コラム

地方コミュニティの共創:一時滞在から国民へ

地方コミュニティの共創:一時滞在から国民へ

青森公立大学経営経済学部地域みらい学科教授 佐々木てる

はじめに

先月のコラムにもあった通り、新型コロナウィルスの影響で外国人観光客の方々はほとんど来日することができなくなりましたが、私たちの社会には多くの外国籍の方々が共に生活をしています。我々のコミュニティでは、飲食店、学校、工場、サービス業など様々な分野で、多くの外国籍の方が共に働いているし、生活しています。そこで今回は地方地域に住んでいる人々に注目して、コミュティの共創について考えていきましょう。

というのも現在の日本は首都圏を除き、圧倒的に人口減少地域が多く、その対策として外国籍の方々を迎え入れようと考えているからです。私が現在生活している青森県でも深刻な人口減少に直面し、次世代を担う人々の育成や、文化伝統の継承などを直近の問題として取り組んでいます。そこで今回は青森県の事例を紹介しつつ話をすすめていくとこにします。

1.青森県の人口減少と外国人人材の導入

青森県の人口は令和3年1月1日現在で1,227,653人、ピーク時が約157万人(1983年)で30万人減、ここ10年では15万人減少しています。人口減少率も2020年では秋田県に続いて2番目の多さでした。そういった背景もあり、10年くらい前から海外から働きにきてくれる人を積極的に受け入れるようになっています。例えば平成26年の外国人労働者数は1,422人であったのが、令和2年では4,065人と6年間で約3倍近く増加しています1。青森県の外国人人口を在留資格別2でみると令和2年6月現在では「技能実習」が2,513人(63.3%)、「永住者」1,183人、「特別永住者」563人となっています。以下、「留学」372人、「技術・人文知識・国際業務」351人、「日本人の配偶者等」334人、「教育」150人の順です。ちなみに「在留資格」とは、海外から来た「外国籍者=外国人」が日本政府から付与される「身分」と考えていいでしょう。それぞれの身分=資格によって日本での滞在可能期間が定められています。また「本邦において行うことができる活動」が記されており、それは行ってもいい仕事内容をさしています。それに違反すると、出入国管理法違反となり、場合によっては「強制送還」になるケースもあります3

2.コミュニティの担い手としての外国籍住民:「技能実習生」

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青森県でも近年増加している在留資格は「技能実習生」だといえます。青森県は第一次産業が盛んな地域です。全国的に有名なりんごの他、にんにく、ごぼうなど全国1位、やまいも、なたねも全国2位の生産量を誇っています。また水産業ではいか類、ほたて、しじみ、ひらめなどが全国トップクラスの漁獲高を誇っています。ところが、こういった一次産業の担い手は高齢化が進み、次世代の担い手もなかなか育っていません。現在の仕事を維持するために、「技能実習生」に依存する傾向が強くなっているわけです。私が訪れた農家さんでは、ゴボウの選定の仕事を手伝っていた方に会うことができました。農家さんの自宅の敷地内にプレハブの部屋があり、そこで寝泊まりしながら働いていました。

画像2.jpgまた生産したものを加工する工場もあります。そういった場所で働く「技能実習生」が徐々に増加しています。そのほか、調査で訪れたことがあるのは、造船会社でした。造船会社では溶接の作業員が不足しており、おおよそ10年くらい前から中国の技能実習生を雇っています。また現在ではベトナムからの実習生が増加しているそうです。こうした人々は、所定の期間が過ぎれば本国に帰国してしまいます。しかしながら、地元の産業の人手不足を補うという意味で、まさしく地域コミュティを陰ながらささえているのは間違いありません。そういった事も少しずつではありますが、地元の人に認知されつつあり、地域の人との交流が報告されています。「技能実習」制度は、様々な点で問題を抱えており、実際は「単純労働」をささえる制度だということは、誰しもがわかっています。ですので、現場の人は早く名実ともに労働者として、仲間として雇いたいと思っている人が多いようです。いずれにせよ、地方地域における人手不足、労働力不足の解消は急務になっているのが現状です。

