コラム

第29回 総務省「地域における多文化共生推進プラン」の改訂

 総務省は、「外国人住民の増加・多国籍化、在留資格『特定技能』の創設、多様性・包摂性のある社会実現の動き、デジタル化の進展、気象災害の激甚化といった社会経済情勢の変化」を踏まえ、「地域における多文化共生推進プラン」(20063月)の改訂版(新プラン)を20209月に公表しました。14年ぶりの改訂となります。

改訂に当たって、総務省は自治体やNPO関係者等からなる「多文化共生の推進に関する研究会」を起ち上げ、筆者は座長を務めました。同研究会は、関係省庁からヒアリングを行うとともに、自治体の多文化共生施策のあり方について検討を行い、報告書「地域における多文化共生の更なる推進に向けて」を取りまとめました。

新プランは、この報告書の内容に基づいたものとなっています。新プランでは、自治体が多文化共生施策を推進する今日的意義として、「多様性と包摂性のある社会の実現による『新たな日常』の構築」、「外国による地域の活性化やグローバル化への貢献」、「地域社会への外国の積極的な参画と多様な担い⼿の確保」、「受入れ環境の整備による都市部に集中しないかたちでの外国材受れの実現」を挙げています。

新旧プランの柱建ての違い

多文化共生施策の柱建てについて、旧プランと新プランの主な違いは二つあります。一つは、旧プランでは三本柱だったのが、新プランでは4つ目の柱として、「地域活性化の推進やグローバル化への対応」が追加されていることです。これは、総務省が策定した「多文化共生事例集」(20173月)において、「地域活性化やグローバル化への貢献」として、新たに4つ目に打ち出された柱でもあります。さらに、その中に、「留学生の地域における就職促進」が含まれ、外国人留学生の卒業後の日本社会での活躍を重視していることも今回の特徴と言えます。

もう一つは、旧プランでは、三番目の柱としていた「多文化共生の地域づくり」が「意識啓発と社会参画支援」となり、地域づくりの中身が具体的に示されたことです。特に、「多文化共生の意識啓発・醸成」に、「不当な差別的言動の解消」が含まれたことが注目されます。これは、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」の制定(2016年)を踏まえたものです。

新プランのポイント

その他に、筆者が重要と考える新プランのポイントは、以下のとおりです。まず、前述のように施策の意義として、「多様性と包摂性」を謳っていることです。これは、国連が進める持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて日本政府が唱えているキーワードでもあります。政府のSDGsアクションプラン2020201912月)では、「あらゆる人々が活躍する社会の実現」に向けた具体的取り組みとして、女性や障がい者、高齢者、子ども、若者に関する取り組みへの言及がありますが、今後は、多文化共生の取り組みもその中に位置付けることが期待されます。

次に、施策の二つめの柱である「生活支援」の中で、旧プランでは二つ目に置かれていた子どもの教育が、新プランでは一つめに置かれ、さらに11項目が列挙されていることです。その中で、特に注目されるのは、旧プランの「多文化共生の視点に立った国際理解教育の推進」が、新プランでは、「全ての児童生徒を対象とした多文化共生の考え方に基づく教育の推進」となったことです。筆者は、以前から「外国理解」になりがちな国際理解教育から、地域に目を向ける多文化共生教育への転換を唱えてきました。今回、そうした観点が反映されたことをうれしく思います。

三番目に、旧プランの時は、全国の最先端の事例を集約し、多文化共生に関心のある自治体に対して、多文化共生施策の体系を示すことを目指していましたが、新プランは、全国の1800近い自治体に向けて、特に指針や計画もなく、多文化共生への関心も低い自治体の取り組みを促すことを目指しているといえるでしょう。そのため、新プランの最後には、「多文化共生の推進に係る指針・計画の策定」という項目が新たに置かれ、さらに「多文化共生の推進に係る指針・計画策定の手引き」が付記されています。

なお、今回の報告書には、コラムが一つ置かれています。それは、「多化共を推進する国際的な都市連携の動きとその意義」に関するものです。そこには、欧州評議会が進める「インターカルチュラル・シティ・プログラム」他、欧州、アメリカ、カナダ、韓国の都市ネットワークが紹介されています。2006年当時は、海外の都市ネットワークは少なく、また、日本の都市がそうしたネットワークに参加することもありませんでした。コラムにあるように、「国内外で幅広い連携を図ることは、今後の多化共の推進にとって有意義である」と言えるでしょう。

新プラン策定の意義

2006年に旧プランが策定された当時、一部の先進自治体が多文化共生の取り組みを進める一方、国の取り組みは遅れていました。そして、旧プラン策定が契機となって、国の取り組みを後押しする「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」(200612月)が生まれました。今回は、201812月の入管法改定と国の取り組みを大きく前進させる「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の策定が契機となって、新プランが生まれました。そうした意味では、新プラン策定の意義は、旧プラン策定に及ばないと言うことができるかもしれません。

一方、「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針」(閣議決定、20187月)によって、法務省が「外国人の受入れ環境の整備に関して行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整を行う」中で、総務省は新プランを策定することによって、「総合調整等に係る事務の実施に際し、地方公共団体における多文化共生の取組の促進に関する情報又は知見の提供その他の必要な協力を行う」役割を着実に果たしたとも言えます。

今回の報告書の最後には、法務省(入管庁)が進める自治体支援の取り組みに言及し、「現在設置が進められている全国の一元的相談窓口が、各地の多文化共生推進の拠点として資することも期待される」とあります。今後の地域における多文化共生の推進にとって、総務省と法務省の連携がより重要になっていくことは間違いありません。


総務省:「地域における多文化共生推進プラン」の改訂(報道資料)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei05_02000138.html

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