コラム

多文化共生に必要なメディア知識・メディア倫理

多文化共生に必要なメディア知識・メディア倫理

ジャーナリスト 増田 隆一

はじめに

インターネットが使われはじめて、かれこれ30年近くが過ぎました。
 パソコンがなければ、さらにはデジタル回線を持っていなければ、ウェブの情報に簡単にはアクセスできなかった初期のインターネットと比べると、小学生でさえもスマホやタブレットで検索作業を普通にしている現代は、「情報爆発の時代」と呼んでもいいでしょう。
 1995年以前は、メディアといえば「新聞」「雑誌」「ラジオ」「テレビ」を意味しました。今ではあまり使われなくなりましたが、"マスコミ"という単語でひとくくりにされ、その影響力は絶大でした。
 ところが昨今、出版ビジネスは存亡の崖っぷちに立たされ、新聞は一般紙もスポーツ紙も、宅配購読者の離反が止まりません。
 ラジオ局は地方で倒産するところが出始め、民放テレビは地域を問わず年間総収入が年々下がり続けています1
 30歳以下の人たちで「家にテレビがない」という人が、どんどん増えています2。「ラジオという電気製品を見たことがない」という小学生も珍しくありません3。スマホとタブレット、パソコンが彼らにとって、メインの情報源なのです。
 今、多文化共生を語るうえで、社会=コミュニティを形成するパワーとして、人どうしの、あるいは社会の中でのコミュニケーションが、どのような形で行われているかを知ることは、極めて重要といえるでしょう。
 そのコミュニケーションツール=情報メディアの現在のかたちについて、少しご説明しましょう。

1.メディアとは何か

2000年ごろまでは、インターネット上に掲示される情報は限定的で、その到達内容も単純でした。しかし、スマートフォンの出現(特に、アップル社から2007年に発売されたiPhone)とともに、アプリで表示される膨大な情報が、利用者の情報共有の手段として、世界的に一般化します。それまでは「単なる新技術」に過ぎなかったインターネット情報(IP情報)が、"基本情報プラットフォーム"になりました。

 
情報通信機器の世帯保有率

出典 総務省「通信利用動向調査」各年版4

 

この「ライフスタイルの変貌」が、"メディア"という言葉の意味を根本的に変えてしまいました。
 それまでは「メディア」といえば、印刷や放送などといった"情報転送の手段=技術"と一体化していましたが、IP情報は出口のスタイルを問いません。スマホでもパソコンでもいいし、メガネや時計でも可能です。開発する気になりさえすれば、コップの底や衣服の表面はもちろん、マンホールの蓋や地下鉄トンネルの壁にすら、情報を表示することができます。
 つまり、メディアという単語は、「情報を伝える媒体」から「情報を伝えるスタイル」に、この10年ほどの間に、大きくその意味を変えたのです。

2.多文化共生とメディア

さまざまなルーツや文化的背景を持つ人々を相互に結びつけるには、まず互いにコミュニケーションを取り合う必要があります。社会の意識平滑化でも、異文化間での理解促進という意味でも、その重要度は変わらないでしょう。手袋の裏返しで、コミュニケーションが不足すると、相互理解は望めません。「同じだ」「違うんだ」と、それぞれのことを知り、お互いの考え方や感覚について、少なくとも"理解しよう"と思っていなければ、異文化間での意思疎通は進みません。
 印刷物(ガイド本など)や、ビデオや音楽などの創作物によって、世界の国々に対する興味を、一般の人々にできるだけ広げるための努力が大切です。
 ところが、先ほど申し上げたように、情報を載せるべき「メディア」のイメージがインターネット出現以前のままでは、肝心の"届けたい多数の人々"にまで、情報が到達しない可能性が高いはずです。
 いくらチラシを刷っても、人の目に触れなければ効果はありません。
 となると、「どのようなメディアで届ければいいか」というノウハウの、広く深いメディア知識=リテラシーが必要になるのです。
 多文化共生を実現するためには、どのような情報発信が効果的なのでしょう?

