多文化共生2.0の時代

第12回 2018.05.08
世田谷区

世田谷区は総人口が90万人を超え、23区最大です。一方、外国人住民はちょうど2万人で、総人口に占める割合は2.2%で、最下位となります。ただし、外国人住民の絶対数では、10番目となります(いずれも2018年1月現在)。

これまで世田谷区の多文化共生の取り組みが注目されることは特にありませんでした。しかしながら、2016年4月に国際課が設置され、多文化共生を所管する部署が明確になり、担当係長が置かれることで、大きな変化が生じました。2016年度には、無作為抽出した世田谷区在住の日本人と外国人それぞれ500人に呼びかけ、地域の国際化を考える意見交換会を実施しました。2017年度には、意見交換会に加え、新たに多文化ボランティア講座(全7回)と日本語サポーター講座(全5回を2期)を開きました。また、「多言語表記及び情報発信の手引き」を策定しました。

そして、2017年度、日本の多文化共生の取り組みの歴史に新たな一歩を刻む動きがありました。性的少数者の人権尊重や男女共同参画の推進をめざした条例の策定に向けた議論が区議会で起こる中、多様性の尊重という観点から多文化共生も取り上げる方向に議論が発展し、「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」が2018年3月の区議会で可決され、2018年4月に施行されました。

男女共同参画と多文化共生には共通するところが少なくありません。どちらも、女性あるいは外国人という社会的少数者の人権にかかわる取り組みであり、前者が男性と女性が共に生きる社会づくりをめざすとすれば、後者は日本人と外国人が共に生きる社会づくりをめざすともいえます。また、性的少数者の中には、「男性」と「女性」という二項対立的な分類に当てはまらないアイデンティティをもつ人が存在するように、日本生まれの外国人や外国人の親をもつ日本人の中には、「日本人」と「外国人」という二項対立的な分類に当てはまらないアイデンティティをもつ人が存在します。自治体では、男女共同参画と多文化共生を所管する部署が同じである場合が少なくありません。

今回の条例は、国籍や民族の違いを理由にした差別や性的少数者(LGBT)への差別の解消を明記し、苦情処理の仕組みを規定した全国初の条例であるとマスコミが大きく報道し、社会的関心を集めました。多文化共生を推進する条例としては、宮城県の「多文化共生社会の形成の推進に関する条例」(2007年)、静岡県の「多文化共生推進基本条例」(2008年)そして滋賀県湖南市の「多文化共生社会の推進に関する条例」(2012年)に続くものですが、差別解消をめざした多文化共生の条例としては全国初であり、多文化共生と男女共同参画の両者を取り上げた条例としても全国初となります。

国籍や民族の違いを理由とした差別の解消に関しては、2016年に大阪市の「ヘイトスピーチの対処に関する条例」や「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が先行して制定されましたが、いずれもヘイトスピーチに限定したものであり、また多文化共生の推進の中に位置づけられたものではありません。ちなみに、全国で外国人住民の比率が一番高い群馬県大泉町では、「あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例」(2017年)が制定されています。

一方、性的少数者の差別の解消に関しては、文京区が「男女共同参画推進条例」(2013年)、多摩市が「女と男の平等参画を推進する条例」(2013年)、渋谷区が「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(2015年)そして国立市が「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」(2017年)をそれぞれ制定しています。世田谷区は2015年11月に、渋谷区と共に全国に先駆けて同性パートナーシップ制度を導入した自治体でもあります。

世田谷区の条例の具体的内容ですが、まず目的は、「男女共同参画及び多文化共生の推進に関し、基本となる理念を定め、区、区民及び事業者の責務を明らかにするとともに、男女共同参画及び多文化共生を推進する施策の基本的な事項を定めることにより、男女共同参画社会及び多文化共生社会を形成し、もって全ての人が多様性を認め合い、人権が尊重される社会の実現に寄与すること」(第1条)となっています。多文化共生施策の内容に関しては、「(6)外国人、日本国籍を有する外国出身者等への情報の多言語化等によるコミュニケーション支援、(7)外国人等が安心して安全に暮らせるための生活支援、(8)外国人等との交流の促進等による多文化共生の地域づくりの推進、(9)外国人等の社会参画及び社会における活躍を推進するための支援、(10)国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる偏見又は不当な差別の解消」(第8条)となっています。

2018年度、世田谷区では、条例に基づいて、男女共同参画と多文化共生の推進に関する審議会と苦情処理委員会を立ち上げる予定です。多文化共生と男女共同参画そして多様性(ダイバーシティ)推進の先駆的自治体となった世田谷区の今後の動きに注目したいと思います。