HOMECLAIR 刊行物海外事務所特集ソウル事務所特集:韓国をめぐる諸問題への取組み


海外事務所特集
 2008年2月25日第17代李明博大統領が就任し、今後、グローバル経済への対応と国内社会の格差是正のバランスを取りながら、経済の再生という困難な課題に立ち向かうことが期待されている。
 本稿では、国内外の経済的格差から急増している女性結婚移民者の韓国社会への社会適応支援、自治体間税収格差是正策としてのソウル特別市の財産税共同課税制度、東北アジアのビジネスハブを目指した経済自由区域の開発など、グローバル経済への対応や格差から生じる諸問題への政府・地方自治団体の取組みについて紹介する。

特集:韓国をめぐる諸問題への取組み
1 多文化家族
 〜増加する女性結婚移民者の地域社会適応支援〜


ソウル事務所所長補佐  田渕 知子(鹿児島県派遣)

 はじめに


 女性結婚移民者増加の背景


 女性結婚移民者の現況および問題点


 政府の女性結婚移民者政策


 2008年の政府・地方自治団体の女性結婚移
民者家族対策事業について



 おわりに




 ●はじめに

 2007年3月朝鮮日報に「農村男性の4割が国際結婚」という記事が載った。韓国統計庁が「2006年婚姻統計」において、2006年に結婚した農林・漁業に従事する男性8569人のうち41%(3525人)が外国人女性と結婚したと明らかにしたもので、これは2005年の35.9%よりも5.1%高い数値である。内訳では、ベトナム人女性との結婚が2005年より55%(1535件→2394件)増加し、全体の3分の2以上を占めている。また都市も含めた全国単位では、韓国人男性とベトナム人女性の結婚件数は1万131件で2005年より74%増加、とりわけ10代のベトナム人女性との結婚が増加し、10代後半の女性の結婚が、1990年に統計が始まって以来最高の7800件を記録したということである。

 2007年7月外国人差別の禁止や居住外国人の社会適応支援の根拠となる「在韓外国人処遇基本法」が施行されたが、同法第二条で「結婚移民者」については、「韓国籍を有しない者で、韓国に居住する目的をもって合法的に滞留している「在韓外国人」」という定義とはわざわざ別に、「韓国民と婚姻したことがあるもの、または婚姻関係にある在韓外国人」と定義されており、同法第一二条に「結婚移民者およびその子女」の韓国社会への適応支援の根拠が置かれている。このように韓国では、増加する結婚移民者およびその家族(多文化家族)の韓国社会への早期定着および家族生活安定を支援することにより社会統合を実現することを重視しているが、近年、特に韓国人男性と結婚した女性結婚移民者の急激な増加により生じたさまざまな問題への対応が急務となっていることから、本稿においては女性結婚移民者やその家族の現状や行政による支援について紹介したい。

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 ●女性結婚移民者増加の背景

 2007年8月法務部出入国・外国人政策本部の発表によると短期滞在、長期滞在、不法滞在などすべてを含めた国内滞在外国人の数が、韓国の人口(住民登録人口)4913万人の2%に当たる100万254人で、2006年7月の86万5889人に比べ15%、10年前の1997年の38万6972人に比べ158%それぞれ増加しているとのことである。

 1993年に労働力不足に対応するため始まった産業技術研修制度、2004年から開始された雇用許可制などにより外国人労働者が増加し、現在居住外国人の中でも最も多くの割合を占めているが、近年は冒頭の記事のように国際結婚による結婚移民者も急増している。