3.短期滞在から永住市民へ

画像3.png短期で働きにくる人以外に、長期で働き、そして生活拠点を日本にしている人もいます。青森県内で、ここ数年ネパール人のインドカレーのお店が増加しました。首都圏から知り合いをつてに移住したそうです。青森の寒い風土は郷土に近く、食材も人もいいことから青森に移り住んだそうです。調査に伺ったお店の店主は、コックさんの在留資格「技能」から、現在は2店舗経営するため「経営・管理」の在留資格に変更したそうです。このほか、青森市のインドカレー屋さんはもう10年以上も日本に滞在しています。当初はやはり「技能」の在留資格だったのですが、現在はようやく「永住」になったそうです。パートナーと二人で店をきりもりしていて、子どもは本国にいるようです。今後も青森でお店を続けていきたいと思っています。それ以外にももちろん「特別永住」の在日コリアンの方もいますし、日本の方と結婚したフィリピン人の方もいます。日本での滞在が長期化し、そして永住権を取得するのは自然のことといえます。特に仕事と家族があれば、その傾向が強まるのが普通です。そういった身分の人を「永住市民」として一般の外国人とは違う人として捉える必要があります。

4.多文化共創にむけて:国籍を考える

永住権を取得する人は最終的に日本の国籍を持つか考えるようです。なぜなら周囲の日本人と制度上も同じ立場になり、身分が安定するからです。日本の国籍をもっていれば、自動的に子どもも日本国籍を取得でき、子どもの将来も安心です。すでに述べたように日本社会の側からすれば、地方都市のコミュニティは人口減少問題が大きな課題となっています。そのためには海外から来た方で、地域になじんでもらえる方は、積極的に永住してもらい、一緒に地域を盛り上げてほしいでしょう。短期滞在から「永住市民」の地位を得て、最終的には国民になってもらうのが望ましいでしょう。

ただし国民になるためには国籍取得=「帰化」が必要になっています。青森県で調査した人の多くは、日本に永住するつもりであるが、日本の国籍は取得したくないと言います。なぜなら、本国の国籍を放棄しなければならないからです。特に日本は血統主義を採用していて、日本で生まれただけでは、日本国籍を自動的にはもらえません。また最近問題になった例では日本人が別の国の国籍を取得したことで、日本国籍が強制的に剥奪されたことがあります4。これほど人口減少が叫ばれている中、日本の国籍制度は日本国民を増やさず、そして積極的に人口を減少させる機能を維持しています。もちろんそれに対しておかしいという人も多く、国会議員でも超党派でこの問題、国籍法改正に取り組んでいる人もいます。

おわりに

日本は残念ながら海外から来た人を、単なる一時的な滞在者とみなし、将来の国民になる可能性がある人とはとらえていないようです。「出入国在留管理庁」ができたのはいいのですが、さらに発展して早く「移民庁」を設立してほしいです。そして「移民庁」が主導で、短期滞在から、長期滞在(永住)、そして希望があればスムーズに国民の地位に移行できる制度を作ってほしいと思います。海外からやってきた、そして様々なルーツを持つ人が、将来も安心してその地域コミュニティで生活できることがわかれば、世界から多くの人が集まり、自然と多文化共創社会が生まれるのではないでしょうか。


1 「外国人雇用状況」の届け出状況のまとめ(令和2年10月末現在)」厚生労働省青森労働局Press Release
https://jsite.mhlw.go.jp/aomori-roudoukyoku/redirect/684_data_00067.html
2 出入国在留管理庁HP、入管政策・統計 統計【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】2020年6月のデータより。
http://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html
3 身分の種類は「出入国管理及び難民認定法」の「別表第一、第二」というものをご覧ください。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326CO0000000319
4 この点は二重国籍の問題になります。国籍問題研究会編2019『二重国籍と日本』ちくま新書、佐々木てる編2020『科学研究費助成事業報告書 重国籍制度および重国籍者に関する学際的研究』などを参考しています。

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増田 隆一

新型コロナウイルスの感染予防のために、今や世界中の誰もが工夫をして日常生活を送っています。肘の先でドアを押し開けることもその一つです。「今日も一日気をつけて行くか」というニューノーマルの気合です。

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