コラム

第73回 外国人との共生社会推進基金の創設を


山脇 啓造

 人口減少と人手不足が進むなか、外国人住民は日本の経済社会を支える重要な存在となっています。2025年末の在留外国人数は約413万人に達し、医療・介護、農林水産業、製造業、建設、運輸、宿泊、飲食など、外国人材が重要な担い手となっている産業や地域も増えています。一方で、外国人住民が地域社会の一員として生活し、参加するための基盤整備は十分とはいえません。日本語を学ぶ機会、生活相談、外国人児童生徒への支援、防災、地域参加、多文化共生を担う人材の配置など、地域には多くの課題があります。

 これらに最前線で対応してきたのは、地方自治体、国際交流協会、NPO、学校、地域日本語教室などです。しかし、こうした取組の多くは、限られた予算や単年度の補助事業に依存しています。必要な人材を育成しても、事業が終われば継続して配置できない。外国人住民が増えても、翌年度に予算が確保されるとは限らない。これでは、中長期的な体制づくりは難しくなります。

 いま必要なのは、多文化共生を一時的な支援事業ではなく、日本社会の持続可能性を支える社会基盤として位置づけ、それを安定して支える財政の仕組みをつくることです。前回のコラム「自治体と経済界の連携」では、外国人材を「働き手」として受け入れる企業と「地域住民」として支える自治体が、それぞれの責任を果たしながら連携することの重要性を論じました。今回は、その連携を地域の実情に応じた継続的な取組にするための財政的な仕組みとして、基金の創設を提案します。

経済界の提言を実行に移す

 この一年余りの間に、経済界から外国人との共生を重視する提言が相次いでいます。経済同友会は、外国人材を「共に社会を支える仲間」と位置づけ、共生社会の構築に必要な費用を単なるコストではなく、社会・経済の安定と発展に向けた「戦略的投資」と捉えるべきだとしています。また、共生への取組みを可視化する仕組みとして、外国人材との共生を推進する企業を国が認証する「共生促進企業」認証制度の創設も提案しています。経団連も、日本語教育、相談、外国人児童生徒への教育などを社会統合政策として位置づけ、国による地方自治体への財政支援を重視しています。日本商工会議所・東京商工会議所も、国、自治体、企業、支援機関などの役割と責任を明確にするとともに、共生施策に必要な恒久的な財政措置を求めています。

 三団体の提言の重点には違いがありますが、外国人材を単なる労働力としてではなく地域社会の構成員として受け入れること、企業も共生社会の担い手になること、そして共生に必要な費用を社会全体で支えることについては、方向性が重なっています。次に問われるのは、こうした提言をどのような仕組みによって実行に移すかです。

国と経済界の共同基金を

 そこで提案したいのが、国と経済界が共同で拠出する「外国人との共生社会推進基金(仮称)」の創設です。外国人材の受入れは、個々の企業の人材確保だけに利益をもたらすものではありません。地域産業や公共サービスを支え、消費や社会保障の担い手となり、日本経済全体の持続可能性にも寄与しています。そうであるならば、共生に必要な費用を外国人住民の多い自治体や個々の受入企業だけに負わせるのではなく、国と経済界が共同で支える仕組みが必要ではないでしょうか。

 もちろん、外国人材が職場で能力を発揮し、定着するための日本語教育や人材育成、就労環境の整備は、まず各企業が人的投資として取り組むべき課題です。そのうえで、外国人材が安心して暮らし、家族とともに地域に定着できる環境を整えることは、個々の企業だけでは実現できません。生活が安定すれば職場への定着にもつながり、地域全体が外国人住民にとって暮らしやすくなれば、外国人材から「選ばれる企業」「選ばれる地域」にもつながります。したがって、基金への企業側の拠出も、単なる寄付や社会貢献ではなく、自社の人的投資を補完し、人材の確保や定着、地域社会の持続可能性を支える「共同投資」と捉えることができるでしょう。

 こうした考え方に立てば、企業側の拠出については、経済団体を通じた共同拠出、大企業を中心とする任意拠出、指定寄附など複数の方法が考えられます。企業の参加を促すため、寄附に対する税制上の優遇措置なども検討できるでしょう。外国人を雇用する企業に直接負担を課す方法も考えられますが、そうすれば人手不足の深刻な中小企業ほど負担が重くなるでしょう。外国人材の受入れによる便益が、受入企業だけでなく、取引先企業や地域経済、消費者を含む広い範囲に及ぶことを考えれば、個々の受入企業への負担を集中させるよりも、国と企業や経済団体が幅広く参加する共同基金の方が、日本の実情に適していると考えます。

