コラム

地方に外国人材の定着を図るには

地方に外国人材の定着を図るには

東京工業大学環境・社会理工学院 准教授 佐藤由利子

少子高齢化が進む中で、生産年齢人口が急速に減少し、地方における働き手不足が深刻化しています。2019年4月に導入された特定技能制度 1 においても、大都市圏との賃金格差から、地方で受け入れた人材の大都市圏への転職が懸念されており、多文化共創社会の担い手としての期待が高まる留学生についても、大都市圏に集中しがちな傾向が見られます。
 このような状況の中で、地方に外国人材の定着を図るにはどうすればよいのでしょうか。
 このコラムでは、都道府県別の外国人の受入れ状況を概観した上で、地方への外国人材の誘導政策を実施してきたオーストラリアや、留学生の定着促進の取組みを行っている大分県の事例を紹介し、地方に外国人材の定着を図る方策を提案します。

1.都道府県別の外国人の受入れ状況

表1は都道府県別の人口と外国人口の全国における構成比を表しています(コロナ禍によって外国人受入れに大きな影響が生じたため、その直前の2019年末の数字を示しています)。
 人口と外国人口の構成比を比べると、薄く色を付けた13都府県(東京、大阪、愛知を始めとする三大都市圏と茨城、群馬、岐阜、三重、滋賀)では、外国人口の構成比が人口の構成比よりも大きく、人口当たりの外国人が相対的に多い地域と言えます。
 留学生の都道府県別の分布を見ると、東京が33.6%と全体の3分の1の留学生を集め、次いで大阪9.3%、埼玉6.3%、福岡6.1%の順で、これに千葉、京都、大分を加えた7都府県で、人口の構成比よりも留学生の構成比が高くなっています。これらは大学や学校が多い地域や国際的大学がある地域です。
 さらに専門的・技術的分野の在留資格者の分布を見ると、東京が33.5%を占め、次いで神奈川10.3%、大阪が8.0%、埼玉が7.4%、千葉6.9%、愛知6.3%の順であり、専門的・技術的分野の在留資格者の構成比が人口比よりも高いのは、これら6都府県のみです。
 このように、外国人、特に専門性や技術を有する人材は大都市圏に偏在しており、留学生についても、卒業して就労目的の在留資格に切り替える際、大都市圏に移動する傾向が読み取れます。他方、地方では生産年齢人口の減少が進み、若く、能力のある外国人をいかに誘致、定着させるかが課題になっています。
 

表1

2.オーストラリアにおける地方への外国人材誘導政策

オーストラリアは、2019年に51万人の留学生を受け入れる世界第2位の留学生受入れ大国ですが(UNESCO統計2021)、大都市圏に留学生など外国人材が集中するのを緩和するため、地方への誘導政策を行ってきました。具体的には、専門性を有する技能移民(skilled migrants)の審査で、専門技能、英語力、年齢、学歴などをポイントに換算する際、人口増加率が低い指定地域に2年以上留学・居住した者に5点のボーナスポイントを与える優遇措置を2003年に開始し(当時の合格基準は115ポイント)、2004年には、指定地域に2年以上居住、1年以上就労した者に対する永住権申請のカテゴリー(subclass)を新設し、2005年には州・準州政府の保証によって10点のボーナスポイントを付与するようになりました。州の全域が指定地域となった南オーストラリア州では、1998年から2009年にかけて留学生が6.04倍と、全国平均の4.90倍を上回って増加し、この政策の効果があったと考えられます(佐藤・橋本 2011)。2012年には技能移民の審査にSkillSelect制が導入され、ポイントが基準を満たす有資格者を2年間登録し、雇用主が見つかった場合にのみ永住権を申請できる形になりましたが、指定地域に2年以上居住し、1年以上就労した者には、4年間の一時技能ビザが付与される仕組みが別途設けられました(佐藤2015)。現在は、地方への留学生・外国人材の誘導のため、次の措置を実施しています (Department of Home Affairs 2021)。
 
①永住権への道を開く2種類の地方技能一時ビザ:指定地域の州・準州政府または指定地域に居住する市民・永住者親族の保証による技能就労地方(暫定)ビザ (subclass 491)と、指定地域の雇用主の保証による技能雇用者保証地方(暫定)ビザ(subclass 494) 
②地方技能永住権ビザ(2022年11月以降開始。上記①と接続。最低3年間の指定地域での居住が条件)
③(州・準州政府により)地方への居住・就労を指名された者への技能移住ポイントテストでの追加ポイント
④地方の大学を卒業した留学生に対する優遇措置:大学卒業者一時ビザ(subclass 485)(学部課程とコース主体の修士課程修了者に2年間、研究主体の修士課程修了者に3年間、博士課程修了者に4年間与えられる)について、指定地域で2年以上居住した者に1~2年の延長を可能とする。

