コラム

第63回 カナダの移民政策


山脇 啓造

 カナダは世界で初めて多文化主義を国家政策として採用し、憲法や法律にも明記した国です。人口は約4,100万人(2024年)で、そのうち外国生まれ(foreign-born)の割合は約23%に達しています。国別内訳では、インド系が最大で、次いで中国系、フィリピン系となっています。以下、連邦政府、州政府、地方自治体の三つのレベルごとに、カナダの移民政策の現状について整理し、最後に日本への示唆を述べたいと思います。

1.連邦政府(Federal Government)

 (1)白人優先の移民政策の歴史と1960年代の転換

 カナダの移民受け入れは、19世紀半ばの植民地時代から本格化しました。1867年の連邦成立後、カナダは西部開拓のため積極的に移民を受け入れましたが、その政策は人種差別的なものでした。1885年、中国人労働者を活用して太平洋鉄道が完成すると、新たに入国する中国人に対して人頭税が導入されました。1923年には中国人移民法により、中国人移民が事実上全面禁止されました。この法律は1947年まで続きました。1908年には、インド系移民を排除するため「連続航海規制」が導入されました。さらに、1942年には太平洋戦争の勃発を受けて、約22,000人の日系カナダ人が強制収容され、財産を没収されました。戦後も帰還が制限され、1988年にようやく公式謝罪と補償が行われました。

 移民政策には明確な階層があったといえます。最優先は英国と米国からの移民、第2層が北欧・西欧諸国、第3層が東欧・南欧、そしてアジア系とアフリカ系は排除の対象でした。この人種差別的な移民政策が転換したのは1960年代です。1962年の移民法改正で人種・国籍に基づく差別が公式に撤廃され、1967年にはポイント制が世界で初めて導入されました。このポイント制は、教育、語学能力、職業経験などに基づいて移民を選抜する仕組みで、出身国に関わらず同じ基準で評価されることになりました。この転換の背景には、国際的な人権意識の高まり、労働力不足、そして冷戦下の西側陣営としてのイメージ戦略がありました。

 (2)多文化主義の誕生と法制化

 1960年代、イギリス系とフランス系の「建国の二民族(two founding nations)」という枠組みでは、急増する多様な移民の存在を説明できなくなっていました。ケベック・ナショナリズムが高まる中、1971年、ピエール・トルドー首相(自由党)は「二言語主義の枠組み内での多文化主義(multiculturalism within a bilingual framework)」を宣言しました1。世界で初めて多文化主義を掲げた国家となりました。

 1982年、トルドー政権下でカナダ権利自由憲章が制定され、第27条で「カナダ社会の多文化的遺産(multicultural heritage of Canadians)の保全と発展」が憲法上の権利として明記されました2。そして1988年、ブライアン・マルルーニー首相(保守党)の下で、カナダ多文化主義法(Canadian Multiculturalism Act)が制定され、多文化主義が法的基盤を持つことになりました3。この法律は超党派の支持を得て成立し、すべてのカナダ人の完全かつ公平な参加の促進、カナダの多文化的性格の認識と促進、文化的・人種的障壁の除去などを目的としています。

 (3)歴代政権と多文化主義

 カナダの多文化主義政策は、政権によって温度差がありました。マルルーニー首相退陣後の自由党政権(1993-2006年:ジャン・クレティエン、ポール・マーティン)では、多文化主義が積極的に推進されました。また、1998年から州指名プログラム(Provincial Nominee Program, PNP)が導入され、移民の地域分散が進められました。

 保守党政権(2006-2015年:スティーブン・ハーパー)では、多文化主義への姿勢が変化しました。ハーパー政権は「カナダ的価値(Canadian values)」を強調し、2011年には市民権取得のための試験を厳格化しました。また、新移民向けガイドブック「カナダを発見する(Discover Canada)」では、カナダの軍事史や君主制が強調されました。多文化主義関連予算も削減され、担当省庁も格下げされました。しかし、ハーパー政権は多文化主義そのものを否定したわけではなく、「経済的統合」を重視する方向にシフトしたと言えます。

