コラム

第72回 自治体と経済界の連携~経済界の提言から地域の実践へ~


山脇 啓造

 69回のコラム「経済界の提言」では、経済同友会、経団連、日本商工会議所・東京商工会議所が相次いで発表した外国人政策に関する提言を取り上げました。三団体の提言にはそれぞれ特徴がありますが、外国人を単なる労働力としてではなく、日本社会の構成員として捉え、日本語教育や生活支援、家族支援、地域への定着などを重視している点では共通しています。特に注目されるのは、企業を外国人材の採用や雇用管理を担う主体にとどまらず、共生社会の担い手として位置づけるようになったことです。
 では、企業が共生社会の担い手になるとは、具体的に何を意味するのでしょうか。また、これまで地域の多文化共生を担ってきた自治体とは、どのように役割を分担し、連携すればよいのでしょうか。経済界の提言を地域の実践につなげることが、次の課題になっています。

外国人材は「労働者」であり「住民」でもある

 外国人労働者政策は、これまで主として、どのような外国人をどの在留資格で受け入れるかという「在留管理」と、適正な労働条件や職場環境を確保する「雇用管理」を中心に進められてきました。しかし、外国人材の受入れと定着が進むにつれて、それだけでは対応できない課題が増えています。外国人材は企業で働くだけではありません。地域で暮らし、家族を形成し、子どもを育て、医療や教育、福祉などの行政サービスを利用します。地域活動や防災への参加も重要になります。つまり、外国人材は、在留資格を持つ「外国人」であり、企業で働く「労働者」であると同時に、地域社会で暮らす「住民」でもあります。
 そのため、これからの外国人政策では、「在留管理」「雇用管理」に加えて「共生(社会統合)」を重要な政策領域として位置づけ、この三つを相互に接続していく必要があります。そして、その接続において重要になるのが、自治体と企業の連携です。

企業と地域の役割分担

 「自治体と企業の連携」を強調する際には注意すべき点があります。例えば日本語教育について、外国人社員を雇用する企業が、本来企業として担うべき日本語教育まで地域の日本語教室に委ねているのではないかという批判があります。外国人社員が仕事を安全かつ適切に遂行し、職場で能力を発揮するために必要な日本語については、企業が学習機会の確保に責任を持つことが基本です。職場で必要な専門用語や安全に関する日本語、同僚や顧客とのコミュニケーションなどは、雇用や人材育成と密接に関わっています。
 一方、自治体が進める地域日本語教育には、外国人住民が生活者として地域で暮らし、周囲の人々と関係を築き、社会に参加していくことを支える役割があります。両者は重なる部分もありますが、同じものではありません。企業が担うべき日本語教育を地域日本語教室に押しつけるのではなく、職場での日本語教育と地域での日本語教育がそれぞれの役割を果たし、相互に補完することが重要です。
 これは日本語教育だけの問題ではありません。企業が生活支援や相談をすべて自治体に委ねるのでもなく、逆に自治体の行政サービスを企業に肩代わりさせるのでもない。それぞれが自らの責任を果たしたうえで連携することが必要です。

自治体と企業は何を連携するのか

 では、具体的にはどのような連携が考えられるでしょうか。日本語教育であれば、自治体は生活者としての日本語学習の基盤を整え、企業は職場で必要な日本語の学習機会を確保する。そのうえで企業は、外国人社員に地域の学習機会について情報を提供し、必要に応じて参加しやすい環境を整えることができます。生活情報については、自治体が正確でわかりやすい行政・生活情報を提供し、企業が外国人社員との日常的な接点を生かして、その情報を届けることができます。同友会提言も、本人の同意を得た上で自治体と外国人材の連絡先を共有し、緊急時の情報伝達や地域ルールの周知を円滑化することを、自治体-企業間の情報連携強化として提案しています。
 相談についても、自治体が専門的な相談体制を整える一方、企業は外国人社員が職場や生活で抱えている困りごとを早期に把握し、必要に応じて自治体や専門機関につなぐことができます。地域参加については、自治体が地域行事、防災訓練、ボランティア活動などへの参加機会をつくり、企業が外国人社員の参加を後押しすることが考えられます。
 こうしてみると、自治体は地域の制度、サービス、人々につながる「地域へのアクセス」を持ち、企業は外国人社員との日常的な接点という「外国人材へのアクセス」を持っています。この二つのアクセスをつなぐことが、自治体と企業の連携の基本になるでしょう。
 もっとも、地域の多文化共生は、自治体と企業だけで進められるものではありません。地域日本語教育、生活相談、外国人の子どもの支援、地域参加などの分野では、市民団体や国際交流協会が長年にわたって重要な役割を果たし、自治体に先行して課題に取り組んできた例も少なくありません。自治体と企業の連携を進める際にも、こうした団体の経験や外国人住民とのネットワークを生かすことが重要です。

