山脇 啓造
2025年に日本を代表する経済団体である日本経済団体連合会(経団連)と経済同友会が外国人政策の提言を発表しました。まず、2025年5月に経済同友会が「目指すべき外国人材との共生社会とステークホルダーの果たすべき役割~外国人材の人口1割時代に向けて~」1を公開し、同年12月に経団連が「転換期における外国人政策のあり方~秩序ある戦略的誘致・受入れ環境整備に向けて~」2を公開しました。そして、2026年5月に、残る経済三団体3の一つである日本商工会議所も「『外国人との秩序ある共生と受入れ』の戦略的な推進に向けて」を公開しました4。そこで、これらの提言に至る三団体の提言の歴史をまず振り返り、三提言の共通点と相違点を整理した上で「多文化共生3.0」の観点から評価し、最後に三提言に示された企業の役割を取り上げたいと思います。
経団連による提言の歴史
2000年代から2020年代前半にかけての経団連の外国人政策提言を振り返ると、その軌跡は、日本社会における外国人受け入れの「先駆的な構想」と「政治環境との調整」そして「構想の再前景化」という三つの局面が展開するプロセスと言えます。出発点となるのが、2003年11月の「外国人受け入れ問題に関する中間とりまとめ」と、2004年4月の「外国人受け入れ問題に関する提言」です。これらの文書で経団連は、「多様性のダイナミズム」というキーワードのもと、少子高齢化と国際競争の激化を背景に、多様な外国人を受け入れて日本人一人ひとりの付加価値創造力を高めるという「人材開国」のビジョンを掲げました。しかも、その射程は高度人材や留学生にとどまりませんでした。看護・介護といった将来の人手不足が予測される分野、外国人研修・技能実習制度の改善、日系人の入国・就労に伴う課題の整理、学校教育や社会保障を含む生活環境の整備、不法滞在者や治安対策までをも射程に収めた包括的な提言でした。さらに重要なのは、この時点の経団連が、「共生の体制」そのものに踏み込んでいた点です。提言は、各省庁に分散している外国人関連施策を一元的に所管する「外国人受け入れ問題本部」や特命担当大臣の設置を求め、将来的には「外国人庁(多文化共生庁)」の創設や「外国人受け入れに関する基本法」「外国人雇用法」の制定を検討すべきだと明記しています。外国人政策を縦割り行政の狭間から引き上げ、法と組織の両面で統合する構想は、今日の議論と比べてもなお先鋭的です。
この2004年提言ののち、経団連は2007年3月に「外国人材受入問題に関する第二次提言」を公表し、既存の在留資格区分や運用のあり方に踏み込みました。「人文知識・国際業務」をはじめとする専門・技術分野の資格が実務のニーズに十分対応できていないことを指摘し、企業が必要とする人材を受け入れやすいよう制度を調整することを求めました。さらに2008年10月の「人口減少に対応した経済社会の在り方」では、外国人材の受け入れは、個別業種の人手不足対策にとどまらず、人口減少社会にどう向き合うかというマクロな議論の一部として位置づけられました。女性や高齢者の就労促進、生産性向上と並ぶ選択肢のひとつとして、一定の専門性・技能をもつ外国人材の活用が挙げられ、外国人政策は人材開国の構想から一歩進んで、日本社会の持続可能性をめぐる人口戦略の中に組み込まれていきます。
2004年提言のラディカルな構想は、その後そのまま持続したわけではありませんでした。2000年代後半から2010年代前半にかけて、経団連の提言で目立つのは、高度外国人材と留学生をめぐる制度改善に関するものです。この時期、経団連は成長戦略や産業競争力強化の提言の一部として、高度人材ビザの要件緩和や永住・家族帯同の条件見直し、入国・在留手続きの迅速化、留学生の就職促進などを訴えました。提言の前面に出ているのは、高度人材と留学生を「成長戦略の資源」として動員する発想であり、「共生の体制」構想は相対的に影が薄くなったと言えます。