 自由党政権(2015-現在:ジャスティン・トルドー、マーク・カーニー)では、多文化主義への積極的な姿勢が復活しました。トルドー首相は「多様性こそが我々の強み(Diversity is our strength)」というスローガンを掲げ、2015年には多数のシリア難民を受け入れました。2017年には下院が中国人移民への歴史的差別に対して正式に謝罪しました現在、連邦政府にはカナダのアイデンティティと文化担当大臣が置かれ、多文化主義政策を所管しています。

 (4)定住支援プログラム

 カナダでは、1979-1980年のインドシナ難民受け入れが体系的な定住支援の契機となり、1990年代以降、連邦政府の資金により包括的な支援体制が整備されてきました。現在、連邦政府の移民・難民・市民権省(Immigration, Refugees and Citizenship Canada: IRCC)は、定住支援プログラム(Settlement Program)という包括的な定住支援プログラムを運営しています。

 このプログラムの下で、連邦政府は全国で500を超える非営利団体やコミュニティ組織と直接契約を結び、言語訓練、生活オリエンテーション、就労支援、地域とのつながりづくりなどのサービスに資金提供を行っています。また、Canadian Language BenchmarksCLB)に代表される全国統一の基準を設定することで、州を越えた制度的一貫性を確保しています。

 定住支援プログラムの中核となる言語訓練では、1992年に開始されたLINCLanguage Instruction for Newcomers to Canada)が、成人移民・難民のための無料の体系的な英語教育を提供しています(ケベック州を除く)。CLBという12段階の言語能力基準に基づいてレベル分けされ、初級から上級まで体系的な学習が可能です。授業は通常、コミュニティカレッジやNGOが提供し、連邦政府が資金援助しています。パートタイム、フルタイム、オンラインなど多様な受講形態があり、託児サービスを提供する機関もあります。一方、ケベック州では、独自のフランス語化プログラム(Programme de francisation)が移民に対して無料のフランス語教育を提供しています。

 言語訓練に加えて、定住支援プログラムには、移民がカナダ社会で生活を始めるための幅広い支援が含まれています。具体的には、カナダの生活や制度、権利に関する情報・オリエンテーション、履歴書作成や求職活動、資格認定を支援する就労関連サービス、地域とのつながりづくりを促すコミュニティ・コネクションなどが提供されています。さらに、託児、交通支援、通訳・翻訳、法的相談といった支援サービスも用意されています。これらのサービスは主にNGOが提供し、連邦政府が資金援助しています。これらのプログラムの参加は任意ですが、永住権や市民権の取得には一定の言語能力が求められるため、多くの移民が利用しています。

 もっとも、こうした定住支援プログラムは、主として永住権保持者や難民を対象としており、留学生や一時就労者など非永住外国人に対しては、制度的に限定的な支援にとどまっています。非永住者は、言語教育や就労支援、住宅支援といったサービスへのアクセスが制限される場合が多く、地域社会に一定期間居住しながらも、十分な統合支援を受けられない状況に置かれることがあります。この点は、移民支援が充実していると評価されがちなカナダにおいても、永住を前提としない外国人の生活安定や地域統合が必ずしも十分に保障されているわけではないことを示しています。

 (5)永住権と市民権

 カナダでは、永住権(Permanent Residence)と市民権(Citizenship)が明確に区別されており、段階的な統合モデルが採られています。永住権は居住と就労の安定を保障する地位であり、市民権は政治参加を含む完全な成員資格を意味します。永住権取得には、大きく分けて2つのルートがあります。第一は、海外にいる間に申請し、承認後に永住権保持者として入国する方法です。経済移民、家族呼び寄せ、難民再定住などがこれに該当します。経済移民の場合、Express Entryシステムを通じてポイント制で評価され、語学能力、学歴、職業経験などが選抜基準となります。第二は、一時滞在者(留学生、就労ビザ保持者など)として入国した後、カナダでの経験を基に永住権を申請する方法です。近年このルートを通じた永住権取得者が増加しています。永住権保持者は、5年間のうち2年以上カナダに居住する義務があります。

 市民権取得には、永住権を持ち過去5年間のうち3年以上カナダに居住していること、所得税の申告義務を果たしていること、英語またはフランス語の能力を証明すること(18-54歳)、市民権テストに合格すること(18-54歳)、市民宣誓を行うことが求められます。市民権を取得すると、投票権、公職への就任権などが得られ、居住する義務もなくなります。市民権テストは、前述の「カナダを発見する」に基づき、20問の選択式で15問以上正解で合格です。内容には、カナダの歴史、地理、政治制度、権利と責任などが含まれます。