商工会議所などの「結節点」が重要

 実際のところ、自治体が地域のすべての企業と個別に関係をつくることは容易ではありません。また、外国人を雇用する中小企業にとっても、自ら日本語教育や生活支援、地域との連携に取り組むことには限界があります。そこで重要になるのが、商工会議所など地域の経済団体です。
 日本商工会議所・東京商工会議所の提言では、前回のコラムでも触れたように、商工会議所が、行政、事業者、外国人などをつなぐ「結節点」としての役割を果たすことが期待されています。企業への情報提供、外国人雇用企業のニーズの把握、自治体への課題の伝達、企業間の好事例の共有など、地域の経済団体だからこそ担える役割があります。日商提言では、気仙沼市、豊橋市、磐田市、江戸川区における自治体と商工会議所、企業、国際交流協会、大学などが連携した取組が紹介されています。また、経団連提言も、行政やNPO、教育・医療機関、地域コミュニティなど多様な主体との連携を強化し、外国人を包括的に支えるネットワークの構築を企業自身が主導するよう求めています。商工会議所という「結節点」に加えて、企業自体もネットワークのハブとなりうることを示す動きといえるでしょう。
 今後は、自治体と一部の意欲的な企業との個別の連携だけではなく、「自治体―地域の経済団体―企業」という仕組みをつくっていくことが重要です。そのためには、自治体、地域の経済団体、企業などが定期的に課題を共有する協議の場を設け、日本語教育、生活相談、防災、子どもの教育・支援といった分野ごとに、誰が何を担い、どのようにつなぐのかを確認していくことが有効でしょう。さらに、そこに国際交流協会、市民団体、学校、大学などが加われば、地域全体で多文化共生を進めるネットワークへと発展していくでしょう。こうした地域の取組みを後押しするためには、経団連提言が求めるように、国が自治体ごとの取組み状況を可視化し、KPIの達成状況に応じて交付金を増額するなど、好事例の横展開を財政面から支える仕組みが有効かもしれません。

「多文化共生3.0」の地域づくりへ

 私は、外国人住民への生活支援を中心とした段階を「多文化共生1.0」、外国人住民の活躍や社会参加を重視する段階を「多文化共生2.0」、そして国、自治体、企業、市民社会など多様な主体が役割を分担し、協働して共生社会をつくる段階を「多文化共生3.0」と呼んでいます。
 これまで日本の多文化共生を先導してきたのは、自治体や国際交流協会、市民団体でした。その蓄積は、これからも欠かせません。一方で、外国人材の受入れと定着が本格化するなか、共生を自治体や市民社会だけに委ねることにも限界があります。
 だからこそ、企業も共生社会の担い手として関わる必要があります。その際、企業は、地域社会との共生に向けた取組を社会貢献としてではなく、人材の確保・育成・定着に向けた人的投資として位置づけることが重要です。外国人材が能力を発揮し、職場や地域に定着できる環境を整えることは、企業自身の持続可能性にもつながります。
 同時に、外国人を雇用しているからといって、企業に地域の共生施策のすべてを担ってもらうことも不可能でしょう。必要なのは、国、自治体、企業、市民社会がそれぞれの責任を明確にしたうえで、互いの強みを生かして連携することです。
 外国人材を「労働者」として受け入れる政策と「地域住民」として迎える多文化共生政策は、もはや別々に進めることはできません。職場と地域をつなぎ、自治体、企業、市民社会など多様な主体をつなぐ。その具体的な仕組みを各地域につくっていくことが、「多文化共生3.0」の重要な課題ではないでしょうか。




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