国の責任と基金の役割

 基金は、国が全国共通で保障すべき施策を肩代わりするものではありません。国が全国的に保障すべき基本的な施策は国の責任で整備し、そのうえで、地域ごとの課題や資源に応じた連携・協働の取組を基金が支えるという役割分担が必要です。例えば、現在、政府が検討している「日本語・生活学習プログラム(仮称)」は、国が制度設計を行い、必要な財源を保障すべきです。また、義務教育段階の外国人児童生徒の教育も、基本的には公教育制度のなかで保障されるべきものです。基金が支えるべきなのは、全国一律の制度では十分に対応できない地域の課題に対して、複数の主体が連携して取り組む事業です。

 外国人住民の国籍、在留資格、集住状況、地域社会の資源、産業構造は地域によって異なります。外国人児童生徒への支援が大きな課題となっている地域もあれば、生活日本語や相談、あるいは防災、住宅、地域参加などが課題になっている地域もあります。だからこそ、地域の実情に応じた創意工夫を支える仕組みが必要です。

自治体・企業・市民社会の協働を支える
 
 基金が重点的に支援するのは、自治体、企業、市民団体、国際交流協会、学校、大学、外国人コミュニティなど、地域の多様な主体が連携して課題の解決に取り組む事業です。個々の企業が本来担うべき人材育成や就労環境整備を基金で肩代わりするのではなく、個別の主体だけでは整備しにくい地域の共生基盤を協働でつくる取組を支援することが重要です。それぞれの主体が強みを持ち寄り、地域に合った仕組みをつくることが求められます。

 例えば、自治体と企業、市民団体が連携して地域日本語教育を充実させる。学校、NPO、企業が協力して外国人の子どもの学習や進路を支援する。自治体、商工会議所、外国人コミュニティが協働して、生活相談や防災の体制を整える。多文化共生コーディネーターを配置して、行政、企業、学校、市民団体をつなぐことも考えられます。

 重要なのは、一回限りの交流イベントを増やすことではなく、持続可能な地域の仕組みをつくることです。専門人材を育成・配置し、異なる主体の間をつなぎ、継続的な協働体制を築く。基金には、こうした地域の基盤づくりを後押しする役割を期待したいと思います。また、助成事業の企画や実施には、外国人住民自身が参加することも重要です。外国人住民を支援の対象としてだけでなく、地域づくりの担い手として位置づけることが、これからの多文化共生には重要です。

 共生社会を支える基金は、まったく前例のない発想ではありません。愛知県では、2008年に地元経済界や企業等と協力して日本語学習支援基金を設け、外国人の子どもを対象とする日本語学習支援を行ってきました。台湾でも、政府が2005年に「外籍配偶照顧輔導基金」(2016年に「新住民発展基金」に改称)を設け、生活支援、教育、就労、地域参加、多文化交流、調査研究などの事業を幅広く支援しています。制度の背景や対象は異なりますが、日本において国と経済界が共同で基金を設ける際の参考になる事例です。

今こそ基金構想の議論を

 基金を実現するために、最初から制度の細部を決める必要はないと思います。まず必要なのは、なぜ基金が必要なのかについて、幅広い合意をつくることです。自治体や国際交流協会、市民団体には、現在どのような課題があり、安定した財源があれば何ができるのかを示してもらいたいと思います。経済団体や企業には、基金への拠出を単なる負担や社会貢献としてではなく、地域産業と日本社会の持続可能性を支える共同投資として検討してもらいたいと思います。

 自治体関係団体、経済団体、国際交流協会、市民団体、外国人当事者、研究者など、幅広い関係者による検討の場をつくり、基金の目的、規模、拠出方法、助成対象、運営のあり方について議論を始めることも考えられます。そうした議論を重ねながら、基金構想への理解を広げ、実現に向けた機運を高めていくことが重要です。

 外国人との共生を支える日本語教育、子どもの教育、相談、防災、地域参加への取組は、外国人住民のためだけではなく、地域社会の安定、人材の定着、産業の持続可能性、住民相互の信頼を支えるものです。経済界はすでに、企業も共生社会の担い手になる必要があると提言しています。自治体や市民社会には、長年積み重ねてきた多文化共生の実践があります。いま必要なのは、それぞれの問題意識と取組をつなぎ、安定した財源を伴う仕組みにすることではないでしょうか。外国人との共生を、理念から制度へ、そして持続可能な地域の基盤へ。その一歩として、国と経済界が共同で支える「外国人との共生社会推進基金」の創設を提案します。




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