 韓国における国際結婚は、農漁村に住む男性や都市の低所得者層男性と外国人女性との組み合わせが多く、その多くが結婚仲介業者を通じて行われる。従来は言語を含めた文化的背景が近い中国朝鮮族の女性がほとんどを占めていたが、韓国内での就労が目的で入国後女性が失踪するケースもあり、2003年以降、ベトナムの女性を主として東南アジア出身の女性の割合が増加している。昨年、ベトナム人花嫁が主人公のドラマ「黄金花嫁」が人気を博すほど韓国社会の中で一般化する一方、東南アジア出身の場合、朝鮮族の女性とは違って言語や文化的背景が全く異なることから意思疎通が難しく虐待や婚姻破綻などの問題が生じている。2007年には、韓国でベトナム人妻が韓国人夫に殺害されたという事件がベトナムで報道されたため、ベトナム当局が違法な結婚仲介業者の取り締まりを強化し、ベトナム人の結婚移民者が減少している。

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 ●女性結婚移民者の現況および問題点

 地方自治団体居住外国人地域社会定着支援業務便覧(行政安全部(旧行政自治部)発行。以下、業務便覧)では居住外国人の現況および生活状況に触れており、1990年から2005年の間に韓国男性と結婚した女性結婚移民者は15万9906人で婚姻数は年々増えており、今後も持続するだろうとしている。

 2005年の国際結婚は総結婚件数の13.6%で、そのうち外国人女性との結婚が72.3%を占めている。特に農村地域の場合10件中4件を国際結婚が占める。

※農村地域国際結婚推移:11.2%(2001)→11.9%(2002)→21.1%(2003)→35.9%(2005)

●居住地域構成
  2006年4月現在の居住女性結婚移民者は5万5408人で、京畿道1万3963人(25.2%)、ソウル特別市1万2255人(22.12%)、仁川広域市4245人(7.66%)、慶尚南道3640人(6.57%)、全羅南道3594人(6.49%)の順となっており、首都圏(ソウル、京畿道、仁川)に54.98%が居住しているが、外国人労働者22万5314人の約70%(17万9365人)が首都圏に集中していることと比較すると、女性結婚移民者は全羅南道、慶尚南道など農漁村地域にも多く居住しているといえる。

●国籍別婚姻数
(統計庁2006年婚姻統計)
 2006年に韓国人男性と婚姻した外国人、女性結婚移民者は、3万208人で国籍別にみると、中国1万4608人、ベトナム1万131人、日本1484人、フィリピン1157人の順となっている。2001年と比較すると総数も1万6人→3万208人と3倍以上増加しているが、中でもベトナムは134人→1万131人と75倍と大幅に増加している。

●女性結婚移民者の生活実態と問題点
J 言語疎通問題、生活全般の文化的違いによる不便を感じたり、家庭が破綻したりする事例発生
J 女性結婚移民者の児童養育に当たって両親の低い経済力や社会的地位、言語・文化・教育方式の違いなどにより家庭・学校教育での問題発生
J 女性結婚移民者の児童のうち17.6%が、母が外国人であること(34.1%)意思疎通困難(20.7%)などの理由で集団的仲間はずれを経験(保健福祉部、2005)
J 女性結婚移民者世帯のうち所得が最低生計費以下である世帯が50%を超えるにもかかわらず、基礎生活保障受給世帯は13.7%に過ぎない。
最低生活費以下である全体世帯は52.9%。うち18歳未満の児童がいる世帯は57.5%(福祉部実態調査2005)
J 女性結婚移民者の23.6%が実質的に医療保障体系(健康保険、医療給与)中に入ることができない。
農村居住者は不妊女性が25%、自然流産経験者が13%と高い(保健福祉部2005)。
J 金銭を媒介に進む産業化した結婚、家庭内暴力および婚姻破綻発生
J 多文化主義の伝統がなく純血主義重視風土のため、国際結婚移民者についての偏見や差別が存在

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 ●政府の女性結婚移民者政策

 韓国では、居住外国人増加によるさまざまな問題に対応するため2006年に外国人政策委員会が開催した「外国人政策会議」以降、2006年6月には行政安全部が「居住外国人支援業務指針」を示し、同年10月には地方自治団体が居住外国人に対する支援を安定的、持続的に遂行するための根拠となる「居住外国人支援標準条例案」を通達した。さらに行政安全部は2007年2月には居住外国人が地域住民として地域社会に適応できるように地方自治団体が各種支援を行う際のマニュアルとなる業務便覧を発行、配付している。

