企業における多文化共生
―愛媛県今治市の中小企業X社を事例に-
神戸大学大学院国際文化研究科 講師 土田 千愛
はじめに
これまで外国人の「非集住地域」(徳田 2016: 10)だった地域で、近年、技能実習生の数が増加しています。技能実習生とは、開発途上国等へ技能・技術や知識を移転するという国際協力を推進するために、人材育成として通算5年の在留と特定の職種・作業での就労が認められている一時的な外国人労働者です。
在留外国人について都道府県別に最も多い在留資格を見ると、2025年6月末時点で47都道府県のうち約半数を占める24道県で「技能実習」が第一位を誇っています1。また、是川(2025, 53)によると、技能実習生のような「一時滞在型移民」が在留外国人全体に占める割合は、先進国中で日本は第6位であり、世界的に見ても多いことが分かります2。
日本では、近い将来、技能実習制度が廃止され育成就労制度が導入されることになっていますが、一時的な外国人労働者との共生は、引き続き主要な課題になると思われます。
1.なぜ企業における多文化共生が重要なのか
日本政府は、2018年に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を策定して以来、共生社会の実現を目指して、さまざまな政策を講じています。しかし、技能実習生に関しては、不正行為や失踪・人権問題への対処など制度の適正化が掲げられることが多く、実際の受け入れは各企業に委ねられているのが現状です3。また、在留外国人の中でも技能実習生は、在留期間が限定的で家族帯同も認められないため、社会関係資本が乏しく地域社会で不可視となりやすいという問題があります(二階堂 2019: 69)。
そこで、本稿では、一時的な外国人労働者との共生に向けて、技能実習生にとって一番身近な社会である企業に着目し、経営者の役割を考えます。
2.愛媛県今治市と中小企業X社について
事例として、本稿では、愛媛県今治市で船舶製造業などを営む中小企業のX社を取り上げます。海事産業などが盛んな愛媛県今治市では、総人口が年々減少する一方で在留外国人数は増加傾向にあり、2015年から2024年までの10年間で在留外国人数は約1.7倍になりました4。また、今治市の在留外国人の割合を在留資格別に見ると、「技能実習」が最も多く45.1%を占めています5。
X社は、親子三世代で営んできた創業60年の会社です。2000年頃から外国人従業員を雇用するようになり、現在では37人の日本人従業員と技能実習生を中心とした33人の外国人従業員(フィリピン国籍)が働いています。筆者は、2024年7月7日に今治市国際交流協会を訪問し、X社の外国人従業員が参加している活動を観察しました。また、2025年8月27日にX社を訪問し、代表取締役社長(以下、社長)と取締役の2名に約2時間にわたって半構造化インタビューを行い、X社の取り組みや社長らの考えを調査しました。
3.外国人従業員の活動への参加
社長ら曰く、X社では家族主義経営を基調としながらも、数年前までは外国人従業員にどのように接したら良いか分からなく、「全然上手くいっていない」ような状況だったそうです。しかし、3年前に、今治市に住むフィリピン人たちが会社対抗でバスケットボールの試合をすることを知り、社長と日本人従業員らで応援に行ったことが転機となりました。参加した全10チームの中で唯一、社長をはじめ日本人従業員が応援に駆け付けたことが、とても喜ばれたそうです。社長らは「すごく打ち解けた瞬間だった」と言います。
図1. バスケットボールの試合にて(X社提供)
4.地域活動への参加
その後もたびたび、社長らがバスケットボールの試合へ応援に駆け付けるようになると、外国人従業員の地域活動への参加率が高まっていきました。例えば、今治市の夏のお祭りである「おんまく」には、2024年に23人、2025年に30人の外国人従業員が参加しました。また、外国人従業員の中には、今治市国際交流協会が主催している「おんまく」の踊りの練習会に指導者として参加し、市民に踊り方を教えている技能実習生もいます。
さらに、以前は全く興味を示さなかったという同協会主催の「外国人による日本語スピーチコンテスト」にも、毎年2~3人の外国人従業員が参加するようになりました。参加した外国人従業員たちは、大会の写真を母国の家族へ送り、日本で頑張っている自分の姿を誇らしげに伝えることもあるそうです。

図2. 「おんまく」にて(X社提供)
5.日本人従業員と外国人従業員の交流
そのほかにもX社では、日本人従業員と外国人従業員の信頼関係を構築するために、さまざまな取り組みをしています。例えば、社長らは「現地の言葉をしゃべれないと、なかなか距離が縮まらない」と考え、外国人従業員からの要望も踏まえ、日本語能力試験(以下、JLPT)の受験に向けて、試験前の3ヶ月間には隔週金曜日の夕方に日本語教室を開催しています。
