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米国における警察行政


 米国連邦捜査局(FBI)は1997年10月、全米の凶悪犯罪発生率が5年連続で減少している旨の犯罪年次報告書を発表した。かつて「犯罪多発都市」のイメージのあったニューヨーク市でも近年の大幅な犯罪発生件数の減少により、今では「安全なニューヨーク」というイメージが形成されつつある。そこで、今回、米国における犯罪件数減少に警察行政の果たした役割を、ニューヨーク市警の事例も交えながら考察することとしたい。

(財)自治体国際化協会ニューヨーク事務所





 凶悪犯罪、全米で5年連続減少


 米国連邦捜査局(FBI)は1997年10月、全米の凶悪犯罪発生率が5年連続で減少している旨の犯罪年次報告書を発表した。1992年と1996年の事件発生率を比較すると殺人事件は20%、強姦事件は16%、強盗事件は23%、暴行事件は12%それぞれ減少しており、1995年と1996年を比較しても暴力的犯罪(殺人、強姦、強盗、暴行)で7.4%、財産に対する犯罪(窃盗、車泥棒、放火)で3.2%と、ともに減少している。

 さらに、ワシントン・ポスト紙が1997年12月全米大都市の警察に対し照会し、取りまとめたところによると、1997年は、多くの大都市で殺人事件率が前年と比べて急激に減少していることが分かった。同年10月のFBIの犯罪年次報告書に続くこの調査により、1997年も凶悪犯罪減少の傾向が依然として継続していることが裏付けられている。

 1992年に2262件の殺人事件を記録したニューヨーク市では、1997年は前年比23%減の755件にまで減少し、1967年以来最低となった。1977年以降殺人事件の発生が年間600件を下回ったことがなく、1993年からは毎年1000件を超えていたロサンゼルス市では、前年から20%減の566件となっている。その他、シカゴ市で前年比5%減、フィラデルフィア市では3%減、ヒューストン市で1%減、フェニックス市で6%減、ダラス市で4%減、サンディエゴ市で14%減等となっている。暴力的犯罪は1960年代初頭から全米的に増加し始め、以後20年間確実に増加し続けてきたが、1980年代初頭のクラック(コカイン)蔓延による犯罪多発を頂点として以後減少を示している。

 このような、犯罪減少の原因について確たる回答は得られていないが、人口構成が大きな要因となっていることは多くの専門家が指摘しており、最も犯罪に加担しやすい年齢である10代後半から20代前半の人口がこれまで減少傾向にあったことが犯罪の全体数を減少させているものと推測されている。麻薬常習者の平均年齢が上昇していることにより麻薬取引をめぐる青少年の暴力ざたが減少しているほか、好調な米国経済のおかげで生活が安定し、犯罪予備群が減少していることも犯罪減少の理由として考えられている。

 また、特に大きな要因となっているのは警察官の増員、鉄砲の規制、刑罰の厳格化等による治安維持の強化であろう。クリントン政権は1994年に警察官増員のための連邦補助金制度を成立させ、全米で3万人の警察官が増員されたが、例えば1995年に麻薬犯罪による逮捕者が過去最高の150万人となったことについては、犯罪自体の増加よりも警察の取り締まりの強化を反映したものと解釈されている。

 さらに、いったん犯罪が減少すると、警察に時間や人員の面での余裕ができ、犯罪発生防止に力を入れることができるようになるという相乗効果も指摘されているが、1997年の大幅な減少は研究者の間でも「通常の理由では説明できないほどである」と驚きをもって受けとめられている。

 なお専門家によると、殺人事件発生率と都市の経済状況には相関関係がみられ、貧困率および失業率と殺人事件発生率は同調して動く傾向があるとされ(ただし貧富の格差の拡大と殺人事件発生率には関連はみられない)、また、刑罰の強化が犯罪発生率を低下させることは統計的に裏付けられており、刑務所への収監数が増加すると殺人事件発生率が低下し、逆に刑務所からの出所者数が増加すると殺人事件発生率が増加することが分かっている。


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 ニューヨーク市警の概要


 ニューヨーク市警は米国自治体最大の警察組織で、1997年現在、約3万7000人の警察官と8000人以上の一般職員からなる。毎年50万件以上の凶悪犯罪を含め、100万件以上の犯罪被害を受理し、25万人以上逮捕している。「911」(日本の110番に該当)は、毎年800万件受理し、そのうち400万件以上に地域パトロール員を派遣している。

 市警の基本的な任務は、市民の生命・財産の保護である。これはパトロール員や専門部、支援部隊による様々な方法で達成される。警視総監はニューヨーク市警の長で、市長により任命され任期は5年である。総監は市警全体の指導・運営を管理している。総監は補助者として9人の副総監を任命するが、副総監はそれぞれ重要な政策と行政執行の責務を有する。

