コラム

第5回 浜松市とインターカルチュラル・シティ

山脇啓造

浜松市主催(欧州評議会、国際交流基金共催)で、公開シンポジウム「インターカルチュラル・シティと多様性を生かしたまちづくり 2017浜松」が、10月5日に同市内で開かれました。欧州評議会を代表して、インターカルチュラル・シティ担当課長のイヴァーナ・ダレサンドロ氏とインターカルチュラル・シティの生みの親ともいえる都市政策専門家のフィル・ウッド氏が参加しました。当日は、報告者を含めて、約100人の参加者となりました。インターカルチュラル・シティは、欧州評議会が2008年に始めたプログラムで、移民がもたらす多様性を都市の活力や革新、創造、成長の源泉とすることを目指し、現在、欧州を中心に120を超える都市が参加しています。

このシンポジウムでは、まず筆者が「欧州と日本の多文化共生都市のこれまでとこれから」と題して基調講演を行いました。次に、鈴木康友市長をはじめとして、浜松で多文化共生の活動を行っている15人のキーパーソンが集まり、筆者のコーディネートのもと、「多様性を都市の活力としていくために」をテーマに討論しました。外国人第二世代が能力を発揮できていない現状の指摘があり、企業と連携した取り組みの必要性が唱えられました。そして、ダレサンドロ課長とウッド氏が、インターカルチュラル・シティの概念や背景、現在の活動などについて講演しました。シンポジウムの最後には鈴木市長とダレサンドラ課長が浜松市のインターカルチュラル・シティ加盟に関する文書に署名し、鈴木市長が浜松市のインターカルチュラル・シティへの加盟を宣言して、幕を閉じました。

インターカルチュラル・シティに参加する欧州の自治体と日本の自治体の交流は、国際交流基金のイニシアティブで2009年に始まりました。2012年1月には、多文化共生に取り組む日本と韓国そして欧州の自治体首長が一堂に会した多文化共生都市サミットが東京で開かれ、「文化的多様性を都市の活力、革新、創造、成長の源泉とする新しい都市理念を構築し、多文化共生都市が連携し、互いの成果から学び、共通の課題を解決する」ことを目指すとともに、「異なった文化的背景を持つ住民が共に生き、繁栄し、調和した未来の都市を築いていく」ことを唱えた「多文化共生都市の連携を目指す東京宣言」が採択されました。

2012年10月には浜松で、2013年10月には韓国安山でも多文化共生都市サミットが開かれ、その後、自治体担当職員など実務家レベルの交流が続いて今日に至っています。これまで、欧州都市との交流に最も関心を示し、インターカルチュラル・シティの取り組みを参考にしてきたのが浜松市でした。浜松市は、2013年3月に多様性を生かしたまちづくりに力をいれる多文化共生都市ビジョンを、日本そしてアジアで初めて策定しました。そして、欧州評議会に日本がオブザーバー参加をして20周年となる2016年11月に、フランス・ストラスブールで開かれた欧州評議会主催の世界民主主義フォーラムに鈴木市長が参加し、外国人の子どもの教育について報告しました。その際に、欧州評議会のガブリエラ・バタイニ=ドラゴーニ事務次長からインターカルチュラル・シティへの加盟の要請がありました。

浜松での公開シンポジウムの2日後の10月7日には、フィル・ウッド氏を講師に迎えた明治大学大学院(国際日本学研究科)主催の講演会「日本はインターカルチュラルになるのか-浜松市を事例として」が、明治大学中野キャンパスで開かれました。ウッド氏は、市長のリーダーシップや学校教育、日本語学習の充実などを挙げて、浜松市の取り組みを高く評価しました。一方で、ビジネスセクターとの連携や政治参加、仲介・仲裁の取り組みなどを今後の課題として指摘しました。

ウッド氏の講演の後、埼玉県川口市の芝園団地(UR賃貸住宅)自治会の岡崎広樹事務局長と一般財団法人kuriyaの海老原周子代表理事が、それぞれ外国人住民が多く住む同団地での実践や都内の外国ルーツの若者と取り組むアートプロジェクトの実践をもとにコメントし、30人ほどの聴衆との質疑応答に移りました。質疑応答では、異なる文化背景を有するグループの間を取りもつ仲介・仲裁者をどうやって育成したらよいか、ゲート・キーパー(グループの門番)でなく、ブリッジ・ビルダー(グループ間に橋をかける人)を見つけるにはどうしたらよいかという興味深いやりとりがありました。

筆者は、2012年の東京サミット以来、バージョンアップした多文化共生として、「多文化共生2.0」の推進を唱えてきました。2006年の総務省の「地域における多文化共生推進プラン」の策定以来、全国に広がった多文化共生の取り組みが、外国人支援の取り組み中心であったことを踏まえ、支援の必要な外国人には支援を続けながら、さらに外国人住民がもたらす多様性をまちづくりに活かし、文化背景にかかわらず誰もが活躍する社会づくりを進めることの意義を唱えてきました。今回の浜松のインターカルチュラル・シティへの加盟によって、多文化共生 2.0の動きに弾みがつき、浜松市を核に国内外の都市連携が進み、日本でも多様性を生かした社会づくりが進むことを期待したいと思います。

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