コラム

ニューノーマル時代のダイバーシティ・マネジメントを考える

ニューノーマル時代のダイバーシティ・マネジメントを考える

東京未来大学モチベーション行動科学科教授 郭 潔蓉

1.岐路に立たされる外国人雇用戦略

新型コロナウィルスが世の中の動きを一変させるまでは、少子高齢化による構造的な労働力不足が日本社会の大きな課題として浮上していました。中小企業を中心に労働力不足が原因となり倒産をしてしまう「人手不足倒産」の件数が年々増加し、日本経済の停滞につながることが問題視されるようになりました。
 その打開策として大きな注目を集めたのが新たな労働力としての外国人雇用です。2018年12月の臨時国会において、在留資格「特定技能」の新設を柱とする「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が可決、成立し、2019年4月より人手不足が深刻化している特定の産業分野(14分野)において「特定技能」という資格での新たな外国人人材の受け入れが可能となりました。(図表1参照)


図表1:「特定技能」の資格概要

図表1
出典)出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」1 を元に筆者作成

 

しかし、2020年より感染拡大したコロナウィルスの影響により、多岐に亘る産業分野において経済活動が停滞し、日本国内においても多くの人が職を失うという事態に発展しています。人手不足が課題となっていた産業分野の中にも、前年と様変わりして人余り傾向に転じた分野もあり、企業の人手不足感は2020年4月現在において、前年同期比「正社員」がマイナス19.3ポイント、「非正社員」がマイナス15.2ポイントと大きく減少しました。その一方で、従業員の過剰を感じている企業は前年同期比「正社員」がプラス13.5ポイント、「非正社員」がプラス14.8ポイントと増加しています 2 。加えて、コロナウィルス感染拡大予防の水際対策として新規入国規制が強化され、審査済証や査証を発給された人であっても入国停止となったことから、多くの資格保有者が自国待機を余儀なくされています。このようにパンデミックという予期せぬ事態により、日本における外国人雇用戦略は大きな岐路に立たされています。

2.withコロナ時代の外国人雇用

コロナ禍において未来の予測は困難であり、何が正しいのか解を導き出すことは容易ではありませんが、企業はコロナウィルス感染の収束を見据えて、徐々にポストコロナにおける経営体制の構築に取り組んでいます。
 特にコロナ禍の外国人雇用においては、雇止めや契約不履行などの問題が顕在化しています。しかし、外国人雇用数の推移をみてみると、確かに2020年以降は伸び悩んでいますが、意外な事に微増で推移をしています。(図表2参照)「外国人雇用状況の届出状況」の提出の義務化が始まった2008年から一貫して外国人労働者の雇用数は増加をしており、2021年まで年率9.4%増で推移をしています。また、外国人を雇用している事業所の数は年々増加しており、コロナ禍においてもその数は増加の一途をたどっています。

 
図表2:外国人雇用状況と雇用事業者数の推移

図表2

出典)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(2008~2021年10月)3 を元に筆者作成

 

筆者が競争的資金を受けて実施している研究 4 の調査結果からも、「外国人を雇用したことがある」と回答した人(2,901名/10,000サンプル中)のうち、79.4%が「現在も雇用している」と回答をしています。このうち、コロナウィルス感染拡大前と比較して「外国人雇用数は減少した」と回答した人は僅か17.5%のみであり、66.0%が「変化なし」、16.5%が「増加した」と回答しています 5
 コロナ禍においても、多くの企業で外国人労働者を雇用し続けているのは、彼らを「戦力」として評価をしているからに他なりません。実際に、前出の調査において外国人労働者が職場において戦力になっているかどうかを尋ねたところ、実に81.5%もの人が外国人労働者を「戦力になっている」と評価しています。このように、日本社会において、外国人労働者は既に労働力の一翼を担い始めていると考えられます。

3.多文化共生におけるダイバーシティ・マネジメント

コロナ禍においても外国人雇用が減少しないという事象に対して、私たちはもっときちんと向き合うべきだと考えます。コロナウィルスの感染状況が改善されれば、必然的に入国制限が緩和され、再びグローバル化という波に乗って、多くの人の流入が再開されます。それに伴って経済活動も活発化し、コロナ禍では人余りに転じた産業分野でも再び人手不足問題が浮上することが予想されます。その動きが活発化する前に新たに入国する外国人労働者に対してどのような支援をしていくべきか、今こそ準備をしておくことが大切であると考えます。
 ダイバーシティという言葉は、通常「多様性」と訳されますが、残念ながら、これまでの日本の企業組織におけるダイバーシティ議論は女性の社会における活躍推進に重きを置く傾向が強いのが特徴的です。本来ならば「多様性」は女性だけでなく、LGBTQ、障がい者、そして外国人労働者も含めて対策を議論していくことが重要であると考えます。
 とかく、組織のダイバーシティ・マネジメントを検討する際、社会的弱者の救済といった側面が強くなりますが、多文化共生におけるダイバーシティ・マネジメントは、単に外国人労働者の支援やサポートといった議論では「多様性」を活かすことにはなりません。前出の調査おいても、多くの人が外国人労働者を「戦力」として評価をしていることが明らかになったことから、「多様性」を組織の「優位性」と捉え、それを組織の強みとして戦略的にマネージメントしていくことがこれからの企業には求められていると思われます。多くの組織がパンデミックという未曽有の出来事を転機として、新たに「多様性」を活かすダイバーシティ・マネジメントに取り組んでいくことを切に願っています。



出典
1 出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
https://www.moj.go.jp/isa/content/930006033.pdf
2 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」2020年4月の数字による。
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200510.html
3 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(2008~2021年10月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/06.html
4 東京未来大学特別研究助成「ニューノーマル時代における外国人雇用の現状と課題」(代表:郭潔蓉)

5 郭潔蓉「外国人雇用に関するアンケート」(web調査)2022年3月7日実施

著者プロフィール
郭 潔蓉
 東京未来大学モチベーション行動科学部モチベーション行動科学科教授。ビジネス・ブレイクスルー大学、大東文化大学を経て現職。
 専門は多文化社会、ダイバーシティ・マネジメント、東・東南アジア政治経済。

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