コラム

外国人留学生の就職と自立

外国人留学生の就職と自立

大東文化大学非常勤講師 マハルザン・ラビ

1.外国人留学生の就職の現状

日本に在学している外国人留学生は2020年5月1日現時点で279,597人です 1 。この数を出身地域別でみるとアジア系が多く(図1)、2020年度は約95%を占めています。コロナ禍の影響もあり、外国人留学生の数は2019年から1割程度減りましたが、日本に留学したいという外国人は、年々増加しています。特に、コロナ禍前の数年には、ベトナムやネパールからの留学生が急増していました。ネパールのような南アジアの留学生が増えた理由は、中国、韓国からの留学生減少に危機感を感じた日本語学校が、非漢字圏諸国の留学生を受け入れたからだと思われます(佐藤、2016) 2
 

図1: 2020年(令和2年)出身国(地域)別留学生数ランキング「(  )=2019年の数値」(単位 人)
出典:独)日本学生支援機構|2020(令和2)年度外国人留学生在籍状況調査結果 3

図1


外国人留学生の就職に関する状況も同じような傾向です。2020年(令和2年)に日本の大学・専門学校などを卒業した後、就職を目的に在留資格の変更を許可された外国人留学生の数は29,689人でした 3 。(図2)コロナ禍の影響もあるので、2019年(令和元年)と比較すると少し減りましたが、コロナ禍前の年を見てみると毎年増加していることがわかります。(図3)2020年(令和2年)に就職した人の数を国別で見ると中国10, 933人、ベトナム6, 582人、ネパール3,552人でした。2015年(平成27年)から2020年(令和2年)の許可人数の推移を比較すると、中国は減少していて、ベトナムやネパールが急増している傾向です。一方、2009年(平成21年)から2020年(令和2年)の許可人数の推移をみると、2016年(平成28年)以前の年に比べて少し許可率が低くなっています。日本のように人手不足に悩む中小業がたくさんある国にとって留学生は貴重な人材ですが、就職率が以前より低くなっているのはなぜでしょうか。その原因を調べ、解決策を探す必要があると考えられます。

図2:留学生からの就職目的の処分数等の推移
出典:出入国在留管理庁|令和2年(2020年)における留学生の日本企業等への就職状況について4

図2

図3:国籍・地域別の許可人数の推移
出典:出入国在留管理庁|令和2年(2020年)における留学生の日本企業等への就職状況について4

図3

2.日本に留学する理由と希望

世界各国から日本に留学したいという人が増えている理由としては、日本が世界に届けている日本独特の文化、ポジティブ思考や優れた技術だと考えられます。日本の技術を学び、卒業後出身国に戻り就職したいという留学生もいますが、多くの留学生は日本において就職したい、日本で生活を続けたいという希望を持っています 5 。例えば、ネパールのような途上国の留学生は、勉強のためだけではなく、キャリアのため、日本で働くためにも来日しています。しかし、外国人留学生の就職の現状をみると就職を希望する人の数と就職している人の数には乖離があります。日本学生支援機構(JASSO)の平成29年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果によると、平成29年度に日本の大学または専門学校を卒業/修了した外国人留学生50, 054人のうち、日本で就職した人は16,242人(約32%)でした 6 。また、同年度のJASSOの私費外国人留学生生活実態調査結果によると、卒業後に日本での就職を希望する外国人留学生は約64%を占めています 7 。卒業後帰国を希望する人や日本以外の国での就職を希望する人を除いて、日本の大学または専門学校を卒業した後就職したくてもできない留学生にはどのようなハードルがあるのでしょうか。就職の現状と課題について考えていきましょう。

3.外国人留学生が日本での就職で直面する問題

日本で就職を希望する外国人留学生が、就職したくてもできない原因はいくつかあると考えられます。著者自身も留学生として来日しましたが、その経験と自分のコミュニティ(ネパール)の留学生向けの活動の経験から考えます。
 現在約10万人が在住しているネパール人のうち、3割が留学生です。日本の外国人留学生の数を出身国別でみると、中国、ベトナムに続き、第3位になります。
 ネパールの留学生の就職率が低い原因として挙げられるのは、1)日本の就職活動のあり方が理解できない、2)日本語能力が足りない、3)日本語による書類の書き方が分からない等です。ネパールの留学生は、留学するため母国で借金して来日しており、生活するお金や学費も自分で用意しなければなりません。そのため、大学より学費が安い専門学校や日本語学校などを選び、就職を目指す人が多いのですが、就職までのサポートが足りず、そのまま帰国する学生が著書の身の回りにたくさんいます。日本と違う文化で生まれ育った留学生には、日本の企業のあり方を十分に理解できていないこともあると思いますが、日本での留学経験を生かせるような場所を作る必要があると思います。
 外国人留学生が直面する大きな壁の1つは言語だと考えられますが、日本人との交流がないのも課題です。留学生として活動していた頃、著者自身も日本人と接する機会が少ないと感じていました。その結果、就職に関する情報やノウハウを知らない人が私の周りに多くいました。日本で留学生として何年も活動した後、希望の就職ができず残念な気持ちを持って帰国する人が多いのが現状です。

4.おわりに

日本にとって外国人留学生は重要な人材であり、留学生の安定した着地を考えていく時代になっていると感じます。日本に在学する留学生の多様性を考慮し、日本語能力だけにこだわらず、個人の能力とスキルを求める社会になってほしいです。
 留学生を求人する企業を増やすためには、留学生が就職に必要なスキルを身につけられるプログラムや、就職に関することについて気軽に相談できる支援センターなどが必要だと考えられます。さらに、日本語を学ぶことができる環境を作り、日本語学習のモチベーションを維持・向上させ、留学生が自立できるようにしていくのが重要です。日本で就職したい留学生をサポートすることで、留学生がこれからの日本社会に貢献できるようになると考えます。



出典
1 独)日本学生支援機構|令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/04/date2020z.pdf
2 佐藤由利子(2016)「ベトナム人、ネパール人留学生の特徴と増加の背景―リクルートと受け入れにあたっての留意点―」『ウェブマガジン留学交流』2016年6月号Vol. 63 
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/related/kouryu/2016/__icsFiles/afieldfile/2021/02/18 /201606satoyuriko.pdf
3 独)日本学生支援機構|2020(令和2)年度外国人留学生在籍状況調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/04/date2020z.pdf
4 出入国在留管理庁|令和2年における留学生の日本企業等への就職状況について
https://www.moj.go.jp/isa/content/001358473.pdf
5 独)日本学生支援機構|令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/06/seikatsu2019.pdf
6 独)日本学生支援機構|平成29年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2020/09/date2017sg.pdf
7 独)日本学生支援機構|平成29年度私費外国人留学生生活実態調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2020/10/seikatsu2017.pdf

著者プロフィール
マハルザン・ラビ
 大東文化大学外国語学科・スポーツ健康学科非常勤講師。博士(英語学)。トリブバン大学国際言語学部で日本語を学び、2009年留学生として来日。2012年大東文化大学大学院外国語学科英語専攻博士課程に入学し、2018年博士号を取得。5か国語(英語、日本語、母国語ネワ-ル語、ヒンディ語、ネパール語)に精通。

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