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シンガポールの公共交通政策


 シンガポールは、人口300万人を抱える都市国家であるが、狭い国土を十分に生かしたインフラ整備を行っている。中でも、MRTやバス、タクシーといった公共交通網は市内のどこに行くのにも安くて、快適な市民の足として定着している。また、アジアの経済危機でシンガポールにおいても経済成長の鈍化が伝えられる中、1998年6月には50億シンガポールドル(約4000億円、1シンガポールドルは約80円、以下ドルと記す)をかけたMRTの拡張計画も発表されるなど政府の公共交通政策は景気後退とは関係なく着実に実行に移されている。

(財)自治体国際化協会シンガポール事務所





 シンガポール陸上交通庁(Land Transport Authority=LTA)


 シンガポール政府は、一元的・効率的な陸上交通システムを提供するため、1995年9月に運輸通信省、国家開発省の関係部局・外局等を統合し、陸上交通庁を設立した。

 陸上交通庁の使命は、シンガポールの人々に世界クラスの交通システムを提供し、人々の生活の質を高め、シンガポールの経済成長と競争力の優位を維持することとされている。

 また、陸上交通庁は、このために達成すべき政策をまとめた白書「A World Class Land Transport System」を1996年1月に発表している。この中では特に次の4点を重要な取り組み事項として掲げ、ユニークで興味ある施策を提言している。

1 交通と土地利用計画の統合
2 道路網の拡充とその最大限の活用
3 道路利用の需要管理
4 公共交通の改善

 この中でも、道路利用の需要管理のための施策(交通渋滞抑制策等)については1998年1月号および5月号で既に取り上げているので、本稿では、それぞれの公共交通機関の概要を説明し、次にシンガポールの目指す公共交通システムと公共交通の改善のための施策を紹介することとしたい。


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 公共交通機関の概要


1MRT(Mass Rapid Transit)

 MRTは、街の中心部では地下、郊外では高架を走る都市型電車であり、大量輸送を担い、シンガポールの公共交通の基幹となるものである。MRTは、1987年に開業し、シンガポーリアンの重要な足となっている。料金は、60セントから1ドル60セントまでとなっている。現在、東西線(East-West Line)、南北線(North-South Line)が開通しており、運転延長83km、48駅に及んでいる。

2LRT(Light Rapid Transit)

 LRTは、MRT網の支線としての働きを担う新交通システムである。LRTはバスに比べ、投資額は大きいものの、多くの乗客を運べ、時間も正確であるというメリットがある。

3バス

 バスは、MRT-LRT網を補完し、少量輸送を担う、最も主要な公共交通機関である。料金は、60セントから1ドル50セントまでとなっていて、シンガポールのほとんどの地域をカバーしている。

4バス・プラス

 バス・プラスは普通のバスより料金は高いものの、座席をゆったり配置するなど快適性をアップさせたバスである。バス・プラスの運行は、1994年より始まった。料金は、3ドル20セントから6ドルまでとなっている。

5タクシー

 タクシーは、自家用車の代替交通手段として位置付けられる。その料金は、初乗りは1.5kmまで2ドル40セント、その後10kmまでは240mごと、10km以降は225mごとに10セント加算されるほか、ラッシュ時等には追加料金がかかるものの、さまざまな減税措置によってかなり低く抑えられている。


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 シンガポールの目指す公共交通システム


 シンガポールの交通政策の根幹をなすものとして、増え続ける需要を満たすだけでなくハイレベルの公共交通システムを提供することが挙げられている。

 シンガポールでは、高学歴化とともに所得が増え、自家用車保有の需要が今後増加すると予想されているが、その狭い国土のため将来的にも人口と車の比を7対1(現在は10対1)に抑制しようとしている。従って、すべての人の自家用車保有の需要を満たすことは、物理的に不可能であるため、自家用車を持てない人々をも満足させるハイレベルの公共交通システムの提供が求められている。

 陸上交通庁が行った調査によると、自家用車を持つ人の40%が公共交通に変更しないと答える一方、23%の人が分からないと答えている。また、バスに対する不満を聞いたところ、長い待ち時間(45%)、待ち時間が分からないこと(43%)、長い乗車時間(31%)、MRTについては、朝夕のラッシュ(56%)、駅までのアクセスの悪さ(32%)等の回答があった。

 こうした不満を解決し、公共交通機関の利用促進のため、陸上交通庁では、継ぎ目のない(Seamless)公共交通網の構築、すなわち、自宅から目的地までドア・トゥ・ドアで移動できるように駅、連絡道等の施設整備、さらには情報提供といったソフト面まで含めた統合された形で公共交通を提供しようとしている。

