コラム

在留外国人の高齢化に伴う居住問題

在留外国人の高齢化に伴う居住問題

株式会社イチイ 代表取締役 荻野 政男

1.定住化する外国人

増え続けてきた訪日外国人ですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年の訪日外国人は前年比で約9割減となりました1。観光客など短期滞在者だけでなく、留学生、ビジネスマンなど中長期滞在者も減少はしましたが、在留外国人は2019年の293万人から5万人減の288万人に留まりました2。新型コロナウイルスの影響によって失業者が増えているにもかかわらず、外国人労働者数は過去最高を更新し、172万人を超えました(2020年)3。この数は10年前の約3倍で、日本で働く外国人は在留者の約6割となりました。
 就労者が増え、滞在期間も長くなり、外国人の定住化が進んできています。出入国在留管理庁は、2020年9月に、18歳以上の中長期在留者と、特別永住者地位をもって在留する外国人を対象としてアンケート調査を実施しました。 その結果をまとめた報告書4によると、「日本に永住したい」(54.8%)、「10年程度は日本に滞在したい」(13.7%)、「5年程度は日本に滞在したい」(12.2%)と、約8割が5年以上の長期滞在を望むと回答しています。 理由としては、「安全で住みやすいから」(28.5%)、「家族・親族がいるから」(24.8%)、「今の仕事を続けたいから」(13.6%)となっており、生活環境全般の満足度が上がっているように感じます。
 このように外国人の定住化が進むなか、問題として挙げられるのが「住宅確保の問題」です。同報告書によると、「差別的な扱いを受けた経験」については、「家を探すとき」と回答した割合が最も高く約25%でした。これまでも同様のアンケートや調査報告書で外国人の住宅確保の困難さが指摘されてきましたが、残念ながら改善は一部に留まっているようです。

2.在留外国人の高齢化

外国人の住宅確保に新たな問題が加わってきました。2021年9月19日、敬老の日にちなんで、総務省から日本の65歳以上の人口が3,640万人に達し、高齢者が総人口に占める割合が29.1%になったと発表がありました5。いまや日本は世界一の超高齢社会ですが、急速な高齢化は日本に限ったことではありません。

図1
図1 主要国における高齢者人口の割合の比較(2018年)
出典:国際比較でみる高齢者(総務省統計局)https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1135.html

図1の通り、イタリア(23.3%)ドイツ(21.7%)など欧米諸国をはじめ、韓国(14.4%)中国(11.2%)などアジア圏でも高齢化は急速に進んでいます。


図2
図2 主要国における高齢者人口の割合の推移(1950-2065)
出典:国際比較でみる高齢者(総務省統計局)https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1135.html

また、図2で予想しているように、多くの国が超高齢社会(高齢化率21%以上)を迎えようとしています。
 高齢化は国をまたぎ世界中で起きており、日本における在留外国人の高齢化もここ数年で急速に進んでいます。昨年(2020年12月)の在留外国人の高齢者は約19万1千人となり、2年前(2019年1月)に比べて2万人増えました。高齢者の割合も6.0%から6.6%に上昇しています。日本人の高齢者の割合に比べて低いとはいえ、上昇率は日本人より高くなっています。在留外国人の中で最も高齢者の割合が高いのは韓国人(19%)ですが、1990年の入管法改正により来日した日系ブラジル人、ペルー人などが高齢期を迎えていることも高齢者割合を高めている要因の1つになっています。

3.外国人高齢者の家探しはさらに困難

在留外国人の多くが長期滞在を希望する中で、懸念されるのが「家が借りられない」「貸してもらえない」といった住宅確保の問題です。住宅確保に窮する人、いわゆる「住宅確保要配慮者」には外国人だけでなく、高齢者、障害者、子育て世帯、低所得者なども含まれます。大家や不動産会社が外国人に対して賃貸をためらう理由として挙げているのは、言葉の問題、騒音やゴミ出しなどの トラブルへの懸念、保証人が見つからないことなどです。保証人については、外国人対応の家賃債務保証会社が増えたことで解決に向かっています。しかし、言葉の壁は大きく、言葉が通じないことでトラブルにつながることが多いため、外国人向け賃貸の1番のネックになっています。
 今後外国人の定住化が進み、高齢となった外国人がアパートの建て替えで立退きにあうとか、収入減で賃料の安いところに住み替えたいなど、生活スタイルの変化に合わせ、新しく家を探す機会が多くなるでしょう。
 しかしながら、図3にあるように、高齢者の入居に拒否感をもつ大家は6割に達しています。(現場感覚としては9割以上のように感じています。)このように高齢者の家探しは日本人にとっても非常に厳しいのが現実です。これが外国人高齢者となると外国人、高齢者の両方に対する拒否感が合わさるわけですから、家探しはさらに厳しいものとなります。