6)雇用平等とビジブル・マイノリティ概念

 カナダの移民統合政策を理解する上で重要なのが、1986年に制定された雇用平等法(Employment Equity Act)です。同法は、女性、先住民、障害者、そしてビジブル・マイノリティ(visible minority)の4つの指定グループに対する積極的差別是正措置を定めています。ビジブル・マイノリティとは、「先住民以外で、人種において非白人または肌の色において非白色の人々」と定義され、南アジア系、中国系、黒人、フィリピン系などが含まれます。2021年国勢調査では、約964万人(総人口の26.5%)がビジブル・マイノリティと識別されました。

 しかし、国連人種差別撤廃委員会は2007年、2012年、2017年の3回にわたり、この用語の再考を求めています。カテゴリーが大きすぎて異なる民族グループの経験を均質化すること、「白人」を規範として設定する構造が問題であることなどが批判されています。こうした批判を受けて、カナダ政府や統計機関の間でも、「ビジブル・マイノリティ」という概念の妥当性や代替的な指標のあり方について、見直しや再検討の議論が進められています。

 (7)移民政策の定期的見直し

 カナダでは、移民政策の定期的な見直しが行われてきました。連邦政府は毎年、移民受け入れ計画(Immigration Levels Plan)を策定し、経済移民、家族呼び寄せ、難民のカテゴリーごとに数値目標を設定しています。2023年には包括的な政策レビューが実施されました。An Immigration System for Canada's Futureと題された報告書は、移民制度の現代化、処理時間の短縮、不正行為の防止などを提言しました。しかし近年、住宅不足やインフレの中で移民受け入れへの批判が高まり、2024年には受け入れ数の削減が発表されるなど、政策の見直しが進んでいます。世論調査では、移民受け入れ数が「多すぎる」と考える国民の割合が増加しており、社会的合意の維持が課題となっています。

 (8)先住民族政策との関係

 カナダの多様性政策を理解する上で重要なのは、移民統合政策と先住民族政策が別個の枠組みで展開されてきたことです。2021年国勢調査では約184万人(総人口の5%)が先住民族と自認しています。1971年の多文化主義政策宣言に対して、先住民族指導者は、自分たちを「多文化の一つ」として位置づけることは、植民地化以前からこの大陸に住む「建国以前の民族」としての特別な地位を希薄化させると強く反発しました。この批判を受けて、1982年のカナダ権利自由憲章は、多文化主義(第27条)とは別に先住民族の権利(第25条)を保護することを明記しました。しかし、先住民族コミュニティは依然として深刻な社会経済的困難に直面しており、貧困率、失業率、受刑率が全国平均を大きく上回っています。移民統合政策の成功が語られる際、先住民族の現実が見過ごされがちであることは、カナダの多様性政策の重要な限界として認識されています。

2.州政府(Provincial Government

 カナダは連邦制国家であり、移民統合政策の特徴は、連邦政府と州政府の役割が重層的に絡み合っていることにあります。移民の選抜と入国管理は基本的に連邦政府の管轄ですが、後述の州指名プログラムでは州が実質的に選抜に関与しています。一方、移民が日常的に利用する教育、医療、社会サービスは州政府が担っていますが、新移民向けの定住支援については、前述のように連邦政府が主導的役割を果たしている点がカナダの特徴です。もっとも、ケベック州は移民の選抜および定住・言語統合に関して例外的に広い管轄権を持ち、連邦政府からの一括交付金を用いて独自に制度運営を行っています。さらに、他の州においても、連邦資金とは別に独自の財源でNGOへの追加支援を行うなど、州ごとの補完的な取り組みが見られます。

 (1)州指名プログラム
 
 1998年から、カナダ政府は移民の地域分散を促進するため、州指名プログラム(Provincial Nominee Program, PNP)を導入しました。これは、各州が独自の経済・労働市場ニーズに基づいて移民を選抜し、連邦政府に推薦できる制度です。州が指名した移民は、連邦の移民受け入れ枠とは別に永住権を取得できます。このプログラムにより、従来はトロント、バンクーバー、モントリオールの三大都市圏に集中していた移民が、マニトバ州やサスカチュワン州などの地方部にも分散するようになりました。各州は、IT人材、農業労働者、医療従事者など、それぞれの地域が必要とする人材を誘致することができます。

