松尾翼さん コラム

日本の入管法・在留資格について
第二部:実務上、注目すべき諸点について

松尾 翼
(公益財団法人入管協会 監事)
(弁護士法人 松尾綜合法律事務所 代表弁護士)

1.入管手続の基本的知識について/日本は移民を受け入れていないこと

(1) 前第一部でも説明したとおり、Immigration(移民/出入国管理)の制度は、その国々によって立国の精神とか、隣国との緊張関係とか、世界の政治の潮流によって大きく影響を受けるものです。

つまり、「我が国の入管法を貫く原則は在留資格制度であり、その制度の中核をなす『在留資格』は我が国の基本的な出入国管理政策を示すものといわれる。在留資格制度は、入管法で外国人が本邦において一定の活動を行って在留するための法的資格を在留資格として定め、外国人が本邦において行おうとする活動が在留資格に対応して定められている活動のいずれかに該当しない限り、原則としてその入国および在留を認めないこととして、この在留資格を中心に外国人の出入国管理を行うもの」(千葉科学大学危機管理学部 佐藤義一教授、国際人流No.341、19頁)。であります。

そして、安倍首相の発言を引用しても、第一部でも説明したとおり、日本は今でも、表向きは「移民」という言葉は使いません(日本経済新聞朝刊、平成29年3月24日)。ところが、つい最近の新聞では「外国人の純流入が推計上13.6万人に達していることを述べ(同資料、同年4月15日)」外国人労働者の急増を報じています。この為、移民と言う言葉を避け「外国人材」という言葉で望ましい受け入れ方を丁寧に議論」すべきだとの意見が述べられています。

(2) 外国人に対する最高裁判所などの判例の傾向

(a) 憲法22条2項は、「何人も、外国に居住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」と規定しています。

最高裁判所は、中国人を被告人とする外国人登録令違反事件について、法定の除外事由が無いのに香港から朝鮮南岸を介し、そこから小型発動機船で佐世保に入港して来た事件について、「…何等の条約がない限り、国は外国人の入国を許可する義務を負うものではない」と判断しています(昭和32年6月19日、刑集11巻1663頁)。

(b) また、外国人の日本における政治活動の自由に関する先例として有名なマクリーン事件において、在留期間中ベトナム反戦運動に携ったりしていたことから、在留期間延長を求めた事件において、「外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引続き在留することを要求する権利を保障されていない」と判断して、在留期間の延長申請を認めませんでした(昭和53年10月4日、民集32巻1223頁)。

(c) 最高裁判所は、森川キャサリーン事件において、「わが国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものではない」と判示しています(平成4年11月16日、裁判集民166巻575頁)。

(d) 逃亡犯罪人引渡条約に関する尹秀吉事件において、最高裁判所は、「政治犯罪人不引渡しの原則は、いまだ確立した一般的な国際慣習法であると認められない」と判示しています(昭和51年1月26日、判例タイムス334号105頁)。

(e) 外国人についてもプライバシー保護の権利があるか否かに関して、最高裁判所は、「外国人登録法が、外国人に外国人登録原票に登録した事項の確認の申請を義務づける制度を設けたのは、原票登録事項の正確性を維持・確保することにより、在留外国人の居住・身分関係を明確にして、その公正な管理に資するという行政目的を達成するためであって、その立法目的には十分な合理性があり、同制度によって職業、勤務所等の確認を求められるとしても、それらは人の人格、思想、信条、良心等の内心にかかわる情報とはいえないから、本条に違反しない」として上告申立人・張炳珠に対し、「みだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力により強制されることはないという利益が尊重さるべきである」とした上告理由を排斥しています。

2.日本に在留を求めて来る難民の実情

(1) 日本は既に出入国管理法を改正して、難民認定も法制化しています。日本はヨーロッパ大陸と異なり、難民がドイツ、フランス等を目指して大挙押し寄せて来てはおりません。法務省が発表している統計がありますので、現在の日本の現状についてはこちらをご覧ください。

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00122.html(法務省:平成28年における難民認定者数等について)

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00065.html(法務省:平成28年末現在における在留外国人数について(確定値))

【参考資料】
難民と認定した事例及びその判断のポイント
法務省HP:http://www.moj.go.jp/content/001221349.pdf

3.実務上注意すべきこと

(1) 日本の地方公務員法は、「地方公共団体のすべての公務員をいう」と規定しています(地方公務員法2条)。そして戸籍法では、「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する」と規定しています(戸籍法1条)。

さらに、外国人との婚姻の届出については「日本人と外国人の婚姻届出があったときは、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。」と規定しています(同法16条V項)。

(2) 外国人との重婚(ダブルマリッジ)の疑いのあるときなどは、地方自治の現場に携る人として、こういう場合、実務上注意すべきことは、ことを単に登記、登録の上司に問い合わせることだけでなく、「法の適用に関する通則法」の「(1項)婚姻の成立は、各当事者の本国法による、(2項)婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による」(第24条)(第25条)などを参照し、不明なときは法務省民事局に問い合わせるなどの方法をとり、戸籍法上、重婚の婚姻登記が出来ないよう充分注意すべきです。

(3) まだ我が国では、公に、大きな問題として表面化していませんが、これが、日本の出入国管理法の盲点として、外国の仲介業者が「日本人になりすます」ではなく、「合法的に日本に妻として入国できる」とか、「合法的に子供を日本人として戸籍に記載させ、日本に入国できる」方法として、徐々に利用されて来ているという情報もあります。

(4) 何れ将来、日本の婚姻に関する法令の定めなどが、こういう現象に対して改正されない限り、こういう状態が継続しても止むを得ないことに、御注意下さい。

【著者プロフィール】

弁護士

松尾 翼 Tasuku Matsuo

信条:中国の文化大革命後、北京大学法学部から数名の教授がお見えになったとき、北京大学随一の書家としての評価も高かった故 李志敏教授から扁額を頂戴しました。

至誠而して寶、無私すなわち剛し 右から左へ、至誠而して寶、無私すなわち剛(つよ)し、と読みます。

1931年1月6日

東京生まれ

1953年3月

早稲田大学第1法学部卒業

1960年4月

弁護士登録(東京弁護士会所属)

1967年〜1969年

フォード財団奨学生、アメリカ・ワシントン大学 比較法学修士

1984年

コロンビア大学 Law School (ニューヨーク)客員講師(1月〜6月)

1989年1月

ルーバン・カソリック大学(ベルギー)法学部客員教授(1月〜6月)

1990年

財団法人入管協会(2013年より公益財団法人)監事に就任し現在に至る

1992年1月

ルーバン・カソリック大学(ベルギー)法学部客員教授(1月〜6月)

1997年4月

早稲田大学法学部講師

2002年4月

日本大学グローバル大学院客員教授

2004年4月

日本大学法科大学院講師