山脇 啓造
要旨:日本では、外国人政策の議論が受入れの是非に偏り、受け入れた後にどのような制度で移民統合を進めるのかという検討が十分に行われてこなかった。しかし約400万人の外国人住民が暮らす現在、統合はもはや一時的な課題ではなく、国家の制度設計が問われている。本稿は、世界の移民統合政策を「国家が移民の社会参加をどこまで支援するか」と「国家が移民にどの程度の義務を課すか」という二つの軸から整理し、四つの類型を提示する。社会包摂型とは、言語教育や就労支援など社会参加の条件を社会政策として保障するモデルである。市民統合型とは、言語や価値への適応を義務化し、その履行を在留や永住の条件とするモデルである。包摂統合型とは、支援と義務を組み合わせて統合を進めるモデルである。市場依拠型とは、統合を特別な政策として設計せず、市場や一般制度に委ねるモデルである。日本の自治体による多文化共生施策は社会包摂型の発想に近い一方、それを国家の責務として支える法制度が欠けている。出入国管理中心の枠組みを超え、外国人を社会の構成員として迎え入れ、その参加と社会的結束を支える統合法制が必要である。
日本では外国人政策が議論されると、受入れの是非をめぐる原則論に終始し、どのような制度で統合を進めるかという具体的な検討が不足してきました。しかし外国人住民の増加は、すでに日本社会の構造を変えています。400万人近い外国人住民の存在は、労働市場、学校、医療、地域社会のすべてに影響を与えており、こうした変化に対して、国家がどのような法制度で対応するのかが問われています。
世界の移民受け入れ国は、この課題に対して1970年代から半世紀以上の試行錯誤を重ねてきました。その結果、移民統合をどのように設計するかについて、五つの異なるモデルが形成されました。それが、多文化主義(multiculturalism)型、市民統合(civic integration)型、社会包摂(social inclusion)型、包摂統合(inclusive integration)型、市場依拠(market-based)型です1。もっとも、各国の実際の法制度は必ずしもこれらのモデルのいずれか一つに属するわけではなく、歴史的経緯や政治状況に応じて複数のモデルを組み合わせた「ハイブリッド」となる場合が少なくありません。
本稿では、1970年代から2000年代にかけて形成された五つの統合モデルを出発点としつつ、それらが現在どのように整理できるかを検討します。歴史的には上記の五類型が存在しましたが、カナダやオーストラリアに代表される多文化主義型は、実態として社会包摂型と同じ制度構造を持つため、今日の統合法制は社会包摂型、市民統合型、包摂統合型、市場依拠型の四つに整理できます。本稿では、これら四類型を、社会的結束(social cohesion)を目標とする統合政策の異なるアプローチとして用います。これらは、支援の厚さと義務の強度という二つの軸からなる連続体として理解できます。
多文化主義型-権利保障と社会参加の制度化
多文化主義型とは、文化的少数派が同化することなく平等に社会参加できるよう、権利保障と社会参加の条件整備を国家の責務として位置づける統合モデルです。1960年代から1980年代にかけての国際的な人権拡大の流れの中で生まれました。移民や少数派は、同化させるべき対象ではなく、文化的な違いを持ったまま平等に社会に参加する権利を持つという考え方です。このモデルの代表例が、1988年に制定されたカナダの多文化主義法です。この法律は、連邦政府が文化的少数派の平等な社会参加を促進し、公共機関が差別のないサービスを提供する責務を負うことを定めています2。
このモデルは、同化主義が支配的だった時代からの大きな前進でした。ヨーロッパでも、1970年代から1990年代にかけて、スウェーデンやオランダのように国家が多文化主義を政策理念として掲げた国に加え、イギリスのように、差別是正を軸に都市部の自治体を中心に多文化主義的実践が展開された国もありました。しかし、それはカナダやオーストラリアのように、言語教育や就労支援といった社会参加の条件を国家の責務として体系的に整える多文化主義型の制度ではありませんでした。こうした欧州の多文化主義は、文化承認と権利保障を重視する一方で、社会参加を支える制度的基盤を欠いたため、住宅や学校の分離が進み、「並行社会」が形成されました。
一方、カナダやオーストラリアは、多文化主義を掲げると同時に、1970年代から言語教育、定住支援、就労支援を国家の制度として整備していました。カナダの多文化主義法は、文化的多様性を国家の理念として掲げるだけでなく、連邦政府機関に対して、文化的背景にかかわらずすべての人の平等な社会参加を積極的に促進する責務を課しています。オーストラリアも、英語教育から就労支援まで連動した包括的な制度を構築しました。両国は統合を移民の義務ではなく国家が保障すべき権利として位置づけており、後に社会包摂型と呼ばれる統合モデルの先駆けと言えます。
