コラム

第49回 外国人集住都市会議こまき2023

山脇啓造

 外国人住民が多い11の市町でつくる外国人集住都市会議の首長会議「外国人集住都市会議こまき2023」(以下、小牧会議)が、2024118日に開催されました。今年度の座長都市である愛知県小牧市が事務局を務め、小牧市内の会場には全国から総勢約300人が参加しました。
 
 自治体側の参加者は、座長である山下史守朗小牧市長の他、末松則子鈴鹿市長、土屋陽一上田市長、佐藤健飯田市長、臂泰雄伊勢崎市長、中野祐介浜松市長、村山俊明大泉町長、浅井由崇豊橋市長の8首長と安田明弘豊田市副市長です。一方、省庁側の参加者は、出入国在留管理庁の福原申子在留管理支援部長、総務省の草壁京国際室長、文部科学省の中野理美国際教育課長、文化庁の今村聡子国語課長、厚生労働省の川口俊徳外国人雇用対策課長、こども家庭庁の久保安孝成育基盤企画課課長補佐の6名です。
 
 会議では、山下市長の開会挨拶の後、四日市大学の岩崎恭典学長による「人口減少社会の状況」と題した基調講演がありました。日本の歴史上初めて「右肩下がりの社会」を迎えている中で、「外国人住民との共生に止まらず、地域をともに作っていく主体として捉える」ことを提起しました。

 基調講演の後、会員都市首長と省庁担当者が討論する二つのパネル討論がありました。第一セッションは「外国人が日本社会で活躍するために~日本語教育と就労~」がテーマで、末松鈴鹿市長、土屋上田市長、佐藤飯田市長、臂伊勢崎市長と安田豊田市副市長の5名が登壇し、東京都立大学の丹野清人教授がコーディネーターを務めました。第二セッションは「地域における多文化共生を推進するために~多文化共生社会の基盤整備~」がテーマで、山下小牧市長、中野浜松市長、村山大泉町長、浅井豊橋市長の4名が登壇し、筆者がコーディネーターを務めました。

 第二セッションの最後に、筆者はコーディネーターとして三点のコメントを行いました。第一に、人口減少社会について基調講演があり、人口減少そして労働力不足の問題を大きなテーマに議論したのは今回が初めてだったことです。第二に、今回も一元的な体制づくりが大きなテーマで、現体制のもとでも、入管庁を中心に関係省庁により連携してほしいという会員都市の強い願いが発信されたことです。第三に、登壇した省庁の皆さんは、集住都市会議の会員都市にとって貴重なパートナーであり、これからもこの会議が自治体と国の建設的な対話の場となってほしいということです。

 さらに、筆者は小牧会議全体の総括として、以下の三点コメントしました。

1)今回の会議は、人口減少社会における外国人材の受入れという観点に立った初めての会議だった。20234月に社会保障・人口問題研究所は2070年に日本の総人口が3割減となる一方で、外国人人口は大きく増加し、939万人となり、総人口の10.8%を占めるという推計を発表した。山下小牧市長は、国は中長期的な観点に立った人口戦略を立て、その中で外国人材の受入れに関する中長期的展望を示し、共生社会づくりをめざしたメッセージを社会に発信することを求めた。ロードマップは5年計画だが、この5年は人手不足でも、その後また人手は足りるのか、あるいはそれがもっと長く続いていくのかによって、とるべき政策も変わってくる。そうした中長期的な展望の中で、多文化共生の課題を考えていく必要があるという主張が自治体側からあったと言えよう。

2)去年の大泉町での集住都市会議では、浜松市の鈴木前市長から、ドイツのような「統合コース」を日本も設けるべきではないかという問題提起があった。ドイツのプログラムは700時間で予算規模は約1500億円で、日本の地域日本語教育推進事業は、大体5億円ぐらいの予算である。一方、韓国も国の責務として「社会統合プログラム」を運営していて、こちらは515時間で、大体10億円ぐらいの予算だ。中長期的に外国人住民が増えていくとすれば、日本もそういった諸外国のプログラムを参考に、国の責務でプログラムを作っていくことが重要ではないか。

3)外国人集住都市会議は、2001年に13都市で始まった。その後、30都市ぐらいまで増えた後に、減少している。この会議は、国と自治体が対等な立場で意見交換をする貴重な機会になっている。私はヨーロッパで始まったインターカルチュラルシティのネットワークの研究をしているが、この会議のように、国と自治体が政策対話をコンスタントに行っているのは、国際的に見ても珍しい。昨日小牧市に来て、山下市長と打合せをした際に、愛知県市長会の会長をしているので、県内の市長達に集住都市会議への参加を強く呼びかけたいとおっしゃっていた。是非、他の会員都市首長からも、集住都市会議への参加を他の自治体首長に働きかけていただきたい。