2010年代半ばに、安倍政権のもとで人手不足が深刻化し、「外国人材の活用」が打ち出されましたが、安倍首相(当時)は国会答弁などで繰り返し「いわゆる移民政策をとる考えはない」と明言し、「移民」という語を避ける政治的枠組みを固めていきました。経団連は、2016年の「外国人材受入促進に向けた基本的考え方」を通じて、まず国内の女性や高齢者などの労働力活用を大前提としつつ、それでもなお埋まらない人手不足分野について、「一定の専門性・技能を有する外国人材」の受け入れが不可欠と位置づけました。技能実習制度についても、本来の「国際貢献」という趣旨と実態との乖離を認め、制度の適正化や人権保護、監督体制の強化を求めています。ここには、2004年提言で既に射程に入っていた現場人材や技能実習、共生の論点を、「移民」という言葉を用いず、「技能」や「人手不足対策」という語彙に翻訳し直す作業が見て取れます。すなわち、安倍政権の「移民政策はとらない」という言説と整合性をとり、体制レベルの大胆な構想から一歩退きつつも、現場のニーズに即した制度改善を積み上げるという、より漸進的なアプローチへと舵を切ったと解釈できます。
この流れを大きく押し広げたのが、2018年の「外国人材の受入れに向けた基本的な考え方」です。この提言は、政府の2018年骨太方針が示した新在留資格「特定技能」の創設と歩調を合わせ、「一定の専門性・技能を有する外国人材」を受け入れる新制度は「経団連の考え方と軌を一にする」と評価しました。ここで経団連は、これまで高度人材を中心に語られてきた外国人政策の枠組みを、中小企業や地方の人手不足を支える現場人材にまで拡張します。対象業種や受入れ人数の決定方法、技能実習との関係整理、人権侵害の防止、不適切ブローカーの排除など、制度運用の具体論まで踏み込み、一定の条件のもとで受け入れ拡大を支持するスタンスを打ち出した点は、2004年以降の議論の一つの到達点と言えるでしょう。同時に、この提言では「外国人との多文化共生社会の実現に向けて」という章を独立させ、職場における多文化対応、日本語教育や多言語行政、外国人の子どもの教育、社会保険加入や労働条件の適正化など、生活者としての外国人に関する課題が、経団連提言の中核に再び据えられます。2004年提言で示された「共生の体制」構想が、安倍政権下の制度改正という現実の政治プロセスと接続され、ふたたび前景化したと見ることができます。
こうした流れを総括し、ポスト安倍期のビジョンとして提示されたのが、2022年の「2030年に向けた外国人政策のあり方(Innovating Migration Policies)」です。この提言は、Society 5.0、デジタル化、人材獲得競争、ビジネスと人権といった新しいキーワードを組み込みながら、外国人政策を「受け入れ」から「戦略的誘致」へと転換し、多様性と包摂を前提とした社会統合政策として再構成することを目指しています。ここで経団連は、必要な外国人材をターゲット化して質と量をコントロールする「戦略的誘致」、人権尊重と多様性を前提としたダイバーシティ&インクルージョン、そして学ぶ・働く・家族形成・老後までのライフサイクル全体を見据えた政策への転換という三つの柱を提示します。その上で、外国人政策の基本理念や基本法の必要性、司令塔機能の強化、在留管理のDX、日本語教育や多言語対応、学校教育、永住権要件の見直しなどを網羅的に提案し、2004年提言で描かれた「共生の体制」構想を、2020年代の文脈に合わせてアップデートしています。
こうして見てくると、2000年代から2020年代前半にかけての経団連の提言史は、「先駆的な共生構想」から出発し、安倍政権の「移民政策はとらない」という政治レトリックとの折り合いの中で、共生構想をいったん棚上げしつつ、個別制度の改善と現場人材の受け入れを進める時期を経て、戦略的誘致と社会統合を再び前景化させるプロセスとして描くことができます。そこには、経済界が外国人受け入れをめぐる政治的文脈を読み替えながら、自らの一貫した問題意識―人材開国と社会統合をどう接続するか―を再構成してきた20年の歩みが刻まれているように思われます。そして、その問題意識は、基本法制定や司令塔機能の強化を求める2025年提言へとつながっていきます。