 外国人政策委員会には法務部など関連する17の政府機関がかかわっているが、女性結婚移民者家族支援を主として担当するのが女性部(旧女性家族部)である。女性部では2007年12月6日に5年単位で策定する女性政策中長期マスタープランである第三次女性政策基本計画(2008〜2012年)を確定した。以下において、第三次女性政策基本計画の中で女性結婚移民者に関連する政策などについて紹介する。

●文化多様性に対する受容性の向上
J 国民の多様な文化に対する理解増進(世界各国の文化や言語、特にアジア地域の文化や言語などの理解増進のためのプログラム開発・提供)

●女性結婚移民者の社会統合支援
J 女性結婚移民者社会統合支援体系活性化
女性結婚移民者社会適応支援のための法制度基盤構築
ー「多文化家族支援法」(仮称)制定進行
女性結婚移民者支援のためのサービスー結婚移民家族支援センターの設置・運営拡大および評価
21ヵ所(2006六)→38ヵ所(2007)→140ヵ所(2010)
ー女性結婚移民者を支援する民間団体との連携網構築
ー国籍取得制度と連結させた体系的な韓国語教育・文化理解教育の実施  
J 女性結婚移民者の早期適応および定着支援
結婚、入国以前に、韓国に関する具体的情報を女性結婚移民者に提供すると同時に韓国人男性配偶者にも女性結婚移民者出身国の基礎的言語教育実施
韓国生活に必要な情報提供
ー韓国生活に必要な情報についての案内冊子制作・配付
体系的な韓国語教育、文化芸術教育など文化理解教育
ー水準別、言語別韓国語教材および教育プログラム開発・提供
ー韓国料理、生活礼節など韓国文化教育および体験プログラム運営
女性結婚移民者に対する産後コンパニオンと育児教育コンパニオン派遣
女性結婚移民者および家族を対象とした家族教育・相談の充実
結婚移民者家族の児童養育および教育支援充実
ー児童発達周期および特性を考慮したオーダーメード型児童養育コンパニオン派遣
ー学校における多文化教育を推進する体系構築
農村女性結婚移民者の農村定着支援
ー結婚移民者の農業後見人、営農コンサルティングなどを通じた農業者育成
J 結婚移民者家族の経済的自立支援
結婚移民者に適した職場の開発・職業教育・相談など、就職支援充実
低所得結婚移民者家庭に対する基礎生活保障拡大検討
J 結婚移民者児童の養育および教育支援強化
結婚移民者児童に対する保育サービスや放課後プログラムの実施・拡大
多文化家族児童の学校生活適応支援(学校教育に多文化理解を取り入れるなど)
J 女性結婚移民者の人権保護強化
家庭暴力被害者保護・支援(外国人専用の憩いの場・1366センター運営および支援拡大)
国際結婚仲介業者の不法行為取締強化や管理のための法令制定
結婚仲介業管理に関する法律案国会通過(2007年11月22日)
国際結婚当事者に対する人権保護強化

●女性結婚移民者に対する支援
J 女性結婚移民者の社会統合支援
来韓初期へ適応総合支援システム(韓国語・文化教育等)構築
本格的な社会・経済活動参加の準備ができるように支援する多様なブリッジプログラムの開発・提供 
政策・サービス担当者対象の専門性向上(多言語・多文化教育など)プログラム開発・提供
民間ボランティアなど活用した相談(苦情・生活・法律・就職など)
J 各種苦情相談サービス強化・拡大
外国人総合案内センター(関係機関の連携支援、相談機能強化)設置

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 ●2008年の政府・地方自治団体の女性結婚移民者家族対策事業について