 (2)ケベック州

 ケベック州の人口は約850万人で、ビジブル・マイノリティの割合は約16.1%です(2021年国勢調査、以下同様)。もっとも、移民の多くはモントリオール大都市圏に集中しています。ケベック州は、1991年のカナダ・ケベック協定により、独自の移民選抜基準を設定し、フランス語能力および関連する職業経験を重視した移民政策を展開しています4。移民の選抜、定住支援、言語統合に関して広範な管轄権を有しており、連邦政府からの一括交付金を用いて独自に制度運営を行っています。一方で、庇護申請の扱いについては、引き続き連邦政府が権限を保持しています。

 ケベック州政府は、多様性を前提としつつも、フランス語を「共通の公共文化」の中核に位置づけ、社会的結束を確保する手段とみなす統合モデルとして、インターカルチュラリズム(interculturalism)を推進してきました。この概念は、1980年代以降、連邦政府の多文化主義の下で文化的多様性の承認が進む一方、フランス語の位置づけや社会的結束が弱体化しているのではないかという不満や懸念が高まったことを背景に、1990年代から政策用語として次第に用いられるようになりました。

 インターカルチュラリズムは、これまで正式な政策や行政上の枠組みとして制度化されたことはありませんが、2000年代初頭以降、多くの政府の公式文書の中で用いられてきました。また、2008年のブシャール=テイラー委員会報告書において、ケベック州の統合理念として公式に位置づけられました5。同報告書は、多文化主義の限界を意識しつつ、フランス語を共通の公共言語とし、インターアクションを通じた社会統合を図るというケベック州独自のアプローチを明確にした点で、重要な転機といえます。

 ケベック州は独自のフランス語教育プログラムを提供するだけでなく、2019年にはケベック価値テスト(Test on Quebec Values)の導入も検討しました。また、同年には世俗主義法(Bill 21)が制定され、教師や警察官などの公務員が勤務中に宗教的象徴(ヒジャブ、ターバンなど)を着用することが禁止されました。これらの政策は、ケベック州が掲げるインターカルチュラリズムを具体的な制度として実装する試みである一方、連邦政府の多文化主義政策との間に緊張関係を生み出し、学界、活動家、市民社会組織の間で議論や批判の対象となってきました。

 (3)オンタリオ州

 
オンタリオ州の人口は約1,480万人で、ビジブル・マイノリティの割合は約34.3%です。トロント大都市圏では、ビジブル・マイノリティが過半数を占めています。オンタリオ州には州レベルの多文化主義法はありませんが、1982年に人種関係局を設置し、その後、市民権・移民省が多文化主義政策を所管してきました。2016年には反人種差別局が設置され、組織的人種差別への対処を強化しています。オンタリオ州もPNPを活用し、トロント以外の地域への移民誘致を進めています。

 4)ブリティッシュコロンビア州

 
ブリティッシュコロンビア州の人口は約530万人で、ビジブル・マイノリティの割合は約34.4%と全州で最も高い比率です。特にバンクーバー大都市圏では、アジア系移民が多数を占めています。同州では1993年に多文化主義法が制定され、州政府の各部門に多文化主義政策の実施を義務付けています。また、1996年には人権コードが強化され、差別からの保護が拡充されました。同州のPNPは、IT人材や医療従事者の誘致に力を入れています。

 (5)大西洋州

 ニューブランズウィック州、ノバスコシア州、プリンスエドワードアイランド州、ニューファンドランド・ラブラドール州の大西洋4州は、人口減少と高齢化に直面しており、移民誘致が地域活性化の鍵となっています。2017年に開始された大西洋移民プログラム(Atlantic Immigration Program)は、この地域への移民定着を支援する特別プログラムで、雇用主が移民を直接推薦できる仕組みを持っています。

3. 地方自治体(Municipal Government

 カナダの地方自治体は州法に基づいて設置され、憲法上の独立した地位を持ちませんが、実際には移民統合の最前線として重要な役割を果たしています。カナダはトロント、モントリオール、バンクーバー三大都市圏に移民が集中する傾向がありますが、地方都市も積極的な誘致活動を行っています。

