金宣吉さん コラム

「外国人」高齢者とハナの活動

金宣吉(特定非営利活動法人神戸定住外国人支援センター(KFC)理事長)



日本は、総人口1億2,730万人(2013年10月1日時点)に占める65歳以上の高齢者が25.1%という世界で最も高齢化した社会となっています。そのうち認知症の人は推計15%で、認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も含めると65歳以上の4人に1人が認知症状況もしくは将来発症するとされています。

現在、2000年から開始された介護保険制度も含め、心身機能の低下した高齢者を支える仕組みづくりが進められていますが、高齢化した「外国人」住民が話題になることはほとんどありません。

私たち特定非営利活動法人神戸定住外国人支援センター(KFC)の活動地域である神戸市には、古くから華僑(中国系)、韓国・朝鮮人コミュニティがあり、日本人同様高齢化しています。1980年代後半に定住したベトナム難民が呼び寄せた親世代も高齢化を迎えています。

また国籍は日本でも、戦後中国に残留せざるをえず、1990年代に多くが帰国した言語的、文化的にマイノリティである中国残留邦人帰国者ら(中国系)も地域のなかで高齢化、孤立しています。

KFCが支援している中国残留邦人帰国者やベトナム人高齢者の多くは、日常、「日本人」と接する機会を持たないまま生活しており、日本語、日本社会がほとんど理解できていません。韓国・朝鮮人高齢者の場合、会話はできても差別や貧困のため学校に通うことができなかったため、文字(韓国語も含め)の読み書きができない非識字者も多くいます。

そのため加齢による心身状況の悪化により医療や介護が必要な時には、言語が大きな壁となっています。特に介護保険利用には、認定申請、かかりつけ医への意見書依頼、ケアマネージャーの選定・契約、サービス事業者との契約という複雑な手続きが必要であり、当事者の力では必要な支援が受けられない状況でした。

KFCでは、独自で相談・同行支援、翻訳・通訳支援をするとともに神戸市に働きかけ、2006年からバイリンガルサポーターを派遣する「コミュニケーションサポート」制度をつくり、現在韓国・朝鮮語、中国語、ベトナム語3言語のコミュニケーションサポーター派遣を行っています。またKFCスタッフにより上記3言語に加え英語、スペイン語、モンゴル語も対応可能な体制をとっています。

文化的な配慮では、韓国・朝鮮料理、ベトナム料理のできるスタッフを配置し食文化への対応もしています。レクリエーションにおいては、民族楽器の演奏なども取り入れますが、差別や貧困で学習できなかった韓国・朝鮮人女性高齢者のための識字教室(日本語よみかき教室)を取り入れるなど、文化本質主義にとらわれず当事者の思いに沿った取り組みも行っています。

中国残留邦人帰国者の支援活動では、当事者の要望を受け、太極拳、ヤンガ踊り(中国東北地方の踊り)、広場踊り(現在中国で流行しているダンス)といったことに取り組み、社会参加の意味も考え毎年神戸まつりや地域イベントへの出演をしています。

KFCの「外国人」高齢者支援は、阪神・淡路大震災後、孤立した韓国・朝鮮人高齢者の食事とレクリエーションを中心とした居場所づくり(ハナの会)からはじまり、現在、デイサービス、訪問介護(ヘルパー派遣)、居宅介護支援(ケアマネージャー事業)、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、中国残留邦人帰国者のための交流会、在日ベトナム人高齢者支援活動へと広がりました。

多様な背景をもつ多民族のスタッフが、日本人を含む、多民族の利用者を言語や文化、背景に配慮しサポートする「多文化間高齢者支援」という形で発展し、全国でも類のない支援形態となっています。

KFC高齢者事業の利用者およびスタッフの内訳(2015.12末)

文化背景国※1 利用者 スタッフ
韓国・朝鮮 52 18
日本 28 19
中国 15 8
ベトナム 12 3
ペルー 1
107 49

※文化背景国としたのは現国籍国ではなく個人のルーツを考慮したため

母語も文化も背景も異なる人が同じ場所で暮らし働くことは容易なことではなく、私たちKFCも日々翻弄され、悩み、時に立ち止まりながら歩んでいます。しかし葛藤や模索を抱え、言葉がたどたどしくても進む気持ちの交流、人を排除しない強さは、ヘイトスピーチを生みだす排外的な心の対極にあります。

少子高齢化が進む中で、外国人を介護の担い手・支える側として活用する議論も盛んとになっていますが、外国人は介護の機械ではなく支えられる側にもなる人間です。

先例のない道ですが、これからもハナ(「ひとつ」)の気持ちをもって、私たちの高齢者支援事業の花(ハナ)を咲かせられればと思います。

【著者プロフィール】

1963年6月26日 神戸市長田区に生まれる

龍谷大学大学院経済学研究科修士課程修了

ソフトウェア開発企業勤務、社会福祉法人「青丘社」勤務を経て阪神大震災後、「兵庫県定住外国人生活復興センター」の発足に参画、「被災ベトナム人救援連絡会」と団体を統合し「神戸定住外国人支援センター(KFC)」(2004年8月特定非営利活動法人認証)を結成。現在に至る。

他、神戸大学非常勤講師、兵庫県外国人県民共生会議委員、新長田活性化委員会委員ほか

主著書:「国際化時代の人権入門」(共著)明石書店(1997)

    「外国人・民族的マイノリティ人権白書」(共著)明石書店(2007)

    「ホルモン文化T〜\(編集委員)」

論 文:「在日コリアン無年金者訴訟の変遷と社会的影響〜在日コリアン社会への反響を主軸として〜」(2007)

    「国際化と都市政策が生みだした神戸市長田区への外国人集積」(2014)

    「外国にルーツを持つ子どもへの『学びの保障』がもたらすもの」(2014)

出 稿:「都市政策102号」((財)神戸都市問題研究所)、「月刊自治研」(自治研中央推進委員会)ほか