3.サービス概要を決定する

不特定多数を到達先として情報サービスを行う場合、その情報提供が「多数を同時に満足させる」ことを意図しているのか、「利用者それぞれひとりひとりを対象としているか」は、中身が同じように見えても、運営の手法が大きく異なります。
 さらに、情報の到達先=利用者が、どのような要件に基づいて構成されるかを、サービス提供側は十分に意識しながら想定しなければなりません。専門的には、この利用者の想定分類作業を「セグメンテーション」と呼びます5
 ラジオ・テレビでいえば、「子供番組」「若い女性対象」「シニア向け」など、年齢や性別で区別するケースがほとんどですが、多文化共生を実現するための情報サービスを考えると、もっと複雑な条件設定が必要でしょう。民族や文化圏だけでなく、宗教や食事などの生活環境、国土の気候や交通ルートなども、考慮の材料として重要なはずです。
 どのような人々に、どのような情報を、どのような形でサービスするのか、を慎重に見定めなければなりません。
 現時点の最強メディアは、スマホとパソコンであることは明白です。パソコン利用のホームページとスマホアプリの両方を運営することは、2022年現在の情報流通で、最も効果的かつ最大多数の利用者を獲得する、ごく基本的なアプローチと考えて差し支えありません。
 その入り口がSNS=ソーシャルネットワーク(FacebookやTwitterなど)といえるでしょう。

4.マナーの重要性

自前のウェブサイトだけに限らず、ツイッターやFacebookなどのSNSを利用する場合も含めて、ぜひとも強く意識して頂きたい注意点があります。
 ウェブ上での情報発信すべてに共通する危険性でもあります。
 
1)個人情報を保護する
 何かを説明する際に「近しい友人だから」といって、個人が特定できる情報(モノ・場所・事物や固有名詞)を表示することは、できる限り避けましょう。どうしても必要な場合には、本人の承諾を得る必要があります。マナーのレベルを越え、刑事罰の対象になる場合があります。

2)一方的な表現を避ける
 思想・信条はもちろん、事物や事件に対する論評を含めて、論調は中庸・中立を心がけ、対立する考えやグループが存在する場合には、そのバランスを明示したうえで、自説を述べねばなりません。一方的な陳述は多文化共生どころか、無用の軋轢を招きます。

3)誹謗中傷の排除
 昨今は、ウェブ上での罵詈雑言も刑事罰の対象とされ、匿名性が高いシステムであっても、運営者に利用者名の開示が求められています。無記名の書き込みであっても、インターネット上である以上、特定が可能です。こういった運営上の倫理については、管理者だけが順守すればよいものではなく、関係者全てのマナーが必要です。このようなメディアの倫理感覚=エシックスは、ますます重要な社会知識になっています。

おわりに

包括的な理解が難しい「メディア」と、その「リテラシー・エシックス」を駆け足でご説明しました。
 「ややこしそうだから......」と敬遠していては、使いこなすことができません。
 とりあえず、FacebookとTwitterにアカウントを作り、知人・友人のネットワークを広げるところから始めましょう。
 新しい全く未知の平原が目の前に現れること、請け合いです。まず、「きょうの昼ごはん」が、あなたの最初の投稿で構いません。
 この文章がそのきっかけになることを、祈ってやみません。



参考
1 総務省|通信利用動向調査「民間放送事業における売上高の推移」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/data/gt030301.pdf
2 内閣府|消費動向調査
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/menu_shouhi.html
3 エキサイトニュース|【カムカムエヴリバディ】今どきの小学生は「ラジオ」の存在すら知らなかった!?
https://www.excite.co.jp/news/article/AsageiMuse_excerpt_9408/
4 総務省|通信利用動向調査
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05a.html
5 AI Market|【広告業界のAI活用事例9選】オーディエンスセグメント最適化、クリエイティブ自動作成、ビッグデータ効果計測まで幅広く活用
https://ai-market.jp/industry/advertisement_ai/

著者プロフィール
増田 隆一
 ジャーナリスト。京都大学工学部卒業。大阪ABC朝日放送を定年退職。
 元インターネット事業部・メディア戦略部長で、スマホアプリ「radiko」をスタートさせた。
 1987年〜91年ANNパリ特派員。「ベルリンの壁崩壊」「湾岸戦争」「ルーマニア革命」を現場からリポートした。

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~今月の一句~

  カレーにも 初夏の香りや ズッキーニ
                                  増田 隆一

昨今は「ベジカレー」がトレンドだそうで、夏野菜のスープカレーが流行しています。ご当地カレーにも応用できそうです。

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