経済同友会による提言の歴史
経済同友会は、経団連のように外国人政策に特化した提言を継続的に積み重ねてきたわけではありません。経団連が産業競争力や労働市場政策を軸に外国人政策を構想してきたのに対し、経済同友会は、そうした経済的観点に加えて、社会のあり方や地域コミュニティとの関係により強く照準を合わせてきたと言えます。その萌芽は2000年代からすでに見て取れます。経済同友会はこの時期、人口減少と地域社会の持続可能性をめぐる提言を出しており、その中で、外国人を「地域の担い手」としてどう位置づけるかが論じられていました。例えば、2002年の提言「外国人が『訪れたい、学びたい、働きたい』日本へ」(「外国人をひきつける日本」研究会)では、外国人を日本社会に引きつける必要性に触れており、2009年の関西経済同友会による提言「外国人材との共生により人口減少を乗り越える」(人口減少社会委員会)では、人口減少社会においては、女性や高齢者の活躍だけでなく、外国人材との共生を通じて地域の活力を維持・再生していく必要があると訴えています。ここでは、外国人を単なる補完的労働力ではなく、日本人とともに地域経済とコミュニティを支える構成員として位置づける視点が、明確に打ち出されていました。
2010年代前半になると、こうした問題意識はより鮮明な形で前景化します。代表的なのが、2013年に関西経済同友会が公表した「定住外国人の受け入れ促進で、日本の再活性化を ~いま求められる外国人庁の設置~」(移民政策委員会)です。この提言は、人口減少と地域衰退への強い危機感を背景に、定住外国人を「我が国の経済・生産を支える構成員」として受け入れるための環境整備こそが課題だと強調したうえで、外国人庁の設置を含む受け入れ体制の抜本的改革を求めました。「定住外国人」という表現をタイトルに掲げたこと自体が象徴的であり、外国人との共生と地域社会の再生をセットで捉える視点が明確に表れていたと言えます。この提言では、外国人が高いモチベーションで働き、安心して暮らし続けることが、人口減少の克服と日本の再活性化につながるというロジックが提示されています。企業・自治体・NPOなどへのヒアリングや現地視察を通じて、外国人労働者とその家族が直面する生活上の課題を洗い出し、住居、教育、医療・福祉へのアクセス改善、日本語教育の充実など、きわめて具体的な定住支援策が提案されている点も特徴的です。ここには、外国人受け入れをめぐる議論を、マクロな人口戦略とローカルな生活世界のレベルで同時に構想しようとする、経済同友会らしい視座が表れています。
2018年の入管法改正と特定技能制度創設の前後には、外国人労働者受け入れに関する議論がさらに活発化しました。経済同友会は、「入管法改正案の成立について」(2018年12月7日)という代表幹事発言の中で、新たな在留資格の創設による外国人材受け入れ拡大を、人手不足が深刻化する中で一定の合理性を有するものと評価しつつも、制度設計が国会で十分に議論されないまま成立した点を「遺憾」と批判しました。また、企業には日本人と同等以上の給与支払い、法令遵守による安定した雇用環境の整備とともに、社会統合政策拡充にかかるコストを相応に負担する責務があると指摘し、政府には技能実習制度の廃止を含む見直しも視野に入れた長期ビジョンの策定を求めました。さらに代表幹事発言「『特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針』等の閣議決定について」(2018年12月25日)では、改正入管法の運用に関して、業種選定や受け入れ人数、登録支援機関の要件などを検討する会議体の設置を求めるとともに、当面はパイロット的な運用とし、その効果検証を踏まえて制度設計を見直すべきだと提言しました。ここでも、単に労働力不足を補うための受け入れ拡大に賛成するだけではなく、技能実習制度を含む既存制度の抜本的な見直し、外国人材の人権と労働条件の確保、そして社会統合政策の整備といった観点が、セットで語られています。