市民統合型-義務としての統合
市民統合型とは、移民の統合を主として移民本人の義務として法制化し、言語や社会知識、価値観の習得を滞在や永住の条件として課すことで適応を促す統合モデルです。このモデルは、1990年代まで欧州で文化的多様性の承認と差別禁止が進んだ一方で、失業や治安悪化、「並行社会」の出現など、社会的分断が拡大したことを背景に生まれました。その分断の原因を「移民の適応不足」と捉えた国々が、統合を義務として課す方向へと舵を切ったのです。
オランダは1998年に市民統合法を制定し、移民に対してオランダ語と社会知識の習得を義務づけました。2007年の改正では、入国前試験、永住許可、家族再結合と統合テストが強く結びつけられました。デンマークはさらに厳格な制度を導入しました。2002年の統合法では、統合プログラムへの参加が社会給付の条件とされ、言語能力と市民知識のテストが永住許可と市民権取得の要件として明確に位置づけられました。
デンマークはまた、家族再結合に関しても最も制限的な政策を採用し、配偶者呼び寄せには厳しい言語要件と資産要件が課されています。その後、「デンマークの価値」への適応を示す試験も導入され、統合は単なる言語習得ではなく、価値観への同意を含むものとして制度化されました。
フランスも2003年に「受入・統合契約(CAI)」を導入し、2005年の社会的結束計画法と2006年移民・統合法によってその法的枠組みを整備しました。CAIに署名した移民は、フランス語と共和国の価値の履修が滞在条件とされました。2016年以降は「共和国統合契約(CIR)」へと発展し、言語教育と市民教育がさらに体系化されています。フランスの制度は、共和国主義の伝統を背景に、公共空間における世俗性(ライシテ)と共和国の価値への適応を強く求める点に特徴があります。
オーストリアも2002年以降、統合協定を導入し、ドイツ語の習得を滞在延長の条件としました。2017年の統合法では、統合コースへの参加義務が強化され、履修を怠った場合には社会給付の削減や滞在許可の取り消しといった制裁が科されるようになりました。オーストリアの制度は、ドイツの統合コースと似た構造を持ちながら、義務と制裁の側面がより強調されている点で市民統合型に近い性格を持っています。
これらの国々に共通するのは、統合を移民の義務として位置づけ、その履行を滞在資格や社会給付と連動させている点です。国家が「どのような市民であるべきか」を定義し、それへの適応を求めます。このモデルが広がった背景には、1990年代の「多文化主義の失敗」という認識がありました。権利を保障しても社会参加が進まず、居住分離や失業が固定化する中で、「移民自身が努力しなければ統合は起こらない」という考え方が政治的に支持を集めました。特に2000年代以降、ヨーロッパ各国で移民統合をめぐる政治対立が激化する中、市民統合型は統合を管理する政策として正当化されてきました3。
しかし、この義務中心のアプローチには一定の限界もあります。フランスの郊外で繰り返されてきた暴動や、オランダにおける移民の社会経済的な周縁化は、義務や制裁を重視する統合政策が社会包摂の条件整備と十分に結びつかなかった結果として理解することができます。義務や制裁を強めても、教育や就労への実質的なアクセスが十分に確保されなければ、社会的結束の形成にはつながりません。デンマークでも、厳格な統合政策が採用されている一方で、非西欧系移民の失業率や貧困率は依然として高く、特定の地域では社会的分断が課題となっています。
その背景には、雇用差別や住宅市場での排除、都市計画のあり方といった構造的要因が重なっています。言語を学び、テストに合格しても、労働市場での差別や居住分離が解消されなければ、統合の成果は限定的にならざるを得ません。
社会包摂型-双方向の統合
社会包摂型とは、統合を移民と受入れ社会の「双方向のプロセス」と捉え、言語教育や就労支援、差別禁止などを通じて国家と自治体が社会参加の条件を制度として保障するモデルです。1970年代にカナダやオーストラリアが多文化主義を採用した時、それは単なる文化の承認ではなく、英語教育や定住支援、通訳・翻訳といった社会参加の条件を国家が整える政策でもありました。これに対してヨーロッパでは、1970年代から1980年代にかけて多文化主義の理念が広がったものの、言語教育や就労支援、居住分離への対応といった統合の制度化が十分に行われず、社会の分断が深まりました。1990年代後半になると、欧州諸国は同じ分断に直面しながら、その原因を「国家の統合インフラの欠如」と解釈した国は社会包摂型へ、「移民の適応不足」と解釈した国は市民統合型へと分岐していきました。社会包摂型では、統合は義務や選別の問題ではなく、社会の側が参加の条件を整える社会政策として位置づけられます。
