コラム

多文化雇用を「暮らし」の施策として考える―青森県の取組から

多文化雇用を「暮らし」の施策として考える―青森県の取組から

東海大学教養学部教授 万城目 正雄

はじめに
 
 人口減少や人手不足が進む中、外国人の雇用は多くの自治体にとって欠かせない要素となっています。本稿では、この「多文化雇用」を多文化共生の一側面として捉え、外国人の就労と生活支援を一体的に考える視点から議論を進めたいと思います。雇用の確保だけでは、外国人住民が地域で安心して暮らし続けることは難しく、交通、防災、日本語、生活情報といった日常の支援があってはじめて、生活の安定やウェルビーイングの向上につながるからです。こうした支援は、外国人住民一人ひとりの安心や満足度を高めるだけでなく、地域社会との相互理解を促し、不安や誤解による分断を防ぐうえでも重要です。これからの多文化共生は、国際交流や受入れ施策にとどまるものではなく、外国人雇用と生活支援を一体として捉え、地域全体のウェルビーイングを支える「暮らしの施策」として考えることが、ますます求められるようになっていくと言えるでしょう。

 今月のコラムでは、青森県の取組を通じて、その具体的な実践について考えていきたいと思います。

県内で増加する外国人住民

 青森県では、人口減少と高齢化が全国平均よりも早いペースで進行してきました。県の推計人口によれば、2024101日現在の総人口は約1165千人で、前年から約2万人、率にして1.7%の減少となっています。出生数は5,244人にとどまる一方、死亡数は2万人を超えており、人口減少の主因は自然減です。さらに、進学や就職を機に若年層が県外へ流出する傾向も続いており、人口減少は一時的な現象ではなく、構造的な課題となっています。
 
 その一方で、近年着実に増加しているのが外国人住民です。出入国在留管理庁の統計によれば、2024年末時点の青森県内の在留外国人数は8,603人となり、前年から約10%増加して過去最多を更新しました。2015年には4,000人余りであったことを踏まえると、この10年足らずの間に外国人住民が倍増していることが分かります。農業、介護、製造業、水産加工業など、地域経済を支える現場で外国人が働き、生活する姿は、すでに青森県の日常風景の一部になりつつあるといえるでしょう。

 この傾向は、厚生労働省が公表している「外国人雇用状況の届出状況」からも確認できます。令和5年度(202310月末時点)には、青森県の外国人労働者数は前年度比で約28.7%増加し、全国の都道府県と比較しても増加率が高い水準となりました。さらに令和6年度(202410月末時点)においても、前年から約10.9%増加し、その数は過去最多を更新しています。外国人労働者数の規模自体は大都市圏ほど大きくありませんが、地方県としては増加のペースが速い状況が続いています。その背景には、水産加工や製造業、農業、介護分野を中心に人手不足が進み、県内企業が外国人労働者の受け入れを進めてきたことがあると考えられます。

青森県多文化共生推進プラン-暮らしの視点の重要性
 
 しかし、雇用の場が確保されているだけでは、外国人住民が地域で安心して生活できるとは限りません。通勤や買い物、医療機関へのアクセス、役所での手続き、近隣との関係、そして災害時の行動など、日常生活の中には多くの「分かりにくさ」が存在します。日本で生まれ育った人にとっては説明を要しない仕組みや慣習も、外国人住民にとっては不安や戸惑いの原因となり得ます。多文化共生を考える際には、雇用施策と生活施策を切り離さず、連続したものとして捉える視点が重要になっています。

 青森県では、2024年度から2028年度までを期間とする「青森県多文化共生推進プラン」を策定しています。このプランでは、外国人を地域で生活する住民として捉え、地域環境を整備していく必要性が示されています。そして、日本語によるコミュニケーション支援、教育・労働・災害・医療・子育て・住宅などの生活支援、就業などへの支援、地域とのつながりづくり、外国人住民の孤立や日本人住民との軋轢の解消に向けた地域社会の意識啓発などが必要とされる施策として掲げられています。また、プランの実現に向けて、県、市町村、国際交流協会、NPO等、県民、企業、教育機関が相互に連携を図り、施策を推進していくことの必要性も明記されています。(注1)

bousaicard setumei.png防災分野での「やさしい日本語」-防災カード

 この考え方を具体的に示している取組の一つが、「やさしい日本語」を活用した防災対応です。青森市では、自治体国際化協会の多文化まちづくり助成を活用し、「やさしい日本語」による防災カードを作成しています。(注2)

 災害はすべての住民にとって生命と生活に直結する問題ですが、日本語能力が十分でない外国人住民にとっては、災害情報の理解が難しくなりがちです。専門用語や抽象的な表現の多い防災情報は、緊急時には理解が追いつかず、避難行動の遅れや孤立につながるおそれもあります。

「防災カード」は、避難行動や備えについて、専門用語を避け、短く分かりやすい日本語とイラストで示したもので、外国人住民だけでなく、高齢者や子どもにとっても理解しやすい内容となっています。多文化共生の取組が、地域全体の安全性向上にもつながることを示す事例と言えるでしょう。