その後も経済同友会は、ビジネスと人権や人的資本、共助資本主義などをテーマとする提言や意見の中で、外国人材の人権保障や人材投資、受け入れ企業の責任といった論点に継続的に触れてきました。特に、2024年の「新たに創設される育成就労制度の施行に向けた意見」では、エッセンシャル領域の外国人材と受け入れ企業双方の視点に立って制度設計を検討すべきだとし、人権保護やキャリアパス、受け入れ企業の責任が具体的に論じられました。この時期の議論では、出発点こそ「人材確保」ですが、その内実は、外国人材の定着や地域社会との関係をどう形づくるかという問いと密接に結びついています。2013年提言に見られた「移民、すなわち定住外国人」の受け入れを正面から議論する姿勢は、2018年の入管法改正をめぐる発言や、その後の提言にも受け継がれています。経済同友会は、特定技能制度の運用に際しても、技能実習制度の廃止を含む見直しを視野に入れるべきだと指摘しながら、外国人材を日本社会の長期的な構成員としてどう迎え入れるかという視点を持ち続けています。
こうした流れを踏まえると、経済同友会の提言史は、「人口減少と地域再生」という大きな枠組みの中に外国人を位置づける2000年代、「定住外国人」と「外国人庁の設置」を正面から掲げる2013年関西経済同友会の提言、そして2018年入管法改正を契機に、特定技能制度の設計と社会統合政策をセットで問う発言へと連なっています。経団連が国家レベルの制度改革と「戦略的誘致」を軸に外国人政策の骨格を描いてきたのに対し、経済同友会は、よりミクロな生活世界と地域の観点から、「定住」「共生」「社会統合」を通じて日本社会のあり方そのものを問い直してきたといえるでしょう。この20年の蓄積を踏まえ、経済同友会は2025年の提言において、定住・家族・地域コミュニティといったキーワードを、改めて日本社会全体の将来像と結びつけて描き出すことになります。
日本商工会議所による提言の歴史
日本商工会議所(日商)は経団連や経済同友会と異なり、大企業ではなく地域の中小企業の立場から外国人政策を論じてきました。日商の外国人政策提言は、2000年代前半の少子高齢化とグローバル化への対応としての「外国人労働力」論から始まり、2010年代後半以降、「外国人材」との共生・活躍を含む包括的な外国人政策論へと展開してきました。日商は2003年9月に、「少子高齢化、経済グローバル時代における外国人労働者受け入れのあり方」に関する提言を行い、労働力不足と国際競争力確保の観点から外国人労働者の受入れを提言しました。 2010年代前半は、外国人を前面に出した提言は少ないものの、若年者雇用や人材ミスマッチ解消、能力開発・職業紹介など、商工会議所を地域の人材育成・雇用インフラと位置づける提言・事業が積み重ねられ、後の外国人材受入れ・定着支援の基盤が形成された時期と位置づけられます。
転機は2010年代後半でした。2017年11月、日商は「今後の外国人材の受け入れのあり方に関する意見」を公表し、「開かれた日本」を掲げながら新たな受入れ制度の構築と現行在留資格の見直しを提起し、労働力不足対応として外国人材拡大を打ち出しました。 これを踏まえ、2018年には「中間技能人材」という新たな在留資格創設を提案する意見を公表し、現場レベルの技能人材を正面から受入れ対象とするよう求めました。2019年10月には「外国人材の受入れ政策に関する要望」を公表し、「特定技能」制度の運用改善や中小企業による外国人材受入れ支援を政府に求め、人手不足に悩む地域中小企業の視点から外国人材政策を打ち出しました。
