コラム

第50回 外務省国際フォーラム「外国人の子どもの学習支援とキャリア支援」


山脇 啓造

 外務省と国際移住機関(IOM)の共催で、外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラム「外国人の子どもの学習支援とキャリア支援」が、2024227日に外国人在留支援センター(東京都港区)の大会議室を利用して、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。登壇者は全員、会場に集まりました。日英同時通訳があり、国内外から320名を超える参加者となりました。

 外務省とIOMが外国人受入れのテーマで国際会議を初めて開いたのは2004年度のことでした。20047月に「国境を越えた人の移動-経済連携協定と外国人労働者の受け入れ-」、20052月に「外国人問題にどう対処すべきか-諸外国の抱える問題とその取り組みの経験を踏まえて-」をテーマに、国際シンポジウムが都内で開催されました。2005年度からは毎年1回、開催されるようになりました。2007年度から静岡県や愛知県、神奈川県との共催で地方開催が続いた後、2010年度から都内での開催となりました。コロナ禍の影響で、2020年度と2021年度はオンライン開催となり、2022年度は外国人在留支援センターを会場として、ハイブリッド形式の開催になりました。

 会議は三部構成で、第一部では、柘植芳文外務副大臣の開会挨拶、昨年就任したばかりのエイミー・ポープIOM事務局長の基調講演と文部科学省の中野理美国際教育課長による日本の外国人児童生徒教育に関する講演がありました。

 第二部では、3つの事例発表があり、OECDのルーシー・セルナ上級分析官がOECD加盟国の取り組み、ソウル国立大学の成祥煥教授が韓国の取り組み、そして愛知県豊橋市教育委員会の築樋博子外国人児童生徒教育相談員が同市の取り組みについて報告しました。

 第三部では、「外国人の子どもの学習支援とキャリア支援」をテーマにパネル討論を行いました。パネリストは、横浜市立横浜吉田中学校の土屋隆史副校長、外国ルーツの高校生のキャリア支援に取り組む海老原周子kuriya代表理事、ブラジル出身で日本の小学校から大学まで通い、浜松市で外国ルーツの高校生のキャリア支援をしているCOLORSの宮城ユカリさん、国際交流基金日本語国際センターの佐藤郡衛所長の4名で、モデレーターは筆者が務めました。
 
 パネル討論の冒頭に、筆者は以下のようにテーマの趣旨を説明しました。
  
  日本の外国人児童生徒教育に関する取り組みは、1970年代以降、関西の自治体を中心に在日コリア
  ンに関する指針が策定され、自治体主導で進められてきたが、1990年代に日本語を母語としない外
  国人児童生徒が急増し、文科省は1991年に「日本語教育が必要な外国人児童生徒の調査」を始め
  た。
 
  1991
年の日本語指導が必要な外国人児童生徒数は5463人だったが、最新統計の2021年は47619
  で、この30年間に約9倍となった。国際結婚や海外で育つなどして日本語指導が必要な日本国籍の
  子も増え、2021年は1688人となっている。
 
  この30年間に、文科省や一部の自治体によって、日本語指導担当教員の配置、日本語教材の作成、
  受け入れ推進地域の指定、教員研修など、様々な施策がとられてきた。市民団体による日本語や教
  科学習の支援教室も、全国で開かれている。このパネル討論では、第一部、第二部で紹介された国
  際的動向も参考にしつつ、日本における外国人の子どもの学習支援とキャリア支援の現状と課題を
  多様な観点から議論したい。
 
 4人のパネリストから学校管理職、市民活動、当事者団体そして研究者と多様な立場で、外国ルーツの子どもの学習支援やキャリア支援に関する報告があり、現状と課題について様々な意見交換を行いました。また、後半には、第一部と第二部で登壇した中野課長や築樋相談員、セルナ上級分析官、成教授からコメントをいただいた後、フロアとの質疑応答も行いました。第二部でセルナ上級分析官から母語教育の報告があり、佐藤所長からも母語も含めた「ことばの力」という問題提起があり、母語に関する質問が続いたことが印象的でした。

 パネル討論の最後にモデレーターとして筆者は、以下のようなコメントを述べました。

  第一に、今日のパネル討論には、宮城さんに登壇していただいた。彼女は日本の学校教育を受け、
  現在、多文化ソーシャルワーカーとして働き始めている。諸外国では、移民の支援に関わるスタ
  ッフ自身も移民であることが少なくない。日本の外国人支援や共生社会づくりにかかわる人は圧
  倒的に日本人が多いが、彼女のように日本で育った世代が当事者としての経験をもちながら、そ
  うした活動にかかわっていくことは大きな意義がある。

  第二に、パネル討論で過去30年間の取り組みを振り返ったが、今後30年間を見据えた政策が必要
  だろう。昨年4月に国立社会保障・人口問題研究所が2070年の日本は人口が大きく減少すると同
  時に、外国人は増加し、全人口の10.8%を占めるという推計を発表した。これを外国人児童生徒
  に当てはめるとどういうことが起きるだろうか。2019年に始まった特定技能制度の運用が本格化
  し、今年は特定技能2号の適用によって、外国人労働者の家族呼び寄せが可能となる。今日の討論
  では、日本語教育の問い直し、教科としての日本語の設置、外国人に対する就学の義務化などの問
  題提起があった。今こそ、中長期的展望を踏まえた外国人児童生徒受け入れの抜本的見直しが必要
  ではないか。
 
  最後に、どうして、文科省でなく、外務省がこの会議を開いているのかと疑問に思った方もいる
  だろう。実は、この会議は、外務省の重要な取り組みとして、2022年に策定された政府の「外国
  人との共生社会の実現に向けたロードマップ」にも位置付けられている。国際的な動向を日本に
  紹介することに大きな意義がある。ただ、OECDの国際比較の中で、日本はしばしば、データが
  不足して、比較の対象外となることが少なくない。教育分野で言えば、毎年実施される学校基本
  調査での国籍の把握や「全国学力・学習状況調査」の外国籍の子どもの結果の公表など、今後デ
  ータを整備することが不可欠だろう。

 パネル討論終了後、外務省の岩本桂一領事局長から閉会のご挨拶があり、4時間に及んだ国際フォーラムは幕を閉じました。


外務省「在日外国人の社会統合」
国際移住機関「社会統合WS・フォーラム」
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山脇啓造「外務省の国際フォーラム『外国人住民への情報発信』」自治体国際化協会のコラム[202134]2020年度の会議の報告)
山脇啓造「外務省の国際フォーラム『在日外国人と医療』」自治体国際化協会のコラム[202239]2021年度の会議の報告)
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