渡戸一郎さん コラム

日本の学校現場と多文化共生の現状と課題から、3つのお願い

小島祥美(愛知淑徳大学)

外国人の子どもが抱える問題と初めて遭遇してから約20年が経過しようとしています。短大卒業後の1994年、私は埼玉県内にある公立小学校に着任しました。そこで、東南アジアや南米にルーツをもつ児童と出会い、初めて外国人の子どもたちが抱える問題を知りました。当時小学校2年生であったベトナム難民のラムくんと日系3世としてブラジルから来日したアレサンドロくんとは意思疎通において格闘の連続でしたが、辞書を片手にジェスチャーや絵を描きながら、私はたくさんのことを教えてもらいました。文化や言葉の違いで毎日とても苦しんでいること、学校がつまらないこと、お姉ちゃんは日本の高校へ行けないこと、日本に来ることになった理由など・・・ 二人から教えてもらったことはいずれも外国人住民が抱える社会問題でした。つまり、私の出会った外国人の子どもたちのおかれた状況には、就学義務の対象外のために日本に暮らす外国人住民は学習権が保障されていないため、就学体制や制度が確立していないことから生じる数々の事象が背景にあったのです。ラムくんやアレサンドロくんが暮らしやすい社会になるようにしたい、その時私は強く決意しました。いつか彼らに胸張って会いたい、その願いだけでこれらの問題と向かいあってきました。

神戸のボランティア活動に参加するなかで、学校に通っていない外国人の子どもと出会ったことから、不就学の問題解決が私の最も大きな関心事となりました。そして、2003年4月からの2年間、自治体 やNPO等と協働し、岐阜県可児市に暮らす学齢期の全外国人住民を対象に全家庭訪問による就学実態調査に着手しました。外国人の不就学問題を解決するために全国で初めて実施した調査であったため、外国人の就学を考える上で緊急性の高い多岐にわたる課題の存在を知りました。特に不就学者については、出生地や日本語の理解度などにかかわらずに日本国籍を有していないことから在日コリアンを含めて不就学者が実在すること、不就学者は公立学校を中途退学した生徒が多いこと、中途退学した理由は自己肯定感と関係することなどがわかりました。調査 終了後は、「外国人の不就学者ゼロ」に取り組む自治体と協力しながら、この調査から明らかになった課題について各地で取り組んでいます。具体的には、公立学校における日本語指導にかかわる初期対応や中長期にわたる体系的な教科指導体制の在り方をはじめ、アイデンティティや母語にかかわる実践方法、就学前児童(プレスクール)の指導方法、高校入学試験対応とその後の学習支援、外国人学校の法的位置づけ、外国人学校における学校保健の方法、学齢超過者および無国籍状態の子どもの就学保障などです。

これまで全国の自治体や教育委員会の職員の方々、学校関係者の方々と共に、地域 事情に即した施策の見直しや学校現場の改善に取り組んできました。そのなかで、自治体の工夫や実践次第で外国人の子どもの不就学問題の改善方法があることを学びました。これらの学びから、自治体や地域国際化協会の職員である皆さんにお願いしたいことを3つ述べます。

まず1つ目は、外国人児童生徒にかかわる教育指針の策定をお願いしたいです。外国人は就学義務の対象外と扱われていることから、自治体の姿勢を示した政策がとても少ないのが実態です。そのため、担当者の裁量に任せられて教育施策が進められている場合が多く、外国人児童生徒の運命は「今年の担当者は熱心でいいね」など、宝くじのようになってしまっています。どんな担当者になっても外国人児童生徒の教育が推進される体制を構築するためには、教育指針の策定は必要不可欠です。特 に、外国人住民に対して就学案内や日本の就学にかかわる説明が外国人の住民登録を扱う担当窓口で行われていないことが多く、国によって義務教育期間が異なることなどの事情等もあり、誤解によって不就学に陥ることもあります。したがって、教育指針の策定にあたっては、教育部局だけでなく、庁内の関係部局と連携した上での検討は必須です。

2つ目は、外国人児童生徒の教育保障を人権という視点から捉える土壌の育成をお願いしたいです。「最近は在籍者数が減っているから」「今年は日本語指導が必要な児童生徒数が多いから」などの理由で、施策や取り組みが揺れる自治体や学校現場の状況を数多く目にします。このような実態があることについて、先進国である日本で生活する私たちの姿勢としてとても情けないように思うのは私だけでしょうか。

3つ目は、学校単位で外国人児童生徒の教育推進体制の構築をお願いしたいです。外国人児童生徒の在籍数にかかわらず、外国人児童生徒の教育や生活指導などは担当者のみに任されている学校が多いのが実情です。外国人児童生徒担当者を学校の運営委員として位置づけたり、外国人児童生徒の教育推進が評価対象として扱われるように公務分掌で位置づけたりなどは今後の必須事項です。自治体単位で外国人児童生徒にかかわる教育者の連絡会や情報交換会などが設定されると、各学校のノウハウが自治体単位で蓄積され、多種多様な問題解決にもつながり、とても有意義な場として機能することでしょう。

「帰国するかもしれない子どもに日本の学校で勉強を教える意味があるのでしょうか」という質問を学校の先生からよく受けます。この質問に、皆さんはどのように答えますか。私たち教育者がなすべきこととは、子どもに長い将来を見据えた確かな学力を育てることだと私は思います。国を超えて世界中を移動する子どもであれば、日本にいる時だからこそ、日本にかかわる知識や学力を身につけてほしいです。そのことが子どもたちのこれからの将来のなかできっといきる時が来ると私は信じています。

【著作物について】

  • 小島祥美(共著)2010年12月「外国人の子どもの教育と人間安全保障・社会的再生産」『越境するケア労働−日本・アジア・アフリカ』日本経済評論社 佐藤誠 編
  • 小島祥美 2011年1月「ブラジル学校の現状と課題を考える」『国際移住と教育』明石書店 江原裕美 編
  • 小島祥美 2011年「学齢を超過した義務教育未修了の外国人住民の学習権保障」『ボランティア学研究』(第11号)
  • 小島祥美 2012年3月「学校はニッポン人だけのもの?」『移住者が暮らしやすい社会に変えていく30の方法』合同出版 移住労働者と連帯する全国ネットワーク(編)
  • 小島祥美2012年「無国籍状態の子どもの就学問題」『チャイルド・サイエンス』(第8号)
  • 小島祥美2012年『ブラジル学校における学校保健の試み研究報告書−日本の学校健診モデルの適用の可能性について』(科学研究費補助金若手研究B)
  • 小島祥美2012年『2011年度外国人生徒と高校にかかわる実態調査報告書(全国の都道府県・政令都市の教育委員会+岐阜県の公立高校から)』(科学研究費補助金若手研究B)
  • 自治体国際化フォーラム2010年6月号『経済不況で苦境にあるブラジル学校の実態−「ブラジル人学校等の準学校法人設立・各種学校認可の課題」研究から』
  • 愛知淑徳大学HP
    http://www2.aasa.ac.jp/faculty/education/introduce/teacher/07.html