HOMECLAIR 刊行物クレア海外通信(海外事務所だより)シンガポール事務所|シンガポールの警察事情
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シンガポールの警察事情


ボタン はじめに

ボタン 犯罪の発生状況について
ボタン 警察の組織について

ボタン
犯罪の防止に向けて
ボタン 新たな犯罪への挑戦





ボタンはじめに

 シンガポールは広く罰金制度を設けていることで有名である。実際にも、いわゆる刑法犯罪に関するもののほか、政府は国民生活全般にわたって深く関与し、広く罰則を設けて取り締まることにより、国民生活の安定と秩序の維持に努めている。シンガポールが国家として独立してわずか35年、多民族、多言語、多宗教から成る複雑な都市国家でありながらバランスよく統治されており、こうした制度は今日の発展と繁栄を築き上げたゆえんの一つでもある。

 しかしながら、近年の経済構造の変革などの事情により、失業者が増加するという社会状況の下で、治安の悪化なども懸念されており、政府は犯罪の対策にもとりわけ重点を置いて取り組んでいる。

 そこで本稿においては、まずシンガポールで発生する犯罪の現状やそれらを取り締まる警察の組織について簡単に説明するとともに、その取り組み内容や抱える課題、将来の展望について記すこととする。




ボタン犯罪の発生状況について

 シンガポールにおける犯罪の発生状況について見ると、1998年の発生(認知)件数では、殺人37件をはじめ、強盗895件、強姦104件、窃盗3,188件など、合計4万8,260件となっており、これらの数字を主な犯罪別に示すとおよそ下表のとおりとなる。

 これらの数字を日本と比較してみると、同じ1,998年に日本の刑法犯罪総件数は初めて200万件を突破、シンガポールの約42倍の件数となっている。もちろんこうした数字は、人口規模の違いによるところが大きく、また法定犯罪の種別や定義、犯罪に対する考え方などの相違があるため、単純には比較できない。

 そこで、人口10万人当たりの犯罪認知件数を表す「犯罪率」という指標を用いて比較してみると、日本が1,608件であるのに対してシンガポールでは1,248件となっており、日本に比べてシンガポールの方が全体的にみて、犯罪の発生する割合は低いことが分かる。なお、この犯罪率を犯罪の種別ごとに分析してみると、例えば殺人では日本とシンガポールは、ともに10万人当たりの発生件数が約1件とほぼ同程度、スリやひったくりなどを含む窃盗犯罪では、日本の方がシンガポールを大きく上回っている。また逆に、強盗や強姦、詐欺などにおいてはシンガポールは、日本の数倍から十数倍と非常に高い数字を示しているのが現状である。

 次に、これらの犯罪に対する検挙(犯人逮捕)の割合について見ると、例えば、凶悪犯として区分される殺人、強盗、強姦に係る検挙率は、日本はそれぞれ約98%、76%、88%と高い数値を示しているのに対して、シンガポールではそれぞれ約49%、30%、73%とすべて日本を下回っている。また、詐欺や暴行、強制わいせつに対する検挙率についても、いずれも日本を大きく下回っている。ただし、これらの数字から直ちに日本の方が犯罪捜査能力が高いということはできない。というのも、例えば窃盗に関しては、日本の犯罪総件数の大部分を占めているにもかかわらず、検挙率が他に比べて著しく低く、結果として犯罪全体に対する検挙の割合はシンガポールの方が、窃盗などのより身近な犯罪をうまく封じ込めているという見方も可能であるからである。実際のところ、検挙については、例えば警察官一人当たりの住民数や、各犯罪に対する捜査の考え方、刑事手続などに相違があり、厳密な比較は困難なものとなっている。

 近年シンガポールでは、全体として犯罪件数は減少の傾向にあるが、殺人や強盗といった凶悪犯罪は増加の兆しを見せており、警察当局では捜査能力の向上と検挙率アップに取り組んでいる。

1998年統計数値による

シンガポール日本
認知件数48,260件2,033,546件
犯罪率(10万人当たりの件数)1,248件1,608件
犯罪内訳
 殺人37件1,388件
 強盗895件3,426件
 放火589件1,566件
 強姦104件1,873件
 略取誘拐不明221件
 強制わいせつ1,014件4,251件
 窃盗3,188件789,049件
 詐欺2,338件48,279件
 暴行(けんか)470件7,367件


ボタン警察の組織について

 シンガポール警察は内務省に所管されている。内務省にはシンガポール警察をはじめ、麻薬取締局や入国管理局など、ホームチームと呼ばれる6つの組織がある。自国の生命や財産を守るチームという意であり、これらの組織は互いの連携の下、法と秩序を保ち国民生活を犯罪、麻薬、事故、災害などから守ることを目的としている。

 シンガポール警察は、空港警察や交通警察、沿岸警備隊のほか、犯罪捜査や犯罪防止を担当する部門など、計17の部署により構成されており、例えば犯罪捜査を担当する部門であるCID(Criminal Investigation Department)は、シンガポール警察の中枢機関として、高度な捜査活動を通じて重要犯罪や複雑な事件に当たるとともに、犯罪に関する法律が現行の法秩序に照らして適当か否かの調査・点検をも併せ行っている。また、PAD(Public Affairs Department)は他の政府機関や各コミュニティとの関係を円滑にすることを目的としており、犯罪防止に向けた各種の教育プログラムなどを通じて住民の意識づくりを行っている。