●政府の実施事業
 女性部の結婚移民者家族の社会定着と関係安定増進を図るための結婚移民者家族支援事業の予算は、2007年39億ウォンから223億ウォンに増加する予定である(471.8%増加)。直接女性結婚移民者家庭訪問を通し、サービスを提供する訪問教育事業を重点的に実施する一方、農漁村地域を中心に大幅に拡充される結婚移民者家族支援センターにおいて韓国語や文化理解教育、児童養育支援、家族関係相談、配偶者教育、メンタリングおよび後援家族マッチングなどの統合的なワン・ストップサービスの提供を目指す。
J 結婚移民者家族支援センター拡充(38カ所→80カ所)
結婚移民者家族支援センター運営費:2007年13億ウォン→2008年28億ウォン(115.4%増額)
J 経済的困難と地理的接近性の問題で集合教育に参加しにくい結婚移民者およびその家族を対象に専門コンパニオン(ハングル教育および児童養育コンパニオン)を養成・派遣して、各家庭にオーダーメード型サービスを提供する結婚移民者訪問教育(訪ねていくハングル教育および児童養育支援)事業を大幅拡大推進する。「訪ねて行く児童養育支援サービス」事業は、2007年試験実施され、高い満足度が示されている。
結婚移民者訪問養育事業費
2007年23億ウォン→2008年182億ウォン(691.3%増額)
J 実用的な生活情報について事例を元に雑誌タイプのガイドブックを年4回発刊・配布
J 家庭暴力被害外国人専用ホットライン機能を強化、外国人専用の憩いの場を2→4ヵ所に拡大
J 児童養育中の結婚移民者などに養育関連相談、情報サービスを提供し、相互に交流可能な育児情報交換の場を結婚移民者家族支援センター内に設置(10ヵ所)


●地方自治団体の実施事業例
 韓国南部に位置し農漁村地域の多い全羅南道にある光州広域市の場合、
J 「家庭の月」記念の祝祭開催
J 結婚移民者家族支援センター運営支援
J 結婚移民者を訪ねて行くサービスの提供
J 多文化家族についての認識転換のための広報推進
J 多文化家族についての実態調査の推進
J 多文化家族ファミリーコーチ推進

 などを実施する予定であるが、このうち多文化家族ファミリーコーチ推進事業については、在韓歴の長い外国人の中から、結婚移民者にアドバイスをするにふさわしい人物をコーチに選任し、多文化家族の訪問指導などを依頼する光州広域市独自の事業である。

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 ●おわりに

 業務便覧において、外国人の出入国や滞留については国家が行うべき事務であるが、外国人の地域社会定着支援については、地方自治団体が居住外国人を地域住民の一員として総合的に推進するのが実効的であり、外国人を地域社会に包容する主体として行政サービスの提供など、地方自治団体が遂行しなければならない役割は大きいとしている。

 韓国においては、政府の主導により新政策が全国一斉に実施されることが多く、2008年は政府予算の増額もあり、全国の地方自治体で多くの結婚移民者地域社会定着支援事業が実施される見込みである。

 他地域よりも早く外国人労働者を中心とした居住外国人の増加が始まった京畿道や安山市などは、首都圏に位置する財政的に余裕のある自治団体(地方交付税不交付団体)であり、政府に先んじてさまざまな対策を実施してきているが、女性結婚移民者の多い農漁村地域を多く抱える自治体は財政的に困難な団体が多く、今後、政府支援策に頼るだけでなく、いかに地域の実情にあった実効性のある支援策を実施していくかということが課題である。

 また、結婚移民者は仕事のある場所に集住する傾向のある外国人労働者と異なり、広く地域の中に遍在しており、結婚移民者同士の連携も取りづらく、家族の無理解や距離的な問題から支援施設への訪問や行事への参加が困難な場合もあり、大幅に拡充される結婚移民者家庭訪問事業などがどのような成果を上げるのか、今後注目していきたい。

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