早川 寛さん コラム

MIC(ミック)かながわー医療通訳のあゆみ

早川 寛((特活)多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)副理事長)

 MICかながわは、神奈川県をはじめとする県内自治体、医師会、病院協会、通訳派遣先の病院などで構成する「医療通訳派遣システム事業運営委員会」の一員として、医療通訳の養成、研修、コーディネーターによる派遣の実務を担っています。
 2002年10月からの試行時期から数えて11年、当初の5言語6病院から、11言語64病院(県事業とMIC事業の合計)への通訳派遣、派遣数も2012年度は4,318件になりました。ここでは、この期間のいくつかのポイントを中心に活動を振り返ってみたいと思います。


☆MICかながわの設立(2002年4月)

 日本で働く外国人の存在が大きくなったのは、1,990年ごろからです。バブル経済が海外の労働者も引き寄せたのです。このような中、神奈川県内の外国人医療の現状に対し、神奈川県社会福祉協議会が医療機関のスタッフや、通訳、外国人支援団体などに呼びかけ、医療通訳の研修やあり方を考える、「外国人医療と“ことば”の問題を考える会」が1999年に発足されました。この会を発展させてできたのが、MICかながわ(以下、MICと記載)です。
 MICは2002年に開催されたサッカー日韓ワールドカップでは、10言語の研修を担当しました。それまで、技量の確認を前提にしても起きうる、通訳の誤訳の責任をどこが担うのかという問題に回答を出せず、行政がかかわる医療通訳派遣が足踏みをしていました。この時、横浜市が「派遣通訳は病院の準スタッフとして、誤訳などの責任は病院が賠償することでカバーする」という考えを出し、この問題が解決しました。

☆「外国籍県民かながわ会議」の提言

 神奈川県が設置した、外国籍の県民によって構成される「外国籍県民かながわ会議」が2001年「公的医療通訳制度の設立」を提言しました。これを受け、県は検討委員会を設置し、これにMICも参加することとなり、2002年10月から県の予算で「医療通訳派遣システム」を試行することになりました。

☆お試し期間―「ボランタリー基金21」の活用

 このシステムの特徴は、@公募により通訳者を選考し登録及び研修、A病院と通訳の間にコーディネーターを置き、病院からの依頼で派遣、B1回の通訳費用は交通費も含めて3,000円、Cこれらの活動をMICがバックアップ、D派遣先の病院とは通訳に対する身分保障も含む協定を締結といったことです。
 2003年4月からは、神奈川県が設立した「ボランタリー基金21」を活用できるようになりました。行政と民間が協働事業で行うことにより効果があがる事業に対し、最長5年間、上限で年間1,000万円助成するというものです。これにより、各病院には負担なしのお試し期間を活用してもらい、通訳を利用した医療が大変有効である、との実感を持ってもらうことができました。

☆「かながわ医療通訳派遣システム自治体推進協議会設置」

 この基金の終了後、2008年から県内自治体が協議会を作り、医師会や病院協会、MIC などとつくる事業運営委員会で、事業計画や協定病院の拡大、費用負担などについて決めています。通訳費用3,000円は病院の負担(患者負担は1,000円まで)コーディネーターや通訳研修など土台部分の費用は、推進協議会(行政)とMICが負担しています。


☆今抱えている問題

 このシステムによる通訳派遣はまだまだ増えそうです。 現在、このシステムの登録通訳は2013年からのロシア語を加えて、11言語162人(2013年4月1日現在)になっています。高いボランティア精神に支えられていると言っても、交通費を含めて1回3,000円では、ほとんどアシが出てしまいます。ベトナム語やタイ語、タガログ語などではそもそもボランティアで働ける人の数はきわめて少なく、その確保に苦しんでいます。この課題の解決には、ボランティアではなく、生活できる報酬を準備していく考え方を取る必要があるのではないでしょうか。

 一方、自前の事務所と専従体制を取っているMICの財政も大変厳しいものがあります。県事業以外の病院への派遣を合わせると年4,318件になるのですが、そのことによる「収入」は全くMICにはありません。公的な財政援助はなく、会費や寄付、ささやかな事業収入などで運営するMICの財政基盤の強化は大きな課題です。
 外国人あるいは日本人配偶者の高齢化などにより、医療だけではなく介護の領域などでも、通訳の需要は増してきています。「お金がなくても医療は受けられるけれど、コミュニケーションが取れない人の医療はとても困難だ」とある医師が言っています。言葉によるコミュニケーションは治療を受ける側にとっても、治療をする側にとっても大切な問題なのです。言葉の点でもこれらを支える行政の役割は、ますます重くなっていると思います。