 そして、これら17の部署のもとに、全国を7の地域に分け、各警察本部(Headquarter)を置いて当該管轄地域の治安維持に当たらせるとともに、各地域に91のNPP(Neighbourhood Police Post)を設置することにより、より地域に密着した住民レベルでの治安維持活動を行っている。このNPPは日本の交番制度を参考に導入されたものであるが、日本のものとは若干異なり、各種事件・事故の対応や遺失物の処理、巡回、相談、案内などのほか、住民の住まいや死亡に関する登録、住民要望の受理など、住民の生命や財産を守るための取り組みを住民へのサービスとして位置づけ、幅広く活動を行っている。  また、このほか、21世紀を見据えてさらなる犯罪撲滅への努力と住民サービスの向上に資するため、シンガポール警察は、1,997年から新たにNPPを統括する組織としてNPC(Neighbourhood Police Center)を置き、より一層の警察機能の強化を図ることとした。

 ちなみに、現在シンガポール警察では、総勢約3万3,000人の警察官が働いているが、その多くはナショナル・サービスとして従事する警察官や予備役警察官、後述するボランティア警察官などであり、正規の職業警察官はわずか約7,000人である。




ボタン犯罪の防止に向けて

 先進諸国の施術を参考とし、数多くの取り組みをより効果的により効率的に行っているシンガポール警察であるが、「犯罪は事後の矯正よりも事前の防止が重要である」との考えを基本として、とりわけ犯罪防止施策に力を注いでいる。またこの犯罪防止においては、個々の警察官が日本に比べてかなり強い権限を有しているにもかかわらず、「当局だけでは解決できない、住民の協力が不可欠」との考えを明確に示している。

 そのため、先述したNPCやNPPを基点とし、各民間関係団体などとの協力、連携体制を円滑に機能させることにより、草の根レベルの犯罪防止活動を幅広く展開している。なかでもNCPC(National Crime Prevntion Coucil)は、警察を所管する内務相が任命する約20名のメンバーにより構成される非営利組織であり、主として住民の、犯罪に対する意識づくりや犯罪防止の自助努力を促すことを目的としている。これらメンバーには銀行や保険業、不動産などに関する専門家も含まれており、犯罪防止に役立つ各種情報をメディアなどを通じて伝達するとともに、学校を含む地域での講演会や研修会、展示会などの開催を通じて住民の犯罪対策をサポートするなど、警察当局と地域住民との間をとりもつ機関として十分な役割を果たしている。 

 また、警察当局と民間との連携を象徴する組織として、ボランティア警察隊(Volunteer Special Constabulary。以下「VSC」という。)の存在が挙げられる。VSC自体はシンガポール警察組織の一つであるが、そのメンバーに学識経験者やビジネスマン、工場労働者などあらゆる分野の職業人を加え、国家のために奉仕するボランティアの警察隊を備えている。このVSCは、もともとは第2次大戦直後の治安維持を目的とした小規模な組織であったが、現在では総勢約1,600人のボランティア警察官を備えている。ボランティア警察官は、警察学校での様々な訓練を経た後、毎月、一定時間以上の勤務を行うしくみとなっており、配属部署による違いはあるものの、主には各地域のパトロール業務などに従事することにより、秩序維持とともに地域住民の生活により、密着したレベルでの実情把握に努めることととしている。

 そのほかにも、例えば各地域ごとNZW(Neighourhood Watch Zone)とよばれる地区単位を新たに設け、それに属する住民同士の連帯と支え合いの精神を奨励するとともに、犯罪防止や犯罪発見などの役割を担わせていることなども、地域住民が治安維持活動に主体的に参加した形で行われている公安施策の一つである。




ボタン新たな犯罪への挑戦

 以上、シンガポールにおける犯罪の現状と警察の取り組み状況について簡単に述べてきた。こうしたシンガポール警察の、地域住民を巻き込みながらの地道な努力と工夫ある取り組みのおかげで、昨年の犯罪発生件数は前年に比べて全体の約21%減、件数にして約1万件と大幅に減少した。

 先に国連国際犯罪防止センターが行った世界各国の犯罪に関する調査においても、シンガポールはこれまで安全な国とされてきたデンマークやスウェーデンを上回り、世界でただ一つ、銃犯罪死亡者のない、犯罪の少ない安全な国として発表されたところである。さらには国民の意識においても、先に行われた調査では、「シンガポールは世界一安全な国」と答えた人が94%と極めて高い数字を示しており、自他ともに認める安全な国として位置づけられたといっても過言ではない。

 しかしながら、警察当局は次のように話しているのが印象的である。「犯罪発生率の低下はそれ自体喜ばしいことである。しかしながら、今後も新たなる犯罪がわれわれの脅威として次々ともたらされるであろう。来るべき新しい世紀においてもシンガポールが安全な国として進むために、犯罪の現状を直視し、チャレンジ精神をもって立ち向かわなければならない。」

 生活のあらゆる分野で情報通信技術が組み込まれた今日、インターネットなどを使用したハイテク犯罪、金融犯罪が数多く発生することが見込まれ、これらは今後のわれわれの生活を脅かす大きな脅威である。また、グローバルな社会は国境を超えた犯罪を次々に生み出し、不法入国や不法滞在の問題、さらには国際テロや薬物や銃器などの密輸入、マネーロンダリングなど、外国人による組織的な犯罪なども数多く引き起こされることが予想される。

 こうした状況に対応するため、シンガポール警察では、時代に即応した法制度の整備、見直しを順次行うとともに、より高度な科学技術や専門知識を取り入れることにより捜査力の強化・充実を図り、さらには諸外国における捜査機関との連携・協力体制の一層の強化を行っていくこととしている。

 国際化の進展とともに、今後ますます犯罪捜査が複雑・多様化していくことが予想される。今日まで警察当局と地域住民が一体となり、着実に社会の安全性の基礎を築き上げてきたといっても過言ではないシンガポール警察が、持ち前のチャレンジ精神を発揮し、犯罪の撲滅に向けて、今後どのような公安施策の展開を図っていくのか、大いに注目されるところである。


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