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シンガポールの教育制度


 1995年独立30周年を迎えたシンガポールは、世界貿易の要所に位置しながら、主たる天然資源をもたない島国である。また、複数の民族が共存し、国の発展のために人材育成をどのように行うかは重要な問題である。著しい発展を遂げてきたシンガポールは、小学校からの厳しい選別が行われる独自の教育システムを取り入れ、更なる発展を目指している。

(財)自治体国際化協会シンガポール事務所





 はじめに


 1995年8月に、シンガポールは、独立30周年を迎えた。成長と発展を目指した独立当時の国家方針は着実に実現され、1994年には、1053億1300万シンガポールドル(約7兆1140億円)のGDPを生産し、約10%の実質GDP成長率を達成した。

 シンガポールは、世界貿易の要所に位置しながら、主たる天然資源をもたない641.4平方kmの島国である。

 また、シンガポールは1994年6月現在、293万人の国民および永住権保有者の民族構成が華人系77.5%、マレー系14.2%、インド系7.1%、その他1.2%、という多民族国家である。こうした状況の中で、人的資源をどのように育成するかは、重要な問題である。以下では、シンガポールの現在の教育制度について述べてみたい。


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 教育制度の目的


 シンガポール政府は、教育の目的を、「子供が生活していく上で必要となる技量を習得させるとともに、子供が、責任感ある大人、忠誠心ある市民、勤勉な個人となるように、健全な道徳的価値観を教え込むことにある」として、「読み書き(Literacy)」、「計算能力(Numeracy)」、「二言語主義(Bilingualism)」、「体育(Physical Education)」および「道徳教育(Moral Education)」を教育における5つの柱としている(『Singapore 1995』より)。

 このうち、二言語主義は、イギリス植民地下の国際貿易都市として発達してきた歴史的条件および多民族国家という社会的条件を反映している。二言語主義は、法律、行政、商業、技術の言語である英語のほかに、各民族の母語(Mother Tongue)である。華語(北京語)、マレー語またはタミール語を習得させて、文化的伝統を継承させようという理由に基づくものである。


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 教育体系


 シンガポールの教育体系は表−1のとおりである。基本的な進路は、小学校(Primary School=6年間)、中学校(Secondary School=4年間)、ジュニア・カレッジ(Junior College=2年間)から大学(University=3〜4年間)というコースである。

表1 シンガポールの教育体系
表1

 なお、すべての生徒には、小学校から、中学校まで、最低10年間の一般教育(General Education)を受ける機会が与えられている。

 各学校の終了時に、国レベルで実施される試験があり、その結果に応じて、進学する学校の種類や進学先で受ける教育の内容が決定される。なお、小学校の場合は、過去の成績による振り分け(Streaming)が、4年生終了時に行われ、5〜6年生の教育の内容が定められる。

 また、学校数、生徒数および教師数は、表−2のとおりである。

表−2
シンガポールの学校数、生徒・学生数および教員数
(1994年6月末現在)
学校の種類学校数生徒・学生数教員数
小学校194251,09710,553
中学校155174,4838,046
ジュニア・カレッジ1419,2001,629
ポリテクニック442,3033,237
技術教育研修所1112,4921,310
大学232,3312,753
国立教育研修所12,351245
(注)商工省統計局の「Year book of Statistics Singapore 1994」より
 シンガポールの学校の大多数は、国立校(Government School)または、国家補助校(Government-aided School)であるが、ほかに独立校(Independent School)と呼ばれる、独自の運営主体と決定権をもつ学校がある。

 なお、1995年度のシンガポールの国家予算において、一般会計予算(経常支出および開発支出)185億696万シンガポールドル中、教育関係支出は36億5769シンガポールドルを占め、防衛関係費の56億2700万シンガポールドルに次いで、項目中では第2位となっている。


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 初等教育(小学校教育)


 このレベルでの教育は2つの段階に分けられる。1〜4年生の基礎段階(Foundation Stage)と5〜6年生のオリエンテーション段階(Orientation Stage)とである。基礎段階では、語学と数学の基礎の習得が目指され、授業時間の80%が、英語(33%)、母語(27%)および数学(20%)に当てられている。それ以外の20%は、道徳教育、音楽、図画工作、保健、体育に当てられている。母語を通じて教えられる道徳教育は、生徒にアジア的価値観の核心を理解させ、国民として自覚を促す点で特徴的である。

 4年生終了時に学習能力に応じて、オリエンテーション段階のための振り分けが行われる。EM1、EM2およびEM3の3コースがある。1993年の5年生における各コースの生徒数の比率は、17%、75%、8%となっている。EM1およびEM2とも、英語、母語、数学、科学を共通して履修するが、EM1ではより高度な母語を学ぶ。EM3では基礎的な英語、初歩的な母語、基礎的な数学を学ぶ。