 (1)トロント市

 
トロント市は人口約280万人で、ビジブル・マイノリティが過半数を占める「マジョリティ・マイノリティ都市」です。140以上の言語が話され、世界で最も多様な都市の一つとされています。トロント市は2001年に「アクセス、公平、人権」政策を採用し、市の全サービスにおける平等なアクセスを保証しています。また、聖域都市(Sanctuary City)政策により、移民の法的地位に関わらず市のサービスを利用できる体制を整えています。こうした取り組みは、移民の法的地位や出身にかかわらず、市民としての参加を保障する点で、地方自治体が担う統合政策の先進的モデルといえます。

 (2)バンクーバー市

 
バンクーバー市は人口約67万人で、ビジブル・マイノリティの割合は約5割と高く、特に中国系、南アジア系、フィリピン系の住民が多く、アジア太平洋地域との強い結びつきがあります。バンクーバー市は「対話プロジェクト」など、異なる文化背景を持つ住民間の対話を促進する取り組みを展開し、多文化主義の現場モデルを示しています。これらの取り組みは、多文化主義を単なる理念にとどめず、日常的な対話と関係形成を通じて実装しようとする自治体レベルの工夫といえます。

 (3)地方都市の取り組み

 人口減少に直面する大西洋州の地方都市でも、積極的な移民誘致が進んでいます。モンクトン市(ニューブランズウィック州、人口約8万人)は大西洋移民プログラムを活用し、地元企業との連携で移民の定着率を向上させています。ハリファックス市(ノバスコシア州、人口約46万人)は留学生から永住者への移行を促進し、若年人口の増加に成功しています。これらの地方都市は、大都市に依存しない移民統合モデルを示しています。これらの事例は、移民統合が大都市だけの課題ではなく、地域の経済・人口戦略と結びついた政策であることを示しています。

 (4)地方自治体のネットワーク

 カナダ自治体連合(Federation of Canadian Municipalities, FCM)の移民定住ワーキンググループには、100以上の自治体が参加しています。このネットワークは優良事例の共有、連邦政府への政策提言(住宅支援強化、反差別条例拡充)を行い、全国的な基準形成に貢献しています。こうした自治体間ネットワークは、移民統合政策を各自治体の個別対応に委ねるのではなく、横断的な学習と標準形成を通じて底上げする役割を果たしています。

 (5)ケベック州の自治体とインターカルチュラル・シティ

 
ケベック州では、モントリオールやシェルブルックをはじめとする複数の自治体が、欧州評議会が推進するインターカルチュラル・シティ(ICC)に参加しています。ICCは、異なる文化的背景を持つ住民同士のインターアクションを都市政策の中核に位置づけ、自治体同士が実践を共有し学び合う国際的なネットワークです6ケベック州の自治体がICCに関与している背景には、州政府が掲げるインターカルチュラリズムと、インターアクションを重視する点での理念的な重なりがあります。一方、州内のICCネットワークは州政府が示す統合の規範を実施する枠組みではなく、自治体が現場の取り組みを通じて統合政策を磨き上げていく場として機能しています。

4.
日本への示唆

 
カナダの移民統合政策が日本に示唆することを3点挙げたいと思います。

 1)体系的な言語教育と定住支援の重要性

 
カナダのLINCや定住支援プログラムは、移民統合の基盤として機能しています。無料で提供され、12段階の能力基準に基づく体系的な教育、託児サービスの提供、オンライン受講の選択肢など、アクセスしやすい仕組みが整っています。また、言語教育だけでなく、就労支援、住宅探し、法的相談など包括的なサービスが提供されています。日本でも2019年の改正入管法により、日本語教育推進法が制定され、自治体での日本語教育が進められています。しかし、カナダのような政府による全国的な枠組みや、能力基準に基づく体系的なプログラムはありません。また、言語教育と生活支援を包括的に提供する仕組みも不足しています。カナダの経験から学ぶべきは、言語教育を単なる語学訓練ではなく、社会統合の入口として位置づけ、生活オリエンテーションや就労支援と組み合わせることの重要性です。また、NGOへの資金援助を通じて、地域に密着したきめ細かいサービス提供を可能にする仕組みも参考になります。

