多文化共生2.0の時代

第22回 2019.08.26
情報の多言語化

2018年12月の入管法改正に伴って、政府は「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」を取りまとめました。同対応策は、「外国人材を適正に受け入れ、共生社会の実現を図る」ための施策をとりまとめたもので、様々な行政・生活情報の多言語化の取り組みが含まれています。

同対応策の目玉事業とも言えるのが、外国人住民への行政・生活情報の提供や相談を11言語以上で行う一元的窓口「多文化共生総合相談ワンストップセンター」の全国100自治体(都道府県、指定都市及び外国人が集住する市町村)での設置の支援です。対応策には、ワンストップセンターをはじめ、行政機関の相談窓口で、AIを使った多言語音声翻訳アプリを活用することも謳われています。

実は、外国人の多い地域の自治体や市民団体は、行政・生活情報の多言語化に長く取り組んできました。1990年代に東海地方を中心に外国人労働者が急増し、自治体や市民団体が外国語での情報提供や生活相談に取り組むようになりました。1995年1月に起きた阪神・淡路大震災では、被災地に暮らしていた約8万人の外国人も大きな被害を受けました。外国人被災者への支援を行うために、いくつもの市民グループが多言語による電話相談や情報提供を行いました。こうした外国人支援活動をきっかけに、多文化共生センターやたかとりコミュニティセンター、神戸定住外国人支援センター、NGO神戸外国人救援ネットなど、多くの多文化共生団体が生まれています。

2004年10月に起きた新潟県中越地震の被災地では、長岡市を中心に約5000人の外国人が生活していましたが、上述の市民団体や多言語情報提供のノウハウを有する横浜市や武蔵野市の国際交流協会などが、震災発生直後から長岡市や同国際交流センターの多言語情報提供活動に対する後方支援を行いました。

こうして、災害時の外国語による情報提供は重要課題として自治体に認知されましたが、もう一つのアプローチに「やさしい日本語」の使用があります。「やさしい日本語」とは、日本語が十分に理解できない人に対して、簡単な語彙で、短くはっきり話す日本語のことで、弘前大学の社会言語学研究室では、阪神大震災の経験をもとに、外国人を情報弱者にしないために、1999年に「災害が起こった時に外国人を助けるためのマニュアル」を作成しました。

2000年代になると、「やさしい日本語」の災害時の情報提供における活用が全国に広がっていきますが、平時の情報提供においても活用が始まりました。2004年に兵庫県西宮市がホームページ上に立ち上げた「多言語生活ガイド」では、やさしい日本語を含めた7言語が用いられました。2010年に横浜市が策定した「多言語広報指針」には、6言語とやさしい日本語を用いることが明記されました。

2011年の東日本大震災でも、震災直後から市民団体などが多言語(やさしい日本語を含む)情報の提供に積極的に取り組みました。被災地の自治体や国際交流協会も多言語による電話相談や情報提供に取り組みましたが、首相官邸や関係省庁の情報発信は日本語が中心で外国語は英語のみでした。

今回、国はようやく外国人への多言語での情報発信に真剣に取り組み始めたといえるでしょう。総合的対応策の中には、外国人住民のための「生活・就労ガイドブック」を11言語で作成することが示されました。法務省は今年4月に、まず日本語と英語で「外国人生活支援ポータルサイト」を立ち上げ、同ガイドブックの日本語版と英語版を掲載しました。続いて、ベトナム語版も公開されました。今年6月に策定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について」では、同ガイドブックをやさしい日本語を含めた14言語(やさしい日本語、英語、中国語、韓国・朝鮮語、スペイン語、 ポルトガル語、イントドネシア語、ベトナム語、タガログ語、タイ語、 ネパール語、クメール語、ビルマ語、モンゴル語)で作成することの他、気象庁ホームページや外国人労働者向け安全衛生教材の多言語化(14か国語)、母子健康手帳の多言語化なども示されています。

2001年に外国人労働者の多い自治体が集まって設立した外国人集住都市会議では、長年、社会保障と税などに関する国の制度や災害や感染症発生時の全国共通の情報については、国の責任で多言語発信することを求めてきました。これまで、政府による多言語情報の発信がない場合、外国人住民の多い自治体や国際交流協会などが翻訳してきましたが、全国共通の情報を各地で翻訳するのは非効率ですし、情報の正確性の面でも問題があることはいうまでもありません。

今こそ、関係省庁の取り組みを総合的に推進するため、どのような情報をどの言語(やさしい日本語を含む)で発信するのか国としての基本指針を策定すべきでしょう。その際の基本的な考え方として、観光客を含めた短期滞在者や来日間もない外国人住民には情報を多言語で提供し、定住者には日本語教育を推進することが望ましいでしょう。一方、滞在の長短にかかわらず、医療や災害など生命に関わる情報は多言語化のニーズが高いと言えます。

また、これまで多言語での相談に取り組んでいる自治体でも、せいぜい5言語程度のところが多く、いきなり11言語に増やすのは無理があるといえます。最近では、AI翻訳への期待が高まっていますが、情報発信はともかく相談業務でAI翻訳に頼るのには限界があるといえます。国として、特に国内在住者が相対的に少ない外国人の言語に関する通訳・翻訳体制(コールセンターを含む)を整備し、それを自治体が活用することを検討すべきではないでしょうか。

 

*2019年8月14日付のThe Japan Timesに掲載された拙稿 “Multilingual support for foreign residents” を日本語に翻訳し、一部手直ししたものです。