社会包摂型は1990年代後半以降の欧州で制度化が進みました。このモデルを国際的な原則として定式化したのはEUです。EUは2004年の「移民統合の共通基本原則(Common Basic Principles)」によって、統合は「双方向のプロセス」と定義し、移民が努力する一方で、受け入れ社会が平等な機会を提供する責務を負うことを明確にしました。具体的には、言語能力、雇用、教育、住宅、差別防止、地方自治体の役割を統合政策の柱に据え、加盟国に共通の政策枠組みを示しました4。
北欧のフィンランドは、1999年に統合法を制定し、統合を国と自治体の責務として明確化しました。個別の統合プラン、言語教育、就労支援が法的に保障されています。統合コースへの参加は権利として位置づけられており、義務要件は限定的です。
同じ北欧のスウェーデンも、1970年代から言語教育と就労支援を制度化し、社会包摂型の統合政策を展開してきました。しかし、その成果は限定的でした。1990年代以降、特定地域への移民集中と住宅・学校の分離が進行し、移民の失業率も高止まりしました。この経験は、言語教育や就労支援といった支援インフラを整備しても、住宅政策や労働市場の構造的問題に対応しなければ、分離を防げないことを示しています。2015年の大規模な難民受入れは、こうした構造的課題をさらに顕在化させました。難民危機後、言語要件や就労義務の強化など、義務要素を取り込む形で統合政策の見直しが続いています。
一方、台湾は欧州の統合政策を直接参照して制度を設計したわけではないようです。2000年代には「新移民」という用語が用いられ、国際結婚の増加への対応が政策の中心でした。2010年代以降は「新住民」という呼称が定着し、教育、就労、生活支援が拡充されました。2024年に制定された新住民基本法は、統合を国家の責務として明文化しました。カナダやオーストラリアが多文化主義を国家の理念として掲げながら、実際の統合政策では社会包摂型の制度を運営しているのと同様に、憲法に「多元文化」の理念を掲げる台湾も、制度面では社会包摂型に近い統合モデルを採用しているといえます。
包摂統合型-支援と義務の両立
包摂統合型とは、社会包摂型の「国家による包括的支援」と市民統合型の「義務と条件」を組み合わせた統合モデルです。このモデルは、EUが提唱した「双方向の統合」という理念を、支援と義務の両面から包括的に制度化したもので、移民は統合支援を受ける権利を持つと同時に、統合への参加義務や永住・帰化の条件も課されます。
このモデルを最も体系的に確立したのがドイツです。2005年に施行された移住法以降、統合は連邦政府だけでなく州と自治体が分担して担う政策領域として位置づけられ、統合コース、職業訓練、資格認定、自治体による統合支援が段階的に整備されてきました。2015年の難民危機を契機として制定された統合法(2016年)は、これらの枠組みを「支援と義務(Fördern und Fordern)」の原理のもとで強化したものです。
ドイツの統合支援の特徴は以下の三点です。第一に、移民は統合コースを受講する権利を持ち、国はそれを保障する責務を負います。第二に、統合コースは言語教育だけでなく、職業訓練コースと連動しており、労働市場への参加を実質的に支える仕組みとして設計されています。第三に、自治体には移民の統合を促進する法的責務が課されており、住宅、教育、地域参加への支援が制度化されています。
同時に、ドイツの制度には義務要素も組み込まれています。統合コースへの参加は、一定の条件下では義務とされ、正当な理由なく参加しない場合には社会給付の削減や滞在許可への影響といった制裁が科されます。永住許可や市民権取得には、統合コースの修了または同等の言語能力と社会知識の証明が要件とされています。
一方、韓国は、ドイツの統合モデルと構造的に類似した制度を構築した国です。2007年の在韓外国人処遇基本法と2009年に開始された社会統合プログラムは、言語教育と社会理解教育を永住や帰化と連動させています。加えて、国際結婚家庭を対象とする2008年の多文化家族支援法によって、家族形成や子育ての領域も統合政策の射程に含めています。
韓国の社会統合プログラムの特徴は、国家が全国一律の統合プログラムを提供しつつ、参加を原則として強制せず、修了者への優遇措置によって統合への参加を促している点にあります。プログラムへの参加自体は任意で、不参加を理由とする罰則規定はありません。その一方で、修了者には永住や帰化の際に試験や面接の免除、要件の緩和などが与えられており、実務上は上位在留資格を目指す外国人にとって不可欠な経路となっています。
このように韓国は、ドイツと同様に統合を国家の責務として制度化しつつも、プログラム受講を制裁ではなく優遇措置を通じて促す設計を採用しており、包摂統合型の中でも比較的穏健なモデルと位置づけることができます。