2020年代に入ると、日商の問題意識は「制度改善」から「国家戦略」へと段階的に深化していきます。2024年12月に公表された「多様な人材の活躍に関する重点要望」では、外国人材に関する第4項目において、育成就労制度の早期具体化、地域に開かれた受入れ、共生社会の推進が求められました。要望の内容は制度運用の改善と地域レベルの共生推進が中心であり、この時点ではまだ実務的な次元にとどまっています。しかし、外国人材の受入れを「シニア・女性・障害者」と並ぶ「多様な人材の活躍」の第一項目として位置づけた点は、日商内部での優先度の高まりを示しています。その問題意識がより上位の制度構想へと展開したのが、2025年9月の「多様な人材の活躍に関する重点要望」です。ここで初めて、外国人材受入れに関する基本法の制定と多文化共生施策の司令塔となる省庁の設置が求められました。「基本法」「司令塔」という言葉が日商の公式要望に登場したことは重要です。経団連が2004年提言で既に構想していたこれらの課題が、20年以上を経て、中小企業・地域経済を代表する日商の要望にも刻み込まれたことを意味するからです。この2025年の要望で示された問題意識は、翌2026年5月に公表された包括的提言「『外国人との秩序ある共生と受入れ』の戦略的な推進に向けて」に引き継がれ、外国人政策の理念から現場の実践までを体系的に論じる内容へと発展しました。
三つの提言-共通点
2025年から2026年にかけて公表された三つの提言は、少子高齢化と深刻な労働力不足を背景に、外国人材の受入れと定着を日本社会の重要課題として位置づけている点で共通しており、大きく三つの共通点があります。
第一に、外国人政策を単なる「労働力政策」から「社会統合政策」へと転換し、その実効性を担保するための「国の体制整備」を求めている点です。三提言はいずれも、外国人住民の増加を一時的現象ではなく社会の構造変化と捉え、教育や家族支援、地域コミュニティを含めた社会全体の再設計を求めています。そのうえで、経済同友会は「外国人材の活躍促進基本法」の制定と「共生政策を統括する横串機能を持った組織の設置」を提言し、経団連も「基本理念・基本法の制定」と内閣総理大臣をトップとする「外国人政策に関する本部」の設置など、省庁横断的な推進体制の構築を求めています。日商もまた、「外国人との秩序ある共生と受入れ」を国家戦略として位置づけ、基本法の制定や司令塔機能の強化、ロードマップ策定、外国人関連統計の整備など、制度インフラの再構築を求めています。
第二に、「企業」を多文化共生の推進主体として大きく位置づけている点です。これまで日本の多文化共生政策は、主に自治体や地域のNPOが中心となって進められてきましたが、三提言はいずれも、労働力確保の恩恵を受ける企業こそが「共生社会の担い手」や「地域社会の構成員」として、日本語教育、生活支援、家族支援、キャリア形成、地域社会との接続などを担うべきだと訴えています。経団連と経済同友会が企業を共生ネットワークの「ハブ」として位置づける一方で、日商提言は、とりわけ中小企業や地域の商工会議所が自治体・学校・支援団体と連携し、現場レベルで外国人住民の生活と就労を支える役割を期待しています。
第三に、多文化共生を社会インフラとして実装する上で避けて通れない「コスト」の負担に踏み込んでいる点です。経済同友会提言は、「実現に必要なコストの認識と戦略的投資の必要性」という項目を独立して設け、外国人材に対する生活・教育・就労支援にかかる費用を「単なるコストではなく、わが国の社会・経済の安定と発展に向けた戦略的投資」と捉える意識改革を求めています。経団連提言もまた、中長期的な課題への対応を先送りすれば「却って行政コストが増大する可能性が高くなる」と警鐘を鳴らし、共生に伴う費用を将来の負担増加を防ぐための必要経費として位置づけています。日商提言も、外国人との共生環境整備に向けた日本語教育や相談体制、家族支援、自治体・企業への財政支援の必要性を指摘し、こうした投資が地域経済とエッセンシャル産業の持続可能性を支えると位置づけています。
三つの提言-相違点
