地域住民を代表する18歳-英国の事例から
大山 彩子
英国では近年、政府や政治への不信感、生活への不安感がウェルビーイングの観点からも論じられています。ガーディアン紙は、2026年2月に英国国家統計局(Office for National Statistics、以下ONS)が公表したウェルビーイング関連データについて、英国政府への信頼が依然として低い水準にあり、生活満足度もコロナ禍以前の水準には戻っていないと報じました。また、若い世代ほど不安感が強い傾向も紹介されています(Knowles and Wearden, 2026)。
ONSは、2010年以降、英国政府のNational Well-being Programmeの中で、ウェルビーイングを測定するための指標開発を進めてきました。こうした指標群は、経済成長だけでは捉えきれない、人々の生活満足度、不安感、社会への信頼感などを継続的に可視化するものです。その中には、「政治に自分の声が反映されている感覚(voice in government matters)」も含まれており、人々が政治や社会とのつながりをどのように感じているのかも重視されています(ONS, 2025)。多文化社会においては、異なる世代や背景を持つ人々が、支援される存在としてだけではなく、地域社会を共につくる主体として政治や地域社会に関わることができるかどうかが重要な課題となっています。
2023年5月、イングランド東部ケンブリッジシャー州で、18歳の地方議会議員が誕生しました。英国では18歳以上に被選挙権が認められているとはいえ、10代での当選は依然として大変珍しい事例です。当選したのは、保守党所属のルーシャス・ヴェラコット(Lucius Vellacott)です。現在も、ケンブリッジシャー州東部地区議会(East Cambridgeshire District Council)の地方議員として活動しながら、大学で政治学を学んでいます。
本稿では、2025年12月に大学の学生紙『Roar News』に掲載されたヴェラコットのインタビュー記事(Symes, 2025)の内容を手がかりに、若者の政治参加に関する英国の制度的背景を概観します。具体的には、被選挙権18歳引き下げ時の議論、名誉職的地方議員、若者政治参加制度、若い世代の代表について検討しながら、多文化社会において若者がどのように地域社会の主体として位置づけられているのかを考えます。また、2026年5月の地方選結果をめぐる議論も紹介しながら、現在の英国社会における政治的不信についても簡単に触れます。
被選挙権18歳引き下げの理由
英国では、選挙権・被選挙権は原則として18歳以上です。ただし、分権化に伴い、スコットランドではスコットランド議会選挙および地方自治体選挙、ウェールズではSenedd Cymru(ウェールズ議会)選挙および地方自治体選挙について、16歳・17歳にも選挙権が認められています。被選挙権については、各地域とも18歳以上です。
日本では18歳で選挙権を得た後、地方議会議員や衆議院議員になるには25歳、参議院議員や都道府県知事になるには30歳まで待つ必要があります。つまり、日本では投票主体として認められてから、代表主体として認められるまでに、7年ないし12年の時間差が存在しています。
英国では、2006年選挙管理法(Electoral Administration Act 2006)によって、被選挙権年齢が21歳から18歳へ引き下げられました。この背景には、2000年代に問題視されていた若年層の政治的不信や投票率低下への懸念がありました。また当時、18歳は人生経験が不足しているという慎重論も存在しましたが、18歳以上の市民に立候補の機会を認め、その適格性は有権者が判断すべきであるという考え方も示されていました。さらに、18歳はすでに納税、就労、兵役など多くの社会的責任を負いうる以上、投票権のみを認め、立候補を制限することには制度的整合性の問題があるという議論も展開されました(Electoral Commission, 2004)。BBC News(2006)も、被選挙権年齢引き下げをめぐる議論について、「18歳はすでに多くの市民的責任を担っている以上、立候補のみを制限する合理性は乏しい」という認識が共有されていたと報じています。
つまり英国では、若者を「投票する市民」として長期間待機させるというよりも、有権者として認められた段階で、候補者として立つ可能性も制度上開くという考え方が取られています。ただし、地方自治体協会(Local Government Association)の2022年調査によれば、イングランドの地方議員の平均年齢は59.5歳であり、45歳未満は15.7%にとどまっています(Local Government Association, 2022)。さらに、10代の地方議員となると、制度上は可能であっても、現実にはなお例外的な存在です。
名誉職的地方議員
ヴェラコットは、大学受験期間に選挙活動として戸別訪問を行い、当選直後に試験を受け、同年9月にキングス・カレッジ・ロンドンへ進学しました。日本では公職選挙法上制限されている戸別訪問型の選挙活動が、英国では地域住民との接点を築く重要な政治実践として位置づけられています。