また、従業員同士の交流を深めるために、バーベキューや夏祭りなどの行事を行ったり、毎月、新入社員や外国人従業員の地域活動への参加などを紹介する社内報を作成して掲示したり、朝礼では「外国人による日本語スピーチコンテスト」などに参加した外国人従業員を全従業員の前で表彰したりしています。そうすることによって、日本人従業員と外国人従業員の関係性が徐々に良くなっていることを実感しているそうです。
6.経営者が外国人従業員と地域社会の橋渡し役に
以上より、一時的な外国人労働者との共生を進展させるためには、まず、経営者のリーダーシップが重要であると言えます。X社では、経営者らが外国人従業員に歩み寄り、彼らの活動に参加した結果、企業や地域活動に対する外国人従業員のコミットメントが高まりました。そして、それを後押しするかのように、経営者らの主導で日本語教室や各種行事など社内でさまざまな取り組みが行われたり、外国人従業員の地域活動への参加などについて積極的に社内で情報が共有されたりするようになりました。
また、中小企業の経営者は外国人従業員と日本人従業員、さらに外国人従業員と地域社会との橋渡し役になり得ると考えます。これは、社会関係資本が乏しく地域で不可視となりやすい一時的な外国人労働者にとって重要な意味を持ちます。なお、外国人の社会統合には、社会的橋渡しが一つの不可欠な要素とされています(Ager and Strang 2008: 179-180)。したがって、企業における多文化共生の取り組みは、一時的な外国人労働者の社会統合にも寄与すると考えます。
7.おわりに
これまで技能実習制度は、「現代の奴隷制度」と揶揄されるほどネガティブな評価が少なくありませんでした。しかし、現場に目を向けると、X社のように代々受け継がれてきた家族主義経営の延長線上で、技能実習生を中心とした外国人従業員と共生しようと努力している企業もあります。外国人の在留期間の長短にかかわらず、今後も職場という一番身近な社会から多文化共生を発展させていくことが重要です。
注
1)出入国在留管理庁「令和7年6月末現在における在留外国人数について」
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00057.html(2026年1月14日アクセス)
2)本人の意思にかかわらず、在留期間の上限が定められている季節労働者、ゲストワーカー、留学生などは「一時滞在型移民」に分類されます(是川 2025: 45)。
3)出入国在留管理庁「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」
https://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/nyuukokukanri01_00140.html(2026年1月12日アクセス)
4)今治市「今治市多文化共生推進プラン(案)」
https://www.city.imabari.ehime.jp/public/013/siryo.pdf?1(2026年1月15日アクセス)
5)同上。
参考文献
是川夕(2025)『ニッポンの移民―増え続ける外国人とどう向き合うか』ちくま新書.
徳田剛(2016)「『多文化社会』日本の現況」徳田剛・二階堂裕子・魁生由美子著『外国人住民の「非集住地域」の地域特性と生活課題―結節点としてのカトリック教会・日本語教室・民族学校の視点から』創風社出版、pp. 7-32.
二階堂裕子(2019)「外国人技能実習生と地域住民の顔の見える関係の構築―岡山県美作市における地域再生の試み―」『社会分析』46号、pp. 63-81.
Ager, A. and Strang, A. (2008) "Understanding Integration: A Conceptual Framework", Journal of Refugee Studies, 21(2): 166-191.
謝辞
本研究の一部は、JSPS 科研費21K18130の助成を受けたものです。また、本研究にご協力いただきましたX社の皆様、X社をご紹介いただきました今治市市民参画課多文化・共生社会推進室の皆様、今治市国際交流協会の皆様に厚く御礼申し上げます。
著者プロフィール
土田 千愛 TSUCHIDA, Chiraki, Ph.D.
神戸大学大学院国際文化学研究科講師
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了。多文化社会研究会理事。専門は、移民・難民研究、国際関係論。主な業績に、『日本の難民保護―出入国管理政策の戦後史』(単著、慶應義塾大学出版会、2024年)、『多文化社会の社会教育―公民館・図書館・博物館がつくる「安心の居場所」』(共著、明石書店、2019年)など。第9回吉野作造研究賞優秀賞、2024年度国際開発学会奨励賞、第4回東京大学而立賞など受賞。