市場依拠型-自由主義的アプローチ
市場依拠型とは、包括的な統合法制は設計せず、主として労働市場、学校教育、自治体、市民社会に委ねる自由主義的アプローチに立つ統合モデルです。アメリカとイギリスがその代表例となります。両国はいずれも差別禁止や市民権付与といった法的な権利の枠組みは整備していますが、言語教育、就労支援、地域参加を統合政策として体系的に担う統合法制を持たず、統合は市場や学校そして個人の努力に委ねられてきました。
このモデルの背景には、統合は国家が設計するものではなく、自由な市場と市民社会の中で自然に進むべきだという自由主義的な発想があります。移民は労働市場に参加し、子どもは学校に通い、市民権を取得すれば平等な市民として扱われるという前提のもとで、特別な統合政策を設けることは、かえって依存や分断を生むと考えられてきました。
アメリカでは、移民統合は基本的に州と地方自治体、そして市場に委ねられています。連邦政府が関与するのは、主に難民定住支援プログラムに限られていましたが、それも現在、縮小しています。一般の移民に対しては、成人英語教育(ESL)が州政府や自治体、コミュニティカレッジによって提供されていますが、州ごとに予算や質にばらつきがあります。就労支援や職業訓練も、主に市場と民間セクターに委ねられており、移民を対象とした特別な制度はほとんど存在しません。
イギリスも、2000年代には、ESOL(English for Speakers of Other Languages)への公的投資や、地方自治体によるコミュニティ結束(community cohesion)政策が展開されていましたが、2010年代以降、緊縮財政のもとでESOL予算は大幅に削減され、統合支援は大きく後退しました。2001年の都市暴動を受けて導入されたコミュニティ結束政策も、一時的な対応にとどまり、持続的な制度として定着することはありませんでした。その結果、移民の統合は学校教育と労働市場、そして市民権取得という法的枠組みに依存する構造が強まっています。
市場依拠型は、統合の多くを労働市場や住宅市場、学校制度、市民社会の働きに委ねるため、高い流動性と機会を生み出す一方で、分断を是正する公的な枠組みは限定的です。労働市場は技能や学歴、言語能力によって階層化しやすく、住宅市場も所得や人種によって居住分離を生みやすい構造を持っています。学校もまた、居住パターンを通じて移民の子どもが特定の学校に集中し、教育機会の格差が固定化する場合があります。
アメリカでは、移民第二世代の教育達成は出身国や地域によって大きく異なり、特にヒスパニック系の若者は高校中退率が高く、貧困率も高い水準にとどまっています。イギリスでも、パキスタン系やバングラデシュ系の若者の失業率は全国平均を上回り、特定の地域では居住分離と社会的排除が固定化しています。2001年のブラッドフォードなどでの暴動、2011年のロンドン暴動は、こうした分断が可視化された事例でした。
このように、市場依拠型では、労働市場、住宅市場、学校制度が持つ分断のメカニズムを補正する公的な仕組みが相対的に弱く、移民の統合は個人や家族が持つ資源、市民社会の力に大きく依存します。その一方で、柔軟な労働市場やオープンな市民社会が、起業や上方移動の機会を提供してきたことも事実です。市場依拠型は、高い流動性と機会をもたらしつつも、社会的結束を制度的にどのように支えるのかという課題に直面していると言えるでしょう。
現代の4類型
1970年代以降、カナダやオーストラリアは、多文化主義を国家理念として掲げると同時に、言語教育や就労支援、定住支援、差別是正を社会政策として制度化し、移民の社会参加を国家の責務として保障してきました。これらの制度は、文化承認にとどまらず、社会参加の条件整備を中核に据える点で、後にヨーロッパで広がった社会包摂型と同じ制度構造を持っています。このため、本稿では、多文化主義型を独立した現代モデルとして扱うのではなく、制度構造の実質に着目し、社会包摂型と位置付けます5。
こうして、現代の統合法制は、社会包摂型、市民統合型、包摂統合型、市場依拠型の4類型に整理できます。社会包摂型は、カナダ、オーストラリア、フィンランドなどのように、国家が包括的な支援インフラを整備し、統合を移民の権利として保障するモデルです。義務要件は限定的で、統合は主として社会政策として位置づけられます。市民統合型は、オランダ、デンマーク、フランス、オーストリアなどのように、統合を主として移民の義務として法制化し、その履行を滞在資格や社会給付と連動させるモデルです。義務と条件を通じて個人の適応を促す点に特徴があります。包摂統合型は、ドイツや韓国のように、社会包摂型の「包括的支援」と市民統合型の「義務と条件」とを組み合わせたモデルです。移民は統合支援を受ける権利を持つと同時に、統合コースへの参加義務や永住・帰化の要件も課されます。ドイツの「支援と義務」の原理に代表され、支援と義務の両面を包括的に制度化したモデルと言えます。市場依拠型は、アメリカやイギリスのように、包括的な統合法制を設計せず、統合を主として労働市場、学校教育、市民社会に委ねるモデルです。