また、ヴェラコットが大学に通いながら地方議員として活動できる理由の一つとして、英国の地方議員制度の特徴があります。英国の地方議員制度は、歴史的に地域住民の代表が地域社会の運営に参加するという形で発展してきており、現在でも公共的奉仕を基盤とした名誉職的性格を有しています。地方議員の活動は、地域住民からの相談対応、委員会や本会議への出席、地域行事への参加など多岐にわたります。国会議員とは異なり、給与(salary)ではなく手当(allowance)が支給される形が一般的であり、学生や会社員などが仕事や学業と並行して活動する例も存在します(CLAIR, 2023)。
つまり、英国の地方議員制度には、専業政治家だけでなく、多様な生活背景を持つ人々が地方政治に関わる余地が制度上残されています。18歳で立候補できる制度に加えて、地方議員が必ずしも専業職として設計されていないことが、学生や若い社会人など、多様な立場の人々が地方政治に関わる余地を生み出しています。
政治家への道
ヴェラコットはインタビューの中で、両親の離婚後、母親と共に小さな賃貸住宅で暮らし、時には台所の床で寝ていたことや、新聞配達をして貯金していた経験にも触れています。その経験から、自立を支える社会的仕組みや地域社会への関心を持つようになったと述べています。
また、ヴェラコットは
16歳で地元保守党に関わり始めました。地元で選挙があることを知り、保守党側に「何か手伝えることはないか」と連絡したことが、政治参加のきっかけとなったといいます。自分で立候補を準備していたというより、議会に欠員があったことで周囲の人たちに「立候補を考えてみないか」と声をかけられ、促される形で立候補に至った過程を語っています。
ヴェラコットが
18歳で地方議員となった背景には、こうした個人の資質や地域の政党組織だけでなく、政治や公共問題に関わる英国の教育や若者政治参加制度も関係していると考えられます。
イングランドでは、
2002年からシティズンシップ教育(
Citizenship Education)が中等教育段階のナショナル・カリキュラム上の必修科目となりました(
Kerr, 2003)。シティズンシップ教育では、民主主義、議会制度、選挙、法の支配、人権、地域社会への参加などについて学ぶことが想定されています。
学校外にも、若者が代表や討論、選挙を経験する制度が存在します。その代表例が英国ユース議会(
UK Youth Parliament)です。英国ユース議会では、
11歳から
18歳の若者が選挙を通じてユース議員(
Members of Youth Parliament)として選ばれ、教育、交通、メンタルヘルス、生活環境などについて議論しています(
UK Parliament, 2025; House of Commons Library, 2025)。
さらに、地域によってはヤング・メイヤー制度(
Young Mayor)も導入されています。一部自治体では、
11歳から
17歳の若者が選挙や若者代表組織(
Youth Council)を通じて地域課題に関わり、若者向け事業、交通、治安、メンタルヘルスなどについて自治体の政策形成や意思決定過程に参加しています。自治体によっては、若者向け事業に使う予算が割り当てられ、若者代表がその使途や優先課題の決定に関わる場合もあります(
Lewisham Council, 2026; Tower Hamlets Council, 2026)
¹。
Henn and Foard(2014)が論じるように、若者政治参加には、教育、階層、社会的背景による格差が存在しています。それでも英国には、学校教育、若者代表制度、自治体レベルの参加制度などを通じて、10代が選挙や公共的意思決定に触れる機会が存在しています。そのうえで、18歳になると、投票するだけでなく、候補者として立つことも可能になります。日本と比較すると、英国では若者の政治参加と代表への移行に比較的連続性がみられます。
若い世代の代表 ヴェラコットは地方議員の役割について、「地域住民を地区議会で代表すること」であると説明し、地方議員にとって最も重要なのは住民に対する「説明責任(accountability)」であると述べています。また、地域住民が日常生活の中で感じている小さな不安や困りごとにも向き合おうとする姿勢を語っています。例えば、道路を横断するアヒルが車に轢かれる問題について、子どもを持つ親から相談を受け、注意標識設置キャンペーンを進めたこと、長年バスが通っていなかった地域へ交通路線を導入し、特別支援教育を必要とする子どもたちが通学しやすくなったことを例として挙げています。地方政治のやりがいについては、「人々の生活を少しでも良い方向に変えられる」ことにあると語っています。
また、ヴェラコットは、自分の若さについて疑問を向けられることも多いと述べています。
18歳という年齢から、「どうしてその年齢で権威があると言えるのか」「経験不足ではないか」という見方をされることがあるというのです。彼は「年長の議員には人生経験があるが、若者には若者として生きてきた経験がある」と述べ、若者としての経験それ自体も政治的代表制の一部になりうるという認識を示しています。また、政治家として学校訪問をして生徒たちに地方政治について話した際に、生徒から「若い人でも議員になれるとは知らなかった」と言われた経験を紹介しています。若い政治家の存在が、同世代やそれより若い世代に対して、政治参加への心理的距離を縮める契機にもなりうることがうかがえます。
