村上百合香さん コラム

熊本地震から考える多文化共生社会のあり方

村上百合香
(一般財団法人熊本市国際交流振興事業団)

災害大国と言われる日本。2018年も、1月の草津白根山の噴火、2月の北陸・福井の大雪被害など、自然災害は常に私たちの生活を脅かし続けています。誰もが被災者になる可能性があることを、2016年の熊本地震の時私たち熊本市民は実感しました。子どもから老人、車椅子や目が不自由など障がいの有る人、一人暮らしなど環境の違い、日本語が分かる人・分からない人、宗教がある人・ない人、ペットがいる人・いない人、多様な人の暮らしの中に、自然災害というものは、“突然”そして“平等に”襲いかかってきます。

2016年4月に起きた熊本地震では、前震・本震2回の最大震度7の揺れ、さらに延々と続く4000回を超える余震が甚大な被害をもたらしました。当事業団(以下KIFという)では、本震発生の約3時間後、熊本市国際交流会館に外国人避難対応施設を開設し、24時間連続で約2週間運営にあたりました。この情報は、ホームページやFacebookに多言語でアップされ、外国人コミュニティのSNSや口コミで拡散されていきました。私も、限られた時間と手段の中で、担当する日本語教室の学習者と支援ボランティアの方々に連絡をとり、安否確認と情報提供を行いました。そんな中、本震発生から2日後、日本語教室に参加していたスリランカ人から、「部屋がぐちゃぐちゃで危ない。地震が怖くて部屋で眠れない。水も出ない。どうしたらいいかわからない。」と、連絡が入りました。状況を聞くと、同胞5人で行動を共にしており、その内2人は妊娠初期の妊婦さんで、行く場所がなく途方にくれていました。「国際交流会館に来てください!食べ物も寝るところももあります。」と伝えると、とても驚いた声で「なぜこんな時に会館が開いているの?スタッフが働いているの?」と返ってきました。彼らは、「避難所」というシステムを知らず、そもそもこの非常事態に公共施設である国際交流会館が24時間運営しているということが信じられなかったようでした。2人の妊婦さんは、悪阻(つわり)のひどい不安定な時期であったため、歩いて避難してくることさえできないのではないかと心配しましたが、無事に国際交流会館で再会することができ、安堵しました。彼女らのいつもの穏やかな笑顔からは想像できない疲弊しきった姿を目にした時、「なぜ日頃の教室で災害時のことを学習していなかったのか」、「なぜもっと早く避難所の情報を伝えられなかったのか」ひどく後悔しました。他にも、再会した瞬間に涙を流しながら辛かった体験を訴えてきたフィリピン人、出産後直接病院から着の身着のまま避難してきたバングラデシュ人家族など、国際交流会館避難所で目の当たりにした多くの外国人被災者の絶望と涙が脳裏に焼き付き、その時の反省と教訓が今私の活動の糧となっています。

熊本地震から1年が過ぎた2017年6月、使用していた施設が被災し日本語教室が閉鎖となった東区で、新たな多文化共生社会の拠点を目指した日本語教室の取り組みが始まりました 1 。「災害に強い地域」、「誰一人置き去りにしない社会」の実現を目指し、教室を支える日本語サポーターを養成、「お勧めのお店」、「好きな食べ物」、「七夕」、「初詣」などの身近な事や季節の風物詩をテーマにした日本語交流活動による“顔の見える”関係作りを行っています。

