コラム

第39回 2021年多文化共生10大ニュース

山脇啓造

日本における多文化共生社会の形成に関連するニュースを選びました。

文科省の中教審答申に外国人児童生徒教育が取り上げられました(1月)

文部科学省の中央教育審議会答申の項目の1つに「増加する外国人児童生徒等への教育の在り方」が初めて位置づけられました。これは、外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議の報告書(2020年3月)を踏まえたものです。

欧州評議会がインターカルチュラル・シティの入門書を日英二言語で刊行しました(3月)

2008年にインターカルチュラル・シティ・プログラムを始め、多様性を生かした都市づくりを推進する欧州評議会が、日本の外務省(駐ストラスブール日本大使館)の協力を得て、日英2言語で、『自治体職員のためのインターカルチュラル・シティ入門』を刊行しました。これは、欧州評議会への日本のオブザーバー参加25周年記念事業として実現しました。

外国人住民のワクチン接種を促進するための多言語対応が進みました(6月)

2月に医療従事者を対象に始まったワクチン接種は、6月になると市民全体へと広がり、外国人のワクチン接種への注目が集まりました。外国人住民の多い自治体を中心に、ワクチン接種情報や接種予約のサイトや電話受付における多言語化ややさしい日本語の活用が進みました。10月には、政府の外国人在留支援センターも、東京、名古屋、大阪の会場で多言語サポートに取り組みました。

外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策が改訂されました(6月)

外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策が改訂されました。同対応策は、新在留資格「特定技能」を導入する2018年12月の入管法改定にあわせて、策定されました。その後、2019年6月に対応策の充実の方向性が示され、2019年12月、2020年7月と改訂を重ねてきました。今回の改訂では、コロナの感染拡大への対応を含め、197施策が含まれました。

総務省が多文化共生事例集を公表しました(8月)

総務省が全国の自治体や国際交流協会、NPO等による優良な多文化共生の取組として97事例をまとめた「多文化共生事例集(令和3年度版)」を作成しました。2020年9月の「地域における多文化共生推進プラン」の改訂を受けてのことで、総務省が多文化共生事例集を作成するのは、2017年3月に続いて、2度目となります。

やさしい日本語をテーマにしたラップのミュージック・ビデオが公開されました(9月)

電通ダイバーシティ・ラボのプロジェクトであるやさしい日本語ツーリズム研究会(吉開章代表)が、明治大学山脇ゼミの協力を得て、やさしい日本語をテーマにしたラップのミュージック・ビデオを制作しました。ビデオの撮影は明大中野キャンパスで行われ、明大の学生らが歌っています。

長野県議会が多文化共生基本法の制定を求める意見書を可決しました(10月)

長野県議会が「多文化共生社会に係る基本法の制定を求める意見書」を全会一致で可決しました。長野県では、6月に安曇野市議会でも同様な意見書が可決されました。また、県の多文化共生推進指針(2020年策定)も、基本法制定を国に求めています。外国人集住都市会議も4月に基本法の制定を求める提言を発表しました。

文化庁の国語分科会が「日本語教育の参照枠」の報告を行いました(10月)

文化庁の文化審議会国語分科会が、日本語学習、教授、評価のための枠組みである「日本語教育の参照枠」の報告を行いました。日本語能力の熟達度を6つのレベル(A1~C2)と5つの言語活動に整理しました。今年は公認日本語教師の資格制度の創設も検討され、国による日本語教育の推進体制の整備が少しずつ進んでいます。

文科省の検討会議が高校における日本語指導の制度化について報告を行いました(10月)

文部科学省の検討会議が「高等学校等における日本語指導の制度化及び充実方策について」の報告をとりまとめ、高校においても「特別の教育課程」の編成・実施の制度を導入し、生徒の日本語の能力等に応じた個別の指導を行うことを提言しました。高校がNPO等と連携することや、キャリア教育や多文化共生等の取組を推進することも求めました。

入管庁の有識者会議が共生社会の在り方に関する意見書を公表しました(11月)

2021年2月から6回にわたり開催された有識者会議が、法務大臣に意見書「共生社会の在り方及び中長期的な課題について」を提出しました。目指すべき共生社会として、包摂、多様性、人権をキーワードとする3つのビジョンを掲げ、共生社会の実現に向けた取組の方向性として、日本語教育、情報発信、生活支援などを取りあげています。

<番外編>
名古屋入管の施設に収容されていたスリランカ人女性が亡くなりました(3月)

名古屋出入国在留管理局の施設で収容中だったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなりました。英語教師を目指して2017年に来日したウィシュマさんは、その後に在留資格を失い、2020年8月に収容されました。真相究明を求める声は現在も続き、政府の共生社会づくりの「司令塔」である法務省の取組に暗い影を落としています。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されました(7,8月)

「多様性と調和」を基本コンセプトに掲げた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されました。コロナ禍が起きるまでは、世界中から観客を迎え、多文化共生の意識醸成や多様性の受容につながることが期待されていました。実際には、無観客になり、組織委員会会長の発言や開閉会式関係者の過去の言動が問題となるなど、日本の課題が浮き彫りとなりましたが、大会は無事に開催され、特にパラリンピックの開閉会式は高い評価を受けました。



※やさしい日本語ラップ「やさしい せかい」については、第37回のコラムでもご紹介しています。
第37回 ミュージック・ビデオ「やさしい せかい」
※動画は、YouTubeからご覧いただけます。
やさしい日本語ラップ「やさしい せかい」(やさしい日本語ツーリズム研究会)

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