日本語教育の取組-交流型日本語教室

 県内在留外国人向けの日本語教育については、日本語教室に加えて、交流型日本語教室も開催されています。県内の日本語教室は、9市町村で行政・民間を合わせて15か所開かれており、日常生活に必要な基礎的な日本語力を身につける場となっているといいます。これに対し、交流型日本語教室は、生活の具体的な場面を題材に、日本語と暮らしを結びつけて学ぶ取組です。教室内で文法や語彙を教えるだけではなく、外国人住民が地域で暮らし、働く中で直面する場面を取り上げ、日本語と生活知識を同時に学ぶ点に特徴があります。平日18時以降または休日など、技能実習生等の勤務時間外に開催日時が設定されている点も特徴です。青森県の委託事業として、青森県観光国際交流機構により、2021年度から2024年度までの4年間で計164回実施され、学習者1127人、学習支援者991人(いずれも延べ数)が参加してきました。

 青森県観光国際交流機構の担当者によると、人口減少地域である青森では、外国人住民の多くが農業、水産加工、製造業、介護などの現場で働いています。また、公共交通機関を利用し、地域の商店や医療機関を利用しながら生活していることから、求められるのは高度な日本語能力というよりも、「指示が分かる」「生活のルールが理解できる」「地域で安心して行動できる」ための実践的な日本語であるといいます。こうした生活実態を踏まえ、交流型日本語教室は、日本語学習支援者として地域住民が参加することで、外国人学習者と地域社会との交流機会をあわせて提供し、学ぶ側と教える側が一緒に「どうすれば伝わるか」「どこが分かりにくいか」を考える場になっているということです。

 この具体的な事例が、青森市内に拠点を置く水産加工企業・株式会社丸勝水産において実施された交流型日本語教室です。丸勝水産は、ホタテを中心とした水産物の加工・製造を行う企業で、地域の基幹産業の一つを担っています。

 202411月には、同社で働くインドネシア出身の技能実習生9名を対象にした交流型日本語教室が実施されました。青森市交通部が準備したテキストに沿って、路線バスの乗り方やマナー、時刻表の見方を学び、会場横に停車した実際のバスに乗車しながら、待ち方や支払い方法、降車の合図などを体験的に確認しました。丸勝水産専務取締役によると買い物や外出・旅行など、地域で暮らすうえで欠かせない移動を想定した内容になっていただけでなく、バスへの乗車体験、受講者へのおかしのプレゼントもあり、交流を通じた和やかな雰囲気の日本語教室になったといいます。

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写真 (株)丸勝水産における交流型日本語教室

 この事例が示しているのは、交流型日本語教室が単なる日本語教育にとどまらず、労働と生活、そして地域をつなぐ役割を果たしているという点です。特に青森のような人口減少地域では、外国人住民が安心して働き、暮らし続けられるかどうかが、地域産業の持続性にも影響することでしょう。その意味で、日本語教育を「生活支援」と一体的に位置づける視点は、今後ますます重要になっていくと考えられます。

おわりに

 人口減少が進む地方において、外国人住民が増加するなかで、多文化共生を地域の暮らしを支える施策の一部として位置づけていくことは、今後ますます重要になると考えられます。青森県で見られる「やさしい日本語」による防災対応や交流型日本語教室の取組は、大規模な制度変更や多額の予算を前提とするものではありませんが、部局横断の連携や関係機関との協力によって、着実に進められてきました。

 これらの取組は、多文化共生を理念や計画にとどめるのではなく、日常の営みの中で少しずつ積み重ねていくものとして捉える姿勢を、具体的に示していると言えるでしょう。一方で、青森県観光国際交流機構の担当者からは、外国人学習者や日本人の学習支援者の確保の難しさ、自治体や事業者の間で日本語教育の必要性に対する理解が十分に共有されていないといった課題も指摘されています。こうした課題を抱えつつも、取組を重ねていくことが、本コラムの連載テーマである多文化共創とウェルビーイングの実現につながっていくのではないでしょうか。

注1 青森県ホームページ「青森県多文化共生推進プランを策定しました」
https://www.pref.aomori.lg.jp/release/2024/75730.html?utm_source=chatgpt.com

注2 青森市ホームページ「やさしい日本語による「防災カード」」
https://www.city.aomori.aomori.jp/anzen_kinkyu/bousai_shoubou/1002623/1002633.html

謝辞
本稿は、20259月に実施した青森県におけるヒアリング調査をもとに作成しました。ヒアリング調査へのご協力ならびに関係資料のご提供をいただいた、青森県誘客交流課、青森市交流推進課、青森県観光国際交流機構、株式会社丸勝水産の皆様に感謝します。

※本稿は、JSPS科研費 25K00646(研究代表者:東海大学教授 万城目正雄)、24H00145(研究代表者:一橋大学教授 森口千晶)、の助成を受けたものである。

著者プロフィール

万城目正雄
東海大学教養学部人間環境学科教授。専門は、国際労働移動、国際経済。著書に『移民・外国人と日本社会』(共著、原書房、2019年)、『インタラクティブゼミナール新しい多文化社会論』(共編著、東海大学出版部、2020年)、『岐路に立つアジア経済-米中対立とコロナ禍への対応(シリーズ検証・アジア経済)』(共著、文眞堂、2021年)等がある。多文化社会研究会では専務理事・事務局長を務める。..

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