もっとも、三つの提言の間には違いも存在します。経済同友会提言の特徴は、「共生社会」の理念や社会像を積極的に描こうとしている点にあります。経団連が「中長期的な社会統合」という用語を用いて制度的・秩序的な適応を重視しているのに対し、経済同友会は「社会統合」という用語は提言内で使用せず、一貫して「共生」という言葉を用いています。同友会は外国人材を「共に社会を支える仲間」と位置づけており、マジョリティ側の社会システムにマイノリティを組み込むニュアンスのある「統合」を避け、フラットな関係性の中で相互に歩み寄る社会を志向しています。ここには、多様な主体が協働して社会課題を解決する「共助資本主義」の理念が反映されています。さらに、外国人の子どもへの義務教育適用、日本語能力水準の整備、企業による家族支援、日本語教育支援などにも踏み込んでおり、外国人住民が長期的に定着する社会の具体像を提示しようとしています。そこでは、外国人政策は単なる人材確保ではなく、「どのような社会を目指すのか」という社会モデルの問題として扱われています。
これに対して経団連提言は、より統治や制度運営の観点が強いと言えます。日本語教育や社会統合の必要性を認めつつも、「秩序」「国民理解」「不安への対応」などを強調している点が特徴的です。背景には、外国人政策が政治的争点となり、社会的不安や制度への懸念が高まっている状況があります。2025年は、参院選で外国人政策が大きな争点となった年でもあり、「秩序ある共生社会」という言葉が政府文書のキーワードとして前面に出るようになりました。経団連提言は、こうした政治環境を強く意識した内容になっています。もっとも、「秩序ある共生社会」という表現を、単純に排除や管理強化として理解するのは適切ではありません。経団連提言では、日本語教育や社会制度理解、地域ルールへの適応支援なども重視されており、ルールや役割、支援体制を明確化することで社会的安定を維持しようとする発想が見られます。つまり、「秩序」は統制そのものというより、外国人住民が増加する社会の中で、社会的信頼や予見可能性を維持するための条件として位置づけられているのです。
日商提言は、この二つとは異なる観点から「秩序」と「共生」を結び付けています。日商は、地方やエッセンシャル産業における人手不足と地域経済の持続可能性を出発点としつつ、「外国人との秩序ある共生と受入れ」を国家戦略として位置づけ、在留資格制度の管理徹底や法制度・ルールを守らない者への厳格な対応、国民の不安払拭を強く打ち出しています。同時に、在留外国人を「地域住民」として包摂するため、日本語教育や相談体制、災害時支援、外国人児童への教育の義務化など、生活者としての外国人に向けた具体的な支援策を提示している点が特徴的です。日商の「秩序ある共生」は、地域社会と中小企業の現場から見た秩序と包摂のバランスを探る実務的な構想として位置づけられます。
日商提言同様、参院選後に出された経団連提言も、経済同友会提言に比べて、より「政治的に通りやすい言語」を用いているとも言えます。経済同友会が比較的自由に理念や社会像を論じているのに対し、経団連は「国民理解」「不安」といった言葉を多用し、現実の政治環境や世論との接続を強く意識しています。その意味で、経済同友会が「どのような共生社会を目指すのか」を論じているのに対し、経団連は「それをどう政治的・制度的に成立させるか」を論じていると整理できます。さらに日商は、そのいずれとも異なり、地方都市や中小企業の具体的事例を通じて、外国人を「地域の担い手」として受け止めながら、法令遵守と生活支援をセットで進めるための条件整備を求めており、三提言は理念・統治・現場という異なる焦点から多文化共生3.0の輪郭を描き出していると言えるでしょう。
「多文化共生3.0」から見た評価
