国籍を考える

無国籍の問題

世界には、国籍を持たない無国籍者がおよそ1,200万人いると推計されています。だれでも当然のように国籍を持っているわけではありません、しかし、日本ではそのこと自体が知られていないのが現状ではないでしょうか。
無国籍の削減に関する条約が採択され2011年で50年を迎えます。日本にも無国籍者はいますが、締約国ではありません。国籍のない人々は、どのような問題を抱えているでしょうか。

日本における国籍

日本人の子どもは、出生届と同時に日本国籍を取得します。生まれた場所は関係ありません。日本のように、生まれた場所ではなく両親の血統によって国籍を定める考えを「血統主義」と呼びます。生まれた場所で国籍を定める考えを「生地主義」と言います。アメリカ合衆国、カナダなどが生地主義を採用しています。

国籍法

日本人の子どもは出生届を出すと自動的に日本国籍を取得できます。これは、国籍法によるものです。国籍法は、日本国民であるための要件を定めています。
国籍法は、第2条で「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき」「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」日本国籍を取得すると定めています。これにより、両親のどちらかが日本人である場合、出生届を届け出れば子どもの日本国籍が認めらられます。
また、両親のどちらかが日本人であるとしていますが、父親に関しては、法律上の父親である必要があります。このため、結婚をしていない日本人の父親と外国人の母親の間に生まれた子どもが日本国籍を自動的に取得するには、妊娠中に、父親の認知が必要になります。出生後は、認知によって自動的に日本国籍を取得することはできません。国籍法第3条に定める条件を満たした上で、届出が必要となります。

また、第11条では日本国籍を喪失する要件について定めています。これによれば、外国で生まれた子どもは複数の国籍を保持することはできません。ただし、届出をすれば日本の国籍を留保することが認められます。この場合、22歳までに重国籍のいずれかの国籍を選択すれば、日本の国籍法上は問題ありません。日本国籍を選択する場合、その旨の届け出を法務省に提出する必要があります。

両親が外国人の場合

では、両親が2人とも外国人であった場合はどうなるのでしょうか。日本国内で生まれたことが明らかで、両親が不明な場合は日本国籍を取得できますが、両親が2人とも外国人であることが明らかな場合、子どもの出生届を出すことで日本国籍を取得することはできません。出生届だけでなく、両親のどちらかの国の在外公館に届出を行い、国籍を取得しなければなりません。適法な在留の手続きも必要です。

<引用文献等>
法務省「国籍法」
http://www.moj.go.jp/MINJI/kokusekiho.html
外務省「戸籍・国籍関係届の届出について」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/todoke/koseki/index.html
財団法人法律扶助協会調査室(2000)『外国人のための日本のくらしと法律Q&A101』

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無国籍の子どもたち

法務省入国管理局の統計によると、2009年現在、日本には、1,397人の無国籍者が外国人登録をして滞在しています。しかし、無国籍者が全員外国人登録をしているとは限らないことから、この統計は、少なくとも1,397人はいる、という数値であるといえます。例えばオーバーステイの人たちが日本にきて、子どもを生んでも、自分のオーバーステイがわかってしまうことをおそれ、出生届をださないということがあります。こうしたことから、無国籍の外国人がどのくらい日本にいるのかを正確に把握する手段は残念ながらありません。

また、統計によると、1,397人のうち約半数の654人を未成年が占めており、無国籍の人たちの中でもとりわけ子どもの割合が高いと言えます。では、無国籍という問題はどうして生まれるのでしょうか。

これは、前述した生地主義と血統主義の違いが発生原因の一つになっており、生地主義のみを採用している国の国籍を持つ両親が、血統主義のみを採用する他の国で子どもを産んだ場合、その子は両親の国の国籍も、出生国の国籍も得ることができません。結果として、無国籍となります。

例えば、ブラジルは、生地主義をベースにしている国です。ブラジル人が日本で子どもを産むと、日本は血統主義なので、その子はブラジル人として外国人登録されることになります。一方、ブラジルでは生地主義をとっていることから、ブラジルで生まれた外国人の子にはブラジル国籍を与えても、日本で生まれたブラジル人の子には自動的に国籍は与えません。
そうした子どもがブラジル国籍を取得したい場合は、親が一度その子をブラジルに連れて帰り、届出をしなければなりません。親が国籍法のことを知らない場合、その子どもは日本ではブラジル人とされていても、ブラジルに届けを出さない限り、無国籍になるのです。

