コラム

第46回 やさしい日本語

山脇啓造

このコラムでやさしい日本語をタイトルに掲げた記事を書くのは4回目となります。1回めは「第23回 2019年をやさしい日本語元年に」(2019年11月)でした。この記事を書こうと思ったきっかけは、2018年12月に政府が初めて作った「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に情報の多言語化の推進は明記されながら、やさしい日本語への言及がないことにショックを受けたからでした。その後、2019年6月に策定された「総合的対応策の充実について」で、2019年4月に法務省が日本語と英語で起ち上げた「外国人生活支援ポータルサイト」に掲載した生活・就労ガイドブックのやさしい日本語版を作ることが示され、10月に公開されました。同記事の最後に、筆者は以下のように呼びかけました。

「政府の総合的対応策の大半は、外国人の生活・就労環境の改善策であり、受け入れ社会の側の意識啓発の取り組みはほとんどありません。今後、外国人労働者の受入れが進めば、地域社会だけでなく、受け入れ企業においても、外国人に対して、易しい日本語を優しい気持ちで話す意義は増していくに違いありません。今こそ、国や自治体そして経済界のトップが、多文化共生社会に向けたメッセージを発信し、やさしい日本語で外国人とコミュニケーションをとることを呼びかけてはどうでしょうか。」

2019年12月の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」改訂版で、やさしい日本語の活用に関するガイドラインを作成することが示され、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」及び「別冊 書き換え例」が公開されたのが2020年9月でした。ガイドライン策定の有識者会議の座長を務めた筆者は、すぐ二つめの記事「第28回 やさしい日本語のガイドライン」(2020年9月)を執筆しました。コラムの最後に、今後の国の課題として、二点挙げました。情報の多言語化(やさしい日本語を含む)のガイドラインを策定することと日本語教育プログラムを創設することです。

三つめの記事は、「第31回 『やさしい日本語』の英訳はどうしたらよいか」(2020年12月)でした。これは、やさしい日本語の英訳を考えることで、日本の取り組みを国際的なやさしい言語(plain language)普及の取り組みの中に位置づけようと試みたものです。やさしい日本語の訳語としてeasy Japanese を用いる人もいますが、plain Japanese を用いることを暫定的に提案しました。

そして、今回、四つめの記事を書こうと思ったのは、筆者が座長を務めた入管庁と文化庁の有識者会議が、2022年度に新たに二つの成果物を作成し、上述のガイドライン及び書き換え例とあわせて、やさしい日本語を全国に普及するための資料がそろったからです。一つは、「話し言葉のポイント」です。2020年策定のガイドラインは書き言葉のガイドラインでした。それに対して、「話し言葉のポイント」は、ガイドラインの言わば「話し言葉編」として、行政機関を中心に、広く地域社会や民間企業、市民団体でも活用されることを目指して、外国人住民とのコミュニケーションの際に留意すべきポイントをまとめました。そして、もう一つが「やさしい日本語の研修のための手引」です。やさしい日本語の活用を一層推進するため、行政職員や地域住民等に対する研修の企画・実施に役立てていただけるように、全国の自治体等による研修の好事例や研修教材を収集して作成しました。

「話し言葉のポイント」の最後に、やさしい日本語を用いるには、言い換えのテクニックだけでなく、相手を理解しようとする気持ちや歩み寄ろうとする姿勢が重要であることを強調しました。また、発音や言葉遣いを含めた多様な日本語に対する寛容さが大切であることにも触れました「研修のための手引き」の最後に、国に対して、今後も各地の優れた研修事例や教材の収集を続け、オンラインで発信し、横展開していくことや、自治体等が活用できる動画などの研修教材を作成することを要望しました。

先月、一定の要件を満たす日本語教育機関を認定し、「登録日本語教員」の国家資格を創設する日本語教育機関認定法が成立しました。2019年6月に成立した日本語教育推進法とあわせて、いよいよ日本語教育の新時代が始まります。外国人の日本語教育とやさしい日本語の普及はいわば車の両輪と言えます。やさしい日本語の普及活動を通じて、行政、企業、学校、大学、市民団体などが力を合わせ、多文化共生社会づくりの輪を広げていくことを期待したいと思います。

出入国在留管理庁:在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html

第23回 2019年をやさしい日本語元年に
https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/114407.php

第28回 やさしい日本語のガイドライン
https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/114737.php

第31回 「やさしい日本語」の英訳はどうしたらよいか
https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/114811.php

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