これらの4類型は、支援の厚さと義務の強度という2つの軸からなる連続体として理解できます。実際の各国制度は純粋な類型ではなく、複数の要素を併せ持っている場合が少なくありません。例えば、フィンランドは社会包摂型を基調としつつ市民統合の要素も導入しており、オランダは市民統合型を基調としながら社会包摂の要素を取り込んでいます。また、これらの類型は各国の統合政策の動態を否定するものではなく、スウェーデンが社会包摂型から包摂統合型に移行しつつあるように、同一の国が時期によって異なるモデルへ移行する可能性があることにも留意する必要があります。
四つの類型は、社会的結束を目標としている点では共通しています。違いは、社会的結束をどのような政策手段によって形成しようとするのか、またその責任を誰が負うのかにあります。社会包摂型と包摂統合型は、国家が包括的な支援インフラを整備する点で共通しますが、義務要件の強度が異なります。包摂統合型と市民統合型は、義務を課す点で共通しますが、支援インフラの厚さが異なります。市場依拠型は、統合を包括的な制度として設計しない点で他の3類型と異なります。
なお、欧州で社会包摂型の統合を自治体において具体的に実装する枠組みとして発展してきたのが、欧州評議会が2008年から推進してきたインターカルチュラル・アプローチです。インターカルチュラリズムは、異なる背景を持つ住民同士のインターアクションを促進することで社会的結束を高めようとする実践原理です。近年では、こうしたインターカルチュラル・アプローチが自治体政策にとどまらず、国家の統合戦略そのものに組み込む原理として、位置づけ直されていることが注目されます。
日本の選択
日本の自治体が進めてきた多文化共生施策は、実は社会包摂型の発想に近いものです。日本語教育、子どもの学習支援、医療通訳、地域交流は、外国人が社会に参加するための基盤づくりにあたります。しかし、日本にはこれを国家の責務として位置づける法律がありません。その結果、こうした統合の基盤は、本来全国どこでも保障されるべき公共サービスであるにもかかわらず、補助金事業や自治体の裁量と努力に依存してきました。
本稿で見てきたように、移民統合をめぐる国際的な経験は、社会的結束を共通の目標としつつ、その形成手段が異なる複数のモデルに整理できます。日本に求められているのは、入管法の枠内で外国人の在留管理を続けることではなく、外国人を社会の構成員として迎え入れ、その参加と社会的結束を国の責務として支える統合法制を整備することです。それは、移民国家であることを宣言することではありません。むしろ、すでに進んでいる定住化を、無秩序ではなく持続可能な形で受けとめるための、現実的な制度改革なのです。
1 本稿の5類型は、Kymlicka (2012)、Goodman (2014)、EUにおける移民統合政策のための共通基本原則(2004)を参照しつつ、再構成したものである。
2 Will Kymlicka, Multiculturalism: Success, Failure, and the Future, Migration Policy Institute, 2012.
https://www.migrationpolicy.org/sites/default/files/publications/TCM-Multiculturalism-Web.pdf、参照。
3 Sara Wallace Goodman, Immigration and Membership Politics in Western Europe, Cambridge University Press, 2014
(概要: https://www.cambridge.org/core/books/immigration-and-membership-politics-in-western-europe/6EEE2D381322F0DCFEBE11AD20025BFD)、参照。
4 Council of the European Union, Common Basic Principles for Immigrant Integration Policy in the EU(2004)
https://www.eesc.europa.eu/sites/default/files/resources/docs/common-basic-principles_en.pdf、参照。