地震から、1年10か月が過ぎ、熊本市の在留外国人数は約800名増加しました(2018年2月現在 2) 。KIFの日本語教室に於ける外国人参加者も、今や7割ほどは熊本地震を経験していません。新しい教室も開設し、学習者も支援ボランティアも増える中、KIFスタッフとして常に心掛けていることがあります。それは、KIFについて知ってもらう、自分の顔と名前を覚えてもらう、ということです。災害時だけに限らず、何かあったときに、すぐにKIFもしくは自分を思い出してもらえる、それが現場で学習者や支援ボランティアをつなぐ担当者としての責務だと思っています。とは言っても、現実は1人の力は僅かなもので、外国人の皆さんの住んでいる地域内で、すぐ隣に、信頼できる日本人の存在が大切です。日本語教室は、同じ地域で暮らす外国人・日本人住民が集い、交流しながら、直接つながる場になります。同じ地域に暮らしているからこそ、お互いのことや地域のことを知っていることで、細やかで心のこもった助け合いが可能になります。熊本地震時には、日頃のつながりで、散在する多くの外国人住民の孤立を防ぎ、助けになりました。また、外国人住民も支援する側となり、母国料理の炊き出しをしたり、高齢者家庭へ重たいペットボトルの水などの物資を配ってまわったりして、地域を支えました。まさに“多文化パワー”が発揮された瞬間でした。国籍や宗教は違ってもお互いの文化や習慣に敬意を払いながら、同じ地域住民としてつながり、支え合っていける社会の実現こそが、私たちの目指す多文化共生社会のあり方ではないでしょうか。

現在KIFでは、前述のとおり閉鎖された日本語教室の再開を通して、災害に強い多文化共生社会づくりを推進しています。他にも震災時の経験からの新たな取り組みとして、災害時通訳ボランティアの育成、災害メール配信システム及び在住外国人データベースシステムの構築 3 等を始めました。いずれも、経験から見えてきた課題を解決するため、熊本市と連携し取り組んでいるものです。本市が目指すべき防災・減災のまちづくりを推進するための基本理念を定めた「地域防災計画(平成29年度版)」には、「非常時においては、外国人への配慮が欠如することのないよう、地域住民との協働で災害時でも役立つ日本語講座を実施することなどにより、地域と外国人との顔 の見える関係づくりを促進していくものとする。」という文言が明記されました。 4 今後は、これらの取り組みを通して、外国人を含め災害弱者を置き去りにしない社会の実現に向け一歩ずつ進んでいきたいと思います。

最後になりましたが、震災時に避難所や災害多言語支援センターの運営にご協力いただいた九州地区地域国際化協会連絡協議会、多文化共生マネージャー全国協議会、コムスタカ〜外国人と共に生きる会〜、各外国人コミュニティの皆様に、また、全国・全世界から支援物資・募金や励ましのメッセージ等の大変多くのご支援を届けていただいたことに、心より感謝申し上げます。

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@ 本震後の国際交流会館 外国人避難対応施設の雑然とした様子

A フィリピン人コミュニティによる炊き出し

B 国際交流会館に避難していたスリランカの学習者。震災から半年後に日本語教室に赤ちゃんを連れて来たときの様子。

C 2016年4月14日に誕生した赤ちゃんを抱え避難して来たバングラデシュ人。震災から数か月後、KIFスタッフと一緒に。

D 新設した東区の日本語教室の交流の様子。お菓子作り交流会・初詣体験。


1 文化庁「地域日本語教育スタートアッププログラム」活用。

2 震災前の外国人人口は、4,497人(平成28年4月1日)。現在は、5,335人(平成30年2月1日)。熊本市人口統計 http://tokei.city.kumamoto.jp/content/ASP/Jinkou/default.asp

3 自治体国際化協会「多文化共生のまちづくり促進事業」活用

4 「平成29年度熊本市地域防災計画・熊本市水防計画」https://www.city.kumamoto.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=1368&class_set_id=2&class_id=122

【関連するリンクアドレス】

2016年熊本地震外国人被災者支援活動報告書 http://www.kumamoto-if.or.jp/topics/topics_detail.asp?PageID=6&ID=8887&LC=j&type=1

【著者プロフィール】

2012年入職、2014年から現職。日本語教育支援事業の担当として、地域日本語教室のコーディネートを行う。平成28年度文化庁地域日本語教育コーディネーター研修修了。平成28年度より文化庁地域日本語教育スタートアッププログラムコーディネーターを務める。