 また、現在シンガポールでは、人々の移動は51%が公共交通を利用しているが、市街地へ向かう人の75%が公共交通を使用しているスイスのチューリッヒの例を挙げ、公共交通を利用するパーセンテージを上げることを目標とし、自宅から公共交通網の少なくとも一つに、歩いていけるよう漸次公共交通網の構築を図っている。

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  公共交通の改善のための政策


1MRT/LRT
  MRTについては、ロンドン、パリ、東京のような地下鉄網を目標に運転延長を160kmまで拡張する予定である。また、LRTについては、現在、ブキ・パンジャン地区(ニュー・タウン地区)が建設中であり、事業採算を勘案しながらほかに導入する地区の選定を行っている(MRT/LRTの今後の建設計画は別表の通り)。

2バス/バス・プラス
 バスについては、公共交通の基本機関として料金を低く抑えるようにしている。また、最近は、乗客を多く乗せることのできる2階建てバスや車体の長いバスを導入して、道路利用効率性の上昇に努めている。そのほかにも、次のような様々な施策を実行、計画し、バスの魅力を高め、利用率を上げる努力をしている。

  • B信号(B-Signal)/インテリジェント信号(Inteligent traffic light)の設置
     B信号と呼ばれるバス専用の信号を設置し、普通の青信号より早く点灯させバスを自家用車より早く発進させたり、またインテリジェント信号と呼ばれるバスが近づくと自動的に青信号に変わる信号を設置しバスに優先権を与える。
  • バス・レーンの増設
  • エアコン付き急行バスの増発
  • ピーク時に特に混雑する区間のみバスを増発することによる混雑緩和
  • バス到着時間表示システム
  • 公衆電話の設置等多機能を有したバス停への改装
  • MRT駅、バス停と近くのビルをつなぐ屋根付き通路や歩道橋の設置
  • 衛星を使ったバス運行および情報システム(計画)
3タクシー
 シンガポールでは既に電子式道路料金徴収システム(ERP)が導入されている。これは、道路渋滞を防ぐため、道路料金を時間・場所に応じ、細かく設定し、課すというものであるが(詳細は1998年1月号および5月号参照)、陸上交通庁は、ERPにより、客を探すために客を乗せずに街を走行するタクシーの台数を減らし(通行料のみいたずらに支払う結果となるため)、タクシー・スタンドで待機させる台数の比率を上げ、道路利用の効率化も図ることができるとしている。

 また、運転手のサービス向上のため、優良タクシー運転手の発表を行い、報奨金を出すなどしたり、さらには、様々な乗客のニーズにあわせた多様な差別化を図ったサービスの提供が、今後必要であるとしている。

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 最後に


 スイス・ローザンヌの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「1998年世界競争力レポート」によるとシンガポールの「総合競争力」は1位のアメリカに次いで5年連続で2位をキープしている。項目別でみると「政府の能力」は世界一の評価を受けている。

 こうした評価は、今回紹介した公共交通政策においても、合理的な現状分析と国が目指すべき方向性を公開してはっきりと国民に納得させ、それに向かい斬新なアイデアを次々と実行に移していく姿勢にその一端を垣間見ることができるのではないだろうか。

MRTの拡張計画

路線名路線延長駅の数建設費用
(mill.S $)
備考
北東線
(North-East Line)
20km16駅 5,000建設中
2002年に一部開業予定
チャンギ空港線
(Changi Airport Line)
6.4km2駅 850 建設中
2001年に開業予定
マリーナ線
(Marina Line)
13km最高
20駅
1,750 2000年に建設開始
2004年に開業予定
カラン線
(Kallang Line)
16km

白書の中で計画
北海岸線
(Northshore Line)
20km

白書の中で計画

LRTの建設計画

路線名路線延長駅の数建設費用
(mill.S $)
備考
ブキ・パンジャン地区
(Bukit Panjang)
8km13駅285建設中
1999年開業予定
センカン地区
(Sengkang)
11km14駅両地区
あわせて
656
2002年開業予定
パンゴール地区
(Punggol)
13km19駅2004年開業予定
ブオナ・ビスタ地区
(Buona Vista)



白書の中で計画
オーチャード/ブラス・バサー・ロード、マリーナ・サウス地区
(Orchard/Bras Basah Road,Marina South)



白書の中で計画

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