コラム

第57回 韓国とインターカルチュラル・シティ


山脇 啓造

 2025917日と18日に、韓国京畿道の安山(アンサン)市でインターカルチュラル・シティ(ICC)の国際会議が開かれました。安山市は韓国で最も外国人住民が多い自治体で、その数は10万人を超え、割合も15%に達しています。韓国で多文化政策を進める自治体のネットワークである全国多文化都市協議会のリーダー的存在でもあります。

 安山市は2020年に欧州評議会が進めるインターカルチュラル・シティ・プログラムに参加したので、今回の会議は5周年記念となるイベントとなりました。また、今年は同市が外国人労働者支援センターを設置してから20周年でもあります。この20年間に支援体制を拡充し、現在、外国人住民支援本部に外国人住民行政課(外国人住民行政チーム、外国人住民支援チーム、多文化特区支援チーム)と外国人住民支援課(外国人住民支援チーム、地球村文化チーム、外国人住民教育チーム)を置いています。

 外国人住民支援本部には、多文化小さな図書館、外国人住民相談支援センター(民間団体委託)、多文化移住民プラスセンター(法務部と雇用労働部の出先機関)、相互文化(インターカルチュラル)コミュニティセンター、世界文化体験館が置かれています。また、安山市内には、安山グローバル多文化センターもあり、多文化家族支援センター、グローバル青少年センター(漢城大学委託)、京畿道外国人人権支援センターが置かれています。

 実は、韓国では、安山市の他にもインターカルチュラル・シティに加入する自治体が増えつつあります。2020年にソウル市九老(クロ)区が加入した後、2024年に忠清南道の牙山(アサン)市、2025年に京畿道の金浦(キンポ)市も加入しました。

 会議初日の17日は、漢城大学ERICAキャンパスで「インターカルチュラル・シティにおける大学の役割」をテーマにプレゼンテーションとパネル討論が行われ、韓城大学と安山市の連携や浜松市における大学との連携についての報告がありました。筆者は中野区と連携した山脇ゼミの活動について報告しました。パネリストの報告の後、欧州評議会のリタ・マラスカルチ課長がコメントしました。

 二日目の18日は、午前の部と午後の部に分かれました。午前の部の専門家セミナーでは、「インターカルチュラル統合への新しい道―インターカルチュラル・シティにおける社会包摂の再構想」をテーマに、欧州評議会のマラスカラチ課長と韓国移民政策研究院のパク・ミンジョン研究員そして筆者の報告がありました。筆者は「日本におけるインターカルチュラル・シティの受容―多文化共生とインターカルチュラリズムの遭遇」と題した報告を行いました。

 
 19日には、会議関係者を対象とした安山市の取り組みの視察が組まれ、安山市の外国人住民支援本部、多文化家族支援センター、産業歴史博物館などを見学しました。

 実は、筆者は安山市の会議が開かれる直前の915日と16日に、欧州評議会のマラスカラチ課長と金浦市で合流し、そこから一緒に牙山市を訪問しました。牙山市は202410月にインターカルチュラル・シティに加入しています。加入後のプロセスとして、欧州評議会スタッフとICC専門家が当該都市を訪問し、ICC指数による評価の報告を行うとともに、視察を行うことが一般的です。今回、私はICC専門家として、牙山市のICC指数による評価の結果を報告しました。同市の総合評価は87点で、参加都市の中でほぼ最高の評価となっています。

 今回、筆者は駆け足で金浦市、牙山市、安山市を回りましたが、韓国自治体の国際社会への参加の熱を感じました。韓国でも自治体職員の英語力の問題など、日本同様の課題はありますが、日本の自治体もまずは韓国との交流を進め、積極的に国際社会に参加してほしいと思いました。

 *以下は二日目の会議での私の報告原稿となります。

 Adapting the "Intercultural City" in Japan: Encounter of Tabunka Kyosei and Interculturalism
要旨:20257月の参議院選挙で外国人政策が主要な争点となり、日本政治の大きな転換点となった。全国知事会は排外主義を否定し、「多文化共生社会」の形成を目指すことを再確認し、基本法の制定と専門組織の設立を提案した。日本の統合政策は自治体主導で形成されており、「多文化共生」「やさしい日本語」「外国人集住都市会議」の三つのキーワードが象徴的である。2009年以降、日欧間の自治体交流が進み、浜松市を中心に欧州評議会の「インターカルチュラル・シティ」理念が受容され、今年、静岡県も加入するなど地域レベルでの展開が進む。一方で、国内自治体ネットワークの再構築、多文化共生の意識醸成、韓国・豪州との連携、そして多文化共生を推進する基本法の制定と専門組織の設置が今後の課題である。

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