コラム

第48回 2023年多文化共生10大ニュース

山脇 啓造

日本における多文化共生社会の形成に関連するニュースを選びました。

外国人集住都市会議が群馬県大泉町で開催(1月)
外国人住民の多い市町の首長からなる外国人集住都市会議が、群馬県大泉町で開催されました。201912月に長野県上田市で開催された後、コロナ禍で2020年度の会議は延期となり、20221月にオンラインで開催され、ほぼ4年ぶりの対面(とオンラインの併用)開催となりました。第3セッション「多文化共生社会の実現に向けた総合的な体制整備」には、同会議のリーダー的存在で、退任間近の鈴木康友浜松市長が登壇し、国に社会統合を推進する基本法や組織の設置を求めました。

*外国人集住都市会議おおいずみ2022

入管庁と文化庁が「やさしい日本語の研修のための手引き」を発行(3月)
出入国在留管理庁と文化庁が設置した話し言葉のやさしい日本語の活用促進に関する会議が、2023324日に「やさしい日本語の研修のための手引き」を取りまとめ、公表しました。やさしい日本語の研修実施の手順とポイント、全国の研修事例そして研修の参考となる素材例が紹介されています。なお、同会議は202210月に「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン 話し言葉のポイント」も公表しています。

*文化庁:「やさしい日本語の研修のための手引き」

愛知県が外国ルーツの生徒を対象にした全国初の中高一貫校の設立を発表(3月)
愛知県の大村秀章知事は2023328日に、外国ルーツの生徒を対象とした全国初の中高一貫校を設立することを発表しました。2026年度に豊田市の衣台高校に設立し、豊田市内にある中学校と連携して、中高6年間で継続した日本語指導を行うことにしています。愛知県では、今後、多様なテーマで中高一貫教育を推進する方針で、「外国にルーツのある生徒の能力、可能性を引き出す学校」づくりに取り組んでいくとしています。

*愛知県:知事会見(2023328日)

東京学芸大学が高校における外国人生徒受入れの手引と日本語指導・学習支援ガイドラインを発行(3月)
東京学芸大学が文部科学省の委託業務として、2023331日に「高等学校における外国人生徒等の受入れの手引」と「高等学校の日本語指導・学習支援のためのガイドライン」を発行しました。これは、高校において日本語指導のための「特別の教育課程」編成・実施の制度が20234月から始まり、生徒の日本語能力に応じた個別指導が可能となることに伴うものです。

*東京学芸大学:高等学校における日本語指導体制整備事業 成果物「手引き」「ガイドライン」

入管庁が「総合的な支援をコーディネートする人材の役割等について」を公表(4月)
出入国在留管理庁が20234月に「総合的な支援をコーディネートする人材の役割等について」を公表しました。外国人支援コーディネーター(仮称)は、「日本の法令や制度等及び外国人が受けることができる様々な支援サービスに関する専門的知識並びに相談支援に関する技術」を用いて、相談者の相談に応じ、解決に導いたり、困りごとの発生を未然に防ぎ、困りごとが発生した場合の相談先を周知する人材を指します。現在、同コーディネーター育成の研修の準備が進み、2024年度に始まる予定です。

*出入国在留管理庁:外国人に対する総合的な支援をコーディネートする人材の育成・認証等

文科省が日本語学校を認定し日本語教師を国家資格とする日本語教育機関認定法が成立(5月)
2023526日に文部科学省が日本語学校を認定し、日本語教師を国家資格とする日本語教育機関認定法が閣法で成立しました。20244月に施行されます。20196月に成立した日本語教育推進法に続く、日本語教育関係の重要な法律と言えます。これに伴い、文化庁国語課の日本語教育業務は2024年度に文部科学省総合教育政策局に移管され、新しく日本語教育の課が設立される予定です。