 仕事量をより公平に配分するために、ニューヨーク市の5つの区は、7つのパトロール区に分割されている(マンハッタンはマンハッタン北、マンハッタン南に、ブルックリンはブルックリン北、ブルックリン南にそれぞれ二分割されている)。パトロール区の管轄地域は、3〜5つの警察署からなる18の地域に分けられるが、それぞれの地域の指揮官として inspector(警視)が配置されている。

 市内には、76の警察署があるが、250万人の人口を擁するブルックリンには23署、一方、30万人のスタッテン島はわずか3署である。警察署に配属される職員の数は、最大の400人から細小の100人と様々であり、平均は、約150人である。

 ニューヨーク市警の中でも the Crime Prevention Division(防犯課)は、よく知られている特別な組織である。ここに配置されている警察官や、76警察署のそれぞれに配置になっている特別の訓練を受けた警察官は、地域住民との会合で犯罪防止講演を行ったり、家庭や事務所の防犯診断を行うが、それらは無料で利用できることになっている。

 また、市警の中でも特筆すべきものとして the Civilian Complaint Review Board(市民苦情審査委員会)がある。この市民苦情審査委員会では、警察官のいきすぎた実力行使、職権濫用、人種差別的な言動・中傷事案等を調査している。委員は13人で構成され、市警職員は含まず、委員の任命権は市長・市議会・警視総監の三者が有しており、委員の資格要件については警察色をできるだけ排除したものとなっている。市民が具体的に警察の不当行為に対して不満や苦情がある場合には、Complaint Report(苦情報告書)に内容を記入して、市民苦情審査委員会に提出し、委員会では苦情を審査後、総監に対して懲戒処分を勧告することができることとされている。


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 ニューヨーク市における犯罪件数減少


 旧来「犯罪多発都市」にイメージがあったニューヨーク市でも前ディンキンス市長の任期後期から犯罪が減少傾向を示していたが、特に犯罪対策の強化を公約に掲げたジュリア−ニ市長就任後、警察官の増員、事務職警察官の外勤化、市内パトロールの強化等が行われ、犯罪減少に多大な効果を上げている。前述の1997年10月のFBI犯罪年次報告書によると、1996年の同市の犯罪発生件数は1960年代半ば以降、最低を記録しており、1993年と比較すると殺人事件は61%、強姦事件は13%、強盗事件は47%減少しており、今では「安全なニューヨーク」というイメージが形成されつつある。

 このように、犯罪が減少した理由として、市警は犯罪傾向をコンピューター分析し犯罪傾向に先手を打つことや、銃所持には厳罰で臨むこと等を挙げている。例えば、犯罪多発地帯のアッパーマンハッタンやブルックリン北部にパトロール警察官、おとり捜査員を大規模投入した結果、顕著な減少を記録したという。

 逆に逮捕件数のほうは、1993年の26万1329件に対して1996年には34万5041件と1.32倍に増えている。その内訳をみると殺人、強姦、暴行、窃盗等の主要犯罪逮捕件数が、1993年12万7883件から1996年13万9764件に、また軽微犯罪逮捕件数に至っては、1993年13万3446件から1996年20万5277件へと1.53倍にも増加している。街頭軽微犯罪も含めた徹底した検挙方針がニューヨーク市の治安を保っているともいえる。

 このようなニューヨーク市警の努力の結果、確かに1996年の犯罪件数は1993年より39%も減少した。しかし、その一方で市民苦情審査委員会に寄せられた警察に対する不満の件数は、1993年から1996年の4年間で56%も増加している。

 犯罪を取り締まる過程で、犯人だけではなく、無関係の市民まで取り調べを受けたり、巻き添えになったりして、それが度を越して警察の乱暴な言動やふるまいに結び付き、市民の反感を買ってしまったというのがもっぱらのマスコミの論調である。


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 まとめ


 以上、米国における犯罪件数減少について、ニューヨーク市の事例を交えながらみてきたが、犯罪減少に近年の米国経済の好調が関係していることは否定できないものの、やはり基本的には警察官の増員および犯罪多発地区への効率的配置、日常の地道なパトロール活動等が功を奏したといってよい。

 また、警察に対する不満が増えているとはいうものの、市民苦情審査委員会のように市民が警察に不満を述べる機会が確保されていることに留意しなければならない。やはり、そこはアメリカ、安全の確保と同様に、市民の権利保護にも気を配り、バランスを保っている。

 今後とも、米国およびニューヨーク市の犯罪件数の動向には目が離せないところである。


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