5 自治州

 17の自治州は、その土地の歴史や文化を色濃く反映し、それぞれに全く異なる性格をもつ。

 各自治州はその範囲、組織、権限等を「自治憲章」において定めているが、憲章の制定に先立ち、それを合法的に開始するための事前手続きが必要となる。「歴史的自治州」と呼ばれるカタルーニャ、ガリシア、バスクの3州は、かつて住民投票により自治憲章を承認した経験をもつことから、迅速かつ簡単な手続きのみで制定に着手することができた。その他の州は、憲法第143条または第151条に定める手続きを経て制定を開始した。第151条の方が、憲法に規定されたすべての権限を獲得するのに要する機関が短くなるが、その手続きの煩雑さ故に敬遠され、第151条により自治権を獲得したのはアンダルシア州のみである。

 すべての自治州は、比例代表制直接選挙で選ばれた議員が構成する立法議会を有する。同議会では内部より首相と執行委員会を選出する。

 国と自治州の権限の配分については、それぞれが独占的に権限を有する分野(表1参照)と、共同で有する分野とがある。地方行政は、国と自治州の共同管轄下に置かれている。

 自治州の財源は、国税の全部あるいは一部譲渡、自治州固有の税、国税に対する付加税、国からの交付金、自治州の固有財産による収益等である。自治州は希望すれば固有の税を創設できるが、実際に固有の税をもつ州はわずかであり、財源の大部分は国の交付金と国税の譲渡に頼っている。なお自治州間の財政調整制度があり、現在10の自治州がその恩恵を受けている。

 アストゥリアス、カンタブリア、マドリッド、ムルシア、ナバラ、ラ・リオハの6州は、単一県による自治州である。

6 自治州、地方自治体と国との関係

 国と自治州、地方自治体との関係調査は、地方行政担当閣外大臣事務局が担う。各自治州は同事務局を通じて、部門別に関係省庁との交渉を行う。現在、7つの自治州は憲法に規定されたすべての権限を既に有しており(表2参照)、これらの州は、その権限をより効果的に行使するために必要な措置を国に要求している。残る10の自治州については、4年以内にすべての権限を行使できるよう、国と自治州との調整が続いている。

表2 各自治州の面積・人口および各地方行政単位の数


自治州 (注2) 市町村 マンコミュニダデス コマルカ

面積
(km2
人口
(千人)
アンダルシア(注1) 87,559 7,315 8 769 81
アラゴン 47,720 1,206 3 730 81
アストゥリアス 10,604 1,117
78 14
バレアレス 4,992 788 3 67 7
カナリア 7,447 1,631 9 87 14
カンタブリア 5,321 542
102 9
カスティーリャ・イ・レオン 94,224 2,584 9 2,247 197 1
カスティーリャ・ラ・マンチャ 79,461 1,731 5 915 109
カタルーニャ 32,113 6,226 4 945 78 41
エストレマドゥーラ 41,634 1,111 2 382 77
ガリシア 29,575 2,825 4 315 38
マドリッド 8,028 5,182
179 30
ムルシア 11,314 1,110
45 8
ナバラ 10,391 536
272 56
バスク 7,234 2,131 3 250 36 7
ラ・リオハ 5,045 258
174 15
バレンシア 23,255 4,029 3 541 52
合計 505,917 40,322 53 8,098 902 49

(注1)太字は憲法に規定されたすべての権限を既に有する州
(注2)カナリア、バレアレス両州については島評議会の数
*スペインの地方民主主義の構造と機能(1996年の状況)(欧州評議会、1997年)等により作成




 事例:カタルーニャ州


カタルーニャ州の概要  面積およそ3万2000平方km、その40%以上が森林に覆われ、30%以上は農地である。北にはピレネー山脈がそびえ、東には約400kmの地中海の海岸線が続く。人口は600万人以上、スペイン全人口の15%を超える。産業別労働人口は、第3次産業が60%、工業・建設業が37%、農業・漁業が3%となっている。

 スペインで最も経済的に豊かな州で、国内総生産の20%、国内総工業生産の24%、海外貿易の30%を占めている。

 地方行政単位としては、4県、945市町村、そして41のコマルカがある。

 カタルーニャ州はカタラン語という独自の公用語をもつ。ガウディ、ミロ、ダリ、カザルスなどの優れた芸術家を輩出したのも、この地である。

カタルーニャ州の権限

 1979年12月18日に自治憲章が成立し、カタルーニャ州は自治権を獲得した。その権限は以下の4つに大別される。

1 経済・観光・企業・貿易

 年間観光客数が1500万人に及ぶカタルーニャ州では、観光は主要産業の一つである。また、州内企業の競争力強化と、海外からの投資促進にも積極的に取り組んでいる。

2 地域整備

 州面積の7%にすぎないバルセロナに州人口の70%が集中するなど、地域整備は均衡を欠いており、特に山岳部における基盤整備が急務となっている。1992年のオリンピック開催を機に新空港が建設され、欧州との鉄道網も整備されつつあるが、一方でバルセロナ周辺の海岸部では公害や人口集中化の問題が生じている。

3 伝統的な公共サービス

 教育、保健、福祉、警察

4 文化・言語・レジャー・スポーツ

 言語はカタルーニャの魂であり、カタルーニャ文化、カタラン語の地位向上は、最優先課題の一つである。州内には現在、カタラン語のみで放送を行うテレビ局が二つある。州では、スペイン語とカタラン語の両言語が共存する社会を目指し、教育面にも力を注いでいる。

財政

 州の予算は約140億ドルである。教育と保健・社会扶助の割合が大きく、総支出額ではそれぞれ18.5%、35%を占めている。次に大きいのが、州内の地方行政単位への援助である。なおカタルーニャ州は、固有の税は設けていない。

コマルカの創設

 小規模市町村が抱える財政赤字問題を解決するため、州は市町村合併に代わる解決策として、コマルカを創設した。コマルカの登場により県の存在意義が薄れたカタルーニャ州では、県の廃止を希望している。

カタルーニャ州と国との関係

 現在、国に対する自治権拡大のための最も重要な要求事項は、財政制度の見直しと政治権力の拡大である。

1 財政制度の見直し

 自治州が固有税を設けることは、実際にはほとんど行われていない。よって自治州の財政改善については、国税譲渡率の引き上げが最大の要求事項となっている。例として、州は、現行30%とされている個人所得税の譲渡率を、3年以内に50%まで上げるよう要求している。

 自治州間の財政調整制度も大きな問題である。カタルーニャ州は国内で最も豊かな州であるが、財政調整制度に寄与した結果、巨額の赤字を抱えることとなった。州内の開発政策をより積極的に推進するためにも、カタルーニャ州はこの制度の見直しを強く求めている。

2 政治的権限の拡大

 カタルーニャ州では、特に欧州政策への参加、文化、教育、地域整備等の分野において権限を拡大するため、あいまいさを残すスペイン憲法をより州に有利に解釈しようとしている。その歴史に結びついた地域性と固有言語を維持し、他の自治州よりもさらに大きな自治権を獲得し、特別な地位を保持することを希望しているのである。