<引用文献等>
法務省入国管理局統計 HP
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
川村千鶴子、近藤敦、中本博皓 編著 (2009)、『移民政策へのアプローチ』明石書店
月田みづえ(2008)『日本の無国籍児と子どもの福祉』

父母両系統血統主義の採用

1985年の国籍法改正によって、日本は、父母両系統血統主義を採用することとなりました。この改正前は父系統のみが血統主義を採用されていました。

このことからそれまでは、“アメラジアン”のように、生地主義国籍の男性と日本国籍女性の間に生まれる子どもが無国籍となってしまう問題が数多くありました。
アメラジアンというのは沖縄に多い事例です。沖縄で米軍基地の兵士と、沖縄の女性が婚姻関係になると、そこで生まれた子の法的立場が曖昧になることがありました。
例えば、結婚したもののうまくいかなかった場合、離婚届をださないまま男性がアメリカに帰ってしまうことがあります。その後、日本に残った女性が別の日本人男性と事実上婚姻関係になった場合、届け出を出そうと思っても、離婚届を出していないために法的に夫婦になれないという問題がありました。
日本人の父親から子どもが生まれても、両親が婚姻関係にないと、その子は母親と婚姻関係のままになっているアメリカ人の子としてみられるのです。そうすると、父親がどこにいるのかわからないので、アメリカの国籍も取得できず、無国籍になってしまうという事態がありました。
この問題は、その後沖縄において、女性の人権という観点から、子どもが母親の国籍を取得することができるように運動があり、その結果、日本の国籍法は1985年以降、父系血統主義から父母両系血統主義に変わり、アメラジアンの無国籍の事例は減ってきました。

その一方で増えているのは、東南アジアの方が興行ビザで来日した後、日本人の男性との間に子どもができ、そこから無国籍児が発生する場合です。彼女たちは言葉の問題や法的な知識など、人によっては、様々な問題をかかえていることがあります。また、宗教上の背景から、避妊することや、子どもをおろすことに抵抗があります。子どもができても男性側がすでに結婚をしており、子を認知できなかったり、また母が子の出生届けを出すことで自分がオーバーステイであることを知られるのをおそれて、出生届を出さないがゆえに、子が無国籍になるということもあります。

<引用文献等>
川村千鶴子、近藤敦、中本博皓 編著 (2009)、『移民政策へのアプローチ』明石書店

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無国籍者として生きる

無国籍者問題は、社会的な認識がまだ低い状況です。無国籍の人自身ですら、自分が無国籍であることを知らないままでいることもあります。そうした場合、具体的な問題に直面して、自分が無国籍であるということに後から気づくということになります。例えば、国籍がないために、どの国に生活しても仕事や進路に制約が出る場合もあります。たとえ自身が望んで無国籍になったのではなくとも、現在の社会の仕組みではどうにもならないことの例と言えるのではないでしょうか。

無国籍の人たちというのは、数も少なく、声も出しにくい、どこに相談にいけばいいのかもわかりません。一人一人で抱えている問題や置かれている状況も違います。そして、さらに彼らの背景にある国の事情によっても状況は違っているという、きわめて難しい状況です。

現在の社会においては、国籍の概念は切ってもきりきれないものです。しかし、同時に人を国籍のみで分けた場合には、無国籍者は、どこにも当てはまらずにそこからはみ出て狭間に落ちてしまうことになります。

<引用文献等>
川村千鶴子、近藤敦、中本博皓 編著 (2009)、『移民政策へのアプローチ』明石書店

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支援活動団体

外国人の子どもには、国籍取得時に様々な事情から無国籍になる恐れがあり、弁護士など法律の専門家による支援が必要になることもあります。ここでは民間団体で国籍取得の支援事例を紹介します。

社会福祉法人日本国際社会事業団

オーバーステイの両親から生まれた子どもや、難民申請中の両親から生まれた子どもについて、独自のネットワークを活用し、本国の親類を頼って本国での出生届を代理で行ってもらうなど、国籍取得の支援をする活動も行っています。

社会福祉法人日本国際社会事業団 HP
http://www.issj.org/
子どもの国籍を考える会

日本人の父親から認知されていない、あるいは十分な養育を受けていない子どもたちとその外国籍の母親、とくにフィリピン人母親の抱える問題をともに考え、可能な支援を行うことを目的としています。近年は、子どもたちの就籍プロジェクトも行っています。

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