この若さについての考えは、他の若手政治家とも重なります。労働党のサム・カーリング(
Sam Carling)も、
20歳になる前にケンブリッジ市議となり、
2024年には
22歳で下院議員となりました。ガーディアン紙は、カーリングが
21世紀生まれとして初めて選出された英国国会議員であると報じています(
Boyle, 2024)。カーリングは政治参加の背景として、北東イングランドの農村地域で店が閉まり、公共サービスが縮小し、若者が地域を離れていく状況を見て育った経験を語っています(
Carling, 2026)。また自らの若さについて、単なる経験不足ではなく、住宅市場、学生ローン、賃貸生活を実際に経験している世代としての視点があると述べています(
ITV News, 2024)。
ヴェラコットは保守党地方議員、カーリングは労働党の地方議員を経て現在は国会議員であり、政治的立場は異なります。しかし、同じように自身の体験をもとに政治に関心を持って代表として選ばれ、若さゆえの「経験不足」という見方に立ち向かい、同世代の経験を代表する政治家の視点に価値があると考えている点には共通性がみられます。
また、同じく労働党の若手政治家であるナディア・ウィットム(
Nadia Whittome)は、
2019年に
23歳で下院議員となり、当時英国最年少の国会議員でした。移民家庭出身であり、議員になる前にはケアワーカーとして働いていた経験を持っています(
Whittome, 2026)。ウィットムは、住宅問題、低賃金、ケア労働、気候危機、人種差別、移民などについて積極的に発言してきました。また、気候教育について、若者は将来への不安を抱えているが、学校教育がそれに十分向き合えていないとも述べています(
Whittome, 2021)。
若い世代も、住宅確保の困難、高等教育を受ける際の経済的不安、不安定な雇用環境、
SNS上の敵対的言説、地域格差の拡大、地域公共サービスの縮減などを、当事者として経験しています。ウィットムも、ヴェラコットとカーリングと同じように、若い世代が抱えている不安を政治課題として語っている点に共通性がみられます。
若い政治家は、地域住民を代表すると同時に、若い世代として生きる当事者の視点を政治の場に持ち込む存在です。ヴェラコットの語りからは、地域の日常的な課題に丁寧に向き合いながら、自らの世代の経験も政治的代表の一部として位置づけようとする姿勢がうかがえます。
政治的不信の広がり
ヴェラコットは、移民抑制や反既成政治を掲げる英国のポピュリスト政党Reform UKへの支持の高まりについて、労働党にも保守党にも変化を感じられない有権者の失望と結びつけて説明しています。さらに、人々が「子どもたちが自分たちより良い生活を送れないのではないか」と感じていること、地域社会の結びつきが弱まっていること、生活の余裕や自分の人生を自分で動かせる感覚が失われていることを背景として挙げています。ヴェラコットは、Reform UKへの支持や極端な街頭運動について、その背景にある生活不安や社会的孤立を理解しようとしています。
この語りは、インタビューの後に行われた
2026年
5月の英国地方選をめぐる
BBCやガーディアン紙の分析とも重なります。
2026年
5月の地方選では、
Reform UKが大きく議席を伸ばし、緑の党や自由民主党も地域によって支持を広げました。地方選をめぐる報道では、生活コスト不安、地域サービス縮小、既成政党への不信、将来への悲観などが、有権者の政治的不満や支持政党の変化の背景として論じられていました。ガーディアン紙の論評では、二大政党中心の政治が揺らぎ、複数政党への支持が分散していることが論じられています(
Jones et al., 2026)。
保守党と労働党という二大政党が、かつてのように幅広い地域の生活経験を包摂することが難しくなっているようにもみえます。これは、既成政党が担ってきた代表機能の揺らぎともいえます。その揺らぎの中で
Reform UKは、移民、国境管理、生活コスト不安、反既成政治を結びつける言葉によって支持を広げ、自由民主党は、地方自治や地域サービス、政治改革を重視する層から支持を集め、緑の党は気候危機や住宅問題、社会的公正を前面に打ち出して支持を広げていることが論じられています(
Jones et al., 2026)。分断や政治的不信が広がる時代において、人々は、誰が自分たちの生活経験を理解し、政治的に代表してくれるのかを問い直しています。
おわりに
英国では18歳になると投票し、代表として立候補できる市民となります。2006年の被選挙権年齢引き下げ時に議論の中心にあったのは、「投票する主体」として認めながら、「代表する主体」としては排除し続けることの制度的整合性でした。英国の18歳被選挙権は、若者を「将来代表可能となる市民」として待機させるのではなく、投票と代表の双方の主体として扱う制度だといえます。若者を民主主義の外側に置かないという制度原理が見て取れます。
しかし、英国においても若い議員は依然として少数であり、政治参加の機会にも教育、階層、地域による格差が存在しています(
Henn and Foard, 2014)。それでも、シティズンシップ教育、英国ユース議会、ヤング・メイヤー制度など、若者が
10代から政治や公共的意思決定に触れる機会が存在しています。
また、