5 但し、カナダやオーストラリアでは、権利保障や統合支援は永住者に限定される傾向があり、非永住外国人には厳しい在留管理が行われている。一方、フィンランドやスウェーデン、ドイツ、韓国などでは、統合の対象には非永住外国人も含まれる。
<Abstract>
Comparative Legal Frameworks for Migrant Integration and Japan's Choice
Yamawaki Keizo
In Japan, debates on immigration policy have tended to focus on whether to admit migrants, while insufficient attention has been paid to how migrant integration should be institutionally designed. Yet with nearly four million foreign residents now living in Japan, integration is no longer a temporary issue but a central question of national institutional design. A comparative review of international experience shows that migrant integration policies can be analyzed along two axes: the extent to which the state supports migrants' social participation, and the degree to which the state imposes obligations on migrants. Based on these axes, four ideal-typical models can be identified. These include a social inclusion model, which guarantees language education, employment support, and other conditions for participation as social policy; a civic integration model, which obliges migrants to adapt to the national language and values and makes compliance a condition for residence or permanent settlement; an inclusive integration model, which combines elements of both support and obligation; and a market-based model, which does not design integration as a distinct policy field and instead relies on markets and general institutions. While Japan's local tabunka kyosei initiatives are conceptually close to the social inclusion model, they lack a legal framework that defines integration as a responsibility of the state. Moving beyond an immigration-control-centered approach, Japan needs to establish an integration framework that recognizes foreign residents as members of society and supports their participation and social cohesion as a public responsibility. This does not amount to declaring Japan an "immigration country," but rather represents a realistic institutional reform to address ongoing settlement in a sustainable and orderly manner.