これら三つの提言は、多文化共生3.0の観点からどのように評価できるでしょうか。筆者はこれまで、日本の多文化共生の展開を「多文化共生1.0」「多文化共生2.0」「多文化共生3.0」として整理してきました。多文化共生1.0は生活支援を中心とする段階、多文化共生2.0は外国人住民を地域社会の担い手として位置づけ、多様性を活かしたまちづくりへと発展した段階でした。そして現在、共生を地域レベルの取組にとどめず、社会全体の制度設計として捉え直す「多文化共生3.0」の段階へ移行しつつあります。その観点から見ると、2025年から26年にかけての三提言が示す方向性――外国人を住民として位置づけること、社会統合政策の法制化・組織化を求めること、企業を共生の担い手として位置づけること――は、まさに多文化共生3.0が求める内容と重なります。
ここで注目したいのは、こうした方向性を打ち出した主体が経済界であり、経済三団体がそれぞれ異なる焦点から多文化共生3.0を描いているという点です。多文化共生1.0や2.0の段階では、外国人住民を支えてきたのは主に市民団体や自治体でした。これに対して三提言は、外国人材の受入れによって利益を得る企業もまた「共生社会の担い手」として、国や自治体と応分の責任と費用を分かち合うべきだという論理を前面に打ち出しています。理念・統治・現場という異なる立場から提言が行われているものの、外国人を安価な労働力としてではなく、長期的に社会を支える住民として位置づけている点は共通しています。
基本法制定や省庁横断的な推進体制の構築を求める観点は、経団連の2004年提言にも既に存在していました。しかし当時の構想は、政治環境との折り合いの中で棚上げされました。それが今回の三提言は、名称や強調点こそ異なりつつも、外国人政策の基本法と司令塔機能の強化を共通して求めており、「構想の再前景化」が経済界全体のコンセンサスとして確認された点に意味があります。
もっとも、理念をどこまで法制度や予算措置に落とし込めるのか、また国家戦略レベルの構想を地方の中小企業や自治体の現実にどう接続するのかという課題は残されています。さらに、企業に期待される役割は大きく、大企業と中小企業の対応格差や、企業・自治体・市民団体の役割分担については今後さらに議論を深める必要があるでしょう。その中でも、三提言が企業にどのような役割を期待しているのかは特に注目されます。
企業の役割
最後に、三提言が企業にどのような具体的役割を期待しているのかを、もう少し丁寧に見ておきたいと思います5。経済同友会提言は、「外国人材の活躍により労働力確保の恩恵を受ける企業は、共生社会の担い手としての役割を果たし、これまでは自治体やNPO等が主導してきた生活支援や家族支援にも積極的に関与すること」を求めています。企業は自治体等と協力しながら生活支援の取り組みを推進すべきとされており、具体的には「本人の同意を得た上で、自治体と外国人材の連絡先を共有し、緊急時の情報伝達や地域ルールの周知を円滑化する」ことや、「自治体が外国人材へ迅速に情報提供できる体制を整えることで、外国人材と自治体の接点が増え、生活上のトラブルを未然に防ぐことが可能となる」と記されています。
経団連提言もまた、企業の責務を重く見ています。企業は「地域社会の構成員としての責務」を担い、「地域コミュニティといった多様なステークホルダーとの連携を強化し、地域全体で帯同家族を含めた外国人を包括的に支えるネットワークの構築を主導」するよう機運醸成を図るとされています。好事例として、日本語指導を行うボランティアを企業から募集することや、社員寮での地域日本語教室の展開、地域イベントの積極的な案内・参加促進なども挙げられています。
これに対して日商提言の特徴は、企業の役割を地域の実行体制の中に位置づけている点にあります。日商は、企業に対して、地元自治体や支援機関との連携強化、働き手としての外国人の管理の徹底、職場で必要な日本語や技能、安全教育等の実施、相談体制の整備を求めるとともに、商工会議所自体を、行政、事業者、外国人住民をつなぐ「結節点」として位置づけています。つまり、日商提言において企業は、単独で共生を担う主体というよりも、商工会議所や自治体、学校、支援団体と連携しながら、地域ぐるみの共生を現場で実装する主体として描かれているのです。