2026年地方選が示したように、現在の英国政治には強い不信や不満が存在しています。その中で若い政治家たちは、「未来の政治家候補」としてではなく、すでに現在の政治空間に参加している存在です。
ヴェラコットの事例を見ると、名誉職的性格を持つ地方議員制度、地域政党組織への参加、住民との日常的な関わりを重視する地方政治が重なり合うことで、若者が地域代表として活動しうる環境がありました。そこでは、年齢によって経験を不足とみなすのではなく、それぞれの世代が持つ生活経験を代表制の中に位置づけようとする姿勢がうかがえます。
18歳で投票し、
18歳で立候補できる英国の制度は、民主主義において誰を代表として認めるのかという問いを投げかけています。
参考文献
Boyle, C. (2024) 'Labour's Sam Carling, 22, is first MP to be born in 21st century', The Guardian, 6 July. Available at: The Guardian article
Carling, S. (2026) 'About Sam Carling'. Sam Carling MP website. Available at: Sam Carling MP website
CLAIR (2023) 『英国の地方自治』一般財団法人自治体国際化協会
.
Electoral Commission (2004) The Age of Electoral Majority: Report and Recommendations. London: Electoral Commission. Available at: Electoral Commission report PDF
Henn, M. and Foard, N. (2014) 'Social differentiation in young people's political participation', Journal of Youth Studies, 17(3), pp. 360-380. Available at: Taylor & Francis article page
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Kerr, D. (2003) 'Citizenship Education in England: The Making of a New Subject', Journal of Social Science Education, 2(1). Available at: JSSE article page
Knowles, T. and Wearden, G. (2026) 'Dissatisfaction with life in UK unchanged since Covid, official data shows', The Guardian, 27 February. Available at:The Guardian article on UK wellbeing data
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Symes, P. (2025) 'Lucius Vellacott, District Councillor, on local politics, Kemi Badenoch and Reform UK', Roar News, 6 December. Available at: Roar News interview
Tower Hamlets Council (2026) Young Tower Hamlets Strategy 2025-2027. Available at: Young Tower Hamlets Strategy 2025-2027
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Whittome, N. (2021) 'Nadia Whittome MP leads Parliament's first-ever debate on climate education', Nadia Whittome MP website. Available at: Nadia Whittome climate education speech
Whittome, N. (2026) 'About me'. Nadia Whittome MP website. Available at: Nadia Whittome profile
著者プロフィール
大山 彩子
多文化社会研究会理事。お茶の水女子大学大学院修士課程(社会科学)修了後、アングリア・ラスキン大学にて社会政策と国際福祉を学び、PhD(博士号)を取得。英国在住22年。英国の統合政策を中心に、福祉・教育などの社会政策に関心を持ち、インタビュー調査を用いた研究に取り組んできた。
1)ヤング・メイヤー制度については、筆者による「若者が『地域の一員となるとき』-ロンドン・ルイシャム区にみる政治参加と統合の実践」(『都政新報』2026年5月12日号)もご参照ください。多文化社会研究会ウェブサイトに掲載された記事PDFはこちらから閲覧できます。