高橋 伸行さん コラム

多文化共生を進めるうえで行政職員と多文化共生マネージャーが果たす役割

高橋 伸行((特活)多文化共生マネージャー全国協議会 理事)(船橋市市長公室秘書課国際交流室長)

東日本大震災を契機に多くの自治体で、外国人に対する災害時の対応をどうするかが話題となり、災害時というある一つの視点では、取り組みが進んできたかなと感じています。

さらに、行政の区域を超えた広い範囲での連携といった取り組みが進められている地域もあります。

もちろん、東日本大震災よりも以前から、積極的に取り組んできた自治体や国際交流協会もあったわけで、どこに違いがあるかと振り返ってみると、以前から取り組んできた自治体や国際交流協会には、私の知る限りにおいては、多文化共生マネージャーの存在がありました。

こうした行政と地域団体、市民が連携するための橋渡しをすることは、これまで多くの地域で国際交流協会が中間支援組織として活動してきたところですが、行政も国際交流協会もそれぞれの区域内での活動に限られていることから、より広範囲での連携が必要になっている現在は、多文化共生マネージャーがその役割を担っていくことが良いのではないでしょうか。

さて、多文化共生社会の実現に向けて、総務省が「地域における多文化共生推進プラン」を策定したのが平成18年でした。

あれから10年経過しましたが、地域における多文化共生がそれほど進んでいないのはなぜなのでしょうか。

CLAIRの認定する多文化共生マネージャーの誕生も同じ平成18年。多文化共生マネージャーの認定数は、400人を超えようとしています。そういう状況を考えると、もっと多文化共生マネージャーが地域の多文化共生の先頭を走っていく姿がなくてはならないと思っています。

しかしそうなっていないのには、認定はされたもののその後の育成が組織的に行われてこなかったことも一つの原因であると思っています。

また、共生という言葉が、日本人が外国人に対して妥協しなければいけないと勘違いされ、何かと外国人のために自分たちの暮らし方まで外国人に合わせなければいけないのは迷惑だという意識があったり、行政の人口のわずか2%程度の外国人に、行政として直接的な関わり方に疑問を持っている自治体もあったと思います。

さらに自治体にとって最もつらかったのが、平成18年から22年にかけて実施された集中改革プランのひとつである定員管理計画による職員削減の時期と重なったことだったのではないでしょうか。

本来なら、国際化担当部門では人手をさいて検討すべき時期に、集中改革プランにおいて都道府県が行っていた事務が地方公共団体に権限委譲されたり、多くの自治体で10%近くの職員を削減することが求められるといった状況にありました。

この状況は、現在も多くの自治体で職員不足による時間外勤務の増加といった影響が残っています。

多文化共生にかかわらず、行政が抱える課題は様々です。その課題とは、行政の地図上の区域とそこに生活する住民との生活圏が同じ範囲だけでなくなっていることがあげられると思っています。行政区域をまたいで生活圏が形成されている現在において、一つの自治体だけでは解決できない問題も数多くあります。

だからといって、行政はできないことの理由を述べていたのでは、何の進展もありません。

行政はこれまで、公平性や平等性を重視してきました。また、これからも基本的にはこの路線は継承されていくことになるはずです。なぜなら、行政の役割の一つには、社会秩序の維持があるわけで、社会秩序の維持には一定のルールは必要です。ルールの適用にはある程度の公平性や平等性は必要になります。ですから縦割りやら融通が利かないなどの批判はあっても、行政という組織に属する行政職員は、一定の枠の中でこのルールを守ることに関しては、ぶれることがあってはいけません。

一方で、常に社会の変化に柔軟に対応していくことが求められていることは言うまでもありません。これまでのように、すべてを行政で実施し、発生した案件に対処するのではなく、地域が目指している社会の実現に向けて、どうやったら地域の力を利用できるのか、そうした視点で考え企画・計画していくことが必要です。

その際には、法律を盾にできない理由を語るのではなく、積極的にできる手段を明示し、支えになることが大切です。

計画を実施するうえでは、マネジメントやコーディネートする力が必要になってきます。多文化共生マネージャーは、行政と地域社会、さらには行政範囲を超えた生活圏という広い範囲での連携に向け、単に自身の所属している団体や関係する機関との顔の見える関係づくりにとどまらず、価値観の異なる集団とも顔の見える関係を常に築き続けることが求められていると思います。

【著者プロフィール】

1966年千葉県生まれ。1989年に船橋市役所入所。2004年4月から2009年3月まで国際交流担当。2010年子育て支援部児童家庭課係長、2013年4月行政管理課長補佐、2015年4月から現職。

2006年に全国市町村国文化研修所において多文化共生マネージャー養成研修を受講し、(財)自治体国際化協会から多文化共生マネージャーとして認定を受ける。2007年の新潟県中越沖地震の際に、柏崎市の災害多言語支援センターで、他の多文化共生マネージャーとともに外国人支援活動に参加。

同年から船橋市において災害時の外国人支援ボランティア養成講座及び避難所運営訓練を実施し、2008年には宿泊型の外国人のための避難所訓練を開催。

2009年3月、NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会の設立とともに理事に就任。船橋市における災害時外国人支援ボランティア研修のファシリテートのほか、全国の自治体や地域国際化協会などが実施する災害時の外国人支援ボランティア育成や外国人住民のための避難所訓練などで講師やアドバイザーを務める。

2011年3月の東日本大震災では、「多言語支援センター茨城」の設置、運営における責任者として活動した。