土井佳彦さん コラム

災害時外国人支援−すべてが試された瞬間

土井 佳彦((特活)多文化共生リソースセンター東海代表理事)

東日本大震災を経験して

3.11発災時に名古屋で仕事をしていた私は、いわゆる“被災者”ではありません。しかし、直後に設置された「東北地方太平洋沖地震多言語支援センター」[1](以下「センター」とする。)の運営に携わったこと、被災地の企業活動停止が東海地域の外国人労働者とその家族にも大きな影響を及ぼしたこと、そして宮城県内に暮らす親族から犠牲者が出たことなど、さまざまな面で「震災」を体験しました。きっと、国内外を問わず、ほぼすべての方がなんらかの形で東日本大震災の影響を受けたのではないかと思います。発災から3年が経とうとしている今、改めて当時のことを思い出し、今後取り組むべきことを整理したいと思います。非常に個人的なことで恐縮ですが、あえて自身の感情を記すことで、とりわけコーディネーター的な立場で災害時対応にあたられる方への参考になればと思います。

反省を糧にして

センターの運営を振り返って頭に浮かんでくる言葉は、「悔しさ」と「感謝」の2つです。もっとも悔しかったのは、自身のコーディネート力不足です。いつ、だれに、なにを、どのように伝え、協力を得るのか。その一つ一つがどのような根拠に基づいているのか。あの場で求められたのは、「正しい判断」ではなく、センター長としての「決断」でしたが、迷うことばかりで関係者に余計な心配や不安を与えてしまいました。未曾有の大災害の最中、内外からさまざまな意見が飛び交う状況で即座に決断を下すには、強い信念と覚悟が必要でした。また、刻々と状況が変わる中で柔軟に対応しつつも、先を見通して物事を進めることの重要さと難しさを痛感しました。いつ始めるかより、いつまで続けるのか、どのタイミングで活動を終え、それに向けて関係者に理解を求めながら終息させていくかに悩みました。
そんな未熟な私を支え、被災者の助けになればとの一心で活動に従事してくださった方々には、「感謝」の言葉以外にありません。その気持は今なお、日を追うごとに強くなっています。一人ひとりの顔を思い浮かべながら、あのときあの人がいてくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。しかし、当時は一人ひとりの気持ちの変化等に目を向ける余裕もありませんでした。緊急時の活動では、個々の心情も大きくゆらぎ、それが担当作業の進捗や組織全体の雰囲気等にさまざまな影響を与えます。大変なときだからこそ、必要以上の心理的な負担がかからないように、仲間の表情や行動の変化にも気を配るべきでした。幸い、この大事な役割は私以外のメンバーが担ってくれたことで、大きな混乱もなく活動を続けることができました。この「悔しさ」と「感謝」の気持ちは、その後の私の活動の源泉となっています。日々の活動においてもこのことを忘れず、いざという時にしっかり対応できるようにしていきたいと思っています。

[1]詳しくは、土井佳彦2011,2012参照。

後悔しないために、今取り組むべきこと

こうした経験を生かして次の災害に備えるために、2つのことを心がけています。1つ目は、わかっていることは全てやること。大小問わず、過去の災害から学ぶことは山ほどありますが、そのうち、実際にいくつ改善できているでしょうか。わかっているのにできていないことは、何より大きな“後悔のタネ”になります。言い訳は通用しません。やるべきことをやりましょう。
2つ目は、必要なことを可能な限り具体的かつ明確にすること。東日本大震災後、いくつかの自治体や地域国際化協会の災害時対応マニュアル等を目にしましたが、素人の私から見ても非常に大雑把で、どの程度実現可能性があるのかわからないものが数多くありました。いざというときにはマニュアルなんて役に立たない、というのは確かでしょう。しかし、平時においては実際に災害時のことをシミュレーションしてみて、気づいたことを一つひとつ改善していくしかありません。すべてに備えたうえで、それでも対応できないことを「災害」と言います。「災害」が起きないようにすることはできませんが、備えを怠ったことで起きてしまう「人災」を最小限に減らしたいです。過去から学び、各地域・組織に応じた具体的な対応策を講じることが必要です。

以上のことは、本サイトの読者にとってみれば、言わずもがなかもしれません。しかし、あれだけの辛く大変な経験をしても、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ように、私自身、目前の通常業務を優先しているところがあります。そんな時、それじゃいけないと声をかけてくれる仲間がいます。センターの運営で苦楽を共にした方々や、あのときどうすることもできず各地で悔しい思いをした方々です。みなさん、何かしなければと思っています。一人で考えてもなかなか前には進みません。お互いに声をかけあって、一緒に考える機会をつくっていきませんか。


多言語ホットラインの様子

多言語支援センターのミーティングの様子

災害多言語情報サイト
Earthquake information

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