図3
図3 住宅確保要配慮者の入居に対する大家の意識
出典:(公財)日本賃貸住宅管理協会(平成26年度)家賃債務保証会社の実態調査報告書6


大家や不動産会社が高齢者に対して賃貸をためらう理由として、孤独死、病気(特に認知症)、近隣トラブルなどを挙げています。孤独死の発見が遅れてしまうと、リフォームをしなければならないなど、大家にとって大きなリスクです。認知症も、失火や近隣トラブルの心配があります。さらに、外国人が認知症になった場合、たとえ日本語に慣れ親しんでいたとしても 日本語が出てこなくなり、会話が母語に戻ってしまう例が多いようです。こうなると、一般の大家や不動産会社ではコミュニケーションをとるのが難しくなります。

4.多様化する外国人への対応が急務

2020年6月現在、日本には196ヵ国288万人の外国人が暮らしています2。日本語習得力が高い漢字語圏(中国、韓国)からの人だけでなく、ベトナム、ブラジル、フィリピン、ネパールなどいろいろな国の人が生活をするようになりました。また、住むエリアも広域となり日本中どこでも外国人を見かけるようになりました。そして子供から高齢者まで、老若男女問わず幅広い年代の人たちが住んでいます。いろいろな人が長期的に住むようになった日本ですが、老後を迎える外国人にとっては一般の住まいのほかに、高齢者向け住宅やサービス付き高齢者向け住宅7、さらには有料老人ホームといったものも必要になることでしょう。
 母国に戻るのではなく、日本を終の住処に選んだ外国人がどのような情報やサポートを必要とし、それに対して大家、不動産会社は何ができるのか、真剣に考える時期が来ました。セーフティネット住宅など行政との連携を図りながら、外国人の入居の安定化を図って行く必要があるでしょう。
 在留外国人数の増加や多様化が急速に進むなか、賃貸住宅を管理する立場として、外国人居住者が住宅の中だけでなく、地域コミュニティの一員としても安心かつ快適に過ごせる環境を作ること、また、終の住処として住みつづけられる賃貸住宅の提供、こうしたことを考える必要があると思っています。





1 観光庁:訪日外国人旅行者数・出国日本人数
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/in_out.html
2 出入国在留管理庁:令和2年6月末現在における在留外国人数について
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/nyuukokukanri04_00018.html
3 厚生労働省:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和2年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16279.html
4 出入国在留管理庁:令和2年度在留外国人に対する基礎調査報告書
https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/04_00017.html
5 総務省統計局:統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1290.html
6 国土交通省:家賃債務保証の現状から図を引用。
https://www.mlit.go.jp/common/001153371.pdf
7 サービス付き高齢者向け住宅とは、国土交通省と厚生労働省の共管で平成23年10月からスタートした新しい高齢者の住まいです。「サ高住」、または「サ付き」とも呼ばれます。民間事業者によって運営され、契約形態は一般賃貸物件と同じ賃貸借契約です。



著者プロフィール
荻野 政男
 株式会社イチイ代表取締役、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会常務理事、一般財団法人高齢者住宅財団理事他。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会あんしん居住研究会では、会長として、住宅セーフティネット制度の普及や外国人入居者の対応などについて研究している。




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~今月の一句~

夕焼けの茜(あかね)に透けるトンボかな

郭潔蓉

夕暮れのトンボの羽が夕焼けの色を透かしていると見るまなざしには、観察眼と同時に詩心も豊かに感じられます。クールな抒情が現代的ですね。

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