コラム

共に住まう

民間賃貸住宅における多文化共創社会の実現
大野 勝也
1、 はじめに
 民間賃貸住宅における外国人は、在留外国人の増加に伴い増加しています。これに伴い、外国人のお部屋探しが発生しますが、大家が外国人入居を断るケースが発生しています。具体的な理由として、言葉、ゴミ出し、騒音問題が挙げられます。これらは3大トラブルとも言われています。しかし、それは外国人だけではなく、日本人でも発生している問題です。近年では、こうした立場の外国人を包括する形で不動産債務保証会社などと連携し、入居前から入居後までサポートする体制ができ始めています。
 このように、外国人をめぐる現状は、業界団体の連携で支援体制ができたことにより民間賃貸住宅における外国人の居住のハードルは低くなってきています。加えて、我が国では人口減少社会を迎えます。とりわけ、不動産業界でも外国人へニーズが高まるでしょう。衣食住における住は、生まれ育ち、終わりを迎えるまでライフサイクルの中で重要なインフラの一つです。また、住宅は人のライフサイクルに留まらず地域コミュニティにおいても重要な役割を持ちます。そこで本稿では、民間賃貸住宅の現状を探るとともに、賃貸管理を通して共創の可能性を探求します。

2、 民間賃貸住宅における現状 ~個人規模の家主が管理主体~
 管理会社が仲介する民間賃貸住宅の現状は、個人所有のいわゆる零細家主による住宅供給が市場の約8割を占めており、うち約6割が60歳以上の家主となっています。ここで挙げられる問題は、管理においても個人レベルであることから、外国人との間でトラブルが起こった際に言語対応が困難なことです。
 これが、入居の申し込みがあった時点で外国人を断るケースになります。零細な経営規模による入居後の管理面の問題が顕在化しています。たとえば、ゴミ出しや騒音といった問題です。ある一定のトラブルを起こしやすい層があり対応が困難と思われがちですが、実際には、比較的入居したばかりの頃にその地域の慣習やゴミの曜日や場所を間違えて覚えてしまっただけという場合が多く、一度注意すれば改善します。こうしたトラブルは外国人だけではなく、日本人も同様に発生しています。すなわち、日本人、外国人の間でトラブルの頻度に大きく差があるわけではないと考えられます。
 近年では、不動産管理会社の存在感が増しており、家主と入居者の管理業務を担うことで家主の賃貸経営の負担を軽くしています。他方で、外国人は多国籍化しており、管理会社でも言語対応が難しいケースが少なくありません。たとえば、以前は中国や韓国などの漢字文化圏の比較的日本語ができる外国人の対応が主でしたが、近年では東南アジアをはじめとする様々な国籍、言語、ルーツの方の対応が増えてきています。
 このような諸課題に対応するため、家主、管理会社、入居者をサポートする形で家賃債務保証会社がサービスの提供を行っています。トラブルの際だけではなく、日頃から入居している外国人の生活上の困りごとを母語で支援する他言語サポートができる企業の存在もあります。この取り組みのメリットは保証会社の社員自らが当事者となった経験を持っていることです。当事者経験のあるスタッフが外国人のサポートを行うことで外国人入居者のお困りごとに寄り添って解決するものとなります。
 このように、不動産債務保証会社を通して家主と管理会社、入居者を包括的に支援できる枠組みが広がりつつあります。このような流れは今後さらに重要となります。



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図1、民間借家の経営主体 出典:総務省「住宅・土地統計調査(平成15年)」


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図2、個人経営者の年齢 出典:民間賃貸住宅市場の実態調査(家主)[平成20年 (財)日本賃貸住宅管理協会]

3、 課題への対応策 不動産ビジョン2030 
 国土交通省が策定した不動産ビジョン2030では、ストック型社会の構築を課題として挙げています。具体的には、建築後年数が経過した建物が増加し、設備の経年劣化や後継する所有者が見つからずに空き家になってしまう問題が発生しています。背景として、戦後マスハウジングと呼ばれるような住宅の大量建築、大量供給が行われてきたことがあります。
 しかし、近年では、少子高齢化、人口減少社会に突入したために、住宅の供給量に対し、需要が余る住宅ストック問題が発生しています。このような諸課題の中で、住宅着工件数は増加しており、市場では築年数の古い賃貸住宅の活用が課題となっています。    
 たとえば、築年数の古い賃貸住宅は3点ユニットと言われる風呂と洗面所、トイレが同じ空間にあります。こうした3点ユニットの賃貸住宅は近年主流となっているバス、トイレ別の住宅と比べると需要は落ちますが、外国人からすると、母国での住居が3点ユニットだったために違和感なく生活できる場合もありました。バス、トイレ別に比べ賃料相場は落ちることが多いため一定のニーズがあります。このように、日本人だけを対象にし、日本人に合う住宅ではなく、時代背景を見据えた誰もが住み良い優良な賃貸住宅の供給が課題となっています。

4、 今後の民間賃貸住宅 誰もが共に住まう社会へ
 我が国は、今後人口減少社会が予測されている一方、単身者の増加が見込まれています。なかでも、高齢の単身者の増加と未婚の世帯の増加が見込まれています。たとえば、老後にパートナーと死別し、単身となるケースが挙げられます。このような高齢者の住みどころとして単身者向けの賃貸住宅を探すケースが想定されますが、高齢の単身者や外国人は入居を断られるケースもあります。
 今後このような方々に対して受け入れを広げていくことが必要となり大家、不動産会社、自治体など複数のセクターが多面的に協働することが求められています。具体的な取り組みも進んでいます。例えば、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」として、入居中の死亡が発生した際の告知に関する周知事項を決めたものがあります。このガイドラインにより、家主からすれば、高齢単身者の入居の受け入れを行いやすくなりました。また、外国人に対しては、入居時に母国語での説明書を提示するなど契約の円滑化と入居後のトラブルの改善に向けて取り組みが行われています。
 このように住宅確保要配慮者が必要な住宅を確保出来るように業界団体だけではなく、地域社会全体で支援していく枠組みが目指されています。

5、 おわりに
 本稿では、民間賃貸住宅における外国人の居住について貸主である家主、管理面の視点から現状と課題を論じてきました。我が国では、高齢化の波とそれを担うマンパワーが課題となっており、外国人も支援される側から日本人を支援する側に回っている現状もあります。
 このように日本人、外国人と分けるのではなく、一つの課題解決に向けて多様なセクターが協働することで社会を支えるという共創の概念が重要です。不動産分野においても家主と入居者の一対一の関係ではなく、管理会社、家賃債務保証会社、地域住民、自治体など様々なセクターが協働することが今後さらに重要となります。そのためには、それぞれが抱えている問題をボトムアップしていくことが必要となります。


【参考文献】
・国土交通省民間賃貸部会 社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 民間賃貸住宅部会 「最終とりまとめ」 参考資料
・国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
・国立社会保障・人口問題研究所 『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(2018(平成30)年推計)
・国土交通省 不動産業ビジョン 2030 ~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~

【著者プロフィール】
大野 勝也
不動産会社勤務。日本大学大学院文学研究科社会学専攻修了。社会学修士取得。多文化社会研究会理事。修士論文では、外国人居住をめぐる維持、管理がどのように行われているか家主、様々な業態の不動産会社対象に聞き取り調査を行い考察した。その後、不動産会社では管理業務を中心に入居者対応から修繕まで一貫して行っている。その傍ら社会学を取り入れつつ学際的にハウジング論、不動産管理、家主論の研究をしている。

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