 (2)地域分散と州・自治体の役割

 
カナダでは、州指名プログラム(PNP)を通じて、各州が独自の経済・労働市場ニーズに基づいて移民を選抜できます。この制度により、移民が三大都市圏に集中することを避け、地方部への分散が進んでいます。各州は、IT人材、農業労働者、医療従事者など、それぞれの地域が必要とする人材を誘致することができます。日本でも、外国人材が東京・大阪・名古屋などの大都市圏に集中する傾向があります。一方で、地方部では深刻な人手不足があるにもかかわらず、受け入れ体制が十分でない状況です。カナダのPNPのように、地域のニーズに応じた外国人材の受け入れと定着支援の仕組みを検討する価値があるでしょう。その際、国が大枠を定めつつ、自治体が地域の実情に応じた柔軟な政策を展開できる体制が重要です。

 (3)継続的な見直しと国民的合意形成

 カナダの経験から得られる最も重要な示唆の一つは、移民政策の持続可能性が、永住者の受け入れ数だけでなく、永住に至る前段階にある一時滞在者の規模をいかに管理するかに大きく左右されるという点です。この点は、移民政策が経済政策であると同時に、住民の反応や合意形成など政治的に高いコストを伴う社会政策であることを示しています。カナダはこれまで、永住者については年次の移民受け入れ計画によって数値目標を明示してきた一方、留学生や一時就労者といった一時滞在者については、原則として総量管理を行わず、需要に委ねてきました。しかし2024年以降、住宅不足や公共サービスへの負荷が顕在化する中で、留学生数への上限設定など、一時滞在者を制御する政策に初めて踏み込みました。この政策転換は、移民政策を永住者の在留管理にとどめず、一時滞在から定住、統合に至る全体のプロセスとして捉え直そうとする試みと位置づけることができます。どれほど制度化された移民政策であっても、社会状況の変化に応じて受け入れの各段階を継続的に見直さなければ、国民的な支持を維持することは難しいでしょう。

 日本においても、2027年度に開始される育成就労制度をはじめ、留学生や外国人労働者の受け入れが拡大する中で、永住に至る前段階にある外国人住民の規模と地域的集中をどのように管理し、住宅、雇用、社会保障、地域社会との調整をどの段階で行うのかという視点が不可欠です。そのためには、制度の目的や前提を丁寧に説明し、定期的なレビューを通じて政策を調整していく仕組みをあらかじめ組み込むことが、国民的合意形成の前提条件となるでしょう。

おわりに

 カナダの経験は、白人優先の歴史から多文化主義への移行という大きな転換を示しています。言語教育(LINC)や定住支援プログラムなど、体系的な移民統合の仕組みを整備し、州指名プログラムを通じて地域分散を促進してきました。しかし、多文化主義の制度化が移民統合に一定の成果を挙げた一方で、州ごとに異なるアプローチ(特にケベック州のインターカルチュラリズム)が共存する複雑さや、先住民族政策との関係、さらに住宅危機や物価高騰などを背景とした近年の反移民感情など、課題も少なくありません。

 日本はカナダの経験に学びつつも、日本の歴史的・文化的文脈に適した移民統合政策(多文化共生政策)を構築する必要があります。カナダの経験は多文化主義の可能性と同時に限界も示しており、制度的枠組みの整備だけでは移民統合は実現できず、経済状況、地域事情、歴史背景、国民感情など複合的な要因への対応が不可欠であることがわかります。


【注】
1エール・トルドー首相が連邦議会下院で表明した政策声明に基づく。Pierre Elliott Trudeau, "Statement to the House of Commons on Multiculturalism," House of Commons Debates, 8 October 1971.  参照URL: https://www.lipad.ca/full/permalink/2756565/

2 参照URL: https://laws-lois.justice.gc.ca/eng/Const/page-15.html

3 参照URL: https://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/c-18.7/

4 参照URL: https://www.canada.ca/en/immigration-refugees-citizenship/corporate/mandate/policies-operational-instructions-agreements/agreements/federal-provincial-territorial/quebec/canada-quebec-accord-made-easy.html

5 ブシャール=テイラー委員会(Consultation Commission on Accommodation Practices Related to Cultural Differences)は、2008年に最終報告書 Building the Future: A Time for Reconciliation を公表した。参照URL: https://numerique.banq.qc.ca/patrimoine/details/52327/1565995

6 参照URL: https://www.coe.int/en/web/interculturalcities

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