コラム

第42回 外務省国際フォーラム「在日外国人と医療」

山脇啓造

 外務省と国際移住機関(IOM)が共催し、厚生労働省と自治体国際化協会が後援した外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラムが「在日外国人と医療-安心して暮らせる地域社会の実現に向けて」をテーマに、2022年3月2日にオンラインで開催されました。筆者は第二部と第三部のモデレーターとして参加しました。

 当初、首都圏の登壇者は四谷の外国人在留支援センターの大会議室に集まり、そこからZoom Webinarでオンライン配信する予定でしたが、蔓延防止等重点措置が続く中、筆者と事務局だけが会場に集まり、その他の登壇者はそれぞれのオフィスから接続しました。日英同時通訳が用意され、国内外から400人近い参加者となりました。

 第一部では、鈴木貴子外務副大臣の開会ご挨拶の後、IOMのアントニオ・ヴィトリーノ事務局長から国際社会の観点に立った移住者の医療についての基調講演があり、厚生労働省の医療国際展開推進室の梅木和宣室長から外国人患者受入れ体制整備に関する厚労省の取組の講演がありました。

 第二部では、シドニー地域保健局のバーバラ・ルイジ多文化プログラム・戦略拠点長、高田馬場さくらクリニックの冨田茂院長、そして神戸市に拠点を置く多言語センターFACILのブイ・ティ・ホン・ニュン氏による事例発表がありました。ルイジ氏からは、オーストラリアでは通訳の国家資格があり、医療通訳は無料で提供されていること、またシドニー地域保健局では移民の文化に配慮する文化サポートプログラムを重視していることの報告がありました。冨田院長からは、ミャンマー難民などをスタッフとして雇い、地域の外国人コミュニティーと連携しながら多言語で対応し、外国人患者が気軽に通えるクリニックをめざしていることが報告されました。ベトナム語通訳であるブイ氏からは、コミュニティビジネスとして地域に根差した活動を行うFACILの医療通訳の取組に関する報告がありました。

 そして、第三部では、「外国人住民の医療アクセスー医療通訳の活用を中心に」をテーマとするパネル討論が行われました。小林国際クリニックの小林米幸院長、多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)の岩本弥生理事、ランゲージワン株式会社のセサル・カブレホス多文化共生推進ディレクターを迎え、筆者がモデレーターを務めました。

 小林院長は1980年代に大和定住促進センターでインドシナ難民の診療を担当したことがきっかけとなり、大和市にご自身のクリニックを開設し、この30年間、数多くの外国人患者の診療をされた方です。また、同時に、AMDA国際医療情報センターも開設し、外国人や医師に電話で医療情報や医療通訳を無料で提供してきました。まさに、外国人医療の分野のレジェンドと呼ぶべき方です。

 岩本氏は、ポルトガル語通訳や通訳コーディネーターをされています。MICかながわは、現在各地にある医療通訳派遣団体のパイオニアで、2002年にスタートしています。MICかながわは厚労省の医療通訳育成カリキュラム基準の作成にもかかわっています。また、岩本さんは全国医療通訳者協会のプロジェクトで、各地の医療通訳システムの調査もされ、全国の医療通訳の実情に詳しい方です。

 セサル氏は、ペルーご出身で1990年にご家族と一緒に来日され、子どもの時からご家族の通訳をされていたそうです。その後、電話通訳の仕事に就きました。現在、日本を代表する遠隔通訳会社の一つであるランゲージワンにお勤めで、多文化共生推進ディレクターというユニークなポジションに就いています。各地の自治体や国際交流協会の多言語相談窓口の実情に詳しく、また外国人住民の声もよく聞いている方です。

 このように、医師、対面通訳、遠隔通訳と異なる立場にある3人のパネリストに、以下の質問に答えていただきました。

 1)医療通訳の必要性を感じていない医療従事者が多い?
 2)医療通訳は20年前に比べれば全国に広がった? 
 3)医療通訳の質の確保はどうしたらよい?
 4)医療通訳のコストは誰が負担すべき?
 5)医療通訳がいない場合はどうしたらよい?

 この中で一番、ヒートアップしたのはコスト負担の問題で、公的医療保険の診療報酬に組み込むのがよいか、手話通訳のように行政が負担するのがよいか議論になりました。医療通訳がいない場合は、去年のフォーラムのテーマでもあったやさしい日本語の活用が紹介されました。

 パネル討論の後半はフロアからの質問にも答えていただきました。最後に筆者はモデレーターとして、以下のようなまとめのコメントをしました。

 第一に、医療従事者の意識改革が必要ではないか。ヴィトリーノ事務局長のスピーチにあったように、 "No one is safe until everyone is safe."(誰か一人でも安全でなければ、誰もが安全でない)という状況が続いている。小林院長が医学生や看護学生の教育にしっかり外国人の医療を組み込む必要があると力説されたことに同感だ。ちょうど、大学の教職課程に外国人児童生徒教育を組み込む必要があるのと同様だろう。

 第二に、対面通訳、遠隔通訳それぞれメリットとデメリットがある。具体的な状況に応じて、対面通訳がふさわしい場合、遠隔通訳がふさわしい場合、あるいは機械翻訳でも大丈夫な場合があるだろう。国がそうした通訳の使い分けに関するガイドラインを作るとよいのではないか。

 第三に、MICかながわのように、2000年代以降、全国に地域の医療通訳システムができ、有償ボランティアの医療通訳を派遣している。一方、2010年代中盤からインバウンド観光の急拡大そして東京2020大会の開催に向けて、国による医療通訳を含めた外国人患者の受け入れ体制の整備が進んできた。この両者をうまく組み合わせて各地の医療通訳体制を整備することが望ましいのではないか。

 パネル討論終了後、外務省の安藤俊英領事局長から閉会のご挨拶があり、4時間に及んだ国際フォーラムは幕を閉じました。

 なお、フォーラム終了後、在日外国人の保健医療福祉をご専門とする長崎県立大学の李節子教授から、医師の意識改革に関して、「保健師助産師看護師国家試験出題基準」にはすでに「在留外国人」に対する健康支援が明記されており、「医師国家試験出題基準」にも同様に外国人の医療を明記すればよいとのご示唆をいただきました。

外務省国際フォーラム関連ページ
外務省|「外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラム」参加者募集
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page24_001644.html
外務省|外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラムの開催(結果)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_009286.html

過去の外務省の国際会議に関する筆者の記事
外務省の国際フォーラム(2021.3.4)
https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/115060.php
外務省「外国人の受け入れと社会統合のための国際ワークショップ」(2017.8.21)
https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/114388.php
外務省(2008.4.23)
https://www.jiam.jp/melmaga/kyosei/newcontents13.html#000512

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