 筆者の総括の後、小牧市立味岡中学校生徒による美しい歌声による合唱がありました。そして、山下小牧市長他8首長が再び登壇し、「人口減少社会の危機感と多文化共生社会のビジョンを共有していく」ことを国に求める「こまき宣言」を採択して、会議は幕を閉じました。

 最後に、総括で言及しなかったもう一つの会議の論点に触れたいと思います。それは財政負担の問題です。国と自治体の役割分担と連携の在り方は、多文化共生社会の形成にとって重要な論点ですが、役割分担と財政負担は表裏一体の関係です。会議前日に、会場設営のために集まった会員都市職員の皆さんとコーディネーターが参加する交流会があり、国による自治体への財政支援のあり方が話題になりました。

 実は、20238月に指定都市市長会から外国人政策に係る要請が文部科学省と法務省に対して行われました。具体的な要請内容は「外国人への日本語教育の提供体制を構築するため、国の責任において、必要な経費を全額国費で措置すること」と「外国人受入環境整備交付金の交付率及び上限額の引き上げ、対象事業の拡大」です。私が総括のコメントの中で国の責務による日本語教育プログラムの設置に触れたのも、この要請を意識したものでした。

 201812月に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が策定されて以来、国の自治体への財政支援が拡充してきたことは間違いありません。代表的なプログラムが、入管庁が所管し、全国の「一元的相談窓口」の設置や運営を支援する外国人受入環境整備交付金(2019年度~)です。また、文化庁でも「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」(2019年度~)を実施しています。小牧会議でも、省庁参加者から各省庁が取り組んでいる自治体支援の様々なプログラムが紹介されましたが、多岐にわたり、自治体にとって全体像を把握するのは困難という声が上がりました。関係省庁の総合調整を担う入管庁には、関係省庁の自治体に対する財政支援策の全体像をわかりやすく示した資料を作成していただきたいと思います。

 総務省からは今回も、自治体への財政支援として地方交付税措置の紹介がありました。地方交付税は、「団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する」税金を指します。地方交付税は、一定の方法により算定された財源不足額に対して交付される普通交付税(交付税全体の94%)と災害等の特別の財政需要に対して交付される特別交付税(交付税全体の6%)に分かれます。1992年から在住外国人支援等に要する経費に対する普通交付税措置が開始され、現在も普通交付税の包括算定経費(国際化推進対策費)において措置されています。また、上述の入管庁と文化庁の事業の市町村負担分について特別交付税措置が取られ、入管庁の同事業の都道府県負担分について普通交付税措置が取られています。一方、自治体単独事業の情報多言語化や生活オリエンテーション、外国人向け防災対策、外国人の子どもの就学支援などの経費も特別交付税措置が取られています。しかしながら、各自治体が受け取る地方交付税の算定方法は複雑であり、一般財源として総額で交付されることから、各事業にどれだけの措置があるのか曖昧であると自治体の多文化共生担当者から指摘されています。

 出入国管理政策を所管する国(法務省)が新たな外国人の受け入れ政策を進める以上、国が入国した外国人住民の生活や共生社会づくりに一定の責任を持ち、自治体の多言語相談窓口や日本語教室の運営にかかわる財源保障を行うのは当然と言えます。一方、全国の自治体に暮らす外国人住民は多様で、日系人のように定住可能な在留資格の外国人住民の多い地域もあれば、技能実習生のように期間が限られる在留資格の外国人住民が多い地域もあります。地域のニーズも多様なので、国が自治体に一定の裁量を認めた財政支援が望ましいとも言えます。但し、そうすると自治体間で取り組みに一定の格差が生じることになりますが、そうした格差が望ましくない分野もあります。例えば、日本語指導が必要な児童生徒への支援に関する地域格差は、子どもたちのその後の人生を左右する可能性が高いことを考えると、本来許されないと言えるでしょう。自治体の多文化共生の取り組みに対する財源保障はどうあるべきか、再考すべき時期に来ているのではないでしょうか。

*外国人集住都市会議関連ページ
*外国人政策に係る指定都市市長会要請

*過去の外国人集住都市会議に関する筆者の記事
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