3.大分県における留学生の受入れと定着に向けた取り組み

大分県では、日英2言語で国際的教育を行う立命館アジア太平洋大学(APU)を2000年に誘致して以降、県の留学生が10倍に増えました。彼らを産官学で連携して支援するため、特定非営利活動法人「大学コンソーシアムおおいた」2 を設立し、生活支援、地域交流に加え、地元企業関係者との交流などを通じた就職支援を行ってきました。さらに2016年には、留学生の起業と就職を支援する「おおいた留学生ビジネスセンター(SPARKLE)」3 を開設し、留学生の地域への定着を一層推進しています。
 2017年には、留学生の起業促進のための国家戦略特区の申請を行い、2018年には大分県を含む9地域で「外国人起業活動促進事業」4 が開始され、起業準備のための1年間の特定活動(スタートアップビザ)が認められるようになりました。また、県が所有/指定するインキュベーション施設への入居と県の「起業支援対象者証明書」の交付を条件として、経営・管理の在留資格申請の際の資本金要件を500万円から300万円に引き下げています。大分県の留学生の特徴の一つは地元への愛着が強いことで、大分県・SPARKLEが2021年に実施した県内留学生240名のアンケート 5 では、152名が日本就職を希望し、うち23%が大分県内での就職を、33%が「やりたい仕事ができるなら場所はどこでもよい」と回答し、県内就職を希望する留学生が多いことがわかります。

4.地方に外国人材の定着を図るための提案

第1節で見たように、留学生や専門・技術を有する外国人は、大都市圏に集中する傾向があり、そのような中で、地方への外国人材の定着を図るためには、オーストラリアが行ってきたような、地方に留学、就労する者に出入国在留管理上の優遇措置を講じることが有効だと考えられます。
 具体的には、自治体が保証する場合、「技術・人文知識・国際業務(技・人・国)」や「経営・管理」などの在留資格の審査要件を緩和する(中小企業が技・人・国による外国人受入れを申請する際の書類を大企業並みに簡素化する、起業に必要な自己資金要件を引き下げる等)、永住許可申請にかかる審査要件を緩和する(在留期間要件の短縮等)などが挙げられます。また、このような措置は、特定技能など、他の在留資格者の地方への誘致・定着にも応用可能だと考えられます。
 また、大分県の留学生支援に見られるように、企業、自治体、大学等が連携して外国人を支援し、地域への理解と愛着を育むことも、定着を促進するために不可欠だと考えられます。
 今後、生産年齢人口の減少が一層進む中、上記の提案などを参考に、地方における外国人材の受入れが促進され、多文化共創の実現により、地域の活性化が図られていくことを願っています。
 
 
出典
 佐藤由利子・橋本博子 (2011)「留学生受入れによる地域活性化-自治体と大学の協働による取組みの横断的分析-」、『比較教育学研究』第43号、131-153頁

 佐藤由利子(2015)「留学生政策と技術移民政策の連携と課題-主要国の取り組み傾向とオーストラリアの事例分析から-」、移民政策研究、第7号、101-116頁
http://iminseisaku.org/top/pdf/journal/007/007_101.pdf
 Department of Home Affairs (2021) Regional Migration
https://immi.homeaffairs.gov.au/visas/working-in-australia/regional-migration(2021年10月3日閲覧)
 
参考
1 外務省|在留資格 特定技能
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/ssw/jp/index.html
2 特定非営利活動法人大学コンソーシアムおおいた
http://www.ucon-oita.jp/
3 おおいた留学生ビジネスセンター(SPARKLE)
https://oibc.jp/
4 経済産業省|外国人起業活動促進事業に関する告示
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startupvisa/index.html
5 大分県内留学生「卒業後進路・就職に関するアンケート調査」
http://www.ucon-oita.jp/pdf/service_report_questionary2021.pdf

著者プロフィール
佐藤由利子
 東京工業大学環境・社会理工学院准教授。
 日本評価学会理事(2011年〜現在)、移民政策学会編集委員(2019年~現在)、日本学術振興会「スーパーグローバル大学創成支援事業」評価部会専門委員(2020年〜2021年)、文部科学省「留学生就職促進プログラム」委員会委員(2017年~現在)など。
 専門は、留学生政策、開発経済、多文化共創、地域開発、政策評価。

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~今月の一句~

今月の一句は、2021年11月掲載分コラムから、不定期掲載になりました。
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