*文化庁:日本語教育

女性ファッション誌MOREが掲載記事のやさしい日本語化をWEB版で開始(6月)
女性ファッション情報月刊誌MORE(集英社)が、日本全国のグルメや旅行などの人気記事を外国人住民などにも伝わりやすいよう、やさしい日本語に書き換えて配信するサービスをWEB版で始めました。6大学の日本語教育や多文化共生を専攻する学生たちが、指導教員の監修のもと書き換えを担当しています。

*集英社プレスリリース(202361日)

入管法改正案が成立(6月)
202369日に出入国在留管理及び難民認定法改定案が可決・成立し、難民申請中は強制送還が停止される規定について、3回目の申請以降は「相当の理由」を示さなければ適用されないことや、条約上の「難民」ではないものの「難民」と同様に保護すべき紛争避難民などを保護する補完的保護制度が定められました。同制度は12月から運用が始まりました。2000人を超える在日ウクライナ避難民の多くが申請するものと思われます。

*出入国在留管理庁:令和5年入管法等改正について

在留期間に制限がなく家族帯同が可能となる「特定技能2号」の対象分野が大幅に拡充(6月)
202369日の閣議決定によって、特定技能1号の12の特定産業分野のうち、介護分野以外のすべての分野が特定技能2号の対象となりました。熟練した技能が必要ですが、在留資格の更新や家族帯同が可能となります。介護分野は、以前から在留資格「介護」があるので、特定技能1号の対象となるすべての外国人に定住化への道が開かれたことになります。

*出入国在留管理庁:特定技能2号の対象分野の追加について

政府の有識者会議が技能実習制度の廃止と育成就労制度の新設を求める報告書を公表(11月)
政府の有識者会議は技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」を新設することを提言する報告書を20231130日に公表しました。「人材育成による国際貢献」としていた目的を「人材確保と人材育成」に改めました。対象職種は特定技能制度と揃え、介護や建設、農業などの分野に限定しています。また、旧制度では原則できなかった別の企業に移る「転籍」は、1年以上働いたうえで、日本語能力や技能の要件を満たせば、同分野に限り認めることとしています。

*出入国在留管理庁:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議

<番外編>

川口市の総合病院の前に多数の外国人住民が集結し、県警機動隊が出動(7月)
202374日に、トルコの少数民族であるクルド人が救急搬送された埼玉県川口市の総合病院の前でクルド人ら約100人の小競り合いが起き、県警機動隊が出動しました。629日には川口市議会で「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」が可決されていました。奥ノ木信夫川口市長は9月1日に、不法行為を行う外国人を厳格に退去強制するとともに、難民申請をして仮放免となった外国人に就労や健康保険の適用を認めることを斎藤健法務大臣に要望しました。

群馬県の多文化共生啓発動画を明治大学山脇ゼミが制作(9月)

群馬県庁の委託事業として、明治大学国際日本学部の山脇ゼミ(多文化共生論)が群馬県の多文化共生をテーマにした30秒間の啓発動画を制作しました。群馬県庁は、これまで多文化共生をテーマにしたショート動画を3本制作していますが、若い世代にアピールするために、初めて外部に委託しました。同ゼミは20228月に大泉町や太田市などを訪問する群馬合宿を実施した経験を生かすことができました。

群馬県庁 多文化共生MV「共に創ろう、新しい群馬を!」

ラグビーワールドカップで日本は一次リーグ敗退(910月)
20239月から10月にかけてフランスで開催されたラグビーワールドカップで、アジアから唯一出場した日本は、惜しくも決勝トーナメント進出を逃しました。日本で開催され、史上初の決勝トーナメント進出を決めた前回大会では、日本チームのスローガン「ワンチーム」が流行語大賞になり、多国籍・多民族のチームを日本中の老若男女が応援しました。今回も同様な日本チームでしたが、前回のような熱狂は起きませんでした。

<関連記事>
47回 外国人支援コーディネーター

46回 やさしい日本語

25回 「ワンチーム」から「多様性と調和」へー日本は共生社会に向かうのか

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