 6年生終了時に、初等教育終了試験(Primary School Leaving Examination:PSLE)が国家により実施され、生徒の能力を見定めた上で、学習のペースと才能に最も適した、中学校でのコースが決定する。


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 中等教育(中学校教育)


 ここでは、3つのコースが設けられている。スペシャル・コース(Special Course)、エクスプレス・コース(Express Course)およびノーマル・コース(Normal Course)である。ノーマル・コースは、さらに学術コース(Academic Course)および技術コース(Technical Course)に分かれる。

 1993年の1年生における各コースの生徒数の比率は、7%、46%、47%となっている。

 スペシャル・コース、エクスプレス・コースおよびノーマル(学術)・コースでの教育内容は、英語、英文学、母語、数学、科学、歴史、地理、美術工芸、デザイン、技術、家庭科、道徳教育、体育、音楽などである。また、ノーマル(技術)・コースでは、英語、初歩的な母語、数学、コンピューター操作等を学ぶ。

 コースにより4年生終了時に受けるテストが異なる。スペシャル・コースおよびエクスプレス・コースの生徒は、シンガポール・ケンブリッジ「普通」教育認定(Singapore Cambridge General Certificate of Education "Ordinary" GCE・O)レベルの試験を受ける。この試験の成績により、中等後の教育における進路が定まる。また、ノーマル・コースの生徒は、「標準」教育認定(General Certificate of Education "Normal" GCE・N)レベルの試験を受ける。

 なお、いずれのコースも4年間であるが、ノーマル・コースの中で成績優秀な生徒には、もう1年勉強する資格が与えられ、GCE・Oレベルの試験に備える。

 1993年のGCE・NおよびGCE・Oレベル試験の合格率は、それぞれ、91%および81%となっている。


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 中等後の教育


  1. ジュニア・カレッジ
     大学進学を目指す生徒は、ジュニア・カレッジに進学し、2年生終了時に実施される、シンガポール・ケンブリッジ「上級」教育認定(Singapore-Cambridge General Certificate of Education "Advanced" GCE・A)レベルの試験に備える。

     生徒は、2つの必修科目(英語論文および母語)のほか、最高4つまでGCE・Aレベルの科目を選択できる。ジュニア・カレッジでは、普通、科学(Science)、文芸(Arts)および商業(Commerce)の3つのコースが設けられている。各コースでの選択科目は、表−3のとおりである。

    表−3 ジュニア・カレッジでのコース別選択科目
    コース名選択科目
    科  学数学、高等数学、物理学、化学、生物学、経済学、コンピューター
    文  芸数学、英文学、歴史、地理、経済学、舞台・演劇、芸術
    商  業数学、経済学、会計学、経営学、英文学、歴史、地理
    (注)教育省のリーフレット「Junior Colledge Education in Singapore」より

  2. ポリテクニック
     中学校の卒業生で、工業技術や商業に興味のある生徒は、ポリテクニックに進学する。なお、ここでの成績優秀者には、大学進学の道も開かれている。

  3. 技術教育研修所
     中学校の卒業生に工業的な教育や訓練を行う施設として、技術教育研修所(Institute of Technical Education:ITE)があり、生徒は様々な職業検定の合格を目指して勉強する。なお、この研修所での成績優秀な生徒は、ポリテクニックに入学を認められることがある。


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 大学


 シンガポールには、大学は2つしかない。シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)およびナンヤン工科大学(Nanyang Technological University:NTU)である。両校とも、入学するには、GCE・Aレベルの試験で一定の成績を修める必要がある。

 NUSには、建築学、人文・社会科学経営学、歯科、工学、法学、医学、理学の八学部がある。

 また、NTUには、会計学、応用科学、土木・構造工学、電気・電子工学、機械・生産工学、情報科学の6学部がある。

 なお、NTUの一機関として、教員になるための専門訓練を行う国立教育研修所(National Institute of Education:NIE)がある。


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 おわりに


 二言語主義にみられる実学重視の風潮と、小学校から始まる厳しい選別・振り分けの下で、シンガポール成長と発展を担う人材が、これまで創出されてきたと言うこともできよう。

 今後、前述のようなシステムの下で教育を受けてきた者たちが、シンガポールのみならず日本、アジア、さらには世界の将来にどのように関わり、また貢献していくのかを、今後とも注目していきたいと考える。

シンガポール事務所所長補佐 奈佐 晋


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