ドロシー・ヤウさん コラム

私を創った“open-mindedness”

ドロシー・ヤウ
((一財)自治体国際化協会 多文化共生部 多文化共生課 プログラム・コーディネーター)

「多文化共生」って何?

6か月前に今の職場で働きだした私は、自分自身にこの質問を繰り返しました。なぜなら、今の仕事を始めるまでは「多文化共生」という言葉を一度も耳にしたことはなかったからです。辞書やネットで調べたら、“multicultural symbiosis”や“intercultural cohesion”という意味が出てきましたが、英語で見てもよく理解できませんでした。なぜかというと私の出身のイギリスでは「多文化共生」は当たり前のことで、改めて考えることではなかったからです。

ここで、私がイギリスで経験した「多文化共生」を少し紹介させていただきます。私は6歳までずっと香港に住んでいました。その後、イギリスのロンドンに移住しました。もちろんその時はまだ英語は全く話せませんでした。イギリスの小学校は5歳からだったので、香港の幼稚園に通っていた私は、すぐにイギリスの小学校2年に入学することになりました。香港の幼稚園では、同じ香港出身のクラスメイトと過ごしていましたが、ロンドンの小学校と香港の小学校と比較すると、一つ大きな相違点がありました。それは何かというと、クラスに色々なルーツ・国籍・文化を持つ子供たちがいるのが普通で、一人一人外見が違うのも当たり前だということでした。言葉は全く通じませんでしたが、一日目から休憩時間に他のクラスメイトに誘ってもらって、みんなと仲良く遊びました。クラスメイトは皆、私が外国人だからといって距離をとることや仲間はずれなどはしませんでした。今振り返ってみると、6歳の子供たちはまだ先入観を持っていないので、私が自然に溶け込むことができ、クラスメイトとすぐに仲良くなれたのではないかと思います。語学に関しても、最初はクラスメイトと別室で英語の授業を受けましたが、3年生になる前にはもう他のクラスメイトと一緒に普通の授業を受けることになりました。振り返ると、ほとんどの英語は日常生活とクラスメイトとの会話から自然に覚えたと思います。それからは大学卒業までイギリスの学校に通いました。その中で全く差別されたのを感じなかったとは言えませんが、大きな問題もなく過ごすことができました。イギリスの生活の中では自分が「外国人」であることをあまり意識していませんでした。

人生で2度目の大きな文化の違いを経験したのは6年前、JETプログラム参加者として来日したときです。日本の英語教育や国際交流に少しでも貢献できたらと思い、JETプログラムに応募しました。日本語は趣味で一年ほど学んではいましたが、日本に来るのも初めてでした。来日してからの5年間は外国語指導助手(ALT)として小中学校で英語を教えました。最初に一番驚いたことは、多くの子供たちにとって、初めて会った外国人が私だということでした。私がイギリス人であることを伝えても、ほとんどの子供たちはそれを信じてくれませんでした。私はアジア系で、見た目は日本人の子供たちとそんなに変わらないので、テレビや映画で見ていたイギリス人のイメージと異なり、外見からは「イギリス人」に見えなかったからです。でも、私は決してこれを失礼なことだとは思いませんでした。イギリスに移住するまでの私も、恐らく同じことを考えたと思います。このことをきっかけに、「イギリスには色々な人たちが共に生活していること」や「外見から人を判断しないこと」を子どもたちに少しでも伝えることができたらと思うようになりました。イギリスでの色々な経験から気づいたことは、幼い頃からこういう意識を持つことこそが、これからの多文化共生につながるのではないかということです。

イギリスでは250以上の国籍の人々が暮らしています。その中では300以上の言語が使われています。現在は人口の約14%が海外生まれで、ロンドンだと約40%にもなります。街を歩いても、色々な人々がいるのは当たり前で、日常では「外国人」という言葉をあまり使いません。国籍とは関係なく、誰もが社会の一員であり、共に生活しています。ロンドンでは、国籍、出身、外見が違っても、みんな “Londoner”(ロンドナー)であることを誇りに持っています。もちろん、この多様な社会の中で差別や問題が起こらないとは言えませんが、こういう問題を乗り越えることで学ぶこともあり、それでより住みやすい環境になるのだと思います。

イギリスに対して、日本の人口の約2%は外国籍ですが、最近では街で外国人を見かけることや、外国にルーツを持つ子供たちが学校にいるのも珍しくありません。2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることにより、観光客や在住外国人が増加することが予想されています。これからの日本の多文化共生社会を実現するには、“open-minded”な考え方、つまり偏見のない心を持つのはとても大事なことだと思います。国籍だけではなく、文化、性別、宗教、障害、LGBTQなど、この世の中に様々な人々がいます。人の違いを認め、理解し、尊重することを幼い頃から学ぶことが大切だと思います。6歳の私の周りにいた皆さんの “open-mindedness”のおかげで今の私がいると思います。

皆さんの周りにも“open-mindedness”があふれる社会になることを願っています。

小学校2年の多様なクラスメイトたちと

小学校2年の多様なクラスメイトたちと

【著者プロフィール】

Dorothy Yau(ドロシー・ヤウ)

2012年JETプログラム参加者として来日。5年間、奈良県橿原市で小中学校の外国語指導助手として英語指導、国際理解指導、スピーチコンテストの指導を行う。

JETプログラム修了後、2017年9月から現職。

平成29年第2回多文化共生マネージャー育成研修修了、多文化共生マネージャー第25期に認定。