三提言を通じて興味深いのは、企業が就労環境の整備だけでなく、地域社会への橋渡し役としても期待されている点です。さらに三提言の視野は外国人労働者本人にとどまらず、企業が自治体や学校、NPO等と協働しながら、帯同家族や外国にルーツを持つ子どもの教育・キャリア形成(進学・就職等)を支援していくことにまで及んでいます。加えて、外国人材への一方的な支援にとどまらず、経団連が日本人従業員やその家族等への「やさしい日本語」の習得機会提供を掲げ、同友会が「外国人材とのダイアログ」を推奨しているように、日本人社員の意識改革や歩み寄りも企業の役割として明確に位置づけています。さらに日商が「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」の解消を国民の課題として提起しているように、企業内にとどまらず、地域住民を含めた日本社会全体の意識改革も同時に求められていると言えるでしょう。
こうした企業の役割を具体化するうえで重要になるのが、共生に取り組む企業をどう評価し、可視化するかという仕組みづくりです6。経済同友会提言は「大企業(上場企業)に対し、外国人材に関する人的資本投資の状況を統合報告書に記載することを推奨する」とし、「外国人材の育成・キャリア形成に関する取組みを明示し、企業が積極的に投資しているかを可視化する」ことを打ち出しています。また、外国人材との共生を推進する企業を国が認証し、評価する「共生促進企業」認証制度の創設も提案しています。一方、経団連提言は、「ESG投資を含め、企業の人権に対する企業の責任をめぐる国際的な動きは活発化している」ことを踏まえ、「RBA等の枠組みを活用して、外国人が送り出し機関に支払う手数料をゼロとしている受入れ事業者については、優良認定を受けやすくする」といった企業評価の仕組みづくりを示しています。日商提言は、こうした評価制度とは異なるものの、各地の商工会議所の取組み事例を横展開し、地域の好事例を共有することで、共生に取り組む企業と地域の実践を広げていく発想を示しています。共生に取り組む企業を公的な指標や格付け、表彰制度、さらには地域での実践共有を通じて見える化し、その取組みが資本市場や採用市場、地域社会の信頼の中で正当に評価される仕組みが整えば、多文化共生社会に向けた企業の役割は、一部の先進企業の努力にとどまらず、経済界全体のスタンダードへと広がっていく可能性が高まるのではないでしょうか。
1 ) 経済同友会「目指すべき外国人材との共生社会とステークホルダーの果たすべき役割」(2025年5月)、https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/2025/250508.html
2 ) 日本経済団体連合会「転換期における外国人政策のあり方~秩序ある戦略的誘致・受入れ環境整備に向けて~」(2025年12月)、https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/086_honbun.html
3 ) 経団連は大企業や業界団体が加盟しているのに対し、経済同友会は大企業の経営者など個人が参加している。一方、日本商工会議所の会員の多くは中小企業である。
4 ) 日本商工会議所「『外国人との秩序ある共生と受入れ』の戦略的な推進に向けて」(2026年5月)https://www.jcci.or.jp/news/news/2026/0514143000.html
5 ) 共生社会の担い手としての企業の役割について、経済同友会「目指すべき外国人材との共生社会とステークホルダーの果たすべき役割」7, 14, 15頁、及び経団連「転換期における外国人政策のあり方」37-39頁、参照。
6 ) 共生に取り組む企業の評価について、経済同友会「目指すべき外国人材との共生社会とステークホルダーの果たすべき役割」12, 17頁、及び経団連「転換期における外国人政策のあり方」34, 36頁、参照。