コラム

第25回 「ワンチーム」から「多様性と調和」へー日本は共生社会に向かうのか

山脇啓造

2019年の日本は、平成時代が終わり、令和時代が始まった年として記憶されると思いますが、流行語大賞は「ワンチーム」でした。2019年秋に行われたラグビーワールドカップ日本大会で、日本代表チームはアイルランドやスコットランドといった強豪国を破り、日本ラグビー史上初の決勝トーナメント進出を決めました。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「ワンチーム」をスローガンに掲げましたが、ニュージーランド、トンガ、南アフリカなど6カ国15人の海外出身者を含む31人の代表選手は結束して、快進撃を続け、日本中の老若男女が熱狂的に応援しました。日本代表チームの活躍に、日本社会のあるべき将来像を見た人も少なくありません。

2019年4月には、新たな外国人労働者の受け入れを始める改正入管法が施行され、出入国在留管理とともに外国人支援や共生社会づくりを担う出入国在留管理庁が法務省の外局として設置されました。また、6月には国内外の外国人への日本語教育を進める日本語教育推進法も施行され、多文化共生社会づくりに向けた政府の取り組みが動き出した一年でもありました。

そうした日本の変化を象徴する存在となっているのが、4月の統一地方選で当選したプラニク・ヨゲンドラ(愛称よぎ)江戸川区議です。全国でわずか数名に過ぎない外国出身議員の一人であり、日本初のインド系議員です。1990年台後半に日本に留学したよぎさんは、2005年から東京都江戸川区のインド人多住地域に暮らし、2012年に日本国籍を取得しました。議員就任後、日本のマスコミに頻繁に登場し、多文化共生のメッセージを発信しています。

日本政府は、移民政策をとらないことを強調していますが、日本に暮らす外国人は2019年6月末で過去最高の283万人となり、そのうちの約半数は定住者となっています。一方、2019年に国内で生まれた日本人の子どもは、統計を始めた1899年以降で初めて90万人を割り、急速に少子化そして人口減少が進んでいます。

外国人の多い自治体は、着々と外国人の定住化に備えた政策を進めています。全国一ブラジル人が多く暮らし、多文化共生のフロントランナーとして知られる浜松市は、2017年に欧州評議会が進める国際的な都市ネットワーク「インターカルチュラルシティ・プログラム」にアジアで初めて加入しました。鈴木康友浜松市長は、2019年10月に同プログラムの会員都市であるボッチェルカ市(スウェーデン)の市長とバララート市(オーストラリア)の副市長を招いた国際会議を開き、多文化共生の政策や取組について意見交換を行ないました。

在日コリアンが多く暮らし、同じく多文化共生のリーダー都市として知られる川崎市は、外国人等へのヘイトスピーチに刑事罰を科す法律がない中で、2019年12月、刑事罰を科す全国初の条例を制定しました。また、災害時の外国人への情報提供のツールとして生まれた「やさしい日本語」を、日本人住民が学んで、地域住民間のコミュニケーションを進める取り組みが、2018年に東京都港区や大阪市生野区で始まりました。2019年になると、東京都など他の自治体にもそうした動きが広がり、法務省もやさしい日本語のガイドライン策定に動き出すなど、2019年は「やさしい日本語元年」となっています。

2020年は、東京で2回目のオリンピック・パラリンピック大会が開催される年であり、大会ビジョンの3つの基本コンセプトの一つが「多様性と調和」です。東京都は、2018年に性的少数者に対する差別や外国人へのヘイトスピーチの解消をめざした条例を制定しました。大会組織委員会は「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩」すると謳い、「東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会を育む契機となるような大会とする」ことを掲げています。

日本といえば、均質的で排他的というイメージが国際的にあるかもしれませんが、2020年、東京そして日本において、多様な人々が共に生きる社会づくりが進むかどうか、世界が注目しています。

*2020年1月12日付のThe Japan Timesに掲載された拙稿 "Japan's move toward a diverse and inclusive nation?" を